JR播但線は、兵庫県の姫路と和田山を結ぶJR西日本のローカル線です。姫路近郊は利用者が多く電化されていますが、寺前~和田山は輸送密度が1,000人/日前後と少なく非電化のまま。利用者数は減少の一途をたどり続けています。
この状況に、兵庫県は「JRローカル線維持・利用促進検討協議会」を設置し、JR西日本と協力してさまざまな取り組みを進めています。沿線自治体などの取り組みを紹介するとともに、播但線の将来を考察します。
JR播但線の線区データ
| 協議対象の区間 | 播但線 寺前~和田山(36.1km) |
| 輸送密度(1987年→2024年) | 3,388→1,083 |
| 増減率 | -68% |
| 赤字額 | 5億4,000万円 |
| 営業係数 | 299 |
※赤字額と営業係数は、2022年から2024年までの平均値を使用しています。
協議会参加団体
朝来市、神河町、兵庫県、JR西日本ほか

兵庫県が播但線などの対策協議会を設置
JR西日本は2022年4月11日に、「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」というニュースリリースを発表します。このなかで、輸送密度2,000人/日未満の線区の収支を公表。播但線の寺前~和田山も含まれていました。
またJR西日本は、各線区の沿線自治体と「上下分離を含めた地域交通の確保に関する議論や検討を幅広くおこないたい」という考えも、プレスリリースで伝えています。
これを受けて兵庫県は、播但線をはじめ利用者の少ない線区の沿線自治体などに呼びかけ「JRローカル線維持・利用促進検討協議会」を設置。対象線区の関係自治体や公共交通事業者、有識者などと一緒に、対策を考えていくことになりました。なお、兵庫県の対象線区は播但線のほか、加古川線、山陰本線、姫新線の4路線6線区です。
第1回協議会は同年6月24日に開催されます。冒頭でJR西日本は、対象線区の現状を説明。利用者が少なく「鉄道としての特性が発揮できていない」と伝えたうえで、地域公共交通の現実に対して「未来志向で建設的に議論したい」と宣誓します。
これに対して播但線が走る朝来市は、JR西日本への協力姿勢を示したうえで「播但線は地域の生命線」と強調。地域創生を推進するうえでも「広域ネットワークとしてつながっていることは必要不可欠」と、寺前~和田山のみを区切って廃止議論をしないように牽制します。
協議会では今後の進め方として、路線ごとにワーキングチームを設置し、各地域の事情を踏まえた利用促進策を検討することを確認。播但線でも「JR播但線ワーキングチーム」を設置し、本格的な検討を始めることになりました。
利用促進ばかりの報告にJR西日本が「不信感」
ワーキングチームによる検討結果は、2023年2月1日に開かれた第3回協議会で報告されます。
播但線のワーキングチームは、「通勤・通学者への定期券購入補助」「ウォーキングツアーなどのイベント実施」「コミュニティバスのダイヤ見直し」といった、地域住民の利便性向上につながる利用促進策を提示。また、駅周辺の賑わい創出として、「イベントなどを定期的に開催して沿線地域の魅力を高める」といった取り組みも提案します。
さらに、各種取り組みによる効果として、5年後の2027年度には「輸送密度2,000人/日を目指す」という目標値を設定しました。輸送密度2,000人/日未満の線区は「鉄道としての特性が発揮できていない」とJR西日本は伝えているわけですから、これを目標に努力すると提言したわけです。
■播但線の目標値
| 寺前 | 長谷 | 生野 | 新井 | 青倉 | 竹田 | 和田山 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 目標値 | 760 | 100 | 590 | 270 | 100 | 230 | 1,040 |
| 実績 | 372 | 17 | 247 | 120 | 66 | 152 | 639 |
参考:兵庫県「JRローカル線の利用促進の取組参考資料」をもとに筆者作成
JR西日本は、目標値を設定した播但線のワーキングチームに対して一定の評価をしています。一方で「今回提示された取り組みで、どれほど利用者が増えるとお考えであろうか」と、播但線をはじめ全対象線区の自治体に語りかけます。
JR西日本も、これまでさまざまな施策で利用促進に努めてきました。しかし、少子化・過疎化・モータリゼーションの進展などの影響を受け、利用者数は減少の一途をたどり続けています。播但線の寺前~和田山に関しては、JR発足後35年で、利用者数は3分の1にまで減りました。コロナ禍前(2019年度)の輸送密度は1,222人/日。これを今後5年で倍近くに増やすのは、現実的とはいえません。
利用促進だけではローカル線を存続できず、JR西日本は「地域公共交通をどうやって維持するのか」という鉄道のあり方にまで踏み込んだ議論を期待していたのです。しかし、各線区から上がってきた報告は、利用促進の話ばかり。「鉄道ありき」の自治体の姿勢に不信感を抱きます。
これに対して、沿線自治体の朝来市は「この協議会は、利用促進の取り組みを議論することで始まったと認識している」と、JR西日本が求める鉄道のあり方の協議ではないと反論。そのうえで、市の職員が播但線での通勤にシフトしたことを伝え「しっかりと利用促進に努めていく」と意気込みます。
「利用促進を検討したい」沿線自治体と、「利用状況から鉄道が適しているか考えほしい」と訴えるJR西日本。協議の方向性の違いから議論がかみ合わなくなった両者に対して、兵庫県は「一緒になって鉄道利用者を増やし、地域を活性化していきたいという思いで方向性は同じ」と牽制し合う両者をなだめ、事態をおさめます。
播但線の主な取り組み
何はともあれ、ワーキングチームで検討した利用促進策は、2023年度から実行に移されることになりました。ここで、播但線の沿線自治体が取り組んだ内容を紹介します。
運賃補助制度
通勤通学定期客をはじめ播但線の利用者に対して、運賃の一部を助成しています。団体だけでなく個人での利用や、特急はまかぜも利用できることから、申請者は増加傾向に。2025年度は、朝来市で668人・17団体、神河町では2,874件の申請があったようです。なお朝来市では、市職員にも通勤や出張で鉄道をできるだけ利用してもらっているようです。
パークアンドライド
朝来市では、特急はまかぜの利用者を対象にパークアンドライドサービスを提供。特急停車駅の和田山駅・生野駅から利用する場合、駐車場代が無料になります。こちらも増加傾向にあるようで、2025年度は451人が利用しています。
駅周辺の整備
和田山駅のロータリー整備や、梁瀬駅の駐車場整備など、駅を使いやすくするための事業です。これらの施策に朝来市では、1,300万円を投じています(2025年度)。
観光地と結ぶ観光バスの運行
駅と観光地を結ぶ観光バス「たじまわる」を運行。2次交通を確保することで播但線の利用者増加を図りました。観光施設の入場料が無料になる1日乗車券(バスのみ)も発売。2023年度には2,412人が利用したそうです。
その他の取り組み
このほか、紅葉ウォーキングなど播但線を活用したイベント実施や日帰りツアーの主宰、デジタルスタンプラリーの開催、レンタサイクル、利用促進リーフレットの作成など、年間で約30事業の利用促進活動に取り組んでいます。
播但線の寺前~和田山は存続できるか?
2023年度から始まった播但線の利用促進ですが、その効果を検証するには難しい状況です。というのも、取り組みを始めたのはコロナ禍明けの2023年度。利用者の回復と重なるため、利用促進による増加かどうかが判別できない部分もあります。
もっとも、コロナ禍前の2019年度と比べると減少しています。2027年度に「輸送密度2,000人/日を目指す」という目標達成も、このままでは難しいでしょう。
■播但線(寺前~和田山)の輸送密度の推移

