【2026年4月13日】山陰本線が通る島根県の沿線自治体とJR西日本が、利用促進協議会を設立しました。協議対象線区は、出雲市~益田の129.9kmです。
初会合では、同線区の現状を事務局が説明。輸送密度は868人/日(2024年度)で、利用者数は減少傾向にあると報告されています。減少の理由として、沿線地域の少子化・過疎化にくわえ、山陰自動車道の整備も一因とされました。また赤字額は、2022~2024年度の平均は約32億5,000万円。JR西日本が収支を公表する輸送密度2,000人未満の線区のなかでは最大です。
協議会の会長に就任した浜田市の三浦市長は、「『乗って守る』から『生かして育てる』鉄道へ転換させる」と語り、鉄道を活用して地域活性化につなげる考えを強調。SNSでの情報発信やイベントなどを通じて、沿線住民のマイレール意識の醸成と観光振興の両面から活性化を図る方針です。
【解説】島根でも協議会が設置された山陰本線の将来は?
山陰本線をめぐる協議組織には、兵庫県の「JRローカル線維持・利用促進協議会(山陰線WT)」や、山口県の「JR山陰本線(下関-益田間)利用促進協議会」などがあります。いずれの協議会も利用促進を中心に、さまざまな取り組みを進めています。
今回、島根県の沿線自治体が設置したのは「JR山陰本線(益田-出雲市間)利用促進協議会」です。構成メンバーは、出雲市、大田市、江津市、浜田市、益田市の沿線5市と島根県、そしてJR西日本です。
協議が必要になった理由のひとつが、利用者の減少です。出雲市~益田の輸送密度は、JRが設立した1987年は2,779人/日でした。その後、沿線地域の少子化や過疎化、モータリゼーションの進展などの影響もあり、利用者数は右肩下がりに減少。コロナの影響を受けた2020年以降は、1,000人/日を下回る年が続いています。
■出雲市~益田の輸送密度の推移

参考:JR西日本「区間別平均通過人員(輸送密度)について」をもとに筆者作成
コロナ禍後の回復が鈍いなかで、2026年3月には山陰自動車道の石見三隅IC~遠田IC(三隅・益田道路)が開通。マイカー移動の利便性が飛躍的に向上する一方で、並行する鉄道利用者のさらなる減少が懸念されています。
こうした背景もあって沿線自治体とJR西日本は、鉄道の利用促進に取り組むことで地域活性化も図ろうと、協議会を立ち上げたのです。
現時点では「存廃議論」が目的ではない
この利用促進協議会で議論される内容は、名称にもあるように「利用促進」がメインです。具体的な取り組みの検討はこれからですが、報道によると、SNSとイベントを活用したPRやロゴの作成などが伝えられています。
なお、鉄道の「存廃」を議論する場になることは、現段階では考えにくいでしょう。
出雲市~益田には毎時1~2本の普通列車のほか、特急「スーパーまつかぜ」「スーパーおき」なども走っています。また、浜田市の三浦市長も言及していますが、災害時における「物流の代替路」としての機能も期待されています。実際に2018年の西日本豪雨では、一部線区が不通になった山陽本線の代替路線として、出雲市~益田でも迂回貨物列車が運行されました。
国土交通省は、特急列車や貨物列車(代替路線を含む)が走る線区を「基幹的鉄道ネットワーク」と位置付け、原則JR各社が維持するように求めています。JR各社にとってもネットワークを維持するうえで重要な路線ですから、現段階では存廃議論になる可能性は極めて低いのです。
とはいえ、出雲市~益田の赤字額は約32億5,000万円、営業係数は536と、経営は厳しい状況です(2022~2024年の平均値)。このまま何も手を打たなければ、利用者数はさらに減少します。JR西日本からみれば、運賃収入も減少するため山陰本線への積極的な投資ができなくなり、特急を含めた運行本数の削減や駅の無人化など利用者サービスの低下を招くおそれがあります。
それを防ぐために、JR西日本が上下分離方式などの支援を沿線自治体に求めてくる可能性もあるでしょう。仮に、出雲市~益田を上下分離方式に移行すれば、沿線自治体には毎年数十億円規模の負担が生じます。こうした将来的な公的負担の増大を懸念した沿線自治体は「今のうちに、できることからやろう」と、JR西日本との話し合いの場を設けたとも考えられます。
島根県で存廃議論が求められている「JR木次線」の現状
山陰本線の沿線自治体が動き始めるなかで、島根県には「あり方の議論が必要なのに、話が進んでいない路線」があります。それは、JR木次線です。JR西日本は2024年7月に、木次線の出雲横田~備後落合の沿線自治体に「鉄道のあり方」に関する協議を申し入れています。それから2年が過ぎようとしている現在でも、あり方の協議は始まっていません。
もっとも両者は、「利用促進」に関する協議を進めています。JR利用者への運賃補助や二次交通となる路線バスの定期券購入代の補助、イベントの実施、観光誘客など、さまざまな取り組みが進行中です。しかし、木次線の利用者数は増えていません。輸送密度は、宍道~出雲横田が212人/日、出雲横田~備後落合では23人/日。多くの沿線住民が利用しておらず、鉄道が地域に貢献できていないことをJR西日本は不満に感じています。
木次線のように、山陰本線でも効果が限定的な取り組みが続くようであれば、JR西日本は何らかの支援を求めてくるでしょう。沿線人口の減少や自治体の財政縮小も見込まれるなかで、山陰本線の沿線自治体の今後の取り組みに期待したいところです。
参考URL
JR山陰本線(益田一出雲市間)利用促進協議会設立総会の開催について(大田市)
https://www.city.oda.lg.jp/files/original/20260330131626610da9716ae.pdf