【現地調査】久留里線はなぜコスパの悪い赤字路線なのか<Part2>

久留里線の上総亀山駅 コラム

JR久留里線の利用実態や維持管理コストが高い理由を探るため、各駅の周辺や競合バス路線など現地調査をした記録です。

前回の記事では、木更津から久留里までの下り列車を中心に紹介しましたが、今回は同区間の上り列車と、関東でもっともコスパが悪い線区・久留里~上総亀山間についてレポートします。

※前回の現地調査の記事は、以下よりリンクしてご覧になれます。

【乗車レポート】久留里線(久留里→馬来田)の利用実態

久留里から上総亀山の線区は、1日9往復しかありません。その多くが朝夕の通学・通勤時間帯に集中しており、日中は1本逃すと5時間待ちという閑散区間です。

この待ち時間を利用して、平日昼間の上り列車(木更津方面)を調査しました。

久留里駅 11:05発(932D)

上り木更津行きの列車には、3名が乗車。いずれも、地元の方と思われる中年の男性です。ここから馬来田駅まで移動しましたが、その間の乗降客数は以下の通りです。

・俵田:1名下車(男性)/1名乗車(女性)
・小櫃:3名乗車(女性2名、男性1名)
・下郡:0名
・馬来田:2名下車/1名乗車

馬来田駅 11:20着

馬来田駅の駅舎

馬来田駅は、木更津、久留里に次ぐ利用者数を誇る駅です。JR東日本によると、この駅を利用する方の8割以上が定期客です。

久留里線の駅別定期率
▲2016年のデータによると、馬来田駅利用者の86.3%が定期客だった。
参考:木更津市「木更津市地域公共交通網形成計画」のデータをもとに筆者作成

しかし、利用者数は減少傾向にあり、2021年の乗車人員は1日141人しかいません。久留里線は通学利用がメインのローカル線ですから、少子化の影響で今後も減り続けることが予測されます。

これは、路線バスにもいえることです。前回の記事で紹介した日東交通バスの馬来田線は、2021年9月まで、ここが終点でした。ただ、コロナの影響もあって利用者は減少。2020年の1便あたりの利用者数は5人以下、平均乗車密度は1.6人と維持困難な状況です。

▲木更津市の主なバス路線の利用者数(1便あたり)。馬来田線(左から4番目)は平日4.9人、休日は2.1人しかいない。
参考:木更津市「令和3年度木更津市地域公共交通計画調査報告【概要版】」のデータをもとに筆者作成

木更津駅への地域交通は鉄道しかありませんが、馬来田からは内房線の姉ケ崎駅に向かう「姉ケ崎線(上記図のいちばん右)」が、1日15往復あります。また、千葉駅と鴨川を結ぶ高速バス「カピーナ号」も1日9往復通っていることから、木更津市では馬来田を交通拠点としての機能強化をめざすとしています。

【主要交通結節点における円滑な乗換えダイヤの編成】

◆主要交通結節点である「JR木更津駅」、「JR巌根駅」、「JR馬来田駅」及び「木更津金田バスターミナル」において、バスからの円滑な乗換えを目的とした路線バスのダイヤ編成を推進します。

◆JR馬来田駅については、新たな交通システムの運行と鉄道ダイヤとの関係を考慮し、JR久留里線の利用促進につなげることを目指します。

出典:木更津市地域公共交通網形成計画(木更津市)

2018年に策定された市の地域公共交通網形成計画には、「新たな交通システムの運行」と記されています。ただ、具体的な交通手段は記載されていません。利用者数や駅周辺の敷地面積から推測すると、何らかのデマンド交通が検討されるものと考えられます。

車社会が久留里線の「存在感」を消し去った

ここから再び久留里方面を目指しますが、上総亀山行きの発車時間まで2時間以上あります。せっかくなので、徒歩で久留里街道を南下しましょう。

なお、久留里街道は高速バス「カピーナ号」が走っているものの、千葉市の「松ヶ丘十字路」から鴨川市の「福祉センター前」までの区間は、乗車できても降車はできない乗降制限の区間です。

自由に乗降できるのであれば、馬来田から久留里や上総亀山まで移動できるのですが、遅延が生じるなどさまざまな理由で乗降制限がされているのでしょう。つまり、馬来田から久留里・上総亀山に行く公共交通は、久留里線しかないのです。

馬来田駅を通過するカピーナ号
▲馬来田駅を通過するカピーナ号

久留里線の列車がなければ、歩くしかありません。平日の昼間から久留里街道を歩いている人は、自分だけ。車社会だとわかっていても、誰ともすれ違わないのは寂しいです。もっとも、街がないので仕方ないのですが…。

馬来田駅から歩くこと1時間。ようやく、小櫃の集落に入ります。ここは、高齢化率が45.9%(2022年3月末時点)と君津市でも高齢化の進む地域です。そのため、高齢ドライバーも多く見かけます。

