輸送密度2,000人/日未満の三セク・私鉄リスト(2016~2021年度)

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輸送密度2,000人/日未満の三セク・私鉄事業者 コラム
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大量輸送を得意とする鉄道は、旅客の場合、輸送密度2,000人/日以上の路線でそのメリットを発揮できるといわれます。ただ、この目安を下回る第三セクターや中小私鉄が日本中に数多あり、沿線自治体の支援を受けながら運営している鉄道事業者も少なくありません。

ここでは、コロナ禍前の2016年以降から輸送密度2,000人/日未満の第三セクターおよび中小私鉄の路線をピックアップし、近年の推移を掲載しています。あわせて、上下分離や赤字補てんなど鉄道事業者に対する自治体の支援内容も紹介します。

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北海道・東北の輸送密度2,000人/日未満の三セク・私鉄リスト

事業者201620172018201920202021上下分離赤字補填
道南いさりび鉄道575531512479417421
弘南鉄道(大鰐線)623609558498390400
津軽鉄道402418399380245280
三陸鉄道305309321410232232
秋田内陸縦貫鉄道256255261260168166
由利高原鉄道388338308264215281
山形鉄道533513526403345385
阿武隈急行1,8031,7641,7551,4569871,076
会津鉄道668707675628393451
※黒の事業者名は第三セクター、青の事業者名は私鉄です。

北海道と東北には、利用者が少なく経営状況の厳しい事業者が多くみられます。そのほとんどが、上下分離方式の導入などの公的支援を受けながら運営していますが、自治体の財政状況も厳しく、鉄道の「あり方」が示された事業者も少なくありません。

道南いさりび鉄道の沿線自治体では、事業形態や赤字補助の負担割合の見直しなどを再検討することが伝えられており、2026年度以降の支援内容は未定です。

青森県の弘南鉄道大鰐線では、公的支援の条件として「2019年度比で約2,000万円の増収」という目標が定められており、達成できなければ2026年度以降の支援が打ち切られる可能性があります。

同じく青森県の津軽鉄道では、3年おきに見直される事業計画にのっとり施設更新費の補助や固定資産税の減免措置などの支援を受けていますが、2024年度からは固定資産税の減免措置について、3年おきから1年おきに見直されました。沿線自治体は、津軽鉄道の抜本的な経営改善を求めており予断を許さない状況です。

福島県と宮城県を走る阿武隈急行でも、「鉄道の存続か、BRTなどへの転換か」を検討しており、沿線自治体は2025年3月までに結論を出すとしています。

※北海道・東北地方の赤字ローカル線をめぐる協議の進捗情報は、以下のページよりご覧になれます。

【北海道】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
北海道地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。
【東北】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
東北地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

関東の輸送密度2,000人/日未満の三セク・私鉄リスト

事業者201620172018201920202016上下分離赤字補填
ひたちなか海浜鉄道1,6061,6821,6931,7731,1871,778
鹿島臨海鉄道(大洗鹿島線)1,9231,8591,8751,8041,2971,385
野岩鉄道610657613540205262
真岡鉄道1,3751,1831,1611,122818939
わたらせ渓谷鉄道415382379375218238
上毛電気鉄道1,8341,8191,8351,8081,4671,550
銚子電気鉄道657639583593506558
京成電鉄(東成田線)1,7181,7241,8241,7971,5041,564
芝山鉄道1,4681,5131,5431,4341,1391,144
小湊鉄道1,1711,1461,0821,073745739
山万1,2071,1831,1171,092792764
いすみ鉄道566540540385294294
※黒の事業者名は第三セクター、青の事業者名は私鉄です。

関東でも、輸送密度2,000人/日未満の第三セクター・中小私鉄では、沿線自治体からの公的支援を受けながら運営している事業者が多くみられます。ただ、上下分離方式に移行したローカル線はいすみ鉄道だけで、その他の事業者は経常損失や鉄道施設の修繕・更新などに対する補助というケースが多いようです。

ちなみに、この記事では上下分離方式の定義を「下を自治体が保有すること」としています。このため、上毛電気鉄道で採用している「みなし上下分離」は赤字補てんに分類しますのでご了承ください。

