2023年10月に改正地域公共交通活性化再生法が施行され、鉄道事業者に対する国や自治体の支援が手厚くなりました。一方で、事業者が経営に苦しんでいるにもかかわらず、協議が進まない地域も少なくありません。とくにJRの沿線地域では、知事や市町村長などが強く反発している印象があります。
ローカル線の存続・廃止協議で、自治体はなぜJRと対立するのでしょうか。そこには「JRや国の考え」と「自治体の考え」の違いに、原因があるようです。その違いを深掘りするとともに、互いが連携するための方法を考察します。
そもそもJRのローカル線で生じている問題とは?
改正地域公共交通活性化再生法の施行後、JR各社は沿線自治体に「鉄道のあり方」について協議を申し入れることが増えました。
そもそもJR各社は、なぜローカル線をめぐる協議を申し入れるのでしょうか。「赤字だから」と収支採算性だけで捉える方も多いですが、ローカル線の赤字問題は半世紀以上前の国鉄末期からある話です。今になって、赤字という理由だけで協議を申し入れているわけではありません。
JR各社が協議を申し入れるのは、ローカル線に以下のような問題が生じているからです。
利用者の減少
JRが発足して約40年の間に、ローカル線の沿線地域では少子化・過疎化・モータリゼーションが進み、鉄道の利用者は減り続けています。それでもJR各社は、一定の利用者がいる線区を赤字でも維持してきました。
しかし、他の交通モードで輸送できるくらい減少した線区では「大量輸送という鉄道のメリットを発揮できない」として、鉄道のあり方の協議を申し入れています。
災害リスクの増大
豪雨や台風、大きな地震など、近年は大規模な災害が増えています。とりわけローカル線が走る地域では被害が拡大しやすく、JR各社は被災するたびに復旧工事や代行輸送手段の手配などに追われます。
これらに必要な費用は原則、事業者(JR)の負担です。ただ、復旧費用が巨額で、かつ代行バスで輸送できるほど利用者の少ない線区では、負担を軽くするために災害復旧に関する国の補助金の活用を検討します。ただし、補助金制度を活用できるのは自治体のみ。さらに、補助を受けるには被災路線の経営改善も求められます。
そこで、費用負担をめぐる協議とあわせて「鉄道のあり方」の議論を始めるケースが増えているのです。
人材不足(主に現業部門)
人材不足の問題は、バスやタクシーだけでなく鉄道業界にも影響を与えています。とくに保線などをおこなう現業部門は、JR各社でも不足気味です。最近では、日中の運行を取りやめて保線作業を実施するなど、労働環境の改善に努める事業者も増えています。
ローカル線はトンネルや橋梁といった構造物が多く、人員を割かれがちです。限られた人材を割り振るうえで、JR各社はローカル線への対応に苦慮しているのです。なお人材不足について、JR九州は次のような実情を語っています。
よく九州では「JR九州であれば人は採れるでしょう」と仰られるのですが、決してそんなことはございません。非常に人材確保に苦労しているところです。
出典:第2回鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会(第2期)議事概要
例えば、エントリーシート、以前、私も人事をやっておりましたが、その当時は1万件近い枚数(の申し込み)がきておりましたが、今では千数百です。15%位に減ったという感覚でして、学生数そのものが減っているということもありますが、熾烈な(採用)競争があるという状況です。
現業部門だけでなく、運転士不足も深刻です。2024年にはJR四国が、運転士不足を理由に減便したこともありました。人口減少が今後も進む見通しのなかで、ローカル線を多く抱えるJR各社にとって人材確保も頭痛の種なのです。
■JR各社の社員数の推移

参考:1987年は「鉄道統計年報」のデータ、2025年は「JR各社の会社概要(ウェブサイト)」をもとに筆者作成
JRローカル線問題に対する自治体の主張
ほかにもさまざまな課題からJR各社は、沿線自治体と一緒に解決策を探ろうと協議を申し入れています。しかし、その申し入れを拒む自治体は少なくありません。なかには、第三セクターや中小私鉄には支援するのに、JRには「支援したくない」と露骨な態度を示す自治体も散見されます。
自治体はなぜ、JRへの支援を拒むのでしょうか。いくつかの主張を見ていきましょう。
黒字事業者だから
自治体が第三セクターなどの鉄道事業者に支援するのは、「事業者が赤字だから」という大義名分があります。
一方でJR旅客6社のうち、本州3社(東日本・東海・西日本)と九州は数百億円から数千億円もの利益を得る黒字事業者です。しかも、協議を申し入れているローカル線の赤字額は、年間で数億円から数十億円程度。「JRは儲けているのに、なぜ赤字ローカル線を維持できないのか」という疑問が、支援を拒む理由のひとつです。
実際に、芸備線(備中神代~備後庄原)の再構築協議会で、広島県は以下のような主張をしています。