次の信号を曲がれば小櫃駅という地点まで差し掛かったとき、車を横づけにしてきたドライバーがいました。その方も高齢の女性で、自分に話しかけてきます。

「小櫃駅はどこですか?」

道案内をして車を見送ると…袖ケ浦ナンバー。つまり、地元の方だったのです。

地元に長年住んでいる方でも、わからない地域はあるでしょう。とはいえ、「駅の場所を知らない」、いや「案内板すらなく、わかりづらい(信号機には「○○駅入口」と書いているが)」という駅は、小櫃駅以外にも横田駅や馬来田駅などいくつかあります。上総清川駅なんかは信号機すらない、車も入れない、「知っている人しか行けない駅」なのです。

駅前だけでなく、目印となりそうなポイントに案内板を設置する。それだけでも、地域の方が久留里線をもっと身近に感じられるのではないでしょうか。

【乗車レポート】久留里線(小櫃→上総亀山)の利用実態

久留里線の乗車証明書発行機
▲無人駅では、駅に設置された「乗車駅証明書発行機」で証明書を発行してから乗車する。

小櫃駅13:38発の列車(933D)に乗って、終点の上総亀山をめざします。列車は2両編成で、小櫃駅では3名が下車し、2名が乗車しました。

駅を出発した車内には、15人程度が乗車しています。この後、俵田駅で男性1人が下車、久留里駅では6名が下車しました。この6名のうち3名は、未就学児でした。

久留里からの乗客を含め、11名を乗せた列車が13:53に出発。ほぼ全員、鉄道マニアの男性です。平日にしては多いと思いますが、1両編成で十分の人数です。途中駅の上総松丘で、地元の高齢男性1名が乗車。終点の上総亀山では、12名が下車します。

▲久留里から上総亀山は山間の区間で、清らかな渓谷も見える。

【乗車レポート】久留里線(上総亀山→木更津)の利用実態

久留里線の上総亀山駅

上総亀山で降車した乗客は、駅舎などを写真に収めると、いそいそと帰りの列車に乗り込みます。滞在時間はわずか15分。14:26発の列車(938D)を逃すと、次は3時間待ちです。

帰宅する学生も乗り込んでくる、午後の上り列車。乗降客数は以下の通りです。

・上総亀山:7名乗車(鉄道マニアの男性)
・上総松丘:0名
・平山:1名乗車(高齢の男性)
・久留里:5名乗車(折り畳み自転車を持った男性1名、初老の女性2名、初老の男性2名)
・俵田:0名
・小櫃:0名
・下郡:1名下車(高齢の男性)
・馬来田:4名乗車(若い夫婦など)
・東横田:1名乗車(サラリーマン風の男性)
・横田:2名乗車(女子高生)
・東清川:1名下車(男性)/1人乗車(サラリーマン風の男性)
・上総清川:5人乗車(若い女性2人、女子高生2人、若い男性1人)
・祇園:4人乗車(サラリーマン風の男性など)
・木更津:28人下車

上りの列車も、学生から高齢の方まで幅広い年齢層が利用しています。とはいえ、日中は30名前後しか乗車しておらず、厳しい状況であることがわかります。

久留里線の赤字の最大要因は?

久留里線が赤字である理由のひとつは、「利用者が少ない」から。これは、間違いありません。

ただ、輸送密度ベースでいえば1,025人/日(2019年)で、近くを走る小湊鐵道(1,073人/日)とほぼ同じです。一方で、久留里線の赤字額は約13億円に対し、小湊鐵道は約5,800万円(鉄道事業のみ)。営業キロは、小湊鐵道のほうが長いです。

運賃体系の違いはあるものの、利用者数がほぼ同じ小湊鐵道と比べて、久留里線の赤字額は20倍以上と桁違いに多くなっています。

久留里線の維持管理コストは、なぜ高いのでしょうか。この答えは、JR東日本が費用の詳細を公表していないため、わかりません。

ただ、この件については、元いすみ鉄道の代表取締役であった鳥塚氏も、Yahoo!ニュースで言及していますが、「JRの高コスト体質が赤字の最大要因」と考えられそうです。
たとえば、運行している「列車」も高コストの一因として考えられます。

キハE130系(100番台)は2012年に落成し、10台が久留里線に割り当てられています。1台の価格を推定2億円とすれば、10台で20億円です。

会計上、列車は減価償却資産となり耐用年数に応じて毎年申告することになります。キハE130系は気動車ですから、耐用年数は11年。単純に20億円を11年で割ると、毎年約1.8億円がコストしてかかっていると考えられるのです。

ただ、JR東日本は費用の詳細を提示していないため、減価償却を含んでいるのかもわかりません。仮に含んでいたとしても、その他にも10億円以上の費用がかかっています。長大な橋梁やトンネルもなく、非電化で、駅舎も古く簡素な建物が多い久留里線。いったい、どこに費用がかかっているのか。沿線協議会で提示してもらい、赤字額を減らすことから久留里線の存続を検討していくのも必要ではないでしょうか。

※2023年5月より始まった、JR東日本との協議内容は、以下のページにまとめています。

※久留里線の協議会情報は、以下のページで解説しています。

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