【のと鉄道】JR西が線路を保有する理由 – 災害復旧で見せた自治体連携

のと鉄道の和倉温泉駅 三セク・公営

のと鉄道は、石川県の能登半島を縦断する第三セクター鉄道です。かつては輪島や蛸島まで線路がつながっていましたが、利用者の減少などにより廃止に。現在は、七尾~穴水のみ運行しています。

のと鉄道の鉄道施設は、JR西日本が保有しています。日本では珍しい「民民の上下分離方式」が採用されていますが、なぜこのような形態になったのでしょうか。その理由を説明するとともに、石川県や沿線自治体による支援についても解説します。

のと鉄道の線区データ

協議対象の区間七尾線 七尾~穴水(33.1km)
輸送密度(1987年→2023年)2,197→604
増減率-73%
赤字額1億245万円
※輸送密度および増減率は、1987年と2023年を比較しています。
※赤字額は、2024年の経常損益を使用しています。

協議会参加団体

七尾市、輪島市、珠洲市、穴水町、能登町、石川県、のと鉄道、JR西日本ほか

のと鉄道と沿線自治体

のと鉄道の鉄道施設をJR西日本が保有する理由

のと鉄道は、特定地方交通線に指定された国鉄能登線を継承し、1988年3月に開業しました。この能登線は、穴水から能登半島の先端にある蛸島まで走っていた路線です。2005年に廃止され、現在はありません。

現存する七尾~穴水は、1991年まではJR西日本の七尾線の一部で、線路は輪島までつながっていました。国鉄七尾線は特定地方交通線に指定されなかったため、JR西日本が継承したのです。

開業当時ののと鉄道の路線図
▲開業当時の路線図。のと鉄道能登線(赤)は穴水~蛸島を、JR七尾線(灰色)は津幡~輪島を結んでいた。

では、七尾線の一部線区がのと鉄道に移管されたのは、なぜでしょうか。話は、JRが発足した1980年代後半にさかのぼります。

この時代は、バブル景気の真っただ中。全国各地でリゾートブームが巻き起こっていた時代です。そこで沿線自治体は「七尾線を和倉温泉まで電化してほしい」という要望を、JR西日本に申し入れます。大阪や京都からの特急列車を和倉温泉まで乗り入れさせることで、観光誘客を図るのが狙いです。

これに対してJR西日本は、条件付きで了承します。その条件とは、「和倉温泉~輪島を、のと鉄道に移管させること」でした。この線区は利用者が少なく、今後の路線維持が懸念されたのです。

ただ、七尾線は特定地方交通線ではありませんし、当時の保有者はJR西日本です。国鉄のように第三セクターに移管しても、国の転換交付金は得られません。むしろ、JR西日本から資産を譲り受けることになるため、沿線自治体は莫大な譲渡資金を負担しなければならなかったのです。

そこで、JR西日本と沿線自治体が協議。その結果、「線路などの施設はJR西日本がそのまま保有し、のと鉄道は線路使用料を払いながら運行するのが合理的」として、上下分離方式での運行に合意します。

こうして1991年9月、JR七尾線は和倉温泉まで電化されるとともに、七尾~輪島の運行はのと鉄道が担うことになりました。なお、七尾~和倉温泉の一駅間は、両社の共用区間となります。

その後、沿線の道路整備や過疎化・少子化などの理由で、穴水以北の線区は利用者が激減。2001年には穴水~輪島が廃止に。さらに2005年には、もともとのと鉄道の線区であった能登線(穴水~蛸島)も廃止になります。

このような経緯から現存する七尾~穴水は、のと鉄道が第二種鉄道事業者、JR西日本が第三種鉄道事業者(七尾~和倉温泉は第一種鉄道事業者)として運営されているのです。

万年赤字ののと鉄道を襲った能登半島地震

上下分離方式を採用しているとはいえ、のと鉄道の経営は赤字です。赤字額は、年間3億円前後。石川県や沿線自治体が毎年補てんしています。

赤字の一因に「JR西日本に払う線路使用料があるから」といわれることもありますが、実際の線路使用料は年間4,000万円程度。線路使用料がなくても、赤字経営です。ちなみに、のと鉄道の線路使用料は、JR西日本の他のローカル線の管理費と比べて低額に抑えているといわれます。

■のと鉄道の営業損益(赤字額)と線路使用料

のと鉄道の赤字額と線路使用料

こうしたなかで、2024年1月1日に能登半島地震が発生。のと鉄道も大きな被害を受け、長期不通になります。

被害状況を調査するために、のと鉄道は鉄道・運輸機構に「鉄道災害調査隊」の派遣を要請。同年1月9~10日にかけて、調査がおこなわれます。その結果、線路のゆがみや切断、土砂流入、盛土沈下、トンネルのひび割れ、駅舎損壊など約50カ所で被害を確認。復旧費は、約9億円とされました。

地震による被害は、鉄道施設に集中しています。つまり、施設の保有者であるJR西日本にも復旧費の負担が生じます。そもそも、のと鉄道には工事部門がなく、復旧にはJR西日本の協力が欠かせません。そのJR西日本が「復旧費を出せない」といえば、のと鉄道が廃止される可能性もあったのです。

