【2026年10月29日】国土交通省は、特急や貨物列車が走行する基幹的な鉄道路線の「あり方」を議論する、新たな有識者検討委員会を設置しました。
委員会の初会合では、国土交通省の岡野鉄道局長が「基幹的な鉄道ネットワークでも、利用減少や経営環境の変化などにより持続可能性が課題となっている」と指摘。幹線鉄道を取り巻くさまざまな環境の変化を踏まえ、国として維持すべき基幹的ネットワークの将来像や費用負担のあり方などを有識者と議論するとしています。
委員会は、国鉄分割民営化から40年を迎える2027年の夏までに、方向性をとりまとめる予定です。
【解説】特急・貨物ネットワークは誰が守る?委員会設置の背景と論点
国土交通省ではこれまで、いわゆる「ローカル線」と呼ばれる鉄道を対象とした有識者検討会を何度か開いてきました。ここでいうローカル線とは、利用者が少なく特急列車や貨物列車が走らない路線や線区のことです。JR旅客各社の「地方交通線」とは必ずしも一致しないので留意が必要でしょう。
ローカル線の役割は、地域輸送が中心です。そのため国は、利用者の少ないローカル線のあり方について、鉄道事業者と沿線自治体が協議するように促してきました。協議の結果、鉄道の高機能化や利用促進などの事業が必要となれば、法令や制度にもとづき国も事業費の一部を支援してきたのです。
さて、今回国土交通省が新たに設置したのは「持続可能な鉄道ネットワークの在り方に関する検討小委員会」という組織です。対象となるのは、特急・貨物列車が走る基幹的ネットワークとされる路線や線区。これまで、あまり議論してこなかった幹線鉄道になります。
国が守るべき幹線とは?委員会設置の背景
特急列車や貨物列車が走る路線について、国はJRなどの鉄道事業者が維持するよう「強く希望」してきました。そのため、国が行司役となる存廃協議(再構築協議会)では「協議の対象としない」としています。平たく言えば「特急・貨物列車の走行路線は、国も守る」という方針だったのです。
■特急・貨物列車の走行路線

出典:第1回持続可能な鉄道ネットワークの在り方に関する検討小委員会 事務局説明資料
しかし、これらの路線や線区でも維持できない状況が顕在化します。典型的な例が、JR北海道が単独では維持困難とする線区(いわゆる「黄線区」)です。
宗谷本線や石北本線などの黄線区でも、運行本数は少ないものの、特急や貨物列車が走っています。それなのに国は「JRと自治体で話し合って決めてね」と、ガヤの立場から存廃議論を見守ってきたのです。沿線自治体やJR北海道から見れば「国も主体的に協議に参加しろよ」と不満を抱くでしょう。
JRだけでなく、整備新幹線の並行在来線を継承した第三セクター鉄道に対しても、貨物列車の走行を維持できるように国は求めています。国も、貨物調整金という線路使用料の制度を作り支援していますが、「貨物調整金がもらえても存続が難しい」と嘆く三セク事業者は増えています。
さらに、自治体や有識者からも基幹的ネットワークに対する国の考えを示すよう要望されています。
2025年4月に全国知事会が提出した「全国的な鉄道ネットワークのあり方に関する特別要望」では、「将来の国のあり方を見据えた鉄道ネットワークの位置づけを明らかにすること」「JRの内部補助による路線の維持が難しい場合、その負担を地方に転嫁するのではなく、路線の維持に係る国の責任のあり方を示すこと」などの要望を国に求めています。
また、2026年4月に取りまとめられた「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会(第2期)」の報告書では、国が今後取り組むべき方向性として、有識者が以下の内容を提言しています。
国において基幹的ネットワークに関する検討を深めるとともに、その中で「維持すべき基幹的ネットワーク」とされたものについては、単に路線を維持するのみでなく、沿線住民や観光客による利用が促進されるよう、維持すべきサービス水準等についても併せて検討する必要がある。その際、当該「維持すべき基幹的ネットワーク」を維持する場合の将来的なコストや、その負担の方法と分担なども併せて議論するべきと考えられる。
(中略)
広域的な地域間の移動に資する「維持すべき基幹的ネットワーク」を持続的に支えるに当たっては安定的な財源の確保が必要ではないか。
出典:鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会(第2期)「課題整理・今後取り組むべき方向性」
こうした自治体や有識者からの意見を受け、「維持すべき基幹的ネットワーク」に対する国としての考えを改めて検討する必要性が出てきたのです。
そこで国土交通省は、国として守るべき路線の定義や費用負担のあり方などを有識者と議論する小委員会を設置。国鉄分割民営化から40年になるのを前に、特急・貨物線の課題解決に向けて検討に着手したのです。
委員会で議論される3つの論点
新たな委員会の構成メンバーは、経済・経営・工学を専門とする大学教授や日本消費者協会理事など、8名の有識者です。オブザーバーには、JR旅客6社やJR貨物、全国知事会・市長会・町村会なども参加しています。
第1回委員会では、1987年の国鉄分割民営化当時の前提と、現在の社会経済情勢との決定的なギャップを振り返ることから議論はスタート。想定を超えた急激な人口減少やモータリゼーションの進展、JR各社間の経営体力格差の拡大、貨物調整金に依存した第三セクター鉄道の経営状況などの課題が、共有されます。
では、委員会では今後どのような議論がされるのでしょうか。国土交通省が開示した資料によると、以下3つの論点を中心に検討するとしています。
【論点①】国が維持すべき「基幹的ネットワーク」の再定義
飛行機やマイカーなど鉄道以外のモビリティの利便性が著しく向上した現代において、新幹線以外に「国が維持すべき鉄道ネットワークとは何か?」を改めて定義します。
具体的な路線名までは踏み込まないでしょうが、提言される内容から「国が守るべき路線」が推測できるでしょう。裏返すと「地域が維持すべきJRの路線はどこか?」も、明確になるかもしれません。
【論点②】基幹的ネットワークが確保すべき「機能・サービス水準」
基幹的ネットワークと位置づけられた路線で、「維持・確保すべき具体的なサービス水準や強靭性(防災機能・代替性など)とは何か?」も、検討されます。具体的には、特急列車の運行本数や貨物列車の代替ルートのあり方なども議論されるかもしれません。社会的な要請に応える鉄道のインフラ品質を、どのように担保するかが問われます。
【論点③】維持コストの負担スキームと財源のあり方
鉄道事業者の経営自主性を尊重しつつ、基幹的ネットワークを維持・更新していくためのコストを「誰がどのように負担していくか」という財源問題にも踏み込む模様です。利用者の運賃だけでは足りない部分を、国や都道府県、沿線自治体が、どのように支援していくかが明確になるでしょう。
ちなみに、国土交通省鉄道局の予算は、年間で約1,000億円(2026年度は1,063億円)。このうち約8割が整備新幹線に充てられ、在来線の予算は限られています。在来線に充てる予算を増やす「理由付け」も、しっかり検討してほしいところです。
◇
委員会では、2027年夏ごろに提言を取りまとめるとしています。提言の方向性によっては、存廃議論が進む赤字路線で使える国の支援が増え、存続の可能性が高まることも期待されるでしょう。
産業・物流・国民生活を支える基幹インフラとしての鉄道網を「国が責任を持って、どのように支えるか」を明確に制度設計してもらいたいところです。
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参考URL
持続可能な鉄道ネットワークの在り方に関する検討小委員会
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s304_network02.html
第1回持続可能な鉄道ネットワークの在り方に関する検討小委員会 事務局説明資料
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/002029228.pdf
鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会(第2期)課題整理・今後取り組むべき方向性
https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001995825.pdf