指宿枕崎線は、鹿児島中央と枕崎をつなぐJR九州のローカル線です。このうち鹿児島市近郊は利用者が比較的多いものの、指宿~枕崎は閑散線区。利用者の減少も続いており、2025年度の輸送密度は200人/日を割り込みました。
JR九州は、同線区の「鉄道のあり方」協議を沿線自治体に要望。自治体設置の検討会議で、存続・廃止を含めた議論を進めています。この会議の前身となる「線区活用に関する検討会」を含め、沿線自治体の取り組みや協議の進捗を紹介します。
JR指宿枕崎線の線区データ
| 協議対象の区間 | JR指宿枕崎線 指宿~枕崎(42.1km) |
| 輸送密度(1987年→2025年) | 942→190 |
| 増減率 | -80% |
| 赤字額(2024年) | 4億9,200万円 |
| 営業係数 | 1,797 |
※赤字額と営業係数は、2024年のデータを使用しています。
協議会参加団体
鹿児島市、指宿市、南九州市、枕崎市、JR九州ほか

指宿枕崎線の「線区活用に関する検討会」
指宿枕崎線の沿線自治体には、「指宿枕崎線輸送強化促進期成会」という組織があります。この組織では「運行本数を増やしてほしい」「観光列車を走らせてほしい」といった要望をJR九州に申し入れるのが主な活動で、利用促進に関する取り組みはほとんどしてきませんでした。
こうしたなかでJR九州は2019年に、沿線自治体に対して「線区活用に関する検討会」の開催を提案します。この検討会は、鉄道の利用実態を沿線自治体と共有したうえで、利用促進などをみんなで検討・実行するのが目的です。
指宿枕崎線のなかでも指宿~枕崎は利用者が少なく、年々減り続けています。JR九州もさまざまな利用促進に努めてきましたが、一企業の取り組みには限界があり、沿線自治体へ協力を呼び掛けたのです。
この提案に、沿線自治体は賛同。鹿児島県や九州運輸局を含めて、指宿枕崎線の利用促進の取り組みが始まります。
線区活用に関する検討会で決まった取り組みは、2022~2024年度まで3年間実施されます。具体的には「学生など団体利用者に対する運賃補助」「イベントの実施(いぶすきバルや謎解きイベントなど)」「小学生向けの職場体験イベント」といった取り組みです。
ただ、鉄道の利用者増加には結びつかず、もっとも多かった2023年度でも年間で約1,100人(1日あたり3人程度)の増加に留まっています。
JR九州が指宿枕崎線の「あり方」協議を申し入れ
検討会の取り組みは、上述の通り効果が限定的で厳しい結果でした。こうしたなかでJR九州は2023年11月30日に、「指宿枕崎線(指宿~枕崎)のあり方」について話し合う任意協議会の設置を申し入れます。
一見すると、JR九州は「検討会の取り組みに効果がなかった」ことを理由に、協議を申し入れたように感じます。ただ、JR九州は検討会の実績を評価しており「期間を設けず、より踏み込んだ話し合いを進めたい」と前向きな姿勢を示しました。
JR九州は、なぜ協議を申し入れたのか。その理由について、次のように語っています。
・何故,この地域なのかということについては,行政だけでなく,地域の方々もこの地域を何とかしていきたいとの思いが強い地域だと感じており,この地域であれば,後向きではなく,前向きな話ができるのではないかと思ったため。
・思いの大きなベクトルは皆さんと同じ。これを地域の中で大きな流れとして,いい方向に進んでいけたらと思う。
出典:第1回指宿枕崎線(指宿・枕崎間)の将来のあり方に関する検討会議 議事概要
検討会での取り組みに苦戦した、指宿枕崎線の沿線自治体。しかしJR九州は、自治体や沿線住民の姿勢に何らかのポテンシャルを感じたようです。
この申し入れを受け、沿線自治体は実務担当者レベルの勉強会を2024年1月18日から開始。協議で検討する内容を固めたうえで、「指宿枕崎線(指宿・枕崎間)の将来のあり方に関する検討会議」という協議組織の設置を決めます。
「指宿枕崎線の可能性を追求する」検討会議
第1回の検討会議は、2024年8月19日に開催。構成メンバーは、指宿市、南九州市、枕崎市、鹿児島県、JR九州、有識者(呉工業高等専門学校の教授)です。有識者は、芸備線再構築協議会にも参加する、環境都市工学の専門家です。
まずJR九州が、指宿~枕崎の現状を説明。沿線地域の少子化・過疎化やモータリゼーションの進展などで利用者の減少が続き、1987年と比べて「7割以上も減った」と報告します。
■指宿~枕崎の輸送密度の推移

