【2026年9月1日】愛媛県は、JR松山駅周辺の再開発事業にあわせて整備を進めてきた都市計画道路(市道)が、2026年9月14日に開通すると発表しました。
開通する道路は、松山駅の西側に伸びる「松山駅西口南江戸線(幅約34m、延長約490m)」です。片側2車線の道路で、中央部には路面電車(伊予鉄道松山市内線:市内電車)の延伸を見据えて、幅6.5mの軌道スペースが確保されています。しかし、電車の整備主体である松山市は「実現性の検討段階」と説明しており、軌道敷設の見通しは立っていません。
道路整備の主体である愛媛県の中村知事は、9月1日の定例会見で「県が担うべき再開発事業はすべて完了した」と強調。松山市に対して、市内電車の駅前乗り入れや西側への延伸などの対応を加速するよう強く求めています。
【解説】松山駅西側の伊予鉄道延伸構想 – 愛媛県と松山市の思惑は?
JR松山駅の周辺では、予讃線を高架化する連続立体交差事業が進んでおり、線路で分断されていた駅周辺地域の一体的なまちづくりも進めています。その一環として、2026年9月14日に開通するのが都市計画道路「松山駅西口南江戸線」です。
この道路はJR松山駅の西側に延びる「市道」ですが、松山市が厳しい財政状況を理由に愛媛県へ整備を要望。県が主体となって進め、完工後は市に引き渡されます。
愛媛県は、伊予鉄道の市内電車(路面電車)の延伸を見越して、道路の中央分離帯に軌道スペースを整備。松山駅の東側を走る市内電車を、高架化した松山駅の下をくぐり抜けて西側に延伸させる計画です。

出典:愛媛県「都市計画道路 松山駅西口南江戸線の開通について」
道路を完成させ、あとは線路や架線などを敷けば電車が走るという段階まで愛媛県は「お膳立て」したのですが、電車の整備計画を主導する松山市と運行主の伊予鉄道との協議は、事実上凍結した状態です。電車が走る目途は立っていません。道路だけが先行し、電車の延伸計画が足踏みしているのは、なぜでしょうか。これまでの経緯を振り返ります。
伊予鉄道市内電車の延伸構想の経緯
松山市が伊予鉄道市内電車の延伸構想を打ち出したのは、2001年のこと。当初は予讃線の高架化とあわせて、駅前広場に市内電車を引き込む計画でした。その後、高架下をくぐって駅西側へ延伸する案が浮上。2003年には、JR松山駅前電停から西に約700m延伸する方針を示します。
この延伸構想を推進したのが、当時松山市長を務めていた中村氏(現・愛媛県知事)でした。中村市長(当時)は、駅東西の交通結節機能を強化し、まちの一体感を醸成するために市内電車の延伸を推し進めます。
2005年には、市が設置した検討委員会で延伸事業費を提示。駅前広場に市内電車を引き込む工事費を含め、「事業費は約14億円」「費用便益比は1.0をわずかに上回る」と試算されます。この結果を受けて松山市は2008年に、市道「松山駅西口南江戸線」を都市計画に決定。道路の中央部には市内電車の軌道用地を確保することも決まります。
こうして都市計画道路の事業がスタートするものの、松山市の財政はこのころから悪化していきます。既存道路や公共施設の改修などが増え続けるなかで、松山市は愛媛県に松山駅西口南江戸線の整備を要望。電車は市が整備することを約束し、道路整備は県主体で進めることになったのです。
なお愛媛県はその後、市内電車をさらに西へ、松山空港まで延伸する計画を立案します。これを主導するのは、愛媛県知事に就任した中村知事です。2015年には県が検討会を設置して空港延伸計画が議論されます。しかし、費用便益比が1.0を下回り「採算が取れない」と判断。計画は見送られました。
松山市の対応の遅さに不信感を抱く愛媛県
市内電車の延伸事業は松山市が主体で進めることになっていますが、2026年現在で進行中なのはJR松山駅前の電停を駅に近づける移設工事のみです。
この工事も、当初は高架下まで軌道を引き込み、トランジットモール化する構想でした。しかし、歩行者の安全性を確保しづらいことや、折り返し運転が生じることなどを理由に伊予鉄道が難色を示し、引込線の敷設を断念。軌道と電停を西側に移設させ、松山駅に近づける計画に変更されます。
新しいJR松山駅前電停は、2028年度に完成する予定です。
これにより、駅西側の都市計画道路(松山駅西口南江戸線)への延伸は、新電停から分岐する計画に変更されます。ただ、具体的な事業は何も進んでいません。

出典:松山市地域公共交通計画
市に代わって道路を整備した愛媛県としては、「松山市は何をやっているんだ」と感じています。2025年には市に対して、延伸を含めた駅周辺整備のスケジュールの公表を要請。さらに道路開通日を公表した2026年9月1日には、延伸構想の発案者でもある中村知事が事業整備スピードを加速させるよう、松山市に強い主導権の発揮を求めています。
これに対して松山市は「まずはJR松山駅前電停の移設事業を優先する」という説明にとどめています。
松山市が延伸計画を進められない理由は?
見方によっては、松山市が市内電車の延伸計画に「後ろ向きな姿勢」のように感じます。その理由の一つとして、「松山市の財政状況がよくない」ことが挙げられるでしょう。松山市の実質単年度収支は、2014年度から12年連続で赤字です。
20年前に約14億円と試算された事業費は、物価高騰の影響を受けて大幅に上振れすることも懸念されます。単に線路を延ばすだけでなく、沿線地域のまちづくりとどのように連動させるかも、検討しなければなりません。公共事業の計画見直しも迫られるなかで、市内電車の延伸まで対応できないことが推測されます。
また、「延伸による効果」にも疑問が残ります。700m延伸した先にあるのは、松山環状線(フライブルク通り)という道路です。公共交通の結節点はありません。沿線地域の利便性や中心市街地の活性化には貢献するかもしれませんが、上振れした事業費を回収できるだけの効果が見込めるかは不透明です。もっとも、松山空港まで延伸すれば効果が上がるかもしれません。しかし、建設費はさらに膨らむため、実現性は薄いでしょう。
その一方で松山市は、高浜線(郊外線)を松山観光港まで延伸する計画を検討しており、2026年度から伊予鉄道と協議を進めています。市としては、「何もないところに延伸するより松山観光港のアクセス向上をしたほうが得策」と考えているのかもしれません。愛媛県との連携にも、疑問が残ります。
伊予鉄道からみれば、市の方向性や費用負担の枠組みなどが定まらない限り、何もできない状況でしょう。単独で延伸に踏み切れるほどの体力はありませんから、「どうするか早く決めてほしい」というスタンスです。
延伸区間のスペースを確保した松山駅西口南江戸線は、9月14日に開通します。このスペースが「松山の新たな交通軸として機能する」のか、それとも「単なる広い中央分離帯で終わる」のか。どちらにせよ、松山市の決断が待たれます。
参考URL
都市計画道路松山駅西口南江戸線(愛媛県)
https://www.pref.ehime.jp/page/1724.html
幹線道路・路面電車計画(松山市)
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/machizukuri/matsuyamaeki/machidukuri/densya.html
財政事情の公表(松山市)
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/zaisei/zaiseijijyou.html
わがまちメール 高浜線延伸が今必要なのか疑問(松山市)
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/wagamachi/detail/3673.html
伊予鉄道松山市内線延伸(タビリス)
https://tabiris.com/railproject/archives/iyotetsu/