【2025年2月17日】JR肥薩線再生協議会が開かれ、復旧に基本合意している八代~人吉間の駅数や位置の見直しについて、熊本県と沿線自治体が協議しました。
駅の復旧について、JR九州は「全駅を復旧する必要があるのか」と、駅のあり方について沿線自治体に相談。自治体側の考えを示すように求めています。この日の協議会では、熊本県が復旧後の駅の考え方などを説明。地域のコミュニティー維持や活性化などの復興方針を踏まえ、一部駅の廃止も含めて検討することが確認されました。
協議会では「駅のあり方」を2025年3月末までに示し、その後、肥薩線復旧の最終合意をめざすとしています。
【解説】全駅は復旧できない?被災線区の駅が廃止検討される理由
JR肥薩線再生協議会は、肥薩線(八代~人吉)の復旧に関するさまざまな課題について、熊本県と沿線自治体が議論する組織です。2025年2月17日に開かれた協議会では、JR九州から求められた「駅のあり方」などの議題が話し合われました。
JR九州が、駅の存廃検討を沿線自治体に求める背景には「利用者の少ない駅に対する投資を、できるだけ抑えたい」という考えがあるからでしょう。肥薩線は上下分離方式で復旧することが確定していますが、復旧費用に関してはJR九州も一部負担します。当然、駅の復旧費も含まれます。
また、肥薩線の復旧は利用者を増やすことを前提に基本合意されたものです。単に「元の姿に戻すだけ」では利用者の増加が見込めず、駅前の賑わい創出を含めた整備も必要です。この整備にかかる費用は自治体負担で、協議会では総額114億円の事業費(駅の整備事業以外も含む)を見込んでいます。
さらに自治体は、復旧後の駅や線路などの維持管理費も負担しなければなりません。ただ、実際の管理業務は事業者が担う部分が多いため、JR九州には現在と同じ数の「作業人員の確保」が求められます。人口減少が進めば、採用できる人数も確実に減ります。これまでと同じ人数を確保するのは、今後いっそう難しくなるのが明白です。将来を見据えると「できるだけ駅を減らし管理負担を軽くしたい」というのが、JR九州の本音でしょう。
鉄道の災害復旧はこれまで、駅もすべて復旧するのが当たり前でした。しかし、持続可能な公共交通網を実現するうえで、利用者の少ない駅まで管理するのが困難な時代になってきたといえそうです。
では、どの駅を残せばよいのか。ここで、肥薩線(八代~人吉)の駅別乗降客数を見てみましょう。
■肥薩線(八代~人吉)の乗降客数(2018年)

海路駅の利用者数は0人、瀬戸石・吉尾・球泉洞・那良口は10人未満です。なお、上記データは被災前のもの(2018年)です。沿線では被災後に人口流出が進み、さらに高台移転計画も進んでいます。かつて駅前に住んでいた人が、駅から離れた場所に移転することも考えられ、肥薩線の利用者の減少は避けられません。
駅を復旧しても、利用されなければ無駄な投資になります。それはJR九州だけでなく、沿線自治体も同じ考えです。そのため、熊本県や沿線自治体も駅の見直しに了承しているのです。ただし、見直しは廃止だけではありません。沿線の復興やまちづくりにあわせて、利用者が見込めそうな場所には新駅の設置も考えられます。乗降客数が少なくても、今後増えそうな駅は存続できる可能性があるでしょう。
では、どんな駅なら利用者を増やせるのでしょうか。熊本県の亀崎副知事は、復旧後の駅の配置について「拠点性と賑わい創出の観点から、総合的に検討していく必要がある」という考えを示しています。
拠点性とは、地域の中心となる場所であるとともに、他の交通モードとの乗り換えができる場所を指すでしょう。たとえば、路線バスや観光バスが乗り入れできたりパークアンドライドなどの駐車場を設置できたりする場所があることも、駅の位置に適しています。
賑わい創出は、地域住民だけでなく観光客も長く滞在できる場所と考えられます。沿線には観光名所がいくつかありますが、その名所に近いだけでなく、飲食店や土産店、宿泊施設といった長時間滞在できるような施設をつくれる場所も、駅の復旧条件として検討されるでしょう。
