【NEWS】北陸新幹線延伸ルートのB/C「全線評価」は小浜・京都ルートが優位

北陸新幹線の車両 協議会ニュース

【2026年6月11日】北陸新幹線の延伸ルートについて、国土交通省が再試算した費用対効果(B/C)の結果が明らかになりました。

費用対効果は、延伸区間(敦賀~新大阪)のみを評価した「単独評価(個別評価)」と、東京~新大阪の全線を評価した「全線評価(一体評価)」の2種で試算。それぞれを9つの候補ルートで算出した結果、最高値は単独評価が米原ルートの1.0、全線評価が小浜・京都ルートの1.1でした。

整備新幹線の着工の目安は、費用対効果が「1を上回ること(B/C>1)」とされていますが、値がもっとも高い小浜・京都ルートの優位性が示されたかたちです。与党整備委員会は、今国会中にルートの最終決定を目指すとしています。

■北陸新幹線延伸ルートの再試算結果

ルート案単独評価(B/C)全線評価(B/C)概算建設費工期
小浜・京都(南北案)0.51.14.2~5.8兆円25年
小浜・京都(桂川案)0.51.13.9~5.5兆円26年
米原(乗換)1.01.01.3~1.7兆円18年~
米原(一部乗入)0.71.02.1兆円~18年
亀岡0.61.03.3~4.6兆円25年
湖西(新設)0.51.04.7~6.7兆円28年
湖西(改軌)0.31.05.1~7.4兆円28年
舞鶴(京都経由)0.31.05.7~7.9兆円25年
舞鶴(亀岡経由)0.41.04.1~5.8兆円25年
※工期は環境アセス等の期間を除く。

【解説】一筋縄ではいかない北陸新幹線の延伸。国・自治体・JRの思惑は?

北陸新幹線の敦賀~新大阪の延伸ルートは、2017年3月に与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームが「小浜・京都ルート」に決定した「はず」でした。

しかし、地下水脈への影響や建設残土処理などの問題で、京都府市の理解が得られず議論は膠着。くわえて、働き方改革や物価高騰の影響で工期と建設費が大幅に増加。2016年の試算では工期15年、建設費2.1兆円とされていたのが、工期は25~26年に、建設費は3.7~5.3兆円まで膨らんだのです。

このような状況から、京都府市や石川県などの一部沿線自治体からは「米原ルート」の再検証を求める声が挙がります。ただ、国は「一度決まったことだから」と再検証を認めてきませんでした。

それが急転したのは、2025年7月20日の参議院選挙です。日本維新の会が京都選挙区のマニフェストで、米原ルートの再検証を提言。「費用対効果を再試算して府民に選んでいただける状態を作りたい」と、地下水問題に揺れる京都府の有権者に訴えかけます。

その結果、維新の新人議員が約33万票を獲得してトップ当選。与党整備委員会で委員長を務める自民党の西田氏は約19万票で、次点でした。これが、京都の民意は「小浜・京都ルートにNOを突きつけた」と捉えられたのです。

これを受けて西田氏は、敦賀~新大阪の再検証を表明。連立入りした日本維新の会の議員とともに、ルート案を再模索します。その後、小浜・京都ルートや米原ルートを含めた8つの候補ルートを選定(小浜・京都ルートを南北案・桂川案にわけると9つ)。それぞれの費用対効果を再試算した結果が、2026年6月11日に各メディアで報じられました。

米原ルートの評価が小浜・京都ルートより低い理由

さて、従来の費用対効果(B/C)の試算は、整備新幹線が新たに建設される線区のみの「単独評価」を用いるのが通例でした。しかし、北陸新幹線の敦賀~新大阪の場合、最高値は米原ルートの1.0(米原駅で乗り換える場合)、小浜・京都ルートは0.5で、その他の候補も着工の目安とされる「1を上回る」ルートはありません。

そこで国土交通省は、敦賀~新大阪だけでなく、開業済みの線区を含めた東京~新大阪の費用対効果も試算。その結果、小浜・京都ルートが最高値の1.1、米原ルートなど他の候補ルートは1.0という結果になりました。

