阿武隈急行「みなし上下分離」導入へ

【2025年12月4日】全線存続の方針が示されている阿武隈急行への支援をめぐり、沿線自治体は「みなし上下分離」の導入を決めました。

阿武隈急行の沿線自治体はこれまで、利用促進の取り組みを中心に、新型車両の購入補助やコロナ禍における緊急支援などもしてきました。しかし、橋梁やトンネルといった鉄道施設の老朽化が進んでおり、今後は修繕や設備更新の増加が見込まれます。

こうした状況に沿線自治体は、鉄道施設（「下」の部分）の修繕・維持にかかる費用を支援する「みなし上下分離」の導入で合意。国の「鉄道事業再構築事業（社会資本整備総合交付金など）」の活用を視野に、2025年内にも再構築実施計画を策定し、国土交通省に申請することが確認されました。計画期間は2026年度から2035年度までの10年。事業費は約170億円と見積もられています。

【解説】阿武隈急行への支援を提言した「検討会」の存在
1. 検討会がみなし上下分離を提言した理由
2. 阿武隈急行は経営再建できるか？
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【解説】阿武隈急行への支援を提言した「検討会」の存在

利用者の減少にくわえ、台風や大地震などの災害により経営が悪化していた阿武隈急行。その「鉄道のあり方」をめぐり沿線自治体は2023年3月に、阿武隈急行線沿線地域公共交通協議会のなかに「阿武隈急行線在り方検討会（以下「検討会」）」という分科会を設置。将来の方向性を議論してきました。

検討会は、2025年3月までの2年間に10回開催されています。このなかで福島県側の沿線自治体は、2023年10月5日に開催した第4回検討会で「鉄道の存続」を確認。阿武隈急行に対する支援を検討することで一致しています。一方、宮城県側の沿線自治体は利用者が少ないこともあり、BRTや路線バスへの転換を含めた慎重な議論が続けられました。その結果、存続の方向で合意。2025年1月22日の協議会で正式に公表しています。

これにより、福島・宮城両県の沿線自治体とも阿武隈急行の存続で一致したわけですが、具体的な支援内容に関しては、検討会の提言を待って決めることになりました。

検討会がみなし上下分離を提言した理由

検討会で議論した内容は2025年3月に「提言」としてまとめられ、2025年4月25日に開かれた協議会で報告されます。

提言では、阿武隈急行の経営改善策について「阿武隈急行を生かした持続可能な地域づくり」「会社経営の健全化」「持続可能な支援体制の構築」という3つの方向性が示されています。

このうち「持続可能な支援体制の構築」について、地域づくりや経営健全化を着実に進めるには「国の支援を受けながら、沿線自治体が安定的な支援体制を構築することが大切」と指摘。国の鉄道事業再構築事業の活用を念頭に、「みなし上下分離の導入」も一つの方法と提言されています。

上下分離ではなく、みなし上下分離を推奨したのは、スピード感のある支援体系を確立するためでしょう。

阿武隈急行の累積赤字額は、2024年度末時点で約14億円。資本金が15億円の会社ですから、債務超過に陥る寸前でもあったのです。この状況では、上下分離方式は適しません。「下」を管理する法人設立や譲渡などに、年単位の準備期間が必要だからです。その間に、阿武隈急行が資金ショートで倒産する可能性もあります。そこで、鉄道施設の維持管理などは従来通り阿武隈急行がおこない、沿線自治体はその費用を負担する「みなし上下分離」が適切だったと考えられます。

これを受けて協議会では、提言内容の実現・実施に関する調査や検討をする新たな分科会の設置を決定。すなわち、「みなし上下分離で阿武隈急行の存続が可能か」という点も、検討していくことになりました。

阿武隈急行は経営再建できるか？

みなし上下分離に移行すれば、沿線自治体の負担が大きく増えると予測されます。そこで沿線自治体は、今後10年間に想定される設備投資や修繕費など「下」に必要な金額を試算。その結果、トータルで約170億円と見積もられています。内訳は、軌道整備やトンネル補修、橋梁の耐震補強、架線設備の更新などの「設備投資」が約144億円。土木軌道や電気通信設備の修繕管理などの「維持修繕」が約26億円です。

このうち設備投資の一部費用について、鉄道事業再構築事業の活用により国が2分の1を補助。約60億5,000万円の補助を見込んでいます。残る約109億円は、沿線自治体の負担です。阿武隈急行を支えていくことを決断したものの、財源確保が大きな課題となるでしょう。

一方で阿武隈急行の収支は、大きく改善します。沿線自治体と連携した利用促進策の強化で利用者減少も抑えられ、運賃収入も安定する見込みです。それでも阿武隈急行は、年間6億円以上の赤字が見込まれています。2024年度の赤字額（経常損益）は8億4,287万円。約2億円は改善するものの、厳しい経営状況は続きそうです。

再構築実施計画は、2026年度から10年間の予定です。沿線地域の人口減少が進むなかで、これからが阿武隈急行にとっての正念場といえるかもしれません。