政府が異例の迅速対応…のと鉄道の復旧・存続に向け協議

地震発生から約3週間後の2024年1月23日、国土交通省の斉藤大臣(当時)は、のと鉄道の復旧について「石川県やJR西日本などと復旧計画の策定に向けて協議を始めた」ことを明らかにします。わずか3週間で、国を交えた協議が始まるのは、異例中の異例です。斉藤大臣は、鉄道災害調査隊による調査結果を受けて、のと鉄道の全線復旧に向けて支援する考えを示します。

国土交通省が迅速に動いた背景には、JR西日本が復旧への協力を申し出たこともあるようです。上述の鉄道災害調査隊の活用をのと鉄道に提案したのは、JR西日本でした。1月中旬には、石川県を交えて復旧に向けた協議を開始。その後、費用の負担割合を棚上げにして工事を進めたのです。

こうして、被害が比較的軽微だった七尾~能登中島は、同年2月15日に運行を再開。残る能登中島~穴水も4月6日に復旧し、わずか3カ月で全線再開します。

なお、復旧費に関して国は、鉄道軌道整備法に基づく災害復旧事業費補助を認定。JR西日本の七尾線区間を含めて、約7億3,300万円を支援しています。

再構築事業の活用でのと鉄道に74億円を支援

JR西日本や国、石川県などの支援もあって全線で運行再開したのと鉄道。しかし、地震の影響で観光客が激減し、赤字額の増加が懸念されました。また、沿線地域ではタクシー事業者の休廃業が増加。特急バスや路線バスの迂回・運行区間の短縮・減便などもあり、能登半島の公共交通は壊滅的な状況が続きます。

この状況を打破するため、石川県は沿線自治体、のと鉄道、JR西日本、バス・タクシー事業者などに呼びかけ「石川県能登地域公共交通協議会」を設置。本格的な復興と、将来の地域の姿を見据えた持続可能な地域公共交通の再構築をめざすことになったのです。

2024年12月24日に開かれた第2回協議会。ここで、能登半島の持続可能な公共交通ネットワークを確立するために、4つの施策が提言されます。そのひとつに、JR七尾線・のと鉄道の「持続性の確保」がありました。のと鉄道に対しては、沿線自治体による従来の財政支援にくわえ「安定運行の確保」や「持続性を高める」ための方策にも支援することで一致。これらの事業費に、国の鉄道事業再構築事業の活用を提言します。

石川県は、北陸鉄道がみなし上下分離へ移行する際にも、鉄道事業再構築事業を活用しています。これをのと鉄道でも活用しようと、自治体が中心となって「鉄道事業再構築事業実施計画」を策定することが決定。第3回協議会(2025年3月25日)で、具体的な施策と支援額が提示されました。主な施策は、以下の通りです。

  • 新型車両の導入(電気式気動車に更新)
  • 軌道の改良(レールや枕木の更新)
  • ホーム改良による段差解消
  • デジタル乗車券の導入
  • 運行情報提供装置の設置
  • 駅や車両の案内表示の多言語
  • 観光列車や企画列車の運行(のと里山里海号、語り部列車など)
  • 地元利用者への運賃割引

その後、計画案は国土交通省に提出。2025年6月24日に認定されます。計画期間は、2025年7月1日から2035年3月31日までの約10年間。総事業費は73億3,900万円で、このうちおよそ半分は国の交付金で賄います。

なお、JR西日本に負担する線路使用料は今後、石川県が全額負担することも決定。くわえて、鉄道施設の維持管理費を七尾市と穴水町が負担します。つまり、のと鉄道への支援を通じて、線路保有者であるJR西日本への支援も強化するかたちになったのです。

巨額の支援を受けるわけですから、のと鉄道には「一定の効果」を上げることが求められます。その効果について、のと鉄道の再構築実施計画では「計画最終年度(2034年度)の利用者数と当期純利益」で目標値を設定しています。利用者数の目標は、46万5,000人。2023年度の利用者数(46万700人)とほぼ同じです。また当期純利益については、収支均衡をめざします。2034年度の目標値は、約76万円の赤字になる見込みです。この収支には、沿線自治体の支援額も含みます。

沿線地域の人口減少が急速に進むなかで目標を達成するには、相当な覚悟が必要です。大規模災害を乗り越えても、少子化・過疎化による利用者減少という課題を抱える、のと鉄道。他の公共交通機関のサービス改善などにより「減少をどこまで抑えられるか」も、鉄路存続の重要なポイントになります。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中部】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中部地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

石川県能登地域公共交通協議会について(石川県)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/shink/tiikikoukyoukoutuu.html

石川県能登地域公共交通計画
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/shink/documents/nototiikikoukyoukoutuukeikaku.pdf

鉄道・運輸機構だより 2024 Summer(鉄道・運輸機構)
https://www.jrtt.go.jp/corporate/public_relations/magazine/82_region.pdf

鉄道安全報告書 令和6年度版(のと鉄道)
https://nototetsu.jp/wp-content/uploads/2025/09/anzenhoukoku25.pdf

令和6年度国土交通省関係予備費使用の概要(9月10日閣議決定)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001762514.pdf

のと鉄道七尾線の鉄道事業再構築実施計画の認定について(国土交通省)
https://wwwtb.mlit.go.jp/hokushin/content/000352795.pdf

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