関東鉄道は、常総線と竜ヶ崎線の2路線を運営する私鉄です。両線とも東京のベッドタウンとして地域とともに発展してきましたが、近年は利用者数が減少傾向にあります。
沿線自治体は鉄道の存続をめざして、さまざまな支援をおこなっていますが、関東鉄道は2026年1月に竜ヶ崎線の「あり方」協議を龍ケ崎市に申し入れ。存続・廃止にも踏み込んだ議論が、同年4月から始まっています。鉄道事業は黒字経営、バス事業・不動産事業といった「副業」も好調の関東鉄道。なぜ協議を申し入れたのでしょうか。沿線自治体による支援の歴史を振り返りながら、協議の申し入れに至った経緯を解説します。
関東鉄道(常総線・竜ヶ崎線)の線区データ
| 協議対象の区間 | 竜ヶ崎線 佐貫~竜ヶ崎(4.5km) 常総線 取手~下館(51.1km) |
| 輸送密度(1987年→2023年) | 佐貫~竜ヶ崎:3,376→1,959 取手~下館:4,607→3,791 |
| 増減率 | 佐貫~竜ヶ崎:-42% 取手~下館:-18% |
| 黒字額(2023年) | 1億1,823万円 |
※黒字額は、2023年の鉄道事業の営業利益を使用しています。
協議会参加団体
常総市、龍ケ崎市、下妻市、取手市、守谷市、坂東市、筑西市、つくばみらい市、八千代町、茨城県、商工団体、関東鉄道、沿線住民など

TX開業で利用者数が激減した関東鉄道
関東鉄道の沿線地域は1970年代から80年代にかけてニュータウンが続々と形成され、東京方面への通勤通学路線として大きく発展しました。
ただ、モータリゼーションの進展にともない、竜ヶ崎線は1975年の年間約238万人をピークに減少へ。近年では100万人を割り込んでいます。
一方の常総線は、バブルがはじけ都心回帰が始まった1995年の年間約1,400万人がピーク。以降、減少の一途をたどり続けます。常総線は、2005年のつくばエクスプレス(TX)の開業も利用者減少に追い打ちをかけました。取手でJR常磐線に乗り換えていた通勤通学客が、つくばエクスプレスの最寄り駅まで車で行き都心へ向かうようになったのです。こうした理由で、常総線の利用者数は激減。2009年には年間1,000万人の大台を割り込みます。
■常総線のピーク時の輸送人員(西取手→取手 単位:人)

参考:運輸政策研究機構「都市交通年報」の資料をもとに筆者作成
関東鉄道では、快速列車の新設など増便による利便性向上を図る一方で、全列車のワンマン化や駅の無人化といった合理化で収支改善に努めます。しかし、沿線地域の高齢化にともなう通勤定期客の減少や、スクールバスの拡充による通学定期客の減少など、利用者減少に歯止めがかかりません。
老朽化した鉄道施設の更新にも迫られるなか、両線の沿線自治体は2007年に関東鉄道への支援を目的とした協議会を設置します。
関東鉄道(常総線・竜ヶ崎線)のこれまでの取り組み
協議会では、関東鉄道が都心方面に向かう通勤通学客の多い路線であることから、交通系ICカードの導入を検討。2008年から全線で導入しています。また、老朽化した鉄道施設の更新として、鉄道軌道安全輸送設備等整備事業費補助制度などの国の補助金を活用しながら支援もおこなっています。
このほか、沿線自治体と協働で進めている利用促進策は、以下の通りです。
- 新駅の設置(ゆめみ野駅)
- パークアンドライド
- イベントの実施(駅からウォーキング大会、交通すごろくなど)
- イベント列車の運行(ビール列車、サイクルトレインなど)
- 沿線ガイドマップ発行
- 企画きっぷ・グッズの販売
…など
常総線では2011年に「ゆめみ野駅」を開業。利用者は年々増加傾向にあり、近年の乗降客数は2,000人を超えています。また、石下~下館にはパークアンドライドを設置し、沿線住民の利用促進につながっています。
観光誘客を目的としたイベントの実施や、イベント列車の運行なども、関東鉄道は注力しています。「駅からウォーキング大会」は、2003年から実施。沿線自治体だけでなく、茨城県や商工会なども協力しています。年4回おこなっており、毎回150~200人が参加しているようです。
「ビール列車」は2011年から運行。沿線にはキリンとアサヒのビール工場があり、そのビールを飲みながら流れる車窓を楽しめるとして人気があります。このほかイベント列車としては、「サイクルトレイン」も常総線の水海道~大田郷間と竜ヶ崎線の全線で実施しています。
こうした取り組みが功を奏してか、関東鉄道の利用者数は2012年から増加に転じています。常総線は年間1,000万人台を回復。コロナ禍前までは増加傾向が続きました。一方、竜ヶ崎線も2012年に増加に転じますが、2018年から再び減少しています。
■年間乗車人員の推移(単位:万人)
| 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 常総線 | 916 | 949 | 962 | 991 | 989 | 992 | 1,001 | 1,020 | 1,035 | 770 |
| 竜ヶ崎線 | 84 | 86 | 86 | 87 | 88 | 85 | 88 | 84 | 81 | 57 |
参考:国土交通省「鉄道統計年報」をもとに筆者作成
関東鉄道が竜ヶ崎線の「あり方」協議を申し入れ
竜ヶ崎線の利用者減少が続くなかで、関東鉄道は2026年1月29日に開かれた龍ケ崎市地域公共交通協議会で「関東鉄道竜ヶ崎線の現状について」という資料を提示します。関東鉄道は、竜ヶ崎線(単体)の経営状況は厳しく「民間企業としての経営努力で維持していくことが困難な見通し」と説明。竜ヶ崎線の「あり方」に関する協議を、市に申し入れたのです。
関東鉄道の全事業の営業利益は11億円超の黒字、鉄道事業も1億1,823万円の黒字です(2023年度)。しかし竜ヶ崎線単体で見ると、2009年度から赤字経営が続いていました。赤字額は、利用者数が減少に転じた2018年ごろから増加傾向に。2024年度は約5,000万円にまで膨らんでいます。
■竜ヶ崎線の営業収益と経常損益の推移

