【JR東日本】気仙沼線・大船渡線のBRTが「仮復旧」から「本復旧」になった経緯

気仙沼線・大船渡線のBRT JR

2011年3月11日、東北地方を中心に巨大津波が襲った東日本大震災では、各地の鉄道にも甚大な被害を与えました。なかでも気仙沼線・大船渡線の一部区間は、鉄道での復旧を断念。BRT(バス高速輸送システム)が、新たな地域公共交通として採用されることになります。

ただ、当初BRTは「仮復旧」とされ、沿線自治体は鉄道での復旧を求めていました。沿線自治体はなぜ、BRTを「本復旧」として受け入れたのでしょうか。気仙沼線・大船渡線が全線鉄道で復旧しなかった経緯を振り返ります。

JR気仙沼線・大船渡線の線区データ

協議対象の区間JR気仙沼線 柳津~気仙沼(55.3km)
JR大船渡線 気仙沼~盛(43.7㎞)
輸送密度(1988年→2009年)柳津~気仙沼:1,425→898
気仙沼~盛:1,349→453
増減率柳津~気仙沼:-37%
気仙沼~盛:-66%
※輸送密度および増減率は1988年と、被災前の2009年を比較しています。

協議会参加団体

気仙沼市、南三陸町、登米市、陸前高田市、大船渡市、宮城県、岩手県、JR東日本、国土交通省、復興庁

気仙沼線・大船渡線と沿線自治体

気仙沼線・大船渡線の2線で34kmの線路が流出

東日本大震災では、JR気仙沼線が柳津~気仙沼で、JR大船渡線が気仙沼~盛で長期不通になりました。これらの不通区間のうち、気仙沼線では18.9km、大船渡線が15.2kmもの線路が流出。他の被災線区と比べて被害は甚大で、復旧には相当の時間と費用を要すことが想定されました。

そこで国土交通省は、気仙沼線や大船渡線などの被災線区がある沿線自治体と、JR東日本、さらに復興庁による事務方レベルの協議の場として「復興調整会議」を設置。震災から4カ月後の2011年7月19日に、第1回の会議が開催されます。

この会議でJR東日本は、復興のまちづくりに合わせたルートや駅の見直しにくわえ、場合によっては鉄道以外の公共交通モードについて検討する必要があると説明。復旧の目途は「未定」と伝えます。当時はがれきの撤去作業中で、復旧の方法も時期も見通しがまったく立たない状況だったのです。

なお、第2回の会議からは各線の関係者が集まって実施することを確認。その後、気仙沼線では計8回、大船渡線では計6回の復興調整会議が開催されます。

JR東日本が求めた気仙沼線・大船渡線の「復旧条件」

第2回の復興調整会議は、気仙沼線・大船渡線いずれも2011年11月に開催されます。この会議でJR東日本は「鉄道復旧の条件」として、以下の3点を伝えています。

■JR東日本が伝えた鉄道復旧の条件

(1)津波からの安全確保
(2)まちづくりとの整合性
(3)割り増し分の公費負担

(1)は、千年に一度とされるレベル2の大津波に襲われても乗客を確実に避難させられるよう、避難路の整備などを求めています。(2)は、地盤かさ上げや土地区画整理といったまちづくりにあわせて、ルートや駅を見直すことです。なお、JR東日本は鉄路の原状回復費は出せても、(1)(2)に関する費用までは出せない考えを示します。そこで、(3)の原状回復費以外の割り増し分について、公費負担を求めたわけです。

ちなみに、当時の国の災害復旧支援制度では、黒字事業者への補助はできませんでした。JR東日本は黒字事業者ですから、(3)の費用は沿線自治体が支援するよう国土交通省は伝えています。復興交付金があるとはいえ、財政の厳しい沿線自治体が困惑したのは言うまでもありません。沿線自治体は、鉄道復旧に関する支援策の検討を国土交通省に求めます。

気仙沼線でBRTの「仮復旧」を提案

2011年12月、気仙沼線の第3回復興調整会議。国土交通省は改めて、黒字の鉄道事業者に対する支援はできないと伝え、復旧コストを削減するために鉄道以外の交通モードも検討するよう要望します。そのなかに、LRTやBRTといった復旧方法も提示。比較検討材料として、それぞれのメリット・デメリットなどを伝えます。