赤字ローカル線の災害復旧は、「元に戻すだけでいい」という安易な考えが通用しない時代になりました。しかも肥薩線の場合、復旧費用は約235億円と見積もられています。国費も投じられるだけに、これだけの投資に見合う復興・まちづくりを、JR九州も沿線自治体も検討していくことが求められているのです。
※無人駅の管理負担や活用法などを解説した記事は、以下のページでご覧いただけます。
その他の鉄道協議会ニュース
JR関西本線で事業者間をまたぐ直通臨時列車が実証運行
【2025年2月16日】JR関西本線で、名古屋~伊賀上野を直通する臨時列車の実証実験が始まりました。これは三重県や沿線自治体の要望を受けて、JR西日本と東海が運行する列車です。現在、両事業者をまたぐ定期列車はありません。沿線自治体とJR西日本が、名古屋方面からの観光誘客と関西本線の利用促進を図るために企画・運行しました。
2025年2月16日に運行された列車には、ほぼ満員の約100人が乗車。亀山駅と伊賀上野駅では、セレモニーが開かれました。亀山駅のセレモニーに参加した三重県の一見知事は「実証実験を機に多くの人に利用していただき、関西本線を守っていきたい」と語っています。
また、JR西日本の水口支社長は「計200人の定員に対して約700人の応募があり、手応えを感じた。関西本線を盛り上げる施策を今後も考えていきたい」と述べ、今後は京都・大阪からの誘客を狙う観光列車も検討する考えを示しています。
名古屋~伊賀上野の臨時列車は、2月22日にも運行されます。
※関西本線をめぐる沿線自治体とJR西日本との協議の流れは、以下の記事で詳しく解説しています。
JR加古川線で万博期間中に増発&特急の臨時停車を実施
【2025年2月19日】JR西日本は、大阪・関西万博の開催期間にあわせて、加古川線の西脇市~谷川で増発や特急列車の臨時停車を実施すると発表しました。
加古川線の西脇市~谷川をめぐっては、2024年7月にJR西日本が存廃協議を沿線自治体に申し入れています。ただ、沿線自治体は利用促進の取り組みを始めたばかりであったことから「もう少し待ってほしい」と懇願。そこでJR西日本は、万博が終了するまでに利用促進の効果が現れなければ協議を始めると提案しています。
これを受けてJR西日本も加古川線の利用促進をめざして、万博開催期間中は西脇市~谷川の普通列車を1日2往復増発するほか、特急こうのとりの一部列車を谷川駅で臨時停車させることを決めました。実施期間は万博開催期間と同じく、2025年4月13日から10月13日までです。
※加古川線(西脇市~谷川)の存続・廃止をめぐる協議については、以下のニュース記事でもお伝えしています。
JR山田線と岩手県北バスの共同経営が国に認可
【2025年2月17日】JR東日本と岩手県北バスは、山田線と106特急・急行バスとの共同経営について、国に認可されたと発表しました。
両社は2024年4月より、JRの乗車券でバスに乗車できる実証実験を開始。2025年1月末時点で、1日平均34人の利用がありました。利用者は沿線住民だけでなく、県外からの観光客もいたそうです。こうしたニーズから、両社が連携を深めることでさらなる利用促進を図ろうと、共同経営計画を立案。独占禁止法の特例にもとづく認可が、国土交通省からおりました。
鉄道とバスの共同経営は、JR牟岐線と徳島バスに続き全国で2例目です。
「秋田港クルーズ列車」2026年3月末で運行終了
【2025年2月19日】秋田県は、秋田港線(奥羽本線の貨物支線)で不定期運行している「秋田港クルーズ列車」を、2026年3月末で終了すると県議会で伝えました。
秋田港クルーズ列車は、クルーズ船の入港にあわせて2017年に開始。県と秋田市、JR東日本が共同運行しています。ただ、秋田港線の貨物列車(秋田臨海鉄道が運行)はすでに廃止となっており、鉄道施設を管理するJR貨物は2025年度末までの施設撤去を決めています。
列車を継続運行するには、県や秋田市が線路を取得し、さらに維持費も負担しなければなりません。その費用は、取得費用が約8億円、維持費が年間7,000万円と見積もられました。このほか車両や人員の確保も難しいことから、県は列車の運行終了を決定。代替交通は、貸し切りバスやタクシーなどを想定しており、今後関係者との協議を進めるとしています。