【2026年7月21日】富山地方鉄道のあり方をめぐる部会が開かれ、富山県と沿線自治体は「本線を全線維持する」方針を決めました。国の地域公共交通再構築事業の活用を視野に、存続をめざすとしています。
本線では、あいの風とやま鉄道と並行する滑川~新魚津の存廃が、議論の焦点になっています。部会では、この線区の「現状維持(全線存続)」「営業運行の廃止(回送列車のみ運行)」「廃止(線路撤去)」の3パターンについて検討。県が再試算した今後10年間の投資・維持費用では、「現状維持」がもっとも費用を抑えられるという結果が示されています。
また、本線の全線維持で得られる社会便益も踏まえ、沿線自治体は全線維持の方向で協議を進めることに合意しました。ただ、本線の赤字額は年間で約6億円と試算されており、一部の沿線自治体からは費用負担を不安視する声も出ています。具体的な支援策や負担額については、次回以降の部会で協議する予定です。
【解説】全線存続を合意させた「2つの試算結果」に滑川市などが不安視
富山地方鉄道をめぐる存廃議論は、2026年度より富山県が主宰する「富山地方鉄道鉄道線再構築検討会」で話し合っています。検討会は「本線」「立山線」「不二越・上滝線」の3つの部会に分けて議論。このうち立山線と不二越・上滝線の部会では、みなし上下分離を軸に存続に向けて協議を続けています。
一方で本線は路線長が長く、赤字額も大きく、さらに関係する自治体が多いため、議論を慎重に進めています。
本線の滑川~新魚津は、あいの風とやま鉄道と並走する区間です。赤字額を減らすうえで「滑川~新魚津の廃止」を含め、3パターンの比較検討を進めています。ただ、富山県が再試算した「営業収支」と「今後10年間の費用」によると、「滑川~新魚津を廃止にしても、赤字額に大差がない」「むしろ線路の撤去費用などが高く、投資効果が低い」という結果が示されたのです。
■営業収支と今後10年間の費用(本線全線)
| 現状維持 | 営業運行廃止 | 廃止 | |
|---|---|---|---|
| 営業収支(赤字額) | ▲5.8~6.0億円 | ▲5.9~6.0億円 | ▲5.3~5.4億円 |
| 今後10年間の費用 | 127.4億円 | 149.1億円 | 170.8~173.1億円 |
赤字額だけをみれば、「廃止」がもっとも抑えられます。しかし、廃止区間の撤去工事費や、新魚津~宇奈月温泉に新たな車庫・検車区を整備する必要があるなど、今後10年間の費用はもっとも高くなるのです。
また、鉄道を廃止にすると地域に与える社会便益の低下も懸念されます。これについて黒部市の市民団体が、本線がもたらす社会便益を試算。「通学送迎の負担」「観光消費の低下」「地価下落による固定資産税収の減収」などをあわせると、年間で123億5,800万円という結果が示されています。滑川~新魚津を廃止にすると、沿線地域ではこれだけの損失を毎年被ることになるのです。
■富山地方鉄道本線の社会便益(単位:億円)
| 教育・家計(通学送迎労働の回避・自家用車維持費の抑制) | 24.82 |
| 資産・財政(沿線地価の維持・固定資産税収の減収回避) | 34 |
| 観光消費(鉄道利用による域外消費の維持効果) | 48.77 |
| シビックプライド(TVおよびSNSによる広域宣伝価値の維持) | 11.24 |
| 安全・環境(交通事故・将来のバス赤字・環境負荷の抑制) | 4.43 |
| 合計 | 123.58 |
これらの試算結果を踏まえ、沿線自治体は本線の全線存続を念頭に協議を続けることで合意したのです。
自治体負担をめぐり温度差が顕在化
今回の合意は、あくまで「方向性を決めた」だけです。本線の全線存続が、正式に決まったわけではありません。肝心な財政負担の議論は棚上げされたままですし、本線の先行きには依然として不透明感が漂っています。
この財政負担をめぐり、自治体ごとの考えの違いが表れる場面がありました。上述の試算結果が示された後、富山県は本線の現状維持と国の再構築事業採択に向けた検討を始めるよう、沿線自治体に提案します。