播但線の寺前~和田山は、これからどうなるでしょうか。
まず、すぐさま廃止・バス転換になることはないと考えられます。同線区の赤字額は5億円を超えるものの、輸送密度は1,000人/日を超えます。神崎高校や和田山高校などに通う通学定期客が約400人もいる線区ですから、バスでの代替輸送は難しいでしょう。また、大阪と鳥取などを結ぶ特急走行区間でもありますから、JR西日本としてもネットワークを維持するうえで存続させたい線区だと考えられます。
とはいえ、少子化により高校生の数は減っていますから、利用者の減少は避けられません。JR西日本が「単独で維持困難」とする時代が来ることも、想定しておく必要があります。
播但線には車齢の古い列車が多く存在します。いずれ更新が必要になりますが、その際に新型車両の導入費の一部を沿線自治体に求められることも考えられるでしょう。利用促進の取り組みは今後も続きますが、沿線地域の人口減少も見込まれます。手遅れになる前に、JR西日本に対する支援も検討してほしいところです。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。


参考URL
ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf
令和4年度JRローカル線維持・利用促進検討協議会
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/jrlocal.html
JRローカル線維持・利用促進協議会
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/jrlokalr5.html
これまでの利用促進の取組(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/documents/09_r4_dai1kai_jr_siryou5.pdf
JRローカル線の利用促進の取組(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/documents/04shiryou1.pdf
JRローカル線の利用促進の取組 参考資料(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/documents/05shiryou2.pdf
令和7年度の取組結果一覧(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/documents/jrsannkousiryou1.pdf