「花咲線」の愛称で知られるJR根室本線の釧路~根室は、JR北海道が「単独では維持困難」とする赤字ローカル線のひとつです。廃止の危機を抱く沿線自治体は、JR北海道と協力して利用促進などの取り組みを進めています。
ただ、沿線地域の過疎化や高規格道路の延伸などの影響で、利用者の減少に歯止めがかかりません。花咲線の廃止を防ぐには、どうすればよいのでしょうか。これまでの自治体の取り組みを振り返りながら、釧路~根室の鉄路の将来を考えます。
JR花咲線(釧路~根室)の線区データ
| 協議対象の区間 | JR根室本線 釧路~根室(135.4km) |
| 輸送密度(1987年→2024年) | 1,006→217 |
| 増減率 | -78% |
| 赤字額(2024年) | 13億5,200万円 |
| 営業係数 | 831 |
※赤字額と営業係数は、2024年のデータを使用しています。
協議会参加団体
釧路市、釧路町、厚岸町、浜中町、根室市、別海町、中標津町、標津町、羅臼町、白糠町、JR北海道ほか

「北方領土」が強調されるも鉄道の役割がみえない花咲線
2016年11月18日、JR北海道は「当社単独では維持することが困難な線区」を公表します。その基準は、輸送密度が200~2,000人/日未満の線区。通称「黄線区」と呼ばれる維持困難線区のなかに、花咲線も含まれていました。
JR北海道の公表を受け、釧路・根室それぞれの総合開発促進期成会のなかに、利用促進などを検討する特別委員会が設置されます。特別委員会は2017年11~12月に、検討・分析報告書を公表。「北方領土」「生活交通」「観光施策」などの観点から、取り組みの方向性が示されました。
このうち北方領土に関しては、「人的交流や物的・経済的交流の面で、国策上重要な路線」と位置づけ、路線の維持を国に働きかけていくことが確認されます。一方で、花咲線には地域の足と観光路線としての役割もあるため、沿線自治体が主体となって「利用促進や経費削減に協力していく」ことも了承されました。
■花咲線(根室本線の釧路~根室)の輸送密度の推移

参考:JR北海道「花咲線(釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画」をもとに筆者作成
特別委員会が検討を進めるなかで、北海道でも全道的な観点から黄線区の将来を議論する「鉄道ネットワーク・ワーキングチーム・フォローアップ会議」が設置されます。フォローアップ会議は、2018年2月に各線区の位置づけを公表。このなかで花咲線は、次のように示されます。
北方領土返還運動の拠点として重要な役割を有する北方領土隣接地域における鉄道の役割を十分考慮するとともに、国の北方領土対策や高規格幹線道路網整備の状況も踏まえつつ、地域における負担等も含めた検討・協議を進めながら、路線の維持に最大限努めていく。
出典:北海道交通政策総合指針について「JR 北海道単独では維持困難な線区に対する考え方」
宗谷本線と石北本線で示した「維持に向けて」という強い表現ではなく、「維持に最大限努める」と表しています。花咲線の沿線は、北方領土と隣接する重要な地域であることには間違いありません。ただ、地域における「鉄道の役割」が不明瞭で、表現を濁しているようにも感じます。
「高規格幹線道路網整備の状況」とは、釧路市と根室市をつなぐ北海道横断自動車道(根室線)の延伸計画を指します。2025年時点では、釧路別保IC~温根沼ICが未開通ですが、今後「無料の高速道路」が開通すれば車でのアクセスが便利になるでしょう。見方によっては、「高規格道路ができれば鉄道は不要」とも捉えられそうです。
なお、フォローアップ会議では「個別線区の存続や廃止に関して結論を出すものではない」とし、あくまでも沿線自治体とJR北海道との協議で存廃を決めるように求めています。
花咲線の維持をめざす「アクションプラン」を策定
釧路と根室の期成会でそれぞれ活動していた特別委員会は、2018年7月に「根室本線花咲線対策沿線地域連絡協議会」に統合します。とき同じく、国土交通省はJR北海道に対して監督命令を発出。経営改善に向けた取り組みを、沿線自治体と連携しながら進めるよう求めたのです。
監督命令を受けて協議会では、利用促進などの検討を本格化。具体的な内容を「アクションプラン(花咲線事業計画)」にまとめます。アクションプランの計画期間は、2019年度から5年間。最終年度となる2023年度には、総括的な検証をおこなうとしています。
ちなみにアクションプランには、各種取り組みによる改善状況を評価しやすいように「目標値」が設定されています。目標値は「2017年度の輸送密度と収支」で、花咲線は以下の通りです。
■花咲線(根室本線の釧路~根室)のアクションプラン目標値
| 輸送密度 | 264人/日 |
| 収支 | 11億1,000万円 |
上記の目標値をクリアできなかったときは、鉄道の存廃を含めて「抜本的な改善方策を検討すること」が、国から求められています。
なお計画期間中には、新型コロナウイルスの影響で中止・規模縮小となった取り組みが37件もありました。このため、JR北海道と沿線自治体は、計画期間の3年間延長を国に要望。これが認められ、計画の最終年度は2026年度末に変更されています。
花咲線アクションプランの実施内容
花咲線の沿線自治体とJR北海道が協働で実施してきた、アクションプランの取り組みを紹介します。
クラウドファンディングを活用した広報活動
根室市では、「地球探索鉄道花咲線」というプロモーション事業を進めています。具体的には、ウェブサイトやポスターなどで沿線の魅力を発信し、利用促進を図ります。この事業の予算は、クラウドファンディングで募集。2025年末までに、4億円近くの寄付が集まりました。ただし寄付金は、JR北海道の赤字補てんには使われていません。
スマホアプリで普通列車を観光列車に
地球探索鉄道花咲線の一環で、スマートフォンのアプリを活用して「普通列車を観光列車にする」というユニークな取り組みを実施しています。これは、列車が沿線の見どころを通過する際にスマートフォンの音声ガイドアプリを起動すると、GPSで位置を認識して自動的にガイドが始まるというサービスです。
当初は観光列車で運用する想定でしたが、このしくみであれば定期列車でも活用できます。デジタルの活用で、観光列車を走らせなくても「おもてなし」を提供できるわけです。音声ガイドは日本語のほか英語、中国語、韓国語の4カ国語に対応しています。

