【2026年10月29日】北陸新幹線の延伸区間(敦賀~新大阪)をめぐり、国土交通省と鉄道・運輸機構は、京都府内の自治体向け説明会を開きました。与党整備委員会が、小浜・京都ルートの「桂川案」を選定してから初の開催となります。
説明会では、JR桂川駅周辺のトンネル工事に伴う地下水位の変化や、河川の減水リスクに対する代替水源の確保方針などを鉄道・運輸機構が説明。一方、沿線自治体からは水資源に関する不安や工事期間中の交通渋滞、車両基地の予定地周辺における治水対策など懸念や要望が相次ぎました。
また国土交通省は2026年11月6日に、延伸区間における収支採算性や費用対効果(B/C)を検証する有識者委員会の初会合を開催しました。整備新幹線の「着工5条件」の確認に向けて本格的に動き始めた国ですが、着工までに解決しなければならない課題は山積しています。
【解説】京都の同意は得られるか?自治体説明会と「着工5条件」の検証
北陸新幹線の延伸区間(敦賀~新大阪)のルートは、2026年7月に与党整備委員会が「小浜・京都ルート」を選定。京都市の新駅は、地下水脈の影響を抑えつつ施工性や環境面での課題を軽減できるとして、JR桂川駅付近に設ける「桂川案」が採択されました。
ただ、これで延伸工事が始まるわけではありません。整備新幹線の事業費は国だけでなく、沿線自治体にも負担が求められます。そのため国の一存では決められず、利害関係者となる沿線地域の理解を得る必要があります。
なかでも京都府の沿線地域では、延伸工事にさまざまな課題や不安を抱えています。そのひとつが、地下水への影響です。京都市付近では北陸新幹線が地下深くを通る計画ですが、これにより酒造や和菓子作りなどに欠かせない地下水脈(地下水盆)への影響が強く懸念されています。
ほかにも、工事期間中の交通渋滞や騒音に対する不安、残土処分の問題、車両基地の建設予定地周辺における治水や水害への影響、さらに自治体の財政負担なども懸念材料です。
そこで国土交通省と建設主体となる鉄道・運輸機構は、沿線自治体に向けた「京都府内自治体説明会」を2026年10月29日に開催。沿線地域が抱える不安の払拭に努めようと動いています。なお、説明会は2025年3月にも開催しており、今回が2回目です。
地下水の影響は小さいが河川水量に影響が出るおそれ
説明会には、京都府および沿線21市町村の担当者などが参加。鉄道・運輸機構の説明後、質疑応答がおこなわれました。
最大の懸念点である地下水や水資源への影響について、鉄道・運輸機構は2026年3月に公表した調査結果に基づき、環境影響の見通しを説明。新駅予定地となるJR桂川駅周辺の地下トンネル工事では、地下水位が駅西側で最大約1m上昇する一方で、東側では最大約1m低下するという試算結果を示しました。ただ、駅周辺での地下水利用が確認されていないことから「影響は小さい」との見解を示しています。
また、山岳地帯でのトンネル工事により、桂川などの主要河川では水量が1%程度減少する可能性を指摘。支流では、工事開始後に大きく減るおそれがあることから、「代替水源の確保も視野に入れて検討する」と、鉄道・運輸機構は説明しています。
これらの説明に対して沿線自治体からは「既に公表された内容の説明だけで、懸念の払拭には至らない」「住民向けに丁寧な説明会を開くべきだ」などの意見が出たようです。また、水資源への影響に絞った説明会だったため、交通渋滞や騒音対策、残土処分、地域振興策など他の課題や要望に対する説明会を求める声もあったようです。
こうした声に国土交通省は、「今回の説明会は議論のスタートライン」としたうえで、今後も説明会の開催を検討するとしています。
着工5条件の確認に向けた委員会が始動
自治体との調整が進められる一方で、国土交通省は2026年11月6日に「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)小委員会」という有識者による委員会の初会合を開きます。この委員会は、整備新幹線の着工に必要な条件を満たしているかを客観的・専門的に検証する組織です。
整備新幹線の着工には「安定的な財源見通しの確保」「収支採算性」「投資効果」「JRの同意」「並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意」という5つの条件(着工5条件)を満たす必要があります。委員会は、このうち「収支採算性」と「投資効果」の2点に絞って、北陸新幹線の未着工区間における詳細な分析をおこないます。
なお「投資効果」については、2026年6月に国土交通省などが「全線での費用対効果(B/C)は1.1」と算定しています。今回の委員会では、開業目標時期を「2053年度」と仮定し、将来の人口減少や経済成長率などを織り込み、より精査した結果が示される予定です。
また、収支採算性を検証するうえで、運行主体となるJR西日本へのヒアリングも実施されます。
整備新幹線の収支採算性は、単に「運賃収入と維持費の差額」だけでは求められません。新幹線開業に伴い経営分離される「並行在来線の赤字額」も、収支に大きな影響を与えるからです。つまり、「どの区間を経営分離するか」によって、収支採算性は大きく変わるのです。
なおJR西日本は現時点で、敦賀~新大阪の開業に伴う経営分離区間を公表していません。今回の委員会のヒアリングでもJR西日本は公表しないと考えられますが、検討内容の情報が洩れて経営分離区間が明らかになる可能性もあるでしょう。経営分離区間が明らかになれば、関係自治体には「経営分離の同意」が求められます。これも着工5条件のひとつですから、クリアしなければならない課題です。
財政負担の増大も懸念され、さらに並行在来線の問題も懸念されるなかで、北陸新幹線が2053年度に全線開業できるかは不透明な状況です。一つひとつの課題をクリアしながら、着実に前進していくことが求められます。
委員会では2026年中に中間的な整理をおこない、それをもとに国土交通省は来年度予算での着工関連費用の確保を目指すとしています。委員会の最終的なとりまとめは、2027年度になる模様です。
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参考URL
京都府内自治体説明会(鉄道・運輸機構)
https://www.jrtt.go.jp/project/tsuruhaninformationsession-kyoto.html
北陸新幹線(敦賀・新大阪間)小委員会(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s304_hokurikushinkansen01.html