JR赤穂線は、兵庫県の相生と岡山県の東岡山を結ぶローカル線です。比較的多くの人に利用される路線ですが、県境付近の播州赤穂~長船は閑散としており、輸送密度は2,000人/日を割り込んでいます。
岡山県では「岡山県JR在来線利用促進検討協議会」を設置。沿線自治体やJR西日本などと連携し、さまざまな取り組みを進めています。これまでの協議の流れや、具体的な取り組みについて紹介します。
JR赤穂線の線区データ
| 協議対象の区間 | JR赤穂線 播州赤穂~長船(31.8km) |
| 輸送密度(1987年→2025年) | 3,183→1,729 |
| 増減率 | -46% |
| 赤字額 | 10億6,000万円 |
| 営業係数 | 646 |
※赤字額と営業係数は、2022年から2024年までの平均値を使用しています。
協議会参加団体
岡山市、備前市、瀬戸内市、JR西日本ほか

県境付近の利用者が少ない赤穂線
JR西日本は2022年4月11日に、「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」というニュースリリースを公表します。このなかで、利用者の少ない赤字ローカル線の収支を開示。岡山県では因美線、姫新線、芸備線の3路線5区間が該当しました。
これを受けて岡山県は、同年7月25日に「岡山県JR在来線利用促進検討協議会」を設立。関係自治体やJR西日本と一緒に、対策を考えていくことになりました。
なお、収支公表の対象になったのは、2019年度の輸送密度が2,000人/日未満の線区です。この年の赤穂線(播州赤穂~長船)の輸送密度は2,178人/日で、対象線区に含まれていません。しかし、2020年度以降はコロナの影響もあり2,000人/日を割り込んだこと、減便や駅の無人化など利便性が低下したことなどもあって、赤穂線の沿線自治体も協議に参加することになりました。
第1回の協議は、2022年8月31日に開催。JR西日本は、利用者の減少に歯止めがかからないローカル線の実情を説明します。これに対して沿線自治体は、利用促進につながる取り組みを説明。赤穂線では、デジタルスタンプラリーやパンフレットの作成などで、利用促進に努めてきた実績をアピールします。
ちなみに赤穂線は、全線で見た利用者数は増加傾向にあります。相生~播州赤穂や長船~東岡山の輸送密度は、1万人/日前後もあり好成績です。ただ、全線の半分以上を占める播州赤穂~長船では2,000人/日を下回り、減少傾向にあることも事実でした。
■赤穂線の輸送密度の推移

出典:JR西日本の各年度の区間別平均通過人員(輸送密度)をもとに筆者作成
第1回協議会では今後の進め方についても話し合い、「ローカル線の調査研究と利用促進策」を検討することが確認されます。具体的には、各路線が抱える現状の課題を洗い出し、それを分析したうえで効果的な利用促進策を検討していくという流れです。
これらの作業は、路線ごとに設置するワーキングチームが実施。赤穂線でも「赤穂線ワーキングチーム」が設置されました。
赤穂線の取り組み
赤穂線利用者の約6割が高校生などの通学定期客、約3割が通勤定期客です。これを踏まえて沿線自治体は、定期利用者の増加を図る利用促進策を中心に取り組みを進めています。具体的な施策の一部を見ていきましょう。
通学定期券の出張販売
入学説明会や入学式の前後に、沿線自治体が備前緑陽高校と邑久高校に足を運び、JR定期券の出張販売を実施。2022年度から始めた施策で、毎年150人以上の高校生に販売しているようです。
また高校生向けの施策として、鉄道通学に役立つ情報をまとめた「赤穂線サポートブック」の作成・配布や、列車を待つあいだの居場所づくりとして駅前広場や駐輪場の整備などもおこなっています。
通勤定期モニターの実証実験
2024年度には、地元企業に勤める約6,000人を対象としたアンケート調査を実施(回答は1,406人)。マイカー通勤から鉄道にシフトできるか、通勤実態調査をおこないました。
その結果をもとに、2025年度には「通勤定期モニター」の実証実験を実施。参加者には、岡山~相生のJR通勤定期券を無料で提供しました。ただ、実証実験に参加したのはわずか10人。「駅から会社まで遠い」「運行本数が少ない」などの理由で申込者が少なかったと、協議会は分析しています。
運行延伸・二次交通の乗り継ぎ改善
2026年のダイヤ改正では、岡山~西大寺で運行する一部列車を長船まで延伸(西大寺~長船は臨時列車扱い)。長船や邑久などの駅では、路線バスの増便や観光定期バスの運行など二次交通を改善しました。これらの施策は、瀬戸内市と連携しておこなっています。
瀬戸内市では、地域公共交通計画で赤穂線の乗車人員に目標値を設定。2030年度には大富駅が238人(2024年度は227人)、邑久駅が1,840人(同1,680人)、長船駅が1,153人(同990人)をめざして取り組んでいます。
その他の取り組み
備前片上駅の駐車場整備(パークアンドライド)や、伊部駅前などでは二次交通としてトゥクトゥクを運行するなど、主に沿線住民向けの利用促進策を展開しています。
赤穂線の存続には「沿線住民の利用」がカギ
前述の通り、赤穂線利用者の約9割が定期利用者です。その大半が高校生などの通学定期客ですが、少子化の影響で今後減り続けるのは明白でしょう。
頼みの綱は通勤定期客ですが、2025年度に実施した通勤定期モニターの実証実験では「参加者が少なすぎる」という課題を残しました。定期券がタダでもらえても参加者が集まらない理由は、「車のほうが便利だから」という地域の実情があります。
2024年度にワーキングチームが実施した通勤実態調査によると、沿線住民の85.3%がマイカー通勤で、JR(赤穂線)で通勤する人はわずか7.7%という結果が示されています。マイカーで通勤する多くの人が「時間も場所も自由に移動できる」ことにメリットを感じ、鉄道を利用していません。
また、通勤定期モニター参加者に対するアンケート調査によると、鉄道のほうが「通勤時間が増えた」と答えた人が10人中9人もいました。
■通勤定期モニター参加者(10名)の通勤時間

出典:岡山県「赤穂線ワーキングチームの活動状況(令和8年3月26日)」
「鉄道のほうが速い」というイメージがありますが、それは駅間移動の話。自宅も勤務先も駅から離れたローカル線沿線の場合、マイカー通勤のほうが圧倒的に速い人のほうが多いのです。
播州赤穂~長船には、大きな工場が並ぶエリアもあります。ただ、最寄駅から数キロ離れた幹線道路沿いにあるため、鉄道での通勤にシフトさせるのは容易ではないでしょう。事実、定期代がタダでもモニター参加者は10人しかいなかったのです。
勤務先などの最寄駅から二次交通を整備するほか、鉄道で通勤するメリットをどれだけ打ち出せるか、あるいは駅前に住居や目的地を整備する「まちづくり」ができるかも、定期客獲得に向けた検討事項といえそうです。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。


参考URL
ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf
岡山県JR在来線利用促進検討協議会について
https://www.pref.okayama.jp/page/792753.html
第2次瀬戸内市地域公共交通計画(瀬戸内市)
https://www.city.setouchi.lg.jp/uploaded/attachment/126593.pdf