因美線は、東津山(岡山県)と鳥取をつなぐJR西日本のローカル線です。このうち鳥取県側の智頭~鳥取には特急列車も走り、一定の利用者数を確保しています。
一方、岡山県側の東津山~智頭(一部区間は鳥取県)は普通列車のみで、輸送密度は200人/日を下回る閑散線区です。沿線自治体とJR西日本は、東津山~智頭の利用促進に努めていますが、利用者数は減少の一途をたどり続けています。因美線の全線存続を願う沿線自治体の取り組みを紹介するとともに、東津山~智頭の将来を考察します。
JR因美線の線区データ
| 協議対象の区間 | JR因美線 東津山~智頭(38.9km) |
| 輸送密度(1987年→2025年) | 1,551→109 |
| 増減率 | -93% |
| 赤字額 | 3億6,000万円 |
| 営業係数 | 2,054 |
※赤字額と営業係数は、2022年から2024年までの平均値を使用しています。
協議会参加団体
津山市、岡山県、JR西日本ほか

岡山県の協議会で因美線ワーキングチームを設置
2022年4月11日、JR西日本は「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」というニュースリリースを公表します。このニュースリリースでは、輸送密度2,000人/日未満のローカル線の収支を開示。岡山県では因美線、姫新線、芸備線の3路線5区間が該当しました(後に赤穂線の播州赤穂~長船も追加)。
岡山県ではこれまで、ローカル線の利用促進などを目的にJR西日本と話し合う連絡会議を設置していました。ただ、今回のニュースリリースで取り組みをいっそう強化するために改組。同年7月に「岡山県JR在来線利用促進検討協議会」を設立します。
第1回協議会は2022年8月31日に開催され、「ローカル線の調査研究と利用促進策」について議論していくことが確認されます。具体的には、路線ごとにワーキングチームを設置し、各線区の課題を洗いだして今後の取り組みを検討していくことになりました。
ワーキングチームは当初、姫新線と赤穂線の2路線に設置されますが、津山市からの申し入れにより因美線でも設置。それぞれ検討した内容は、できることから順次実行へと移されます。

出典:岡山県「因美線ワーキングチームの活動状況」
因美線の取り組み
沿線自治体を中心に実施した利用促進の取り組みを、ピックアップして紹介します。
ツアー催行(鳥取県と連携)
鳥取県側の自治体と連携し、因美線沿線の魅力を体験・体感する「JR因美線利用促進魅力発見ツアー」を実施しています。2025年度は全3回催行。すべて募集開始日当日に完売だったようです。参加者数はトータルで72人。うち津山市在住者が8割を占め、沿線住民の利用促進にもつながったようです。
スタンプラリーの実施
こちらも鳥取県と連携した事業です。2025年3~6月には「因美線応援スタンプラリー」を実施。乗車回数に応じた景品も用意しました。ただ、用意した1,100枚のスタンプラリーカードのうち、配布数は118枚と撃沈。景品の多くは在庫を抱えているようです。
その後、同年7~11月には、因美線周辺の路線バスを含めたデジタルスタンプラリーを実施しています。
周遊パス「tabiwa津山因美パス」の販売
因美線や姫新線、周辺地域の路線バスを1日乗り放題できる周遊パス「tabiwa津山因美パス」を2025年8月に販売。鉄道もバスも1日700円で乗降できるとアピールしました。ただ、路線バスを運行する中鉄北部バスが運転手不足のため減便。バスが運行されない日もあるため、わずか8カ月で発売中止になりました。
シェアサイクルの導入
津山市では、駅からの二次交通としてシェアサイクル「ごんちゃり」を、2024年度に導入しました。年間利用回数は約4,000回。そのうち約4割が沿線地域外の人が利用しており、観光客などの利用促進につながっていると考えられます。
その他の取り組み
ほかにも、キハ47形を改装したイベント列車「みまさかスローライフ列車」やラッピング列車「とっとりサンド列車」の運行、オリジナル硬券きっぷの配布、沿線住民を対象とした「公共交通乗り方教室」などの事業も展開しています。
沿線住民の移動ニーズ – 因美線を選ぶ人は少ない?
2024年3月18日に開かれた第4回協議会で、因美線ワーキングチームから住民アンケートの調査結果が報告されています。アンケートでは、沿線住民の日常的な移動ニーズを調査。津山市と智頭町(鳥取県)の約2,000人から、回答がありました。
このうち智頭町では、約51%の人が町内のみで移動が完結する一方、鳥取市へ移動する人も約42%いることが判明。「因美線で鳥取まで行く人も一定数いる」という結果が示されました。ちなみに、智頭~鳥取の輸送密度は2,999人/日(2024年度)です。
これに対して津山市民の移動は、約85%が市内のみで完結。鉄道で市内を移動する人もいますが、多くの人はマイカーで移動していると考えられます。なお、このアンケート調査では日常移動の主な目的地についても尋ねています。津山市民の場合、イオンモールやマルイ、中央病院などへ行く人が多く、いずれも最寄り駅から1~2km離れた道路沿いにあります。

出典:岡山県「因美線ワーキングチームの活動状況」
因美線が結ぶ津山市と智頭町の移動ニーズは、全体の1~2%しかありません。この結果から津山市は、智頭町とも連携して因美線の利用促進を検討していくとしています。
因美線で利用者が極端に少ない線区は、鳥取県との県境区間です。利用促進策をはじめ各種取り組みを進めるには、鳥取県側の沿線自治体とも連携が必要でしょう。そこで因美線ワーキングチームは2024年8月21日に、鳥取県の沿線自治体やJR西日本(山陰支社)を交えた意見交換会を実施。鳥取県の各種団体が実施した取り組みを共有したうえで、今後の連携強化を確認しています。
気になるJR西日本の動きは?
東津山~智頭の鉄道利用者は極めて少なく、利用者の減少が続いています。JR西日本は、いまのところ「鉄道のあり方」に関する協議を申し入れていませんが、他県では東津山~智頭より利用者の多い線区でも存廃に関わる協議を始めています。
そもそもJR西日本は、「利用促進だけで鉄道を維持できる」とは考えていません。2022年4月のニュースリリースには「上下分離を含めた地域交通の確保に関する議論や検討を幅広くおこないたい」というメッセージも含まれていました。いずれ因美線でも、鉄道のあり方に関する協議を申し入れると推測されます。
先述の住民アンケートについて、JR西日本は以前、芸備線の沿線自治体でも実施しています。庄原市と新見市で実施した調査では、地域内で完結する住民が約7割を占めることから「バスを中心とした地域公共交通を充実させる必要がある」とJR西日本は提言。芸備線のあり方に関する協議を申し入れ、その後、国の再構築協議会へとつながりました。
津山市の場合、約85%の市民が地域内で完結しています。この結果から、JR西日本は「鉄道よりバスを充実させたい」と、因美線のあり方の協議に持ち込む可能性も否定できません。国の再構築協議会の基準を満たす線区でもありますから、JR西日本の今後の動きが注目されます。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。


参考URL
ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf
岡山県JR在来線利用促進検討協議会について(岡山県)
https://www.pref.okayama.jp/page/792753.html
「tabiwa 津山因美パス」発売中止について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/251016_00_press_tsuyamainbipass_3.pdf