JR西日本は、内部補助によるローカル線の維持が難しくなったとのことだが、本年度の業績予想は連結経常利益が1460億円で、民営化当初と比較して大きく伸びており、こうした経営状況を踏まえ、なぜ維持できないのかを説明いただきたい。
▲注:文中の「本年度」とは、2023年度のこと。
出典:国土交通省「第1回芸備線再構築協議会 議事概要」
JRが勝手に決めた線区で協議を申し込まれるから
JR東海を除く旅客5社は、輸送密度が2,000人/日未満の「線区」の利用状況や収支を毎年公表しています。この「線区」について、疑問に感じる自治体は少なくありません。
一例として和歌山県では、紀勢本線の新宮~白浜の線区で鉄道のあり方をめぐる協議をしています。この状況に和歌山県の宮崎知事は、JR西日本が勝手に決めた線区で協議を進めることに疑問を呈しています。
(国鉄改革の時に)国費を投入して経営を安定させることが大事だということで、内部の補助によってローカル線を維持していくことも、視野に入れてやったということであります。
出典:和歌山県「知事記者会見 2025年11月25日」
そういうことが基本となったのにも関わらず、JR西日本さんは自分たちの勝手な区間(新宮~白浜)で、収支や密度っていうのを計算されて存廃議論をされることは、県としては決して受けれることができないと思ってまして、上下分離とかいう話でもないのかなと思います。
もっとも和歌山県は「乗らなければ意味がない」として、利用促進に関してはJR西日本と連携して取り組む考えを示しています。なお和歌山県は2026年度より、和歌山電鉄(貴志川線)で上下分離方式を導入しています。
そもそも国が作った組織だから
JRという組織を作ったのは国です。国は国鉄改革の際に、黒字路線の利益でローカル線の赤字を補てんする「内部補助」により、鉄道ネットワークを維持できると考えていました。
これを実現するために国は、利用者の少ない83線もの不採算路線を廃止にし(一部は第三セクターに移行)、約37兆円もの国鉄債務をJR各社へ継承させず国民負担に転換させ、さらに三島会社(北海道・四国・九州)には1兆2,781億円もの経営安定基金を託したわけです(経営安定基金は、約37兆円の国鉄債務の一部に含まれる)。
こうしたスキームを作ったのは国ですから、経営が立ち行かないJRのローカル線は「国が面倒を見ろ」と考える自治体は多いのです。
また、鉄道ネットワークの観点から特定線区の存廃を一部の自治体だけで判断できないとして「国が必要な路線を明示すべき」といった意見も、多くの自治体から聞かれます。
「内部補助」に関するJRと自治体の考えの違い
沿線自治体の主張をまとめると、「JRは儲けているから内部補助で維持できるでしょ?」という考えが強く表れていることがわかります。
確かに、上場した4社は毎年多額の利益を得ています。またJR北海道と四国は、経営安定基金をはじめ国からの手厚い支援を得ています。その利益でローカル線の赤字を補てんすることにより鉄道ネットワークを維持するという考えは、1980年代の国鉄改革時に国が示した「JRの経営モデル」でもありました。事実、JR各社は内部補助で赤字路線を40年近く維持してきたのです。
ただ、この考えはあくまでも「経営モデル」です。「内部補助で永久に国鉄路線を維持しなければならない」と法律で決まっているわけではなく、社会環境が変化すれば通用しなくなることもあります。
その社会環境の変化が、少子化・過疎化・モータリゼーションの進展であり、「利用者の減少」というかたちで顕在化しました。JRからみれば、他の交通モードでも輸送できるほど減った線区に「なぜ内部補助をしてまで、鉄道を維持しなければならないのか?」と疑問に感じるわけです。
これに対して自治体からは「国鉄から引き継ぐ際に不採算路線を守ると約束したのではないか」と、社会環境の変化よりも40年前の約束を優先する声が聞かれます。なかには「企業努力が足りない」「公共性を無視して利益ばかり優先している」と、不信感を抱く自治体も少なくありません。
とはいえ、1本あたり数人しか乗らない線区を半永久に維持できるほどの体力は、JR各社にはありません。しかも、こうした路線は年々増え続けています。「黒字の一部をうちによこせ」と要望する地域は日本中にあり、そのすべてに応えると数千億円の利益があっても足りません。
それに、JR各社の利益は赤字ローカル線の維持だけに使われているわけではありません。JR東日本とJR九州は、内部補助について以下の見解を示しています。
(JR東日本)
内部補助につきましては、ネットワークという観点で鉄道事業をしているため、すべてを否定するものではありませんが、過度な内部補助は、ご利用が多い線区に行うはずの設備投資やサービス向上を抑制することにもなるため、公平性の観点から問題だと考えております。(JR九州)
出典:第2回鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会(第2期)議事概要