これを受けて、富山地方鉄道の新庄社長が「鉄道を生かすという視点であれば、再構築事業は大変魅力のある制度だ」と、沿線自治体に前向きな検討を促します。そのうえで「関係者全員が一致する方向性を、この会議で決めていただきたい」と要望したのです。
そこで、議論の方向性について各自治体に賛否を確認。富山市、魚津市、黒部市などは「賛成」の意向を示します。
しかし、滑川市、上市町、舟橋村などは慎重でした。
滑川市の水野市長は「沿線自治体の費用負担のあり方が、まったく議論されていない段階。現時点では賛成でも反対でもない」と態度を保留。舟橋村の渡辺村長も「何に投資するのか具体的になっていない」と、不確定要素が多いことを懸念しています。また、上市町の中川町長は「上市町の負担額が明確でないなかで『一緒の船に乗りましょう』という返事は厳しすぎる」と、自治体ごとの負担額を明確にしてほしいと要望します。
自治体の方向性が定まらないなかで、富山県の新田知事は「全線維持で議論を進めることは一致している」として、話をまとめようとします。しかし、滑川市の水野市長は「まだ迷っている。賛成でも反対でもない」と、慎重な姿勢を崩しませんでした。
滑川市などが慎重になる背景には、沿線住民の意向もあるようです。滑川市が2026年6月に実施した住民アンケートによると、本線を維持するための行政負担に「負担すべき」と答えた人は49.1%、「負担すべきでない」で答えた人は50.9%と、拮抗しています。ちなみに、富山地方鉄道を週1日以上利用する滑川市民は、わずか3.2%しかいません。

こうした沿線住民の声から、安易に「負担します」 といえない自治体もあるわけです。
とはいえ、これ以上先延ばしにすると富山地方鉄道が資金ショートする可能性が高まります。新田知事は方向性を固めようと、慎重姿勢の自治体を説得。「最後になって『やっぱりこれは飲めない』ということもあると思う。ただ、ここで止めるのはもったいない。もう少しみんなで知恵を出し合っていこう」と語りかけ、なんとか合意を取り付けたようです。
本線でも鉄軌道王国らしい「アイデア」は出てくるか?
2026年9月に予定される次回会合では、本線に対する具体的な支援策や負担額に関する議論がされる予定です。
一方、立山線と不二越・上滝線では、鉄軌道王国・富山らしい先進的な取り組みも検討されています。
立山線では、沿線住民の生活に必要な線区の運賃を、自治体などの関係者と協議して決められる「協議運賃」の導入を模索。具体的には、沿線住民向けに少し安い運賃制度を設定して利用を促そうといった計画が進んでいます。
不二越・上滝線では、「富山型官民連携方式」を検討中。事業者任せや自治体任せではなく、また「単なる赤字補てん」というネガティブな支援とも一線を画した官民連携の取り組みを模索しています。
こうした鉄軌道王国・富山だからこそ着眼できる支援形態のアイデアが、本線でも検討されるかもしれません。自治体・事業者・地域住民が知恵を出し合い、本線ならではの施策で収益向上と利便性の改善に向けて検討してほしいところです。
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参考URL
第2回富山地方鉄道鉄道線再構築検討会・第2回本線部会(富山県)
https://www.pref.toyama.jp/800001/20260721_saikochikukentokaihonsenbukai.html
富山地方鉄道本線あり方調査事業 最終報告【精査結果】(富山県)
https://www.pref.toyama.jp/documents/56025/06_seisakekka.pdf
「黒部市の市民組織による便益計測」に関して(富山県)
https://www.pref.toyama.jp/documents/56025/08_benekikeisoku.pdf
富山地方鉄道鉄道線に関するアンケート結果(滑川市)
https://www.city.namerikawa.toyama.jp/material/files/group/10/namerikawa_202607sokuhou.pdf