【2025年6月24日】国土交通省は、石川県などが策定したのと鉄道の「鉄道事業再構築実施計画」を認定しました。
鉄道事業再構築実施計画とは、沿線自治体が赤字ローカル線の利便性向上につながる施策を実施したり、上下分離などの事業構造の変更をおこなったりと、事業者の経営改善につなげる施策をまとめたものです。計画が認定されると、国の社会資本整備総合交付金などの活用が認められます。
石川県や沿線自治体は、のと鉄道の新型車両導入や鉄道施設更新などに必要な費用として、国の鉄道事業再構築事業の活用を検討。費用の一部を交付金で賄うことにより、自治体負担の軽減にもつなげたい考えです。のと鉄道に対する支援額は、今後10年間で73億3,900万円を見込んでいます。
国の認定を受け石川県の担当者は、計画にもとづき路線を維持しながら「利用促進の取り組みも進めたい」と伝えています。
【解説】全線復旧後も地震の影響が長引くのと鉄道
のと鉄道は、沿線地域の少子化や過疎化、モータリゼーションの進展などが原因で、利用者の減少に歯止めがかからない状況が続いていました。これに追い打ちをかけたのが、2024年1月1日に発生した能登半島地震です。のと鉄道の被害は比較的軽微だったものの、3カ月間の長期運休を余儀なくされます。
同年4月6日に全線で運行再開したのと鉄道ですが、観光客の減少などもあり利用者数は大幅に減少。6月末までの利用者数は、前年比-16.2%でした。
また、地震の影響で沿線地域ではタクシー事業者の休廃業が増えたり、特急バスや路線バスの迂回や運行区間の短縮・減便が生じたりと、能登半島の公共交通は壊滅的な状況が続きます。
この状況を打破するため、石川県は沿線自治体、のと鉄道、JR西日本、バス・タクシー事業者などに呼びかけ「石川県能登地域公共交通協議会」を設置。本格的な復興と将来の地域の姿を見据えて、持続可能な地域公共交通の再構築をめざすことになったのです。
のと鉄道の再構築実施計画を策定
2024年12月24日に開かれた第2回協議会。ここで、能登半島の持続可能な公共交通ネットワークを確立するために、4つの施策が提言されます。そのひとつが、JR七尾線とのと鉄道の「持続性の確保」です。
このうち、のと鉄道に関しては沿線自治体による従来の財政支援にくわえ、「安定運行の確保」や「持続性を高める」ための方策にも支援することで一致。総事業費は、10年間で約75億円になると示されています。
ただ、この費用を、沿線自治体だけで負担するのは難しいでしょう。そこで石川県は、国の鉄道事業再構築事業の活用を提言。この事業を活用すれば国の補助率がアップし、自治体負担が抑えられると説明します。
ちなみに石川県は、北陸鉄道がみなし上下分離へ移行する際にも鉄道事業再構築事業を活用しています。また近県の例では、2029年にあいの風とやま鉄道へ移管予定のJR城端線・氷見線でも、この事業を活用して多額の交付金を受けています。
これをのと鉄道でも活用するために、自治体が中心となって「鉄道事業再構築事業実施計画」を策定することが決定。第3回協議会(2025年3月25日)で、具体的な施策と支援額が提示されました。主な施策は、以下の通りです。
- 新型車両の導入(電気式気動車に更新)
- 軌道の改良(レールや枕木の更新)
- ホーム改良による段差解消
- デジタル乗車券の導入
- 運行情報提供装置の設置
- 駅や車両の案内表示の多言語
- 観光列車や企画列車の運行(のと里山里海号、語り部列車など)
- 地元利用者への運賃割引
…など
上記の1~3に関して、国の交付金を活用する想定です。
計画案はその後、国土交通省に提出。2025年6月24日に認定されました。これにより、総事業費(73億3,900万円)のおよそ半分は国の交付金で賄えます。
ところで、のと鉄道は線路などの鉄道施設をJR西日本が保有する「民民の上下分離方式」を採用しています。このため、のと鉄道はJR西日本に線路使用料を払って運行していますが、線路使用料は今後、石川県が全額負担することで決定。また、鉄道施設の維持管理費については七尾市と穴水町が負担します。
つまり、のと鉄道への支援を通じて沿線自治体は間接的に、JR西日本への支援も強化することになったのです。
※のと鉄道の線路をJR西日本が維持管理することになった経緯や、能登半島地震から全線復旧に至るまでの流れは、以下の記事で詳しく解説しています。
のと鉄道の収支均衡をめざす
鉄道事業再構築実施計画の期間は、2025年7月1日から2035年3月31日までの約10年間です。73億円もの巨額の支援を受けるわけですから、計画期間内に「一定の効果」を上げることも、交付金を受ける条件のひとつになっています。
その効果について、のと鉄道の再構築実施計画では「計画最終年度(2034年度)における利用者数と当期純利益」で目標値を設定しています。
利用者数の目標は、46万5,000人。この人数は2023年度の利用者数(46万700人)とほぼ同じです。また当期純利益については、収支均衡をめざします。2034年度の目標値は、約76万円の赤字になる見込みです。なお、この収支には沿線自治体からの支援も含みます。
沿線地域の人口減少が進むなかで、これらの目標を達成するには、相当な覚悟が求められるでしょう。のと鉄道をはじめ公共交通機関のサービス改善などにより、利用者の減少をどこまで抑えられるかも、鉄路存続の重要なポイントになります。
参考URL
石川県能登地域公共交通協議会について(石川県)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/shink/tiikikoukyoukoutuu.html
石川県能登地域公共交通計画
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/shink/documents/20250328_saisyuudaiitizi.pdf
のと鉄道七尾線の鉄道事業再構築実施計画の認定について(国土交通省)
https://wwwtb.mlit.go.jp/hokushin/content/000352795.pdf
第3回石川県能登地域公共交通協議会会議資料(次第ほか)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/shink/documents/250325siryouissiki.pdf