今後の人口減少等を踏まえた場合、現状のままでは内部補助機能の低下が不可避であると考えております。本来、投資すべきところ、お客様の多いところにきちんと投資をすべきだと考えております。
JR各社が黒字路線などで得た利益は、黒字路線の維持にも使われます。利用者が増えた路線には増便や増結が必要ですし、そのために車両や運転士を増やしたり駅を改良したりといった投資も必要です。赤字路線にも黒字路線にも公平に投資(または赤字補てん)をしていくことで、JR各社はサービスの維持・向上に努めてきたわけです。
しかし、利用者が極端に少ない線区に「過度な内部補助」を続けると、全体のサービスが低下するおそれがあります。ラッシュ時間帯に増便・増結をしたくても「投資できない」という状況は、赤字黒字に関係なく各地でみられるJR各社共通の課題です。混雑を嫌ってマイカー通勤にシフトする人も多いでしょう。サービスの低下は利用者の減少につながり、さらに投資しづらくなる負のループに陥ります。
災害リスクが高まる近年では、被災路線の復旧や代行輸送の確保といった負担も増えています。そのリスクも、投資に「待った」をかける一因です。
こうした状況に「内部補助はすでに破たんしている」として、「外部補助にも頼らなければ、赤字路線は維持できない」と指摘する有識者もいます。ここでいう外部補助とは「自治体などの支援」のことです。
このように「内部補助をどこまで続けるべきか」というラインの引き方に、JR各社と自治体のあいだで異なるのが、両者を対立させる一因になっています。
「JRは廃止にしたがっている」と警戒する自治体
JRと協議すれば「廃止にされる」と警戒する自治体は、少なくありません。輸送密度や赤字額といったJR各社の提示するデータが「廃止への布石」という疑念を抱かせ、建設的な議論に入る前に「感情的な対立」が生じてしまう協議会も散見されます。なかには「JRは最初から廃止を決めてかかっている」と、疑心暗鬼になっている自治体もあるでしょう。
確かに、結果的には廃止になる路線があることも事実です。だからといってJR各社は、はじめから「廃止にしてやる」と考えて協議を申し入れているわけではありません。JR各社が望んでいるのは「地域に必要とされる公共交通へ再構築すること」です。
現在、JR各社が協議を申し入れている路線や線区の大半は、利用者が極端に少ない線区です。沿線住民の多くが利用せず、鉄道が公共交通機関としての役割を十分に果たせていない線区でもあります。その現実に目を向け、「どうすればもっと利用してもらえるのか」「地域のニーズに応え貢献できるか」を沿線自治体と議論したいわけです。
話し合いの結果「鉄道が必要」という結論に至れば存続させるしくみを一緒に考え、廃止の場合は代替交通の構築に最大限協力する。それが、いまのJR各社に共通するスタンスです。
芸備線再構築協議会をはじめ、利用者の少ない線区を多く抱えるJR西日本は、以下の見解を述べています。
ローカル線問題については、あくまでも必要な路線であれば、我々も維持させていただく責務もあると思うのですけども、そうしたことを含めてご議論いただいた上で、地域で方向性を出していただければと思っています。また、仮に別モードが良いということであったとしても、私どもとしては、逃げるつもりはございません。地域とコミットしながら、我々としても地域価値を高める取組みについては、これからも引き続き行っていきたいと思っています。
出典:国土交通省「第4回 鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会(第2期)議事概要」
こうしたJR各社の意図を無視して「鉄道の存続ありき」で話を始めると、JRと意見が対立し、協議が迷走します。
また、一部の自治体では「鉄道がなくなると街が廃れる」という考えから、鉄道ありきの主張を繰り返すところも散見されます。確かに、鉄道が廃止されると地域の衰退に拍車をかけるのは事実でしょう。しかし、鉄道に固執したところで利用促進が成功しなければ利用者は減る一方です。いずれ鉄道もバスも共倒れし、かえって地域を衰退させるリスクもあります。
それを防ぐためにJR各社は、鉄道だけでなくBRT(バス高速輸送システム)や路線バス、デマンド交通なども含めて、地域の需要に見合う「持続可能な移動手段」の議論も申し入れます。これが自治体からみると「廃止したがっている」と受け取られ、議論が始まらなかったり迷走したりする協議会も多いのです。
バラバラに進めた「まちづくり」と「交通政策」
「鉄道がなくなると街が廃れる」と危機感を抱く自治体のなかには、鉄道を絡めたまちづくりに努めるところもあります。
一例として、JR烏山線が走る那須烏山市(栃木県)では、市役所新庁舎を烏山駅近くに移設する計画を進めています。駅周辺を再開発することで賑わいを創出するとともに、烏山線の維持につなげようという考えです。なお那須烏山市では、職員の出勤時間を鉄道の時刻に合わせたフレックスタイム制を導入したり、通学定期券の購入費を補助したりと、ソフト面での利用促進にも力を入れています。
