【JR西日本】加古川線の廃止を防ぐには?利用者増でも輸送密度300人台の現実

加古川線の駅 JR

JR加古川線は、兵庫県の加古川と谷川をつなぐJR西日本のローカル線です。このうち西脇市~谷川について、JR西日本は利用者が少ないことなどを理由に、法定協議会の設置を沿線自治体に申し入れました。

その後、JR西日本はこの申し入れを撤回。沿線自治体と一緒に「勉強会」を開き、加古川線の調査・分析から始めることになりました。鉄道の存続・廃止も議論する法定協議会をJR西日本が申し入れた経緯と撤回した理由を解説するとともに、西脇市~谷川の今後について考察します。

JR加古川線の線区データ

協議対象の区間西脇市~谷川(17.3km)
輸送密度(1987年→2024年)1,131→293
増減率-74%
赤字額(2024年)2億5,000万円
営業係数1,758
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と2024年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、2022年から2024年までの平均値を使用しています。

協議会参加団体

西脇市、丹波市、兵庫県、JR西日本ほか

加古川線(西脇市~谷川)と沿線自治体

加古川線などのJR沿線自治体が協議会を設置

加古川線の存廃議論が始まるきっかけになったのは、2022年4月11日にJR西日本が公表した「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」というニュースリリースでした。このなかでJR西日本は、輸送密度2,000人/日未満の線区収支を公表。そのリストに、加古川線の西脇市~谷川も含まれていたのです。

これを受けて、加古川線をはじめ対象線区が複数ある兵庫県では、関係自治体や公共交通事業者、有識者などで構成される「JRローカル線維持・利用促進検討協議会」を設置。同年6月24日に、第1回の協議会を開催します。なお、この協議会には加古川線のほか、山陰本線、姫新線、播但線の沿線自治体も参加しています。

各線区の沿線自治体が一堂に会するなかで、JR西日本は線区ごとの利用状況や経営状況を説明。対象線区は利用者が少なく「鉄道としての特性が発揮できていない」と伝え、地域住民にとって望ましい公共交通を「未来志向で議論したい」と宣誓します。

さらにJR西日本は、地域公共交通ネットワークを維持するには鉄道だと難しいとしたうえで、需要に見合った便利で効率的な交通モードの検討も求めています。

鉄道への愛着や郷愁にこだわり過ぎ、将来の地域公共交通のあり方を議論すると、本質的な問題解決にはならない。地域の公共交通ネットワークは、輸送需要に応じ、最も便利で効率的な交通機関により確保されるべきであり、鉄道にこだわらず、多様な交通サービスを総動員して考える必要がある。

出典:兵庫県「第1回JRローカル線 維持・利用促進検討協議会 主な発言」

これに対して沿線自治体からは、「未来志向」というキーワードに対して賛同の声が挙がります。

加古川線の沿線自治体である西脇市も「自治体もJRと一緒になって考えていかなければならない。県やJRとも力をあわせて、未来志向のものをつくっていきたい」と、JR西日本への協力姿勢を示しています。その一方で「つながってこその鉄道でありネットワークを大事にしてもらいたい」と、廃止前提の話にならないよう牽制もしています。

協議会では、今後の進め方も検討。路線ごとにワーキングチームを設置し、各地域の事情を踏まえた利用促進策を検討することが確認されます。加古川線でも「JR加古川線ワーキングチーム」を設置し、未来志向の取り組みを検討していくことになりました。

ワーキングチームの報告に不信感を抱くJR西日本

ワーキングチームによる検討は、2022年7月からスタート。その結果は、第3回協議会(2023年2月1日)で報告されます。

加古川線の沿線自治体は、通学定期客を中心に日常利用の多い線区であることから、沿線住民の利用を促す施策を提示。定期購入代の補助、トイレや待合スペースの整備、サイクルトレインの運行などの案が出されます。また兵庫県も、これらの施策をバックアップするほか、観光キャンペーンの展開や国に対して支援を要望していくと伝えます。
こうした沿線自治体の報告に対して、JR西日本は不満を感じていました。

第1回協議会でJR西日本は、利用促進だけでなく「利用者の少ない線区では、他の交通モードの検討も必要」と伝えていました。しかし、報告で挙がってきたのは利用促進の資料ばかり。地域にとって必要な交通モードを検証した形跡はなく「鉄道ありき」の内容だったのです。

JR西日本は「沿線自治体と認識を共有できたのは大きな収穫」としながらも、協議の方向性に異議を唱えます。

鉄道を維持することだけを目的とした利用促進策に、違和感と既視感を覚えている。ありがとう運動などのキャンペーンは繰り返し実施してきたが、利用は激減してきた。播但線や山陰線で、輸送密度2000人を5年後に目指しているように、定量的な目標を設定すべき。各委員は、今回提示された取組により、どれほど利用が増えるとお考えであろうか。

(中略)

