【2026年1月27日】国土交通省は、阿武隈急行と肥薩おれんじ鉄道の沿線自治体などが申請していた、鉄道事業再構築実施計画を認定しました。
いずれの計画も、鉄道施設の整備費や維持修繕費など「下」にかかる費用を自治体が負担する「みなし上下分離」を導入。国の社会資本整備総合交付金を活用し、事業者を支援します。支援期間は2026年度から10年間。10年間の支援額は、阿武隈急行が170億3,000万円、肥薩おれんじ鉄道が252億5,800万円です。
また、存廃議論が進んでいる錦川鉄道(錦川清流線)では、沿線自治体の山口県岩国市が、みなし上下分離で存続させる方針を固めたことを、中国新聞(2026年2月10日)が伝えています。
【解説】みなし上下分離のメリット・デメリット
鉄道事業者の負担を軽減するため、「上下分離方式」や「みなし上下分離」の導入を決める赤字ローカル線の沿線自治体が増えています。2024年度以降では、近江鉄道とJR只見線で上下分離方式を、北陸鉄道ではみなし上下分離を導入。いずれも、線路や駅舎といった鉄道施設(「下」の部分)にかかる費用を自治体が負担してくれる点が、事業者からみたメリットです。
では、上下分離方式と比べた「みなし上下分離のメリット」は何でしょうか。またデメリットはないのでしょうか。ここで、みなし上下分離の特徴を整理します。
みなし上下分離のメリット
みなし上下分離のメリットは、「第三種鉄道事業者が不要」であることです。
上下分離方式の場合、鉄道施設などを管理する新会社(第三種鉄道事業者)を設立しなければなりません。その準備や資産譲渡の手続きなど、手間もコストもかかります。みなし上下分離方式であれば、これまで通り鉄道事業者が管理するため、スムーズな移行が可能です。債務超過が迫っていた阿武隈急行の場合、早急に支援策を決める必要があったことも、みなし上下分離を選んだ理由のひとつでした。
また、肥薩おれんじ鉄道のように貨物列車が走る路線では「下」の管理者も多くなるため、その人材募集や育成といった設立後の手間も課題です。こうした点でも、事業者が上下一体で管理するみなし上下分離のほうが、柔軟に運用しやすいといえます。
みなし上下分離のデメリット
みなし上下分離のデメリットは、「責任があいまいになりやすい」点です。法的にも物理的にも分離されていないため、「自治体はどこまで支援するのか」「責任は誰が取るのか」といったことが不明瞭になりやすいのです。一例として、BRT転換が決まったJR美祢線の復旧協議では、JR西日本が「再び被災したときの復旧コストを誰が出すか」を懸念し、みなし上下分離の導入に否定的な見解を示しています。
また、自治体からみると「運営に関与しにくい」こともデメリットです。たとえば、新駅を設置したり老朽化した設備を改修したりといったことも、管理者である鉄道事業者に決定権があるため自治体の希望が通らないこともあります。
錦川鉄道でも「みなし上下分離」に移行か?
上下分離方式またはみなし上下分離の導入を判断するうえで、実際のコストを試算して比較する自治体も多いです。
バス転換を含めて協議している錦川鉄道では、今後10年間の「事業者の赤字額」と「自治体の負担額」をシミュレーション。その結果、バス転換よりも上下分離方式やみなし上下分離のほうが、事業者も自治体もコストを抑えられると試算されました。
なお、事業者である錦川鉄道からみれば「上下分離方式」が赤字額はもっとも少なく、自治体(岩国市)からみると「みなし上下分離」がもっとも負担を軽くできるそうです。
■今後10年間の収支&岩国市の負担額
| 収支(経常損益) | 岩国市の負担額 | |
|---|---|---|
| 現状維持 | ▲16億2,681万円 | 14億5,339万円 |
| 上下分離方式 | ▲4億7,301万円 | 13億9,400万円 |
| みなし上下分離 | ▲5億7,403万円 | 13億3,019万円 |
| 全線バス転換 | ▲8億449万円 | 16億5,870万円 |
| 一部バス転換 | ▲26億5,866万円 | 25億5,812万円 |
このシミュレーション結果を踏まえて、岩国市は錦川鉄道の存廃を含めた方針を検討。自治体負担の少ない「みなし上下分離による鉄道の存続」で固めた模様です。
ただ、みなし上下分離に移行したからといって安泰とはいえません。錦川鉄道の輸送密度は220人/日(2023年度)。沿線地域は人口減少が進んでおり、利用者の減少は必至です。多額の税金を投入するからにはそれなりの効果が求められますから、鉄道を活用した観光誘客などの利用促進も検討していく必要がありそうです。
参考URL
参考URL
阿武隈急行の鉄道事業再構築実施計画の認定について(国土交通省)
https://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/content/000366084.pdf
肥薩おれんじ鉄道線の鉄道事業再構築実施計画の認定について(国土交通省)
https://wwwtb.mlit.go.jp/kyushu/content/000366085.pdf
錦川清流線、岩国市が存続方針 みなし上下分離を採用(中国新聞 2026年2月10日)
https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/785827


