今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、災害で長期不通になっている美祢線の復旧工事費をJR西日本が初めて公表した話題や、バス転換が決まった長万部~小樽の並行在来線対策協議会で地元のバス事業者が初参加したニュースなどをお伝えします。
JR美祢線の復旧工事費は58億円 – JR西日本が初めて提示
【2024年8月28日】美祢線の「あり方」を含めて復旧方針を検討する、JR美祢線利用促進協議会の「復旧検討部会」が初めて開かれました。このなかでJR西日本は、美祢線の災害復旧にかかる概算費用を初提示。約58億円になることが、明らかになりました。
費用の内訳は、崩落した第6厚狭川橋梁の改築費が約22億円、他の橋梁の橋脚補強工事が約26億円、被災設備の機能回復費が約10億円です。なお、工期は約5年としています。
JR西日本は、山口県などに求めている厚狭川の改修工事が大前提としたうえで、「河川改修が終わるまでは復旧工事を着工すべきではない」と主張。これに対して沿線自治体は、鉄道での復旧を前提としたうえで「さまざまな復旧パターンも検討していきたい」と伝えています。
【解説】復旧検討部会の目的は「協議会に提出する報告書を作成する」こと
美祢線の復旧検討部会は、「鉄道のあり方について議論したい」というJR西日本の要望に応じて設置されました。構成メンバーは、JR西日本、沿線自治体の3市(美祢市、山陽小野田市、長門市)、山口県です。
この部会の役割について、美祢市の中島部会長は「鉄道以外の復旧方法も含めて整理・検討する。最終的にひとつに絞り込むものではない」と述べ、美祢線の存廃を決める場ではないことを伝えています。
なお、復旧検討部会はJR美祢線利用促進協議会のなかに設置した組織ですから、最終的に鉄道の存廃を決めるのは協議会(または新たに設ける組織)です。つまり、「協議会で存廃判断するための材料を報告書にまとめること」が、この部会の目的になります。この点は、JR西日本も了承済みです。
具体的に議論する内容ですが、「鉄道で復旧する場合」と「鉄道以外で復旧する場合」のメリット・デメリットを、利便性やコスト、災害耐性など幅広い観点からファクトとデータをもとに検証します。初会合のこの日は、鉄道で復旧する場合のメリット・デメリットについて検討されました。その際に「復旧費用は約58億円」などのデータを、JR西日本が示したわけです。
また、鉄道以外での復旧に関しては、代行バスの増便やダイヤ変更などの実証実験をおこない、利用者へのアンケート調査を通じて利便性向上の効果を検証します。このほか、沿線住民の公共交通ニーズを把握するために、住民アンケートも実施される予定です。
こうした調査・検討を2024年度中におこない、次回(2025年5月に開催予定)のJR美祢線利用促進協議会で報告されます。その協議会で「58億円かけても、鉄道を復旧する」という結論で一致すれば、そこでようやく復旧に向けた議論が始まる流れです。
とはいえ、鉄道で復旧するには課題が山積しています。美祢線は2010年の災害でも被災しており、今回の被災箇所だけを復旧しても、他の橋で同じ被害に遭う可能性があります。このためJR西日本は、厚狭川にかかる他の橋の橋脚補強工事も必要と主張。その費用は約26億円で、災害で崩壊した第6厚狭川橋梁の改築費(約22億円)よりも高いです。
山口県は2023年10月に、厚狭川全体の河川改修計画をJR西日本に提出しています。しかし、今回JR西日本が示した他の橋の橋脚補強工事に関しては、計画に含まれていません。そもそもこの工事は、災害復旧ではなく施設更新ですから、沿線自治体が負担を容認できるのかがポイントのひとつになるでしょう。
また、美祢線の利用者減少に歯止めがかからないことも大きな課題です。JR美祢線利用促進協議会では、復旧後の利用促進について検討を進め、想定される効果を公表しています。しかし、その効果は輸送密度ベースで2,000人/日以下。これに、JR西日本は納得していません。
今後JR西日本が、「単独で運営するのが困難」という考えを示すことも想定されます。その場合、上下分離方式の導入や第三セクターへの移管も検討されるかもしれません。さまざまな課題を抱える美祢線の災害復旧協議。存廃の結論が出るのは、2025年以降です。
