週刊!鉄道協議会ニュース【2024年5月26日~6月1日】

米坂線の小国駅 協議会ニュース

今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、米坂線の復旧検討会議でJR東日本が初めて「復旧後の運営方式」を示したニュースや、美祢線の復旧をめぐりJR西日本が「自社単独での復旧および復旧後の運営は困難」と公表したニュースなどを紹介します。

JR東日本が米坂線復旧後の運営方式を初提示「単独運営は困難」

【2024年5月29日】JR東日本は、豪雨災害で長期不通となっている米坂線(今泉~坂町)の復旧後の運営方式について、初めて言及しました。JR東日本は、前回の米坂線復旧検討会議で沿線自治体が提案した利用促進の内容を受け、その効果をシミュレーション。その結果、利用促進をおこなっても効果は限定的だったことから、持続可能な公共交通を維持するための運営方式を示しました。

具体的には、「(1)JR東日本の単独運営」「(2)上下分離方式への移行」「(3)第三セクターなどへの移管」「(4)廃止・バス転換」の4案です。この提言に対して沿線自治体は、被災前と同じく「JRが運営してほしい」と要望。これに対してJR東日本は「鉄道を安定運行するには事業者の努力だけでは難しい」という考えを伝えています。

今後は、4つの案を軸に議論を深め、最終的な復旧案を決めていく予定です。

【解説】なぜJR東日本は「単独運営」を選択肢に入れたのか?

米坂線の未来について、上下分離や三セク移管、さらには廃止・バス転換まで示唆したJR東日本。ただ、4案のなかで筆者が気になったのは(1)の「単独運営」をJR東日本自身が提案ことです。この復旧検討会議でJR東日本は、「自社単独で運営するのは困難」と何度も伝えています。それなのに、なぜ(1)の単独運営を選択肢に含めたのでしょうか。

理由のひとつとして考えられるのは、「沿線自治体が利用促進策を真剣に検討してくれたこと」が挙げられます。今回のシミュレーションでは「効果は限定的」という結論になりましたが、鉄道であれバスであれ公共交通を維持するには利用促進の検討が重要です。これについてJR東日本の新潟支社長は、4月18日の定例記者会見で「沿線自治体にとって重要であり必要な路線だという思いは感じられた」と述べています。JR東日本は、こうした沿線自治体の姿を評価し、あえて(1)を選択肢に含めたのではないかと推測されます。

ただ、もうひとつの理由として「復旧協議と鉄道の『あり方』協議は別だ」という沿線自治体の要望に応えるために、(1)を入れざるを得なかったとも考えられます。

2022年8月の被災直後、JR東日本は「復旧協議と鉄道のあり方の協議は分けて進める」という考えを国土交通省に伝えています。その考えが山形・新潟の両県知事にも伝わり、沿線自治体のあいだでは「別協議」という認識が広まりました。(2)~(4)の選択肢は「あり方の協議」も同時に進めるため、沿線自治体からの批判を避けるうえで、(1)を選択肢に含めたのかもしれません。

とはいえ、沿線自治体が(1)を求めるのは容易に想像できますし、実際に検討会議でも「被災前と同じくJRに運営してほしい」という声が挙がりました。JR東日本は今後、それぞれの選択肢について議論を深めていくとしており、(1)には何らかの条件を付けるものと思われます。

あるいは、(1)を求める沿線自治体と、(2)~(4)を主張するJR東日本で話し合いがまとまらず、国の再構築協議会に持ち込むというストーリーも考えられるでしょう。いずれにせよ、JR東日本としては自治体の出方を見て、復旧の方向性を決めるのではないかと推測されます。

※沿線自治体とJR東日本が協議する「米坂線復旧検討会議」のこれまでの流れは、以下のページで解説しています。

その他の鉄道協議会ニュース

自社単独の運行は困難 – JR美祢線の復旧をめぐりJR西日本が表明

【2024年5月29日】2023年の豪雨災害の影響で長期不通となっている美祢線について、JR西日本は「自社単独での復旧は困難。復旧しても持続的な運行も単独では困難」という考えを、JR美祢線利用促進協議会の総会で示しました。そのうえで沿線自治体に対し、地域にふさわしい公共交通を検討する「新しい協議の場」の設置を求めました。

