【2026年5月12日】西九州新幹線の未整備区間で実施される環境アセスメント(環境影響評価)について、福岡県の服部知事は、佐賀空港ルートで検討する場合は「福岡県の意向も確認しながら対応がなされるべき」という考えを示しました。
服部知事は、2026年4月に開かれた佐賀県の山口知事と国土交通省の水嶋事務次官との会談内容について、佐賀県に確認したことを定例記者会見で報告。山口知事は、佐賀空港周辺を含めた広域で環境アセスメントを実施するよう水嶋事務次官に求めたそうです。
服部知事は、佐賀空港ルートの場合はルートの一部が福岡県に入る可能性があるとして、「福岡県にも大きな費用負担が生じる」と指摘。会見日時点では、環境アセスメントの話を国から受けていないことを明らかにしています。
一方、国土交通省の水嶋事務次官は西日本新聞のインタビューに対して、福岡県南部を通るルートは実施対象外としたうえで「福岡県を巻き込むのは好ましくない」と述べています。
【解説】国交省・佐賀県・福岡県の思惑が交錯する西九州新幹線の現在地
西九州新幹線の未整備区間をめぐっては、国がFGT(フリーゲージトレイン)を断念しフル規格で整備すると決めた後、佐賀県と国土交通省による「幅広い協議(2020年6月~)」で議論を進めてきました。
しかし、両者の話はかみ合わず、佐賀県は「改めて地元で話し合いたい」と要望。2024年5月から長崎県と佐賀県、JR九州の三者で「意見交換会(三者協議)」を設置し、協議しています。
意見交換会では、長崎県とJR九州が「佐賀駅を通るルートが望ましい」と提言。これに対して佐賀県は、ルートを決める以前に財源負担の問題を指摘し、「財政負担は国の責任で何かがあってしかるべき」と伝えます。
そもそも西九州新幹線が全線開業できないのは、「国がFGTの実用化を断念したこと」が事の発端です。それなのに、通常の財源負担割合を適用させようとする国の姿勢に、佐賀県としては納得がいかないのです。
佐賀県の意見に、長崎県とJR九州が同調。両者も国に対して、それぞれの立場から働きかけることを、2025年8月19日に確認します。
さて、この段階で福岡県は蚊帳の外です。未整備区間は新鳥栖~武雄温泉であり、ルートはすべて佐賀県内にあるからです。ただ、佐賀県が「検討に値する」とした佐賀空港を通るルート(南回りルート)の場合、起点は新鳥栖駅ではなく筑後船小屋駅になると、2021年11月の「第5回幅広い協議」で国土交通省が示しています。
■西九州新幹線の想定ルート(国土交通省提示)

出典:国土交通省鉄道局「ご説明資料」
筑後船小屋は、福岡県の駅です。ここから延伸すれば、福岡県にも建設費などの負担が求められることになります。とはいえ福岡県は、幅広い協議にも意見交換会にも参加していません。福岡県としては「静観する」しかなかったわけです。
国交省のアセス提案に福岡県が反論した理由
意見交換会から半月後の2025年9月4日、長崎県の大石知事(当時)は石破首相(当時)と会談。佐賀県の費用負担軽減などを求める書面を提出します。またJR九州の古宮社長も、10月23日に国土交通省の水嶋事務次官と面会し、同様の要望をおこないました。
これと前後しますが、9月には水嶋事務次官が佐賀県の山口知事に対して面会を打診。2025年10月8日から、西九州新幹線の未整備区間をめぐる新たな会議がスタートします。
水嶋事務次官は、佐賀県が問題視する財源負担について「必要があれば法令改正も検討していく」と提言。佐賀県に寄り添いながら話を進めます。ただし、ルート案に関しては佐賀駅ルートを勧める国土交通省と意見がわかれたままです。
こうしたなかで、2026年4月16日に開かれた面会。水嶋事務次官は、環境アセスメント(環境影響評価)の実施を提案します。環境アセスメントとは、鉄道建設などの大規模開発事業が環境に与える影響を、事前に調査・評価する制度です。通常は、ルート案が決まらないと実施できないものですが、水嶋事務次官は「ルート判断を留保したうえで実施したい」と訴えます。
