米坂線は復旧できるか?存続・廃止協議の行方も予想

米坂線の駅 コラム

2023年4月25日、JR東日本は災害で不通となっている米坂線の今泉~坂町間について「復旧費用が約86億円、工期が約5年」と公表しました。そのうえで、「赤字の問題ではなく、あくまで災害復旧を議論の出発点にしたい」と、沿線自治体に協議を申し入れます。

一方、山形県と新潟県は協議を受け入れる方針ですが、両県とも「復旧と鉄道のあり方の議論(再構築協議会)は別だ」と伝えています。一部報道では「米坂線の存廃議論が始まる」といわれていますが、協議はどのように進むのでしょうか。沿線自治体のこれまでの対応や知事の発言などを中心に、米坂線の協議の行方を考察します。

※2023年9月から始まったJR東日本と沿線自治体との協議(米坂線復旧検討会議)の流れは、以下のページで解説しています。

112カ所で被災した米坂線の今泉~坂町間

2022年8月に東北地方を襲った豪雨災害は、米坂線にも多大な被害を与えました。とくに今泉~坂町間の被害は甚大で、小白川に架かる橋梁が流出したほか、盛り土の流出や土砂流入など被災箇所は112カ所にも上ります。被害全容を正確に確認するだけでも、JR東日本は一カ月以上の時間を要したのです。

全容が明らかになった同年9月16日、JR東日本は「復旧費用が巨額になれば、国や自治体に一部負担を相談しなければならない」という考えを示します。

なお、このときの豪雨災害では、津軽線、五能線、花輪線、奥羽線、磐越西線も被災し、一部区間で長期不通になりました。このうち、津軽線は2023年1月より「鉄道のあり方」についての協議がスタート。他は復旧・運行再開しています。

米坂線の不通区間は閑散線区

米坂線の被災区間は、山形県と新潟県の県境に位置し、利用者の少ない線区です。ここで、該当区間の輸送密度を確認しておきます。

線区201620172018201920202021
今泉~小国282270274298248226
小国~坂町184175180169121124

なお、赤字額は今泉~小国間が8億1,700万円、小国~坂町間が4億6,600万円です(2019年)。営業係数はいずれも2,500を超えます。赤字の理由は、利用者が少ないことにくわえ、割引率の高い通学定期客が多いことも一因でしょう。沿線には、小国高校をはじめ長井市や米沢市、村上市などの高校に通う学生がいます。

ちなみに、不通区間の代行バスは2023年4月現在で平日12往復を運行。基本的には今泉で列車と接続しますが、朝の上り2本は接続する列車がないため米沢まで直行します。鉄道は1日9往復ですから、代行バスのほうが便数は多いのです。

また、競合する公共交通には山形と新潟を結ぶ高速バスがあり、一部区間は米坂線と並行する国道113号を通ります。ただ、1日2往復しかなく、ビジネスや観光の需要は少ないといえそうです。

このほか沿線には、デマンド交通を中心とした公共交通もあります。かつては民間の路線バスも運行していましたが、少子化・過疎化の影響などで廃止が進んでいます。

米坂線の「復旧」と「鉄道のあり方の検討」は別協議?

豪雨被災後、山形県と新潟県、そして沿線自治体は、米坂線の早期復旧に向けて動き始めます。山形県では2022年8月17日、早期復旧を求める要望書をJR東日本に提出。JR側からは被害状況の全容把握に尽くしている旨の回答をもらっています。

同年9月1日には、両県と東北運輸局などが地方連絡調整会議を設置。崩落した米坂線の橋梁撤去などについて話し合います。また9月7日には、福島県を交えて3県知事会議を開催。米坂線、磐越西線、国道113号などの交通インフラに対する早期復旧を国に求めます。

こうした動きのなかで、山形・新潟の両県には「米坂線の復旧協議と、鉄道のあり方を議論する再構築協議会とは別協議」という共通認識がうかがえるようになります。しかも、それは「国から別協議だと聞いた」という点でも一致するのです。

まずは、2022年8月17日に開かれた新潟県の花角知事の定例記者会見からみていきます。

JRの関係者の方から私は直接聞いていませんが、赤字ローカル線の問題とは当然切り離して考えるべきことだという話は、国の方からはありました。
(中略)
国土交通省が議員の意見に対してお答えをした時に、現時点でJRはその問題とは切り離して考えていかれるとお答えをされました。

出典:新潟県「令和4年8月24日 新潟県知事定例記者会見」

新潟県知事の話を整理すると、「JR東日本が、復旧と赤字問題の話をわけて協議を進めることを、国に伝えた」という内容になります。

この発言から1週間後の8月24日、山形県の吉村知事は「国土交通大臣から聞いた」とコメントしています。

斉藤国土交通大臣がいらっしゃった折にもですね、米坂線の復旧ということで県と市町村と一緒になってね、要望いたしました。大臣からはですね、米坂線のあり方というのとそして災害復旧ということは、全く別物だというようなお考えもお聞かせいただいたところであります。