全線で評価するという新たな評価方法に対し、一部の国会議員からは「小浜・京都ルートありきの試算じゃないか」と非難する声も聞かれるようです。

ところで、工期も建設費も最小に抑えられる米原ルートは、なぜ小浜・京都ルートより低く評価されたのでしょうか。理由のひとつに、北陸新幹線が東海道新幹線に乗り入れできず、「米原で乗り換えが生じる」ことが挙げられます。

現状、東海道新幹線と北陸新幹線は運行管理システムなどが異なり、直通するにはシステムや車両・線路の改修が必要といわれます。ほかにも、東海道新幹線のダイヤに余裕がないなどの理由もあって、運行管理するJR東海は米原ルートに否定的です。

このため米原ルートは、乗り換え発生による所要時間の短縮効果や利便性の点で便益が低下。仮に直通できるとなった場合でも、莫大な改修費用がかさむなどの理由で、単独評価は0.7に下がります。

こうした理由から、全体評価では小浜・京都ルートのほうが高くなったようです。

国・JR・自治体の思惑が交錯…北陸新幹線は全線開業できるのか?

費用対効果の観点では、小浜・京都ルートの優位性が認められました。しかし、整備新幹線を着工するには、運行主体となるJRと、沿線自治体の同意も必要です。

このうちJR西日本は、小浜・京都ルートを支持。集客が見込める京都を外すルート案には否定的な見解です。また米原ルートの場合、乗り換えが必要だと利便性が損なわれ、想定した開業効果が発揮しづらくなります。東海道新幹線に乗り入れる場合も、運行管理システムなどの改修が求められ「その費用は誰が負担するのか」という新たな問題が発生するのです。

JRよりも、一筋縄ではいかないのが沿線自治体のほうです。

小浜・京都ルートに反対姿勢の京都府市は、トンネル建設により地下水脈への影響を懸念しています。これに対して与党整備委員会は、有識者による2つの委員会を設置。その調査結果が2026年3月に報告されました。調査結果には、トンネル構造物により「水位が最大1m低下する可能性がある」と指摘されています。

ただ、影響が及ぶのは新駅の半径350m圏内。その範囲内に地下水利用者は存在しないため、「影響は与えない」と結論付けています。また、トンネル本体の工事に「シールド工法」を採用すれば、水位・水質への影響は予測されないとされています。この結果を受けて国は京都府市に理解を求めますが、建設費の上振れもあり慎重な姿勢を崩していません。

北陸新幹線の敦賀延伸により乗り換えを余儀なくされている石川県は、「少しでも早くつながってほしい」と米原ルートを支持しています。石川県では、2024年7月の県議会で米原ルートの再考を求める決議案を可決。さらに、小松市や加賀市、能美市の議会でも可決されています。

一方で、福井県と滋賀県は小浜・京都ルートを支持。米原ルートには否定的です。このうち滋賀県の三日月知事は、「求めていないものを押し付けられるのは好ましくない」と明言。米原ルートになれば、滋賀県にも巨額の財政負担がのしかかります。新たなメリットもほとんどなく、財布だけを出せと言われても同意できないでしょう。

それにくわえ、整備新幹線が開業すると並行する在来線(JR北陸本線や湖西線)がJRから経営分離され、自治体に転換されるリスクがあります。これについて米原市の角田市長は「現行の並行在来線のしくみが変われば別だが、北陸本線や湖西線は地元の貴重な移動手段だ」と語り、地元負担の増加を懸念しています。

どのルートを選んでも、誰かがメリットを享受すれば、別の誰かがデメリットを被る構図です。与党整備委員会は今国会中のルート決定を目指していますが、強引に決定すれば西九州新幹線の佐賀県と同じ状況になる可能性があります。早期実現も大切ですが、財源負担の割合や並行在来線の維持スキームの見直しなども含めて、丁寧な合意形成が求められるでしょう。

北陸新幹線が全線開業するのは、はるか先になりそうです。

参考URL

北陸新幹線(敦賀・新大阪間)に関するご説明資料(鉄道・運輸機構)
https://www.jrtt.go.jp/project/turuhannrennrakukaigi08.pdf

京都府内 三次元水循環解析と河川水・地下水の成分分析に関する委員会報告書(鉄道・運輸機構)
https://www.jrtt.go.jp/project/houkokusyogaiyou.pdf

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