出典:JR北海道「いつもの列車で観光気分~花咲線のあじわい方~」
定期列車に観光客向けの指定席を導入
これも地球探索鉄道花咲線の一環で、定期列車の一部を改装。海側のボックスシートに指定席を導入して、増収を図ります。モニターツアーで実施したアンケート調査によると、景色や車窓の満足度が高く、利用者の76%が「また利用したい」と回答しています。
指定席の利用者数は1便あたり平均で、根室発が11.0席、釧路発が13.8席でした(2023年度)。また2024年度には、花咲線が乗り放題になるフリーパスも販売。予算内で用意できた約1,200枚が完売しています。
高齢者と高校生への運賃助成
根室市など一部自治体では、高齢者優待乗車券を交付しています。指定区間を定額で何度でも乗車できるフリーパスで、2019年度から4年間で23,528回の利用があったそうです。
また根室市では2023年度から、根室高校への通学定期代を全額助成しています。
通学バス運行実験
根室高校に通う学生を対象に、落石駅からの直行バス運行実験を実施。JRの通学定期券を持っていれば誰でも利用できるようにしました。上記の定期運賃助成を使えば、実質無料です。
実証実験の結果、朝(往路)はほぼ全員がバスを利用して通学。1日あたりの利用者数は、平均で21.0~23.8人でした(2023年度)。
その他の取り組み
- 中部・関西の旅行会社へのプロモーション
- サイクルトレインの運行
- 長期滞在者向けのモニターツアー実施
- 茶内駅にバス待合所と公衆トイレを地元自治体が設置
- 沿線の幼稚園・保育園の体験乗車
- JR北海道主催のイベント「ヘルシーウォーキング」を、地元イベントに合わせて実施
- 札幌駅や東京都内で花咲線沿線観光PRを実施
- 沿線中学生による列車乗客へプレゼント
…など
花咲線の廃止を防ぐには?
2019年度から始まった花咲線のアクションプランですが、利用者の減少に歯止めがかからないのが現状です。
赤字額も、施設の維持・修繕費や管理費が増加傾向にあり、減っていません。沿線自治体は、利用促進などの取り組みに年間約2,500万円(2024年度)を投じていますが、JR北海道の収支改善にはつながっていないようです。
■花咲線の目標値との比較

参考:JR北海道の各年度の線区別利用状況をもとに筆者作成
ただ、JR北海道は「アクションプランの目標達成状況のみで存続・廃止を決めることはない」と沿線自治体に伝えています。鉄道の価値は「利用者数」「収支」といった定量的な指標だけでは図れないからです。
そこで協議会では、沿線住民800人(高校生は除く)にアンケート調査を実施。花咲線の利用状況や今後の利用動向などから、定性的な指標も調べることになりました。具体的には、花咲線の利用頻度や重要性などをヒアリングしています。その結果は、以下の通りです。
■利用頻度

■公共交通の重要度

利用頻度をみると、週2日以上利用する人はわずか0.4%、およそ4人に3人が「まったく使わない」と回答しています。その一方で、重要度に関する質問では「とても重要」が44%、「まあ重要」が34%と回答。あわせて8割近くの人が、鉄道の重要性を認識しています。花咲線が重要な存在だとわかっているけど、実態としては利用されていないという矛盾が、改めて示された形です。
協議会が実施したこれまでの取り組みだけで、花咲線を存続させるのは難しいでしょう。現実的には、国の支援も必要です。「北方領土との交流で国策上重要な路線だから、国が支援すべき」という意見もネット上で散見されます。しかし、花咲線には「生活交通」「観光施策」の役割もあり、沿線地域に多大な便益を与えていることも事実です。国の支援を得るには、地域にも覚悟が求められます。
アクションプランの総括的な検証と抜本的な改善方策を国に報告する期限は、2026年度末です。国の返答次第では、花咲線の「あり方」の議論を始めることになるかもしれません。花咲線の価値を改めて検証し、国の支援を得るための建設的な議論を進めることも大事です。
花咲線の関連記事
※JR北海道のアクションプランについては、以下のページで解説しています。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

参考URL
当社単独では維持することが困難な線区について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161118-3.pdf
路線の必要性に係る検討・分析報告(釧路市)
https://www.city.kushiro.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/006/041/000116512.pdf
花咲線存続に係る検討・分析報告書(根室市)
https://www.city.nemuro.hokkaido.jp/material/files/group/2/hanasakisenhoukokusyo.pdf
鉄道WT報告を踏まえた関係機関の取組(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/1/1/0/5/4/0/9/4/_/290731shiryou2.pdf
JR北海道の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247327.pdf
地域の皆様との連携(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/alignment.html
アクションプラン総括的検証報告書(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/verificationreport_03.pdf
花咲線(釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/executionplan_02.pdf
事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画 検証報告書(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/v_report_2024_02.pdf
日本最東端の鉄路を守ろう!「地球探索鉄道花咲線」プロジェクト(ふるなび)
https://fcf.furunavi.jp/Project/Detail?projectid=231
