【2026年8月7日】国土交通省は、基本計画路線に位置づけられる「四国の新幹線」と「東九州新幹線」を対象としたケーススタディについて、調査事業者の公募を始めました。基本計画路線で、国が整備計画の格上げに向けた調査を実施するのは、1973年の計画決定以降初めてのことです。
ケーススタディでは、駅の位置やルート、輸送需要の推計などを調査。整備の可能性や課題などを検討・分析します。調査期間は2026年度中で、次年度には結果が示される見込みです。
ケーススタディの公募開始を受け、四国新幹線整備促進期成会や東九州新幹線鉄道建設促進期成会をはじめ、沿線地域からは整備計画への格上げに期待の声が挙がっているようです。
【解説】四国新幹線・東九州新幹線は実現するか?調査の意義と課題
国土交通省が調査事業者の公募を始めたのは、「基本計画路線に係るケーススタディ」という案件です。
基本計画路線は、全国新幹線鉄道整備法(全幹法)にもとづき、国が1973年に示しました。しかし、将来的に整備すべきと位置づけられながらも棚上げされたまま、半世紀以上の歳月が流れました。これらの沿線自治体では、事業化がめざせる「整備計画への格上げ」を国に求めてきました。しかし国は、北海道新幹線や北陸新幹線などの整備計画路線の建設に目処が立たない限り「基本計画路線を進めるのは難しい」との見解を示しています。
■整備計画待ちの基本計画路線

出典:国土交通省「全国の新幹線鉄道網の現状」
ところが、2025年になって国が動き始めます。この年に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」で、基本計画路線に言及。幹線鉄道の「高機能化に関する調査や方向性も含めた検討など、更なる取組を進める」と記載され、基本計画路線で調査・検討する考えが示されたのです。背景には、当時の石破首相が打ち出した看板政策「地方創生2.0」の実現に、幹線鉄道の高機能化が挙げられたことも大きいでしょう。
これを受けて国土交通省は、2025年12月に公表した鉄道局関係予算決定概要で、基本計画路線における「ケーススタディ」の実施を提示します。ケーススタディとは、一部の基本計画路線で整備方法や運行手法を検証し、実現可能性や課題などを探る調査のことです。整備計画への格上げに向けた調査であり、整備新幹線の着工5条件にある「収支採算性」「費用を上回る投資効果」といった項目のベースとなる調査にもなるでしょう。
この事業に国土交通省は、2026年度の予算として1億8,900万円を盛り込んでいます。
こうして「基本計画路線に係るケーススタディ」の調査を始めることが決定。その調査対象として「四国の新幹線(四国新幹線・四国横断新幹線)」と「東九州新幹線」が選ばれ、2026年8月7日に調査事業者の公募が始まったのです。
四国と東九州が選定された理由は?
基本計画路線は、全国に11路線あります(JR東海が進める「リニア中央新幹線」を含む)。このなかで、「四国の新幹線」と「東九州新幹線」がケーススタディに選ばれたのは、なぜでしょうか。その理由について、国土交通省は現時点(2026年8月9日)で明らかにしていません。
ただ、ケーススタディの調査項目には輸送需要の推計もあるため、「一定の利用者数が見込める路線」として、四国と東九州が選ばれたと推測されます。
四国経済連合会が2014年に試算した需要予測によると、四国新幹線(徳島~松山)と四国横断新幹線(岡山~高知)の輸送密度は「9,000人/日」という結果を示しています。また、宮崎県が2024年に試算した需要予測では、日豊本線ルート(小倉~大分~宮崎~鹿児島中央)の輸送密度は「12,416人/日(2060年度開業の想定)」としています。
ケーススタディでも改めて輸送需要が調査されますが、いずれの路線も一定の利用者数を確保できるとして、調査対象に選ばれたと考えられます。なお、需要予測に関する宮崎県の試算結果は2060年度の開業を想定していますが、四国経済連合会の試算結果は開業年度が不明です。
需要予測のほかにも、計画路線上にあるすべての自治体が「新幹線がほしい」という共通認識(熱意)を持っていることも大切です。
昨今、整備新幹線の計画が進んでいる一部地域では「(フル規格の)新幹線を求めていない」などの理由で、建設に慎重な姿勢を崩さない自治体が増えてきました。関係自治体の温度差が大きいと、整備計画に格上げされても「いつまでも完成しない」という事象が、北陸新幹線や西九州新幹線で生じているのです。
こうした事態を避けるうえで、関係自治体の意見が一致していることも、ケーススタディの選定に関係しているとみられます。実際、四国や東九州の自治体などが組織する期成会では、定期的に決起大会を開き、新幹線誘致に関わる取り組みを進めています。ケーススタディに関しても、両期成会はいち早く名乗り上げており、これも選ばれた理由になっているのでしょう。
整備計画の格上げには「法定調査」が必要
ケーススタディでは、基本的なデータを集めて現実的に可能な「幹線鉄道の高機能化」を検討するのが、調査の主となる予定です。このため、フル規格での新幹線整備を前提にした調査ではありません。仮に「需要が少ないため採算性に難がある」といった結果が示された場合、ミニ新幹線やスーパー特急などの整備方式の検討も提言されるでしょう。
また、ケーススタディをおこなったからといって、「整備計画に格上げ」されるかは不透明です。事業化をめざせる整備計画に格上げされるには「法定調査」をおこなわなければなりません。これはケーススタディとは別物です。
ケーススタディで「新幹線を整備したほうがよい」と指摘されても、法定調査に進まず事業化されない可能性はありますし、「整備する必要はない(既存路線のままでよい)」という結果がケーススタディで示された場合は、元も子もありません。
とはいえ、ケーススタディは整備新幹線の着工5条件にある「収支採算性」「費用を上回る投資効果」といった項目のベースとなる調査でもありますし、新幹線実現に一歩前進したことに変わりはないでしょう。
基本計画の策定から50年以上の時を経て、ようやく調査の土台に乗った「四国の新幹線」と「東九州新幹線」。今回のケーススタディによって提示される需要予測やルート案は、今後の整備計画格上げに向けた議論の重要なエビデンスとなります。どのような調査結果が示されるか、待たれるところです。
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参考URL
「基本計画路線に係るケーススタディ」企画競争実施の公示について(大分県)
https://www.pref.oita.jp/soshiki/10530/kouikikoutsu102.html
四国の新幹線実現を目指して(四国新幹線整備促進期成会)
https://www.shikoku-shinkansen.jp/
「四国の新幹線」を対象とするケーススタディの公示(調査受託事業者の公募)の開始について(四国新幹線整備促進期成会)
https://www.shikoku-shinkansen.jp/topics/20260807pressnews.pdf
全国の新幹線鉄道網の現状(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001732043.pdf
令和8年度鉄道局関係予算決定概要(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/page/content/001975403.pdf
「四国における鉄道の抜本的高速化に関する基礎調査」の結果概要について(四国経済連合会)
https://yonkeiren.jp/shikokutetsudo20140421.pdf
東九州新幹線等調査 調査結果の概要(宮崎県)
https://www.pref.miyazaki.lg.jp/documents/93881/93881_20241128162717-1.pdf