【2025年9月1日】山形鉄道は「地域おこし協力隊員」を活用し、運転士候補者を2人採用しました。
山形鉄道では2024年度に、運転士など5人が退職。この影響で、2025年度より運行本数を8本減便しており、朝夕のラッシュ時間帯で混雑が増しています。
こうした状況に長井市では、ふるさと回帰・移住交流推進機構の「地域おこし協力隊員」を活用して運転士を募集。県外出身で公共交通関連企業に勤める2人を採用しました。ただし、2人は免許を持っておらず、免許を取得して運転業務に携わるのは約2年後としています。
なお山形鉄道では、この2人とは別に鉄道運転士の免許資格を持つ県外出身の1人も採用。2025年9月から勤務していますが、運転士不足は続いており通常ダイヤには戻せないとしています。
【解説】鉄道業界も人手不足…相次ぐローカル線の減便措置
公共交通機関で人手不足といえば、バスやタクシーが注目を集めがちです。しかし、鉄道業界も運転士をはじめ人手不足が深刻化しています。山形鉄道と同じく、人手不足が原因で減便ダイヤを実施する鉄道事業者は増加傾向にあります。
筆者調べで「人手不足」を理由に減便を実施している事業者は、以下の通りです(2025年9月13日現在)。表に記載がない事業者でも、減便を余儀なくされたところもあるでしょう。
■人手不足で減便を実施した主な事業者(2025年9月13日現在)
事業者 | ダイヤ改正 | 減便本数 |
---|---|---|
津軽鉄道 | 2025年6月1日 | 5本 |
山形鉄道 | 2025年4月1日 | 8本 |
岳南電車 | 2025年3月15日 | 平日8本、休日4本 |
福井鉄道 | 2023年10月14日 | 日中の急行など2割減(2025年7月12日に一部復活) |
若桜鉄道 | 2025年3月15日 | 一部線区で減便 |
JR四国 | 2024年9月29日 | 予讃線や土讃線など。2025年3月15日にはさらに23本を減便 |
とさでん交通 | 2024年8月1日 | 平日で52本 |
熊本電鉄 | 2025年2月3日 | 29~51本(曜日により異なる) |
肥薩おれんじ鉄道 | 2025年2月1日 | 平日5本、土休日2本(2025年8月よりさらに平日18本、土日祝日15本を運休) |
国土交通省は2025年2月に、全国の鉄道事業者に対して運転士の過不足状況に関するアンケート調査を実施しています。その結果によると、現行ダイヤに必要な運転士が不足していると答えた事業者は、地方鉄道が140社局のうち68社局、JRや大手私鉄などでも32社局のうち11社局もあったようです。

運転士確保で山形鉄道が活用した「地域おこし協力隊」とは
日本全体の人口が減少するなかで人材確保は、公共交通機関に限らず、どの業界も難しくなっています。
ローカル線の鉄道事業者でも、有能な人材を確保するために、さまざまな取り組みをおこなっています。たとえば、地域の高校・大学などに訪問して会社説明会を開いたり、職場見学や就業体験を実施したり、ベースアップや休日数を増やすなど待遇を改善したりと、あの手この手で試行錯誤しているのです。
ただ、過疎化の進む地方では地域内で人材を探すのが難しいところもあるでしょう。山形鉄道も、そのひとつでした。そこで山形鉄道は、沿線自治体の長井市などに相談。「地域おこし協力隊」という制度を活用した運転士確保を決めます。
地域おこし協力隊とは、地方への移住を希望する「協力隊員」が自治体の委嘱を受けて、さまざまな地域課題を解決するために活動する制度で、2009年に総務省が始めました。協力隊員の活動内容は多岐にわたり、農林水産業への従事や特産物を活かした商品開発、住民の生活支援といった「村おこし」に携わります。
協力隊員の任務は最長3年。任期終了後も定住する隊員は約7割もいるそうで、その後も地域で活躍する人が多いようです。
長井市と山形鉄道は、運転士になってくれる協力隊員の募集を2025年6月に開始。免許資格を持たない人を含め、幅広く募ります。そして2025年8月末までに、2人の候補者を内定。いずれも県外在住で免許資格を持たない人でした。なお2人の「着任」は2025年10月1日になると、長井市は伝えています。
運転士不足の解消に国も動き始めるが…
人手不足により減便する鉄道事業者が増えるなかで、国も本格的に動き始めます。
国土交通省は2024年2月2日に「地域鉄道における運転士確保に向けた緊急連絡会議」を開催。事業者や関係団体を集めて、人材確保の創意工夫や効果的な対策などを意見交換することになりました。この会議は2025年3月3日にも開かれ、有効な手法は全国の鉄道事業者に周知されているそうです。
この会議のほかにも国土交通省では、「運転士受験資格の年齢引き下げ(18歳以上に引き下げ)」「外国人材や退職自衛官の活用」などで、鉄道の運転士不足を解消しようとしています。ちなみに受験資格の引き下げについて、2024年度に免許を取得した人(国の動力車操縦者運転免許の合格者)のうち、10代は1名だったそうです。
そもそも、なり手が少ない状況で人手不足を解決するのは、非常に困難でしょう。となれば、現状のサービスの見直しも必要になってきます。近年は都市部でも、ワンマン化や無人駅化が進んでいます。利用者の減少に歯止めのかからないローカル線では、さらに減便されるかもしれません。
人材不足は運転士よりも保線員のほうが深刻です。それも踏まえて、「路線を維持するために不便になることを受け入れるのか」、それとも「利便性の高い交通モードへのシフトを検討するのか」。日本全体の人口減少が進むなかで、ローカル線の維持は、ますます厳しい時代になっていくのです。
参考URL
地域おこし協力隊とは(公益社団法人ふるさと回帰・移住交流推進機構)
https://www.iju-join.jp/chiikiokoshi/about.html
地域鉄道における運転士確保に向けた緊急連絡会議について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk7_000048.html