全線鉄道鉄道+一部LRT鉄道+BRT全線BRT
運行頻度
速達性
定時性
経済性
工期
ルート変更の柔軟性
津波避難の容易性
▲国土交通省が示した、主な復旧方法の比較検討内容。このなかに、LRTやBRTによる復旧案も示された。
参考:「未来を考える力を 気仙沼復興レポート④ 鉄路復旧とBRT化」をもとに筆者作成

ちなみにLRTは、大船渡市や陸前高田市など沿線自治体からの要望でした。

国土交通省は、鉄道による全線復旧と比べて「コストを抑えられる」「ルート変更が柔軟にできる」「津波避難も容易に対応できる」などの点で、BRTのメリットを伝えます。

これを受けてJR東日本は、「仮復旧」の案としてBRTの採用を勧めます。これは、復旧工事車両による道路渋滞が慢性化し、気仙沼線の代行バスが定時性を確保できないという問題が発生していたからです。BRTにすれば、定時性や速達性の面でバスより優れているため、こうした問題を解決できると提案します。

それぞれの主張は聞こえのよい話ですが、沿線自治体には拭えない不安がありました。それは、「このままBRTで本復旧されるのではないか」という不安です。沿線自治体は「鉄路で復旧する確約がほしい」と、JR東日本に詰め寄ります。ただ、JR東日本は前回の会議で示した「復旧の条件」を伝えるに留まり、明言を避けたのです。

気仙沼線・大船渡線でBRTの「仮復旧」を容認

気仙沼線の会議内容は、当然、大船渡線の沿線自治体にも伝わります。2012年2月、両線区の自治体はJR東日本に対して、鉄路での早期復旧を求める要望書を提出。このなかで、BRTはあくまでも「仮復旧」であることを強調しています。

JR気仙沼線の当座の代替措置としてのバス運行については、運行の改善をお願いします。なお、BRTの導入に当たっては、鉄路での復旧までの代替措置として理解しますので、鉄路の復旧と併せ、早急に導入のスケジュール等の提示をお願いいたします。

出典:JR気仙沼線及びJR大船渡線の復旧・復興に係る要望書

この要望書が提出された前後から、JR東日本が提示する資料に「安全が確保された鉄道の復旧」という文言が増えてきます。これまで「協議の継続」としていた文言から変更したようですが、この文言を見た沿線自治体は、JR東日本が「鉄道で本復旧する意思がある」とみなし、仮復旧のBRT化を受け入れたのです。

2012年5月7日、気仙沼線の第5回復興調整会議で、沿線自治体はBRTによる仮復旧に合意。同年8月より暫定運行が始まり、12月からは本格運行へ移行されます。

一方、大船渡線の沿線自治体は、事務方レベルでの復興調整会議ではなく首長レベルの会議で決めたいという要望から「交通確保会議」を新たに設置します。その第1回(2012年7月13日)の会議で、JR東日本はBRTを提案。大船渡線の沿線自治体も、BRTは「仮復旧」であることを確認したうえで、2012年10月4日に合意。2013年3月から大船渡線でもBRTの運行が始まります。

「安全が確保された鉄道の復旧」。この文言の意図をめぐり、最終的に鉄道の復旧を諦めることになるとは、両線区の自治体は知る由もありませんでした。

公費負担を含めた復旧費用の提示に戸惑う自治体

「安全が確保された鉄道の復旧」をめざす復興調整会議は、2013年に入ると本格化。ルート変更やかさ上げ整備など、まちづくりと連動した復旧協議が進められます。そのなかで、JR東日本からは「鉄道の高台移転案」「ルート変更案」が、両線区で提案されるようになります。

「安全が確保された鉄道の復旧」を実現するには、線路を安全な場所に移す必要があるでしょう。ただ、線路を移すとなれば第2回の会議でJR東日本が示した「割り増し分の公費負担」が大幅に増える可能性があります。沿線自治体は、「公費負担はどれくらいになるのか」と、概算復旧費用の見積もりをJR東日本に求めます。

2014年2月、両線区とも最後となる復興調整会議が開催。ここでJR東日本は、これまで協議してきた内容をもとに、公費負担を含めた概算復旧費用を提示します。各線区の復旧費用は、以下の通りでした。