出典:龍ケ崎市「令和8年度龍ケ崎市地域公共交通協議会分科会(第1回)」
関東鉄道の申し入れに対して龍ケ崎市は、協議会のなかに竜ヶ崎線のあり方を議論するための分科会を設置。「廃止ありき」「存続ありき」という前提を置かず、協議を始めることになったのです。
分科会の初会合は、2026年4月13日に開催。構成メンバーは龍ケ崎市と関東鉄道のほか、茨城県、有識者(流通経済大学教授)、さらに沿線住民代表で3人の公募市民も参加しています。また国土交通省(関東運輸局)も、オブザーバーとして参加します。
関東鉄道は改めて、竜ヶ崎線の現状を説明。利用者数の減少に歯止めがかからないことや、老朽化した鉄道施設の修繕費が増え続けているなどの理由から「赤字額は継続的に拡大する」と伝えています。そのうえで、鉄道として存続させる場合は自治体支援の拡充を懇願。上下分離方式やみなし上下分離などの検討も求めています。
なお、第1回分科会の資料には代替交通モードとして、BRTに関する国土交通省の資料も提示されています。このことから「鉄道を存続させる場合」と「他の交通モードに転換する場合」の比較検討も実施するとみられます。具体的には、上下分離方式やBRT転換などのパターンを提示し、それぞれの事業者収支(赤字額)や自治体負担額といった試算をおこなうようです。また、利用実態を把握するために住民アンケートの実施や、クロスセクター効果の分析なども計画しています。
ちなみに龍ケ崎市では、2021年11月に竜ヶ崎線の利用者に対するアンケート調査を実施しています。そのなかで、竜ヶ崎線を維持・存続させるために「国・県・市の金銭的な支援(税金の投入)によって維持していくべき」と回答した人が、44.3%もいたという結果が出ています。ただ、これは「利用者」の声ですから、普段利用しない市民に尋ねると違う結果が出てくるかもしれません。
竜ヶ崎線の将来を決める議論は、始まったばかりです。関東鉄道は「2年後を目途に方針を決定したい」と要望しており、分科会は2028年春ごろに方向性を決めるとしています。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

参考URL
鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html
常総線活性化支援協議会(常総市)
https://www.city.joso.lg.jp/kurashi_gyousei/kurashi/shisetsu_koukyou/public_transport_institution/kyougikai_doumeikai/jousousen_gaiyou.html
常総線活性化支援協議会(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/000119420.pdf
令和4年度龍ケ崎市地域公共交通協議会(第1回)
https://www.city.ryugasaki.ibaraki.jp/shisei/johokokai/huzokukikanseido/huzokukikankaigiroku/fuzoku-kaigiroku/2016072200130.files/R4427S.pdf
サイクルトレイン(常総鉄道)
https://www.kantetsu.co.jp/train/cycletrain
鉄道駅周辺を中心とする常総地域の活性化(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/000049100.pdf
関東鉄道竜ヶ崎線の今後のあり方に関する検討状況(龍ケ崎市)
https://www.city.ryugasaki.ibaraki.jp/kurashi/seikatsu/kokyokotsu/oshirase/koutsu-bunnkakai.html