鹿島臨海鉄道は、貨物専用の鹿島臨港線と旅客専用の大洗鹿島線を運行する第三セクターの鉄道事業者です。このうち鹿島臨港線は安定した収入が得られているものの、大洗鹿島線は利用者の減少により運賃収入が減少。全体の収支も赤字経営です。
沿線自治体は、大洗鹿島線の利用促進をはじめ、さまざまな支援をおこなっています。具体的な取り組みの紹介を中心に、鹿島臨海鉄道の将来について考えてみます。
鹿島臨海鉄道の線区データ
協議対象の区間 | 大洗鹿島線 水戸~鹿島サッカースタジアム(53.0km) |
輸送密度(1987年→2019年) | 2,443→1,804 |
増減率 | -26% |
赤字額(2019年) | 2,743万円 |
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。
協議会参加団体
水戸市、大洗町、鉾田市、鹿嶋市、潮来市、茨城県
利用者減少が続く鹿島臨海鉄道の大洗鹿島線
鹿島臨海鉄道の2路線のうち、先に開業したのは鹿島臨港線です。沿線工業地帯の貨物輸送を目的に1970年11月に開業した鹿島臨港線は、JR貨物との共同営業が多く、業務受託料を中心に安定した運輸雑収があります。コロナ禍でも新規顧客を獲得しており、売上は減っていません。今後モーダルシフトが進めば、さらなる飛躍も期待できるでしょう。
一方の大洗鹿島線は、もともと国鉄鹿島線の延伸区間として開業する予定でした。しかし、国鉄の財政悪化により北鹿島(現・鹿島サッカースタジアム)~水戸間の運営を断念。沿線自治体などと協議した結果、鹿島臨海鉄道が運営を担うことが決まります。こうして1985年3月に、大洗鹿島線が開業。翌1986年には沿線自治体が、鉄道の維持・活性化を目的とした「大洗鹿島線を育てる沿線市町会議」という協議の場を設置します。
協議会では、観光案内板や駅待合室の設置、駅周辺の美化活動、パークアンドライドの設置など、大洗鹿島線の利用促進に努めます。その甲斐もあって利用者数は増え続け、1992年度には年間で約359万人、1日あたり1万人近い利用者がいました。ただ、この年をピークに利用者数は減少に転じます。ローカル線でよくある「モータリゼーションの進展」「少子化」「過疎化」などが、その理由です。
経営的には、1994年に赤字転落。鹿島臨海鉄道はサッカー観戦列車の運行による増収や、ワンマン化などの経費削減に努めると同時に、沿線自治体も観光誘客などの利用促進で支援します。その結果、2001年には黒字に回復。しかし、利用者の減少は一貫して続き、2009年度には再び赤字に転落してしまいます。なお、旅客輸送量は約210万人、1日6,000人(2015年度)を割り込むまで減っていました。
■貨物・旅客別の運輸収入の推移(万円)
鹿島臨海鉄道のこれまでの取り組み
沿線自治体の協議会と一緒に、鹿島臨海鉄道でおこなってきた主な利用促進の取り組みを紹介します。
- イベント列車の運行(納涼ビール列車、貨物線で旅客臨時列車の運行など)
- 企画乗車券の販売(ねんりんキップ、サッカー観戦回数乗車券など)
- 貸切列車利用者への助成金
- パークアンドライド(神栖駅)
- サイクルトレインの運行
- イベント実施(鉄道マン体験学習、田んぼアートツアーなど)
- グッズ販売
- アニメとのコラボレーション(ラッピング列車の運行など)
- ボランティア団体による美化活動
- フォトコンテスト
…など
鹿島臨海鉄道では、イベント列車が充実しています。2009年からは、ボージョレ・ヌーボーの解禁にあわせた「ワイン列車」と「利き酒列車(現在は一番搾り樽酒列車)」を運行開始。さらに2011年8月からは「納涼ビール列車」の運行が始まるなど、車に乗せないことを主眼としたイベント列車を企画しています。
貨物専用線を持つ鹿島臨海鉄道ならではの取り組みが、鹿島臨海工業地帯を走るイベント列車です。地元のイベントと連携した企画で、貨物専用線の鹿島臨港線で旅客列車を運行。普段は目にできない工場風景を楽しめる点が、好評のようです。
近年は、アニメ「ガールズ&パンツァー」のラッピング列車も好評。運行が始まった2016年度には定期外旅客が3%増加し、運賃収入の増加に貢献しています。
企画乗車券は、70歳以上限定の全線フリーきっぷ「ねんりんキップ」や、サッカー観戦回数乗車券などを展開。JR東日本と提携した企画乗車券も扱っています。このほか、貸切列車の利用者には運賃の一部を助成したり、サイクルトレインを運行したりと、さまざまな施策で利用促進を図っています。
利用促進だけで大洗鹿島線の経営は改善するか?