■気仙沼線・大船渡線の概算復旧費用

原状回復費公費負担合計
気仙沼線300億円400億円700億円
大船渡線130億円270億円400億円
▲原状回復費はJR東日本が負担、公費負担は沿線自治体が負担する。
参考:気仙沼市「JR気仙沼線・JR大船渡線の復旧・復興に関する要望書」をもとに筆者作成

JR東日本の負担額も相当な額ですが、それを上回るのが沿線自治体の負担額です。両線区とも莫大な費用になることから、「もっと安くならないのか」「高台移転は選択肢のひとつだったはずだ」など、試算の見直しを求めます。これに対してJR東日本は、改めて「安全が確保された鉄道の復旧」に必要な費用だと主張。公費負担への理解を求めます。

もっとも、お金の話は事務方レベルの復興調整会議では決められません。話し合いの場は、首長レベルの「沿線自治体首長会議」へと移され、復興調整会議は幕を閉じたのです。

利用者の減少に歯止めがかからない気仙沼線・大船渡線

最後の復興調整会議から1年以上が経過した2015年6月5日、気仙沼線・大船渡線の両自治体とJR東日本などによる第1回沿線自治体首長会議が開催されます。

JR東日本は、復興調整会議で提示した概算復旧費用を改めて説明。公費負担への理解を求めます。

一方で沿線自治体は、「安全が確保された鉄道の復旧」とはいえ、費用が高額なことに懸念。とりわけ、鉄道復旧の条件でJR東日本が示した「津波からの安全確保」について、レベル2の津波で被災する移転促進区域での鉄道復旧に疑問を呈します。

これに対してJR東日本は、安全が確保された場所でなければ鉄道を運行できないと反論。さらに、気仙沼線・大船渡線の利用者は、震災前から減少が続いている現状も指摘します。

■被災区間の輸送密度の推移(1988年→2009年)

参考:国土交通省「大船渡線沿線自治体首長会議」「気仙沼線沿線自治体首長会議」の配布資料をもとに筆者作成

JRの発足から20年余り。この間、気仙沼線は3割以上、大船渡線では6割以上も利用者が減少し、輸送密度はともに1,000人/日を割り込んでいました。このデータからJR東日本は、「鉄道の特性を発揮できる水準とは言い難い」「地域交通としての役割を果たせなくなるおそれがある」と指摘。巨額の費用をかけて鉄道を復旧させることに「まちづくりや鉄道の永続性の観点から適切ではない」と、率直に伝えたのです。

その一方で、JR東日本はBRTの実績についても説明。駅や便数を増やして利用促進に努めてきたこと、交通系ICカードやロケーションシステムなど利便性の高まるシステムを導入してきたことなどの実績から、BRTのほうが適切だと訴えます。

JR東日本の説明は、第2回沿線自治体首長会議(2015年7月24日)でも続けておこなわれ、「復興の進捗に応じた交通手段を提供できる」「津波到来時の安全を確保できる」など、BRTのメリットをアピール。さらに、ルート延伸により地域交通の活性化や交流人口の拡大も期待でき、JR東日本も地域活性化の取り組みを続けていくと約束したのです。

山田線は復旧できて大船渡線が復旧できないのはなぜか?

第2回の沿線自治体首長会議後、「鉄道の復旧か」「BRTに転換か」の決断を各自治体で持ち帰り、議会で話し合うことになりました。

気仙沼線の沿線自治体は、巨額の財政支出はできないとの観点から、登米市と南三陸町がBRT案に傾倒。一方で気仙沼市は、鉄道での復旧も視野に入れていました。

また大船渡線では、大船渡市がBRT案を容認しているのに対し、陸前高田市は「どれくらい利用者が増えると鉄道を復旧できるのか」「そもそもJRが提示するBRTの資料だけでは判断できない」などの意見が議会で出され、まとまらない様相を見せます。そこで大船渡市の主導で、2015年9月に「災害復興対策特別委員会産業建設部会」を設置。改めて鉄道およびBRTの現状と課題、JR山田線との復旧方法の違いについて、自分たちで調査することになりました。

JR山田線を調査することになったのは、「山田線はなぜ復旧できるのか?」という疑問があったからでしょう。JR東日本は、山田線の沿線自治体にもBRTを提案していました。しかし、山田線の沿線自治体は「BRTは不要」と受け入れず、鉄道での復旧をめざしたのです。