出典:山形県「知事記者会見の概要」

山形県知事は、「国土交通大臣の考え」として聞いています。いずれの県知事も、国の関係者から「復旧の協議」と「鉄道のあり方の検討」を同時進行しないという点で一致するのです。

もっとも、この段階では米坂線の被害全容について、国もJR東日本も把握していません。国としては、協議入りをさせるための口実だったのかもしれませんし、JR東日本は自社での復旧を前提にしていた段階かもしれません。あるいは、復旧費用の話を足掛かりに「鉄道のあり方」へと移行する流れを計画していた可能性も考えられます。

いずれにせよ、この話が米坂線の復旧費用が示された2023年5月現在でも、「復旧と鉄道のあり方の協議は別」と両県が訴える一因になっているようです。

復旧後の支援に両県知事の考えは?

とはいえ、巨額をかけて復旧するからには、米坂線の長期的な存続を前提とする必要があります。仮に、復旧費用に国の支援制度を活用する場合、少なくとも10年間の存続が求められます。「やっぱり赤字だから廃止にします」と、数年で廃止にすることはできないのです。

では、両県知事は復旧後の米坂線に対して、どのような支援を考えているのでしょうか。2023年5月段階で、両県は復旧費用を含めてJR東日本への支援に関する明言は避けています。

ただ、新潟県知事は以前より、沿線自治体や住民とも連携しながら、鉄道を使った地域活性化の重要性について言及しています。米坂線を活用することで、地域にどんな恩恵をもたらすか。それを、これからみんなで議論していきたいという考えです。

一方、山形県は「復旧が先」と言いつつも、その後の支援はJR東日本などと話し合って決めたいとしています。

なお、山形県では2022年10月、JR東日本と沿線活性化などに関する包括連携協定を結んでいます。そして、沿線自治体とも連携を強化するため「やまがた鉄道沿線活性化プロジェクト推進協議会」を設置。このなかで、米坂線の沿線自治体については、フォトコンテストをはじめ利用促進イベントの実施や、外国人観光客をターゲットとした観光来訪者の利用拡大などを検討しているようです。

米坂線沿線自治体の利用促進の取り組み
▲米坂線の沿線自治体(山形県内)が実施してきた利用促進などに関する取り組み。
出典:山形県「置賜WT 鉄道沿線活性化関連施策の取組状況等」

仮に「あり方の協議」に移行した際、こうした施策の実績をJR東日本や国に伝え、米坂線の存続を訴求していくものと推測されます。ただ、JR東日本にとってメリットの少ない施策ばかりですから、さらなる取り組み案が求められるでしょう。

いずれの県知事も、JR東日本の説明を聞いたうえで判断するという考えですから、「鉄道のあり方」を含めて見守っていく必要がありそうです。

米坂線をめぐる協議の行方はどうなる?

米坂線をめぐる協議は、今後どのように進むのでしょうか。他線の事例から、今後の流れを推測してみます。

まず、復旧の協議ですが、JR東日本が沿線自治体に負担を求めてくるのは必至です。仮に、JR東日本が全額自腹で復旧する意向であれば、すでに工事が始まっています。

では、どの程度の負担を求めてくるのでしょうか。一般的には、鉄道軌道整備法にもとづく助成制度を活用して、国と自治体が4分の1ずつ、JR東日本が2分の1を負担する方法が王道です。復旧費用が86億円なら、国と自治体が21.5億円ずつ、JR東日本が43億円という計算になります。なお、国土交通大臣が認める場合は、負担割合を3分の1ずつに変更することも可能です。

ただ、JR東日本から見れば、これだけの巨額をかけて復旧しても、毎年13億円の赤字を生み出す路線ですから、拒否することも考えられます。

JR東日本にとって望ましい方法は、「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助金」の活用でしょう。これなら、復旧費用を国と自治体が2分の1ずつ拠出するため、事業者の負担を抑えられます。

ただし、この制度を使えるのは赤字事業者であることが条件ですから、JR東日本には適用されません。仮に、法改正などで適用されたとしても、この制度を使うには上下分離方式を導入するなど、抜本的な経営構造の改革が求められます。つまり、米坂線の赤字額の一部(推定10億円前後)を、自治体が毎年負担することになるのです。当然、沿線自治体は拒否するでしょう。

そもそも、ここまで踏み込んだ話になると、復旧協議の前に「あり方」の協議が必要です。そうなれば、「約束と違う!」と、両県が反発することが予測されます。

このほかにも、名松線のように沿線自治体が治山・治水対策を継続的に実施することを条件に復旧させるパターンもあれば、三陸鉄道(旧・山田線の宮古~釜石間)のように復旧費用はJRが負担したうえで運営は別の事業者に移管するなどの方法も考えられます。

いずれにしても、JR東日本が復旧費も運営費も全額自腹で対応する可能性は0に等しく、自治体の負担は避けられないでしょう。

JR東日本は「あり方の協議」を求めているのか?

