【NEWS】JRが負担する整備新幹線の貸付料を見直しへ – 国交省が検討開始

整備新幹線のひとつ九州新幹線 協議会ニュース

【2025年11月6日】国土交通省は、JR各社が負担する整備新幹線の「貸付料」について、金額や支払期間などを見直す小委員会を立ち上げました。

貸付料は、北海道新幹線や西九州新幹線の延伸区間をはじめ、これから整備される新幹線の事業費の一部にも充てられます。ただ、国とJR各社が結ぶ協定で支払期間が30年と決まっており、JRの負担額は今後減る見込みです。

一方、建築費の高騰や開業済み路線の大規模改修など、整備新幹線にかかるコストは今後も増える見通しであることから、国土交通省は財源確保の議論が必要として小委員会を設置。大学教授や弁護士などの有識者を中心に、貸付料の金額や支払期間の妥当性について検討することになりました。

初会合の場で国土交通省の鉄道局長は、「必要な財源をどう確保するのか、適正な貸付料の確保について議論を進めてほしい」と話しています。小委員会は、2026年の夏ごろに方向性を示す予定です。

【解説】JRは儲け過ぎ?整備新幹線の貸付料を検証する委員会が始動

整備新幹線の施設は、国の機関である「鉄道・運輸機構(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)」が保有し、JR各社は貸付料を支払って運行しています。その貸付料は、国とJR各社が結ぶ「貸付協定」により、JRの年間負担額や支払期間が決まっています。

このうちJRの年間負担額については、「開業後30年間の受益を平均して算定」することになっています。ざっくりいえば、整備新幹線の開業で想定される「JRの儲け」が貸付料になるのです。たとえば、在来線特急より増える運賃や料金の収入、新幹線開業で利用者増加が期待される他線の増加分、経営分離する並行在来線の赤字額なども、貸付料の算定指標になります。

また、「開業後30年間の受益」をもとに貸付料を決めるため、支払期間は30年です。支払期間が過ぎれば、貸付協定は失効します。失効後は、整備新幹線の施設譲渡といった財産の取り扱いを含めて、鉄道・運輸機構とJR各社が協議して決めることになっています。

■JR各社が支払う整備新幹線の貸付料

線区貸付料(年間)支払完了年
北陸新幹線高崎~長野175億円2027年
東北新幹線盛岡~八戸79.3億円2032年
九州新幹線新八代~鹿児島中央20.4億円2034年
東北新幹線八戸~新青森70億円2040年
九州新幹線博多~新八代81.6億円2041年
北陸新幹線長野~金沢245億円2045年
北海道新幹線新青森~新函館北斗1.14億円2046年
九州新幹線武雄温泉~長崎5.1億円2052年
北陸新幹線金沢~敦賀93億円2054年
▲会社別の貸付料は、JR北海道が1億1,400万円、JR東日本が489億3,000万円、JR西日本が173億円、JR九州が107億1,000万円で、合計770億5,400万円をJR各社が毎年負担している。
参考:国土交通省「整備新幹線の貸付制度等について」をもとに筆者作成

さて、上記表の北陸新幹線(高崎~長野)を見ると、2027年にはJR東日本が負担する貸付料175億円がなくなります。以後も貸付料がなくなる線区が増えていき、JR各社からみれば負担が軽くなります。

一方で貸付料は、今後建設される整備新幹線の財源に充てられ、貸付料で賄いきれない分は国と沿線自治体が2対1の割合で負担することが、法律で定められています。つまり、貸付料が減ると国や自治体の負担が増えるのです。とくに、これから整備新幹線が建設される自治体からは負担増加を懸念し、「JRの貸付料を見直せないか」といった声が増えているようです。

こうした自治体の声を踏まえて、国土交通省は「今後の整備新幹線の貸付のあり方に関する小委員会」という有識者委員会を設置。国や自治体の負担軽減を含めて、整備新幹線の財源スキームの見直しを議論することになったのです。

ちなみに、貨物列車が走る第三セクター事業者に対する「貨物調整金」も、貸付料の一部から支払われています。このスキームは2030年を目途に見直すことが決まっており、今回の小委員会の取りまとめを受けて議論が始まるとみられます。

JRは貸付料より多くの利益を得ている?

小委員会では、貸付料の算定方法の見直しや支払期間の延長などを議論する予定です。また、既存路線の大規模改修における費用負担のあり方も議論するとしています。

ただ、JR各社からみれば確実に負担が増えるため、反発も予測されます。

これに対して国や自治体からは、整備新幹線の開業で「JRは儲け過ぎている」といった意見も聞かれるようです。その根拠のひとつに、2024年10月28日に財政制度等審議会の分科会が示した資料を挙げています。

分科会の資料には、貸付料算定時の需要予測より「実績が上回ることが多い」と指摘。一例として北陸新幹線の場合、金沢延伸時には需要予測より2~6割も実績が上回り、高崎~金沢の貸付料は「追加的に176億円を得られた」と試算しています。JR東日本とJR西日本が負担する高崎~金沢の貸付料は420億円ですから、実績をもとに算定すれば約600億円になる計算です。

また、新幹線開業によるJR各社の利益増大は、鉄道事業だけに留まりません。ホテルや不動産、小売りなどの非鉄道事業でも儲けが増えており、これらの関連収入も貸付料の算定に「算入すべきではないか」と分科会は伝えています。

とはいえJRからみれば、貸付料で想定利益を持っていかれるわけですから、より多く稼ごうと経営努力をするのは当然ですし、その努力が需要予測より上振れした分という見方もできるでしょう。頑張って稼いでも貸付料でごっそり持っていかれるとなれば、各現場のモチベーションが下がり経営的に大きな影響を及ぼすことも懸念されます。

また、JR各社は多くの赤字ローカル線を抱えています。新幹線や関連事業で稼いだお金は、ローカル線の維持にも使われるわけですから、貸付料が増えると維持できないローカル線が増えることも懸念事項です。

小委員会では今後、整備新幹線を運行するJR各社にヒアリングを実施するとしています。整備新幹線はJRだけでなく、沿線地域にも大きな便益をもたらすものですから、公平な議論を願います。

参考URL

今後の整備新幹線の貸付のあり方に関する小委員会(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/tetsudo01_sg_000371.html

財政制度分科会(令和6年10月28日開催)(財政制度等審議会)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20241028/02.pdf

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