この協議会では、復旧後の利用促進策を検討してきたワーキンググループの報告がおこなわれていました。JR西日本もワーキンググループに参加していますが、利用促進策を実施しても輸送密度は2,000人/日には満たないという予測結果から「大量輸送という鉄道の特性が発揮できない」と指摘。復旧をも前提としない、美祢線の「あり方」の協議を求めました。

JR西日本の要望に対して、沿線自治体は7月にも協議会の臨時総会を実施し、新しい協議の場を設置するか検討する予定です。

※美祢線の災害復旧に関する沿線自治体とJR西日本の協議の流れは、以下のページで解説しています。

阿武隈急行のあり方をめぐり宮城県が検討開始

【2024年5月31日】宮城県は、阿武隈急行の経営改善に向けて、代替交通への転換を含めた具体的な検討を進めると公表しました。阿武隈急行のあり方をめぐっては、利用者の多い福島県側は鉄道を維持する方針ですが、宮城県側はこれまで態度を保留にしていました。

この日開かれた「阿武隈急行線在り方検討会」で、宮城県は「ディーゼル車への置き換え」「BRTへの転換」「バス転換」「BRTとバスの併用」の4案を提示。それぞれの案について、運行主体やルート・ダイヤ案、沿線地域に与える影響などを検討し、既存の鉄道維持と比較したうえで10月までに方針を固めるとしています。

宮城県の線区は、あぶくま~槻木の28.1km。検討結果次第では、廃止になる可能性も出てきました。

※阿武隈急行の経営状況や沿線自治体の協議の流れは、以下のページで解説しています。

JR京葉線の快速列車 9月から「異例の復活」

【2024年5月30日】JR東日本は、今春のダイヤ改正で廃止された京葉線の快速列車を、9月に復活させる改正案を公表しました。朝夕の快速が4本復活する予定です。

京葉線の快速廃止問題をめぐっては、千葉県や千葉市などの沿線自治体が異論を唱え、JR東日本に要望書を提出しています。また、千葉市が4月に実施した利用者アンケートによると、通勤通学時間が増えるなど「悪い影響がある」と回答した人が、外房・内房線で87.2%、千葉市民で84.1%という結果に。沿線地域からの「転居を予定している」と回答した人もいたそうです。

JR東日本は「私たちの考えに至らない点があった」と陳謝。一度廃止になった列車が沿線自治体の声で復活するという、異例の措置になりました。

富山地方鉄道「みなし上下分離」を要望

【2024年5月28日】富山地方鉄道は2024年3月期の決算会見で、沿線自治体に対して「みなし上下分離方式を念頭に支援をお願いしたい」という考えを示しました。2023年度の決算は、鉄道事業の赤字額が約10億円。燃料価格の高騰など経営環境はいっそう厳しくなる見込みで、富山地方鉄道は沿線自治体に支援を求めていました。

これに対して沿線自治体は、富山地方鉄道の持続可能な運営形態を検討する協議会を今夏に設置する予定です。北日本新聞によると、「上下分離方式」「みなし上下分離方式」「別事業者への移管」の3案を軸に、富山地方鉄道の「あり方」を協議すると報じています。

JR大船渡線で観光ツアーの実証実験

【2024年5月28日】岩手県一関市とJR東日本は、大船渡線の利用促進の一環で観光ツアーの実証実験を実施します。このツアーは、昨年実施したモニターツアー参加者の意見などをもとに企画。今年は「全国地ビールフェスティバル(一関市)」の開催にあわせて、8月25~26日に実施します。ツアーでは、気仙沼市の魚市場などの見学も予定しているようです。

一関市では、観光ツアーの実証実験を通して大船渡線の効果検証をおこなうとしています。なお、2024年10月にも別のツアーを予定しているそうです。

※参考:一関市「JR大船渡線利用促進事業を実施します」

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