復旧の協議よりも気になるのが、JR東日本は米坂線の「あり方の協議」を、現段階でどの程度考えているのかという点です。

米坂線と同じく2022年8月の豪雨災害を受けた線区のうち、あり方の協議を申し入れたのは、津軽線(蟹田~三厩)のみです。津軽線は、他の被災した線区と比べて輸送密度が極端に少なく、また単一県内の路線であったことも、早々に協議を申し入れた理由だと推測されます。

では、米坂線の場合はどうでしょうか。被災区間の輸送密度は、小国~坂町が169人/日、今泉~小国が298人/日。津軽線(107人/日)より多いです。ただ、三陸鉄道に移管された旧・山田線の宮古~釜石間は、移管当時の輸送密度が300人/日を超えていました。もっとも、あり方の協議を申し入れる基準は、輸送密度だけとは限りません。

ここで、米坂線復旧のヒントとして、JR九州の肥薩線のケースを紹介しておきます。2020年7月の豪雨災害で甚大な被害を受けた肥薩線の復旧協議(JR肥薩線検討会議)では、国が積極的に関与している点で、従来の災害復旧協議とは異なります。JR肥薩線検討会議は、熊本県が国と共同の事務局を設置して進めており、沿線自治体の「本気度」が国を動かして協議開始につながっています。

一方、2023年7月に開かれた新潟・山形各県の定例記者会見をみると、JR東日本の出方をうかがっている様子で、米坂線の復旧に積極的に動こうとする姿勢が見られません。もっとも、両県の実務者レベルでは国との話し合いを進めているのかもしれませんが、このままでは復旧工事が始まるのも数年先になると予測されます。

鉄道の大規模な災害復旧には、沿線自治体の積極的な関与が欠かせません。新潟・山形の両県には、他線の復旧事例も参考に、積極的かつ迅速な対応を求めたいところです。

肥薩線の災害復旧に関する協議の流れは、こちらのページで紹介しています。

米坂線の復旧協議でJR東日本が示した2つの条件

2023年9月8日、JR東日本と沿線自治体などの関係者が一堂に会する第1回目の復旧会議が開催されました。出席者は、沿線自治体と山形・新潟の両県、JR東日本、そしてオブザーバーとして国土交通省です。

JR東日本が復旧費用や工期を示してから約5カ月。なぜこのタイミングに始めたのかは不明ですが、これより約1週間前の8月31日に国土交通省は再構築協議会の基本方針を公表しています。基本方針には、再構築協議会の設置基準や流れなども示されていますから、JR東日本は、それと被らないよう整合性を合わせてから協議を始めたのではないかと推測されます。

第1回の協議会では、すでに公表されている復旧工事の費用や工期にくわえ、国の補助制度に関する説明もされたようです。また、新潟放送によると、国の補助制度を活用して米坂線を鉄道で復旧するには、以下2つの課題をクリアする必要があることをJR東日本が示したと報じています。

(1)復旧費用の負担割合
(2)復旧後の安定的な経営を実現するための方策(利用促進など)

協議の入口としては、JR九州の日田彦山線の協議会と似ています。

(1)は沿線自治体が支援に同意すればクリアできます。問題は(2)です。目標値の設定にもよりますが、仮に「被災前の輸送密度を維持する」という目標値を設定した場合、激減しているローカル線の利用者数を維持するのは、イベントの実施や観光列車を走らせるくらいの施策では無理です。実現するには、沿線自治体が住民アンケートなどで米坂線の価値を明確にしたうえで、利用促進策などを検討する必要があるでしょう。

もしかするとJR東日本は、(2)の話し合いから再構築協議会に持ち込もうと考えているのかもしれません。いずれにせよ、米坂線の復旧会議は始まりました。具体的な話し合いはこれからですが、どのような決着になるのか見守っていきたいところです。

※米坂線の将来を決める「JR米坂線復旧検討会議」の協議の進捗状況は、以下のページで紹介します。

※JR各社が災害復旧に慎重な姿勢を示すようになった理由は、以下のページで解説しています。

※災害後に復旧または廃止になった路線の事例一覧は、以下のページで案内します。

災害後の復旧・廃止をめぐる赤字ローカル線の協議会リスト
災害により長期間不通となっている赤字ローカル線の復旧・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

路線別ご利用状況(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/rosen_avr/

4月6日(木)からの米坂線代行バス増便について(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/press/2022/niigata/20230323_ni01.pdf

米坂線整備促進期成同盟会
https://yonesakaline.penne.jp/

知事記者会見(山形県)
https://www.pref.yamagata.jp/020026/kensei/governor/press_conference/index.html

新潟県知事 記者会見 (日程・一覧)
https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/kouhou/chijikaiken.html

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