ちなみに、輸送密度は大船渡線よりも少なく、「なぜ山田線は復旧できるのに、大船渡線は廃止になるのか」という疑問が一部の人のあいだであったようです。

産業建設部会の調査結果は、同年11月2日に報告されます。そのなかで、山田線が復旧できた理由について、以下2点に集約されていました。

  • 不通区間(宮古~釜石)に路線バスが走っており、BRTに転換する必要性がなかった。
  • 高台移転などのルート変更がなく、復興交付金を鉄道の原状回復費に充てられた。

山田線の復旧費用は210億円と示されますが、もともと高台を走る路線だったためルート変更は不要でした。そのため、JR東日本の負担が140億円と、自治体負担の70億円よりも多く、自治体は「復興交付金を使い鉄道を復旧できる」と判断したのです。これにくわえ、復旧後の運行主体が三陸鉄道に移管されることが決まり、JR東日本の復旧後の負担を軽減できることも、山田線が鉄道で復旧した理由でしょう。

一方、大船渡線は「安全が確保された鉄道の復旧」を実現するために、ルート変更や高台移転などが必要でした。復旧費用も総額400億円のうち、270億円が自治体負担です。こうした理由から産業建設部会は、大船渡線はBRTが「現実的な方法」と最終報告をしています。

なお、山田線の沿線自治体では復旧が確定した後に「利用促進検討会議」を設置。住民アンケートなども実施したうえで、復旧後の利用促進策を検討しています。また、駅周辺の駐車場整備やサポーターズクラブの結成など、沿線住民を巻き込んだ支援活動も展開しており、こうした沿線自治体の熱意も鉄道の復旧を後押しした理由として考えられます。

気仙沼線・大船渡線のBRT本復旧が決定

2015年12月25日、第3回沿線自治体首長会議。この場で大船渡線の沿線自治体は、BRTを継続運行することでJR東日本と合意します。これにより大船渡線は、BRTによる「本復旧」が確定しました。

一方、気仙沼線は登米市と南三陸町はBRTによる「本復旧」に合意しますが、気仙沼市は「さらに議論が必要」として結論を見送ります。その後、気仙沼市はJR東日本に対して「仙台へのアクセス改善」「BRTの速達性の確保」など、6つの要望を提出。その要望をJR東日本が受け入れた2016年3月18日に合意し、気仙沼線もBRTによる「本復旧」が決定します。

BRTは当初、「仮復旧」のはずでした。しかし、「安全が確保された鉄道の復旧」を実現するには、JR東日本だけでなく沿線自治体も、大きな代償を払わなければなりません。しかも、両線区の利用者数は減少が続き、今後増える見込みが薄かったことも、鉄路の復旧を断念させた理由になったのです。

もし、気仙沼線・大船渡線の沿線自治体が、山田線の沿線自治体のように復旧後の利用促進策をしっかり検討していれば、鉄道として全線復旧ができたかもしれません。もっとも、被害が甚大なため検討する余裕がなかったとは思います。

ただ、沿線自治体が「あったものを復旧するのは当たり前」といった考えで、復旧後の鉄道の活用法を見通せないと、JR東日本にとって不安材料になります。こうした考えも、廃止の一因につながる可能性があるのです。

とはいえ、少しでも財政負担を抑え復旧を加速させられたという点では、BRTを選んだ沿線自治体の判断は正しかったといえるのではないでしょうか。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【東北】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
東北地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

未来を考える力を 気仙沼復興レポート④ 鉄路復旧とBRT化
https://imakawa.net/wp/wp-content/uploads/e847f2638ed364345ece6bd23c6067dc1.pdf

検証/JR大船渡線 BRT本復旧の行方(東海新報)
https://tohkaishimpo.com/2016/01/07/80021/

JR気仙沼線及びJR大船渡線の復旧・復興に係る要望書(気仙沼市)
https://www.kesennuma.miyagi.jp/sec/s002/020/030/050/010/020/2402/20120215_02.pdf

「JR大船渡線にかかる本復旧について」調査報告書(災害復興対策特別委員会産業建設部会)
https://www.city.ofunato.iwate.jp/uploaded/attachment/17705.pdf

「大船渡線沿線自治体首長会議」及び「気仙沼線沿線自治体首長会議」について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk5_000009.html

気仙沼線・大船渡線のBRTによる復旧(JR東日本・国土交通省)
https://wwwtb.mlit.go.jp/hokkaido/content/000185758.pdf

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