鉄道の利用者を増やす(減らさない)ためには、まちづくりと交通政策を一緒に検討することが重要です。しかし、「交通(とくに鉄道)は事業者任せ」という考えから、まちづくりと交通政策を分ける自治体は少なくありません。
郊外に住宅地を造成したり、幹線道路沿いに大規模商業施設や公共施設を建設したりと、マイカー移動を前提としたまちづくりを進めてきた地域もあるでしょう。道路中心のまちづくりを進める一方で、JRの駅周辺は「知らん顔」をしてきたツケが、公共交通利用者の減少の一因になっているのです。
もっとも、駅前を再開発したくても「地権者が多い」「財源がない」などの理由で進まなかった地域もあります。だからといって、地権者が少なくコストの安い道路をやみくもに作れば、鉄道をはじめ公共交通の利用者は減っていきます。
こうしたまちづくりを計画する際には、公共交通事業者との連携が不可欠です。ただ、実際には事業者と話し合う場を持たれるケースは少なかったようです。これに関してJR西日本は次のように語っています。
従来、鉄道事業に関しては、私どもと自治体との間での情報共有の意識が低く、対話できる環境が進んでなかった、これは事実です。これは、私どもにも責任があったと思っています。現在は、いろいろな形で自治体との対話を進めております。そうした、任意の協議会であっても、モビリティの最適化といった観点では鉄道に関する議論が不足していたと思っております。
出典:国土交通省「第2回 鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会(第2期)議事概要」
JRからみると、「モビリティの最適化について話し合いましょう」という話を切り出せば、沿線自治体から非難されるのは明白でしょう。「まちづくりに協力します」といっても、JRにできることは限られますし、地方におけるまちづくりのノウハウもJRにはありません。
一方で沿線自治体からみると、鉄道の活用法を考えてはいるものの予算もノウハウもなく、JRに「言い出せない」「要望しても断られるだろう」と近寄りがたい雰囲気があったのかもしれません。
こうした互いのコミュニケーションロスも、公共交通と不一致のまちづくりを進める一因となり、その結果「鉄道を使わなくてもよい地域を量産してしまった」と考えられます。
対立ではなく連携することがローカル線を残す近道
ローカル線の存廃をめぐるJRと自治体の対立は、結局のところ「両者がコミュニケーションを図ってこなかった」ことが大きな原因ではないかと、筆者は考えています。
もっとも「観光列車を走らせたいので協力してほしい」など、互いにメリットがあるポジティブな話には両者が協力してきたでしょう。しかし「路線の見直し」といったネガティブな話になると、互いがけん制しあい両者の課題解決を先送りにしてきました。
その結果、JRは「道路中心のまちづくりを進める自治体」に不満を募らせ、また自治体は「儲けているのにサービスを低下させるJR」に不満を募らせるという、互いの不信感を高めてしまったと考えられるのです。
とはいえ、自治体とJRが対立したままでは赤字ローカル線の問題は解決しません。互いの課題を解決するために連携し、建設的な話し合いをすることが大切です。
近年のJR各社は、自治体主催のまちづくり協議会などにも積極的に参加しています。ローカル線の存続には、「鉄道を利用しやすいまちづくり」が重要なカギを握ります。ただ、まちづくりを決めるのはJRではなく自治体の役割です。つまり、自治体がまちづくりの明確なビジョンを示さなければ、JRとして何ができるのかを提案できないという一面もあります。
たとえば、駅を中心に機能を集約するコンパクトシティ計画を自治体が掲げれば、JR各社も鉄道を存続させるために協力するでしょう。逆に、道路中心のまちづくりを進めるのであれば、BRTや路線バスなどを活用した公共交通の再構築を提案することになります。
「いまさら鉄道を中心としたまちづくりを考えるのは無理」と、あきらめる自治体があるかもしれません。しかし、自治体が果たす使命は鉄道を残すことではなく「住民の生活の質を上げるために公共交通をブラッシュアップすること」です。いまある交通資産と財源をフル活用して、多くの住民に使ってもらえる公共交通に再構築する。それがJR各社の議論したいことであり、持続可能な地域発展のために必要な協議ではないでしょうか。
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参考URL
国土交通省「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会について」
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk5_000011.html

