【NEWS】芸備線の行方は?増便実験の経済効果は年5,800万円 – 再構築協議会で試算

芸備線の列車 協議会ニュース

【2025年12月24日】芸備線再構築協議会の第7回幹事会が開かれ、2025年7月に始まった増便実証事業による地域経済効果の試算(速報集計)が報告されました。今回の報告は、休日日中に運行している臨時列車が対象です。

報告によると、列車の運行にかかる費用が1日あたり12万4,000円に対し、地域経済効果は48万円と試算。年間120日運行した場合、5,800万円相当の効果があると報告しています。これについて沿線自治体からは「芸備線があるから、もたらされた価値だ」と一定の評価が示されたようです。

ただ、5,800万円の効果の多くが該当線区(備後庄原~備中神代)以外の地域にもたらされており「地域での消費は限定的」と報告されています。

増便実験は2026年6月まで継続し、その後は路線バスを運行した際の地域経済効果も検証する予定です。

【解説】芸備線再構築協議会の「議論の先にあるモノ」は?

芸備線再構築協議会が始まってから、2度目の冬を迎えました。

協議会では「芸備線の可能性を最大限追求すること」を目的に、増便実験をはじめさまざまな取り組みを実施しています。その評価をわかりやすくするために、協議会では「実証事業の施策でもたらされる便益(地域経済効果)」と「施策にかかる費用」を比べることにしています。

平たく言うと、便益のほうが高ければ「鉄道を残す価値がある」と評価し、逆に費用のほうが高ければ「頑張って鉄道を残しても、地域に不利益しかない」と評価されるわけです。

今回の報告では、2025年7月から10月までの約3カ月間におこなった、休日日中の増便列車がもたらす効果について報告されています。それによると、便益は1日あたり48万円、費用は12万4,000円で便益のほうが高く、「鉄道を残す価値がある」という評価になります。

ただし、その効果は「沿線地域以外のほうが大きい」という点も報告書では指摘しています。これは、利用者の多くが「乗車自体が目的」だったから。途中駅で下車して食事をしたり土産を買ったりする人は少なく、単に乗り通すだけの人が多数だったため「地域での消費は限定的」と報告されたのです。

なお、増便実験は広島県などの要望で1年間実施することになったため、上記はあくまでも速報値として見る点には留意が必要です。また、JR西日本が得る運輸収入は1日あたり2万4,000円のみ。12万4,000円の費用のほとんどがJR西日本の運行経費でしょうから、JR西日本からみれば赤字であることには変わりありません。

鉄道がもたらす地域経済効果を検証する理由

鉄道がもたらす地域経済効果の検証は、存廃議論がされる中小私鉄や第三セクター鉄道の地域では、広くおこなわれているものです。では、なぜこのような検証をするのでしょうか。その理由のひとつに、鉄道を廃止にしたときの地域への影響を調べることがあります。

「鉄道がなくなると街が廃れる」といわれるように、鉄道の廃止が地域に及ぼす影響は大きいです。ただし、地域が廃れるのは鉄道の廃止だけが理由ではありません。産業構造の変化や過疎化など理由はいくつか考えられますし、鉄道の廃止はまったく関係ないケースもあるでしょう。

これを検証するひとつの方法として、「鉄道がもたらす地域経済効果の検証」があります。ローカル線における地域経済効果には「鉄道で買い物に行くなど沿線住民の消費行動」「観光誘客による経済波及効果」といったプラスの要素や、「バスやタクシーとの運賃差」「家族の送迎負担」などマイナスの要素もあります。これらをすべて足した額が、鉄道がもたらす地域経済効果となるわけです。

ちなみに、芸備線(備後庄原~備中神代)がもたらす地域経済効果は年間で2憶7,700万円と、第3回協議会(2025年3月26日)で示されています。逆にいえば、芸備線が廃止されると地域は毎年これだけの損失を被ることになるのです。

芸備線再構築協議会では、鉄道をさらに活用することで地域経済効果を高める取り組みを進めています。5,800万円の効果があるとされた増便実験も、そのひとつです。

自治体に便益があってもJR西には損失しかない

上記の報告書にある通り、休日日中に増便するだけでも、沿線地域には1日あたり48万円の経済効果がもたらされます。しかし、運行するJR西日本からみれば運賃収入よりも運行費用のほうが高く、赤字が増えるだけです。

JR西日本は会社全体では黒字ですし、ローカル線を含めて地域公共交通を守るという使命があります。とはいえ、「地元の人が乗らない」「観光客も少ない」「他の交通モードで地域輸送を賄える」という赤字線区には、「なぜ民間事業者が多額の負担をしてまで、地域の便益を守る必要があるのか?」と疑問を抱いているのです。

これに対して沿線自治体は「国が守れ」と言わんばかりの発言を繰り返すだけで、芸備線を活用した未来のビジョンを示したことは一度もありません。沿線自治体は、芸備線が本当に必要なのでしょうか。必要というのであれば、鉄道の存続により毎年2憶7,700万円もの恩恵を受けているわけですから、現実的かつ持続可能な存続方法を示すことも大事でしょう。

芸備線の沿線自治体に、支援の意思があるかは不明ですが、もしあるとすれば支援に関する議論もそろそろ始めてほしいところです。いまのところ「金を出してまで残す価値がない」と認めているのか、あるいは存続をあきらめて廃止時期を先延ばしにしているような態度しか見えません。

芸備線再構築協議会で議論した内容は、2027年春に取りまとめる予定です。

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参考URL

芸備線再構築に関するより専門的な分析等調査事業(新調査事業)実施状況
https://wwwtb.mlit.go.jp/chugoku/content/000364343.pdf

第7回芸備線再構築協議会幹事会 議事概要
https://wwwtb.mlit.go.jp/chugoku/content/000364941.pdf

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