さまざまな利用促進策を展開するものの、鹿島臨海鉄道の経営は不安定な状況が続いています。車両や鉄道施設の老朽化も進み、維持修繕は年々増加。鹿島臨海鉄道の経営を苦しめる一因になっています。
■鹿島臨海鉄道の経常損失の推移(万円)
茨城県や沿線自治体は2015年度より、安全輸送に関する設備投資を目的とした支援を開始。車両検査やトンネル・橋梁の改修などの費用に充てられています。しかし、沿線地域の少子化・過疎化は今後も続くとみられ、利用者が増える見込みはありません。
そこで茨城県は2016年に、鹿島臨海鉄道の経営改善に関する新たな調査研究委員を設置。大洗鹿島線の利用促進や地域活性化策などを検討することになりました。調査研究委員の構成メンバーは、茨城県と沿線自治体のほか、大学教授などの有識者、さらにJR東日本も参加しています。
この調査研究委員では、大洗鹿島線の利用実態や要望などを聞いた住民アンケートの結果をもとに、「利用促進策でどれだけ収支改善が見込めるか」といった分析もおこなっています。具体的には、増便や運賃改定などの改善により「現在鉄道を利用していない人がどれだけ増え、運賃収支がいくら増えるか」といったこともシミュレーションしたのです。
なお、シミュレーションでは「通勤」「通学」「高齢者(日常移動)」の3つに分類。それぞれの試算結果を算出しています。その結果は以下の通りです。
■利用促進による増加シミュレーション
1日あたりの増加人数 | 年間売上の増額 | |
---|---|---|
通勤 | 60人 | 5,766,840円 |
通学 | 9人 | 648,927円 |
高齢者(日常移動) | 59人 | 3,897,920円 |
参考:茨城県・地方自治研究機構「鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の利用促進による沿線地域の活性化に関する調査研究」をもとに筆者作成
結果を見ると、意外と控えめな数値に見えますが、それでも年間1,000万円以上の売上向上が期待できる結果です。この結果を受けて、沿線自治体は利用促進をさらに強化することで、鹿島臨海鉄道を支援していくことが確認されます。
とはいえ、コロナによる利用者減少、燃料価格の高騰などもあり、大洗鹿島線の経営は厳しい状況が続いています。鹿島臨海鉄道では、2024年10月より約30年ぶりとなる運賃値上げを実施する予定ですが、これにより利用者離れが進む可能性もあるでしょう。利用促進だけでは限界に近づいており、沿線自治体のさらなる支援が求められそうです。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。
参考URL
鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html
大洗鹿島線を育てる沿線市町会議(大洗町)
https://www.town.oarai.lg.jp/cat1/koutsuu/oaraikashimasen/8350/
臨海鉄道の経営―JR貨物との連携推進の提言―(桃山学院大学)
https://www.kansai-u.ac.jp/Fc_ss/center/study/pdf/bulletin013/bulletin013_10.pdf
出資法人等経営評価書(茨城県)https://www.pref.ibaraki.jp/somu/somu/shutshi/documents/2103kasimarintetu.pdf
鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の利用促進による沿線地域の活性化に関する調査研究(茨城県・地方自治研究機構)
http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/004/pdf/h28/h28_02_01.pdf
出資団体改革等の推進について~出資団体の概要~(鹿島臨海鉄道・茨城県)
https://www.pref.ibaraki.jp/gikai/report/kenyushisetsu/04/1-1.pdf