現在は自治体からの支援を受けていない小湊鉄道ですが、2023年4月に市原市に対して財政支援を要請しています。市原市は、国の社会資本整備総合交付金を視野に同年7月から準備調整会議を開始。近いうちに法定協議会が設置される予定です。

※関東地方の赤字ローカル線をめぐる協議の進捗情報は、以下のページよりご覧になれます。

【関東】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
関東地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

中部の輸送密度2,000人/日未満の三セク・私鉄リスト

事業者201620172018201920202021上下分離赤字補填
えちごトキめき鉄道(日本海ひすいライン)1,0651,0511,017968753820
北越急行1,3581,3401,3951,293722824
富山地方鉄道(立山線)795810920872476510
富山地方鉄道(不二越線)1,0681,0951,1601,2691,0531,109
富山地方鉄道(上滝線)1,1061,1351,5711,5311,3471,388
万葉線1,2331,4531,3809831,110
北陸鉄道(石川線)1,8681,9301,9521,8771,3141,391
のと鉄道799733745735492538
えちぜん鉄道1,8141,8051,8591,8161,5221,463
上田電鉄1,7131,6511,6581,4158061,117
岳南電車1,0011,0341,0481,004764764
大井川鉄道693768761692262355
天竜浜名湖鉄道766783751756574618
明知鉄道515517554517407342
長良川鉄道363339372364245249
樽見鉄道642608602598404551
東海交通事業523520550540483520
※黒の事業者名は第三セクター、青の事業者名は私鉄です。

北陸新幹線の開業にともない、経営状況が一変した北越急行。赤字に転落したことを受け、2016年度より新潟県から鉄道設備の更新に対する支援を受けています。ただ、運営上の赤字補てんに関しては、これまでの内部留保があるため、現段階では受けていません。

北陸鉄道石川線は、みなし上下分離に移行して沿線自治体が支援しながら維持する方向です。具体的な支援内容に関しては、2024年1月に開催される協議会で決まる予定でしたが、能登半島地震への対応もあってか2024年3月現在ではまだ決まっていません。

上田電鉄は、2019年の台風で流出した千曲川橋梁について、再建した鉄道橋を自治体が保有。橋梁のみに上下分離方式を採用しています。

東海交通事業は、JR東海が下を保有する「民民の上下分離方式」を採用しており、沿線自治体から直接的な支援は受けていません。

※中部地方の赤字ローカル線をめぐる協議の進捗情報は、以下のページよりご覧になれます。

【中部】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中部地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

近畿の輸送密度2,000人/日未満の三セク・私鉄リスト

事業者201620172018201920202021上下分離赤字補填
近江鉄道1,8651,9021,8521,7861,3711,519
信楽高原鉄道972958930986701736
京都丹後鉄道830831775738476514
紀州鉄道230205145178
北条鉄道727695718700395493
※黒の事業者名は第三セクター、青の事業者名は私鉄です。

近畿の第三セクターや私鉄には、上下分離方式を採用している事業者がいくつかみられます。近江鉄道と信楽高原鉄道を上下分離方式で支援する滋賀県では、公共交通機関への支援を地方税でまかなう「交通税」について、本格的に議論を始めるようです。まずは路線バスに対する支援について検討するようですが、今後の議論が注目されます。

京都丹後鉄道(北近畿タンゴ鉄道)は、列車の運行(上)は民間企業、鉄道施設の保有(下)は第三セクターという、日本では珍しい形態の上下分離方式を採用しています。列車を運行するWILLERの参画により、観光路線へと大きくシフトしたものの、コロナの影響で利用者が半減。インバウンドの回復に期待したいところです。

※近畿地方の赤字ローカル線をめぐる協議の進捗情報は、以下のページよりご覧になれます。

【近畿】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
近畿地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

中国・四国の輸送密度2,000人/日未満の三セク・私鉄リスト

事業者201620172018201920202021上下分離赤字補填
若桜鉄道404407413383349344
一畑電車1,5621,7091,5941,6021,0661,155
井原鉄道1,0571,0508851,023755781
錦川鉄道288296259268223215
阿佐海岸鉄道127153136135111225
土佐くろしお鉄道907908874848635658
※黒の事業者名は第三セクター、青の事業者名は私鉄です。