※2023年の豪雨災害による美祢線の被災状況や、沿線自治体とJR西日本との協議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。
その他の鉄道協議会ニュース
長万部~小樽のバス事業者が並行在来線協議会に初参加
【2024年8月28日】北海道新幹線並行在来線対策協議会の後志ブロック会議が開催され、北海道中央バスとニセコバス、道南バスが参加しました。この会議に地元のバス事業者が参加するのは、今回が初めてです。
会議では、北海道新幹線の札幌延伸開業にともないバス転換される長万部~小樽について、「代替バス運行計画」のたたき台が示されています。その計画によると、想定される1日の運行本数は、もっとも少ない長万部~黒松内が8本、もっとも多い余市~小樽は125本。全体のバス運行本数は、現行と比べて約3割の増便になります。
この計画の策定にはバス事業者も協力していますが、北海道中央バスの田下部長は「現在の路線を維持するだけでも厳しい状況」と、ドライバー不足の課題を伝えています。沿線自治体からも「ドライバーの確保が最大の課題」といった意見が相次ぐなか、余市町の斉藤町長からは「新幹線のダイヤに合わせて議論しないと深まらない」といった意見も出たようです。
※余市~小樽について、バス転換に決まった経緯や、鉄道を存続させるために必要なことについてまとめた記事は、以下をご覧ください。
岡山県の沿線自治体が「これ以上減便しないで」とJR西日本に要望
【2024年8月29日】岡山県と備前市など5つの自治体がJR西日本岡山支社を訪問し、要望書を提出しました。要望書には、2021年のダイヤ改正以降、岡山県内で在来線の減便が続いていると指摘。利用状況だけでなく地域への影響も加味し、ダイヤを慎重に検討してほしいと伝えています。また、駅の無人化をはじめサービス縮小に関する意見や、交通系ICカード「ICOCA(イコカ)」の利用エリア拡大の要望もしています。
岡山県の上坊副知事は地元メディアの取材に対し、「ダイヤ検討段階で地域の実情を伝えることが大事だと考え、このタイミングで要望した。コロナ後に利用者が増えた路線もある実情を踏まえ、事業として回していく形にしてほしい」と述べています。JR西日本の林支社長は、「持続的な輸送サービスを提供するには、地域との連携は欠かせない。意見交換しながら、引き続き連携して取り組みたい」とコメントしています。
※岡山県の姫新線や因美線などの沿線自治体と、JR西日本との協議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。
京都府亀岡市がJR西日本の株式購入へ
【2024年8月30日】京都府亀岡市は、今年度の一般会計補正予算案にJR西日本の株式購入費を盛り込む方針を、市議会定例会で明らかにしました。取得費は1億円(3万株以上)とし、財源はふるさと納税の寄付金から拠出する予定です。
亀岡市にはJR山陰本線が通っていますが、亀岡駅以北の線区では2022年のダイヤ改正で日中時間帯が減便に。コロナ後の現在も減便されたままです。亀岡市も参加する「京都丹波基幹交通整備協議会」は、もとのダイヤに戻してほしいとJR西日本へ要望していますが、2024年のダイヤ改正でも受け入れられていません。
そこで亀岡市は「物言う株主」として発言権を高めようと、株式購入の案を出したようです。市議会で可決されしだい、購入準備を進めるとしています。なお、配当金は鉄道の利用促進活動などに活用するそうです。
上毛・上信電鉄で期間限定の「1日乗り放題チケット」発売
【2024年8月31日】群馬県の上毛電鉄と上信電鉄で、「1日乗り放題チケット」が発売されます。これは群馬県と沿線自治体が企画したもので、鉄道を普段利用しない沿線住民のニーズの掘り起こしが目的です。このため、対象者は群馬県民に限られます。また、土日祝日は全県民が利用できますが、平日は65歳以上のみです。利用者には、アンケートが実施されます。
期間は9月1日からで、上毛電鉄は11月4日まで、上信電鉄は10月31日まで。価格は500円(小学生以下は250円)で、スマートフォンで購入する電子チケットです。