国土交通省が環境アセスメントの実施を提案したのは、これが2回目です(1回目は2020年7月に開催した「第2回幅広い協議」で提案)。1回目の提案では、佐賀県が「ルート案が決まっていない」ことを理由に断った経緯があります。その提案から6年が過ぎ、ルート案も固まりつつあります。水嶋事務次官は、未整備区間の事業を一歩でも前進させようと、環境アセスメントの実施を提案したのです。
しかし、水嶋事務次官が示した実施エリアには、佐賀空港周辺は入っていませんでした。国土交通省としては、「佐賀駅ルートで新幹線をつくりたい」という思惑があったのでしょう。これに警戒した山口知事は、佐賀空港周辺を含めた広域で環境アセスメントを実施するように要望。エリアを広げることで、複数の選択肢をフラットに比較検討できるよう求めたのです。
一方、こうしたやり取りを知った福岡県は「佐賀空港周辺で環境アセスメントを実施するなら、福岡県もルートの一部に入るのでは?」と懸念。4月30日に佐賀県へ確認します。佐賀県は「特定のルートを要求したわけではなく、南側ルート(佐賀空港を通るルート)を希望したものではない」と回答したそうです。
とはいえ、環境アセスメントは本来、新幹線の着工前に実施するものです。国土交通省が「環境アセスメントを実施した」という既成事実をもとに、佐賀空港ルートに決める可能性もあります。そうなれば、福岡県もルートの一部に入るため事業費負担を求められるかもしれません。
先述の通り、福岡県は幅広い協議にも意見交換会にも参加していません。国土交通省から何の説明もないまま負担を求められる可能性に危惧した服部知事は、5月12日の定例記者会見で「福岡県の意向も確認しながら対応がなされるべき」という考えを示したのです。
未整備区間の課題はルート案だけではない
国土交通省が環境アセスメントの実施を提案したのは、「未整備区間の問題に早く決着をつけたい」という狙いがあります。水嶋事務次官は西日本新聞のインタビューに対して、「今夏までに環境アセスメントの実施について合意を取り付けたい」と語っています。
環境アセスメントの実施には、国の予算が使われます。2027年度予算の概算要求を見据えると、夏までには決めておきたいところです。このタイミングを逃すと、事業はさらに1年遅れることになります。
また、各省庁の事務次官は1~2年で交代するのが通例です。水嶋氏が事務次官に就任したのは2025年7月。間もなく1年を迎え、早ければ2026年7月ごろに交代するかもしれません。水嶋氏としては、官僚仲間であった山口知事のためにも、自分の代で決着させたいという考えもあるでしょう。
ただ、ルート案について両者には大きな溝があります。国土交通省としては「佐賀駅ルート」を推進したい考えです。長崎県とJR九州も、佐賀駅ルートを求めています。これまで意思表示をしてこなかった(する場がなかった)福岡県も、今回の件で佐賀駅ルートを推進するかもしれません。
一方で佐賀県の山口知事としては、「ルートに結びつける話になりかけている」と警戒を強めているようです。
利便性や採算性などの観点でいえば、佐賀駅ルートが最適でしょう。しかし、新幹線ができたことで乗り換えが不便になったり特急列車が廃止になったりと、不便になる地域があるのも事実です。また、並行在来線として長崎本線が経営分離された場合、在来線の赤字補てんをどうするかという新たな問題も生じます。新幹線の財源負担問題も、未解決のままです。
佐賀駅か空港かといった単なるルート争いではなく、さまざまな課題を抱える西九州新幹線の未整備区間。ここに新幹線が走るのは、遠い未来になりそうです。
西九州新幹線の関連記事
※佐賀県と国土交通省との「幅広い協議」の進捗は、以下の記事に詳しくまとめています。

参考URL
知事定例記者会見 令和8年5月12日(福岡県)
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/site/chiji-kisha/teirei-kisyakaiken20260512.html
九州新幹線西九州ルート(佐賀県)
https://www.pref.saga.lg.jp/list00669.html