みなし上下分離を採用している一畑電車には、2011年度からの10年間でトータル約60億円を沿線自治体が支援。老朽化した設備の更新や車両購入などに充てられました。2021年度からは、5年間で約18億円を補助する予定です。

井原鉄道も、下の部分にかかる費用を沿線自治体や岡山県などが負担する、みなし上下分離で運営しています。

錦川鉄道では、2023年3月に策定した地域公共交通計画で鉄道の「あり方」について言及されており、「2025年度以降に方向性を示す」と伝えられています。沿線の少子化・過疎化により利用者数が低迷するなか、沿線自治体がどのような判断を下すのか注目されます。

※中国・四国地方の赤字ローカル線をめぐる協議の進捗情報は、以下のページよりご覧になれます。

【中国】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中国地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。
【四国】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
四国地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

九州の輸送密度2,000人/日未満の三セク・私鉄リスト

事業者201620172018201920202021上下分離赤字補填
平成筑豊鉄道836844800827627647
甘木鉄道1,8951,9441,9942,0261,4891,608
松浦鉄道822825819804656685
島原鉄道1,2811,2001,1761,192851909
南阿蘇鉄道19117552613250
くま川鉄道1,1081,1731,1931,104667708
肥薩おれんじ鉄道752739734665486586
※黒の事業者名は第三セクター、青の事業者名は私鉄です。

南阿蘇鉄道の輸送密度は、熊本地震で被災する前は500人/日を超えていました。上記の数値は、一部区間で運転再開したときの実績です。また、豪雨災害を受けたくま川鉄道も2020年以降は再開区間の実績です。熊本県は、この2路線を「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧補助」という国の制度を活用して復旧しています。この制度を利用するには、事業者の抜本的な経営改善が求められるため、2路線とも上下分離方式に移行しました。

一方で、肥薩おれんじ鉄道にも熊本県は支援していますが、鹿児島県では「全市町村による支援は2027年度末まで」ということが2023年12月に決定しています。2028年度以降は、沿線自治体のみの新たな支援制度に移ると考えられますが、どの自治体も財政状況が厳しく、また利用者が大きく減少していることから、今後の支援が気になるところです。

長崎県の島原鉄道は施設更新に対する公的支援を受けていますが、支援額の増大や利用者減少にともない、鉄道の「あり方」を議論する検討会が発足しています。2025年度までの支援は決まっていますが、2026年度以降は未定です。

※九州地方の赤字ローカル線をめぐる協議の進捗情報は、以下のページよりご覧になれます。

【九州】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
九州地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

三セク・中小私鉄の「2025年問題」

2024年は、バスやトラックの運転者に対する改善基準告示の改正にともない、ドライバー不足がより深刻になるといわれました。実際に、法改正前から減便や廃止を進めるバス事業者が相次ぎ、利用者に大きな不便を強いられた地域もみられます。

「バスは廃止されるかもしれないから、鉄道を残してほしい」という考えも一部の人たちのあいだであるようですが、鉄道は莫大な運行経費が重荷となり、財政状況に不安な自治体だと維持できなくなるという問題を抱えています。一般的に鉄道の運営費は、バスの4~10倍の経費がかかるといわれます。利用者の少ない鉄道を無理に残すと、膨大な借金を未来に残す可能性があるため、自治体も慎重に判断せざるを得ない状況です。

こうしたなか、2025年は輸送密度2,000人/日未満の第三セクターや中小私鉄で、存廃に関わる決断が下されるところが多くみられます。持続可能な公共交通網を構築するには、「鉄道を残すか」「バス転換するか」「あるいはスクールバスや病院の送迎バスなどの交通資源を活用するか」。公共交通の利用者が減少している地域では、既成概念にとらわれない方法も含めて再構築していくことが求められそうです。

※JRローカル線の輸送密度1,000人/日未満の線区は、以下のページで紹介しています。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk6_000032.html