参考:「第1回 指宿枕崎線(指宿・枕崎間)の将来のあり方に関する検討会議 検討会議資料等」をもとに筆者作成
続いて有識者が、沿線地域の人口減少に言及。学校の存続すら危ぶまれる過疎地域では、「地域の足を守る」という名目で鉄道の存廃議論をするのは厳しいという現実を伝えます。
指宿~枕崎の利用者数は、現状でもバスで十分運べる人数しかいません。地域の足を守るだけなら、バスでも十分役割を果たします。そのバスも、少子化・過疎化で利用者数はさらに減ることが明白ですから、このままではバスも維持できなくなると有識者は伝えたのです。
一方で有識者は、鉄道が地域経済に貢献するケースもあると主張。「鉄道を使って地域経済を活性化させながら、地域の足も確保するという観点での議論も必要ではないか」と、観光誘客などが与える経済波及効果を含めた議論の必要性を訴えます。
この意見に、すべての沿線自治体が賛同。JR九州も、上下分離方式など事業構造の議論も必要としながら「まずは鉄道の可能性を追求することに、異論は無い」と、協力姿勢を示します。
こうして検討会議では「鉄道を活用して住みたくなる地域をつくる」という目標を掲げ、指宿枕崎線の可能性を追求することで満場一致。沿線住民とのワークショップや実証実験の検討、経済波及効果の調査などの実施も決まります。
指宿枕崎線の検討会議で実行した主な取り組み
検討会議では、「指宿枕崎線の可能性を最大限追求する」ことを目的に、さまざまな実証実験が検討されます。これまで実施した主な取り組みを紹介しましょう。
貨客混載事業
山川駅・指宿駅から喜入駅までの定期列車で、地元商品を輸送する事業です。JR九州の収益改善だけでなく、地元事業者の販路拡大や輸送コスト削減にもつながります。2026年2月に実施した実証実験では、1回あたり17,496円の売上につながったそうです。
サイクルトレインの運行
指宿~枕崎で、車内に自転車を持ち込める「サイクルトレイン(臨時列車)」を運行。モデルコースの設定やツアーの企画・モニター募集も沿線自治体が対応しました。2026年の実証実験では54人が参加。一人あたり6,797円が観光消費に使われ、沿線地域の活性化に寄与したようです。
駅舎を使ったイベント実施
西頴娃駅では、「駅弁まつり」「立ち飲みイベント」などのイベントを実施。観光誘客などで「地域のにぎわい創出」につなげるのが狙いです。2026年3月に実施したイベントでは、320人が来場。出店者の売上は約35万円だったそうです。
指宿枕崎線が地域にもたらす便益は6.5億円以上
ほかにも検討会議では、鉄道を使って地域経済効果を高めるさまざまな施策を立案・実行していきます。
では、指宿枕崎線がもたらす効果(沿線地域への便益)は、どれくらいになるのでしょうか。その調査結果が、2026年5月12日に開かれた第6回検討会議で示されました。
調査は外部コンサルタント会社に委託。観光振興だけでなく、地域産業への貢献や医療・福祉・子育てへの影響など、多角的な視点で分析されています。その結果は、次の通りです。
■指宿枕崎線が有する社会・経済的価値の推計結果(単位:百万円)

出典:第6回指宿枕崎線(指宿・枕崎間)の将来のあり方に関する検討会議 会議資料
鉄道がもたらす地域への経済波及効果は、現状でも6億4,900万円。実証実験などの取り組み次第では、最大で13億4,500万円もの便益が期待されるという推測です。逆に、指宿~枕崎の鉄道を廃止にすれば、これだけの損失を沿線地域が被ることになります。
一方で、同線区のJR九州の赤字額は4億9,200万円(2024年度)。沿線地域が得ている便益は、「JR九州の負担によって成り立っている」という見方もできるのです。
JR九州は、できることは最大限協力するとしながらも「社会・経済的価値の定量化が図られ、その価値の受益者も明らかにされた」と、鉄道が「誰に便益をもたらしているのか」という視点を強調。一方で「指宿枕崎線を含めた、ローカル線の実情は非常に厳しい」と改めて訴えます。
鉄道が廃止されると、デメリットを被る人たちの声に世間の注目が集まります。しかし、存続することでデメリットを被る鉄道事業者の声は「赤字」という一言で片づけられ、あまり注目されません。指宿枕崎線の廃止を防ぐには、誰が何をすべきか。その核心に、検討会議の議論は迫りつつあります。
指宿枕崎線の関連記事
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

参考URL
交通・営業データ(JR九州)
https://www.jrkyushu.co.jp/company/info/data/senkubetsu.html
JR指宿枕崎線(指宿~枕崎)活用に関する検討会(指宿市)
https://www.city.ibusuki.lg.jp/main/info/page026283.html
広報南九州(2023年3月)
https://www.city.minamikyushu.lg.jp/material/files/group/6/2023minamikyushu03-vol184.pdf
鹿児島県鉄道整備促進協議会
https://www.kagoshima-tetsudo.com/
指宿枕崎線(指宿・枕崎間)の将来のあり方に関する検討会議
https://www.pref.kagoshima.jp/ac08/ibusukimakurazakikaigi.html