【2025年8月6日】大阪府と大阪市は、大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)と中之島などを結ぶアクセス鉄道について、想定されるルートの概算事業費や収支予測、費用便益分析の調査結果を公表しました。
ルートは、「答申路線」と「検討路線(JR桜島線と京阪中之島線の延伸)」の大きく2つを想定。答申路線は、コスモスクエアと夢洲を結ぶ北港テクノポート線(現・大阪メトロ中央線の一部)を延伸させ、舞洲~新桜島~西九条~中之島を結びます。一方の検討路線は、JR桜島線を舞洲・夢洲まで延伸させるのと京阪中之島線を九条まで延伸させるルートです。

調査結果の資料によると、概算事業費は答申路線が約3,700億円で、検討路線が約3,510億円。収支予測では、答申路線は開業40年後も赤字ですが、検討路線だと40年以内に黒字転換できるとしています。費用便益比(B/C)は、答申路線が0.7~0.8に対し、検討路線が1.1~1.2でした。これらの結果から、JR桜島線と京阪中之島線を延伸する「検討路線が優位」という結果が報告されています。
大阪府の吉村知事は、開業時期のめどは立っていないとしながらも「鉄道事業者と一緒に、具体的な協議の深掘りを始めたい」と、実現に向けて意欲を示しています。
【解説】万博後も年間数千万人の輸送を見込む「夢洲アクセス鉄道」
夢洲では、2025年10月13日まで大阪・関西万博が開催されています。会場の周辺では、統合型リゾート(IR)の建設が進んでおり、2030年ごろから順次開業。最終的には年間3,500万人が来訪、夢洲で働く人は3万人以上になると、大阪府と大阪市は見込んでいます。
一方で、大阪市の中心部から夢洲へのアクセス鉄道は、2025年1月に延伸開業した大阪メトロ中央線のみです。仮に中央線だけで年間3,500万人を輸送するとなれば、ピーク時の混雑率は150%を超えると予測されています(2024年度の大阪メトロ中央線の最混雑率は、森ノ宮→谷町四丁目の133%)。
こうした状況から、大阪府と大阪市は2024年11月に「夢洲アクセス鉄道に関する検討会」を設置。JR西日本、京阪、大阪メトロ、大学教授などの有識者を交え、新たな鉄道路線の検討を始めます。検討会の目的は、アクセス鉄道の意義を調べるとともに、想定される複数ルートの優位性を比べることです。検討会は、2025年7月までに3回開催。議論された内容は報告書にまとめられ、2025年8月6日に公表されました。
夢洲アクセス鉄道の2つの想定ルート
大阪市の中心部と夢洲を結ぶアクセス鉄道構想は、30年以上前から検討されています。
1989年5月の運輸政策審議会では夢洲アクセス鉄道も答申されており、その一部は大阪メトロ中央線(コスモスクエア~夢洲)として開業済みです。なお、答申では新桜島までの延伸を位置付けています。また、2004年10月の近畿地方交通審議会では、新桜島から西九条を経由して中之島までの「中之島新線」が答申されています。今回の検討会では、これらを一体で「答申路線(夢洲~中之島)」とよびます。
その後、オリンピック招致の失敗や万博開催の決定、IR誘致などにともなう都市計画の変更もあり、別のルート案が模索されるようになります。
2017年8月に大阪府と大阪市、経済界などは「夢洲まちづくり構想」を策定。ここには、JR桜島線を延伸して夢洲とつなぐ構想がうたわれています。さらに京阪が「夢洲でIR誘致が決まれば、中之島線を九条駅まで延伸する」という考えを示します。これらをあわせて検討会では「検討路線(桜島~夢洲と中之島~九条)」とよんでいます。
検討会では、この2つの想定ルートについて概算事業費や収支予測、費用便益分析などを調査。その結果、「検討路線」の優位性が示されたのです。
答申路線と検討路線の検討結果を比較
改めて、答申路線と検討路線の検討結果をみていきましょう。
答申路線 | 検討路線 | |
---|---|---|
延伸路線長 | 11.0km | 7.0km |
輸送人員 | 69,100人/日 | 121,000人/日 |
概算事業費 | 約3,700億円 | 約3,510億円 |
費用便益比(B/C) | 0.78 | 1.15 |
答申路線は、延伸区間が長いわりに利用者数はそれほど多くなく、開業後40年以内に「黒字転換しない」と結論付けています。これに対して検討路線は、延伸距離が短く利用者が多いと予測され、開業後40年以内で「黒字転換できる」としています。
両ルートの利用予測結果の違いには、夢洲までの所要時間と利便性も、要因として挙げられます。
たとえば新大阪から夢洲に向かう場合、答申路線の所要時間は34分で、現状とほとんど変わりません。乗り換えが2回発生するのも現状と変わらず、利便性の改善は期待できないでしょう。一方の検討路線は、JR西日本が直通列車を運行する想定で、乗り換えなし(または同一ホームで乗り換え)で夢洲に行けます。所要時間は最短25分と、9分短縮します。
なお、開業後の事業形態はいずれの路線も上下分離方式を導入。自治体などが出資する第三セクターが、鉄道施設を維持管理する想定です。
夢洲アクセス鉄道はいつ全線開通するのか?
検討会が報告した内容は、あくまでも「答申路線と検討路線の比較」であり、検討路線での事業化が決まったわけではありません。今後は、具体的な計画案の策定や事業費の精査などを自治体と事業者が一緒に進め、事業化をめざすことになります。国の認可に向けた準備期間だけでも、数年はかかるでしょう。
工期も気になるところです。「夢洲への鉄道アクセスの技術的検討の報告」によると、JR桜島線を延伸する場合の工期は、9~11年と伝えています。ただ、この報告書がつくられたのは2014年です。働き方改革や労働人口の減少なども考慮すると、工期はもっと長くなると考えられます。
なお、検討会の資料では「2040年の開業」を想定して、輸送人員や概算事業費などを試算していますから、実際には2040年以降の開業になるとみられます。国際観光拠点として成功させるためにも、夢洲アクセス鉄道の早期事業化・実現が待たれるところです。
参考URL
夢洲アクセス鉄道に関する検討について(大阪府・大阪市)
https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/113602/kentouhonpen.pdf