地域の実際の声を真摯に受けとめ、実態を把握し、データとファクトに基づいた現実的な取組を進めていくべき。

出典:兵庫県「第3回JRローカル線 維持・利用促進検討協議会 主な発言」

山陰本線と播但線のワーキングチームでは、各種取り組みに対する効果として定量的な目標値を掲げていました。しかし、加古川線のワーキングチームは目標値を掲げていません。目標を設定せずに「施策を実施した」という既成事実をつくるだけの自治体の姿勢に対しても、JR西日本は疑問を感じたのです。

懐疑心を抱くJR西日本に対して、沿線自治体は「この協議会は、利用促進の取り組みについて話し合う場だ」「いかに乗ってもらえるかを考えるのが、この協議会の主旨」などと反論します。これに対してJR西日本は、「自治体と連携しながら効果が見込まれるアイデアは実現したい」としながらも、以下の本音を吐露します。

JRとして、対象区間をいきなり廃線にしたいといったつもりは全くなく、利用実態と大量輸送機関の鉄道インフラとのミスマッチをそのままにするのではなく、現実的に考えていきたいというのが本心。
赤字だからということではなく、利用状況からして鉄道としての特性を十分発揮できないということを理解いただきたい。

出典:兵庫県「第3回JRローカル線 維持・利用促進検討協議会 主な発言」

「利用促進を検討する協議会」と考える沿線自治体と、「利用状況から鉄道が適しているか考えほしい」と訴えるJR西日本。最初から協議の方向性が違ったため、議論がかみ合わなくなったのです。

この状況に、協議会を取りまとめる兵庫県は、「決して対立ということではなく、一緒になって鉄道利用者を増やし、地域を活性化していきたいという思いで方向性は同じ」と牽制し合う両者をなだめ、事態をおさめます。

加古川線の法定協議会設置をJR西日本が要望

何はともあれ、ワーキングチームで検討した利用促進策は、2023年度から実行に移されることになりました。

しかし、それから1年と経たない2024年1月。JR西日本は定例会見で、加古川線(西脇市~谷川)の「あり方」を話し合う法定協議会を申し入れる考えを示します。沿線自治体からみると「寝耳に水」の奇襲攻撃だったでしょう。利用促進の取り組みは始まったばかりですし、沿線住民を巻き込んだ取り組みの準備も進めている段階でした。

JR西日本が法定協議会の設置を正式に申し入れたのは、2024年7月16日に開催された加古川線ワーキングチームの会合でした。沿線自治体は、利用促進の取り組みが始まったばかりであることを理由に「もう少し待ってほしい」と懇願します。それに理解を示したJR西日本は「大阪・関西万博が終了する2025年秋まで」と期限を区切り、万博終了時に利用促進の効果が出ていなければ協議を始めたいと提言します。

「万博終了時」で期限を切ったのは、大きなイベントは集客が見込めるチャンスだからでしょう。一般的に、万博などの大きなイベントがあると鉄道の利用者は増えます。それでも加古川線の利用者が増えなければ、「沿線住民に必要とされていない路線」という見方もできるのです。

この提言に、沿線自治体は合意。大阪・関西万博が終了する2025年10月までに一定の効果が現れなければ、法定協議会を設置することで約束します。

加古川線の主な取り組み

西脇市~谷川の存続・廃止協議を阻止するには、万博期間中の利用者数を増やすしかありません。大阪・関西万博の開催期間は、2025年4月から10月までの半年間。この間に、沿線自治体やJR西日本が取り組んだ利用促進の取り組みと結果をまとめました。

臨時列車の増発・特急列車の臨時停車

万博期間中は、1日2往復(4本)の臨時列車を毎日運行。また、福知山線で運行する特急こうのとりを谷川駅に臨時停車させ、加古川線の乗客が乗り継げるように利便性を向上させる実証実験をおこないました。その結果、臨時列車の利用者数は1本あたり平均10.5人、特急列車は0.6人と、厳しい結果で終わっています。

フリーきっぷの販売

加古川線全線が1日乗り放題になるフリーきっぷ「ぶらり加古川線 tabiwa 1Dayパス(デジタルパス)」を、万博期間限定で販売。あわせてデジタルスタンプラリーの開催や、きっぷ提示で沿線の観光施設が無料になる取り組みも実施しました。フリーきっぷの販売枚数は861枚でした。

駅周辺でイベント開催

主に日本へそ公園駅で、万博期間中に地域と連携したマルシェやフェスタを開催。約3,300人が参加し、このうち加古川線の利用者数は680人でした。これらのイベントは、万博閉幕後も定期的に開催しています。

観光施設への二次交通整備

久下村駅・谷川駅と「たんば恐竜博物館」を結ぶ電動バス(グリスロ)を運行。17日間で585人が、バスを利用しました(全員が加古川線を利用したかは不明)。

その他の取り組み

万博期間中に限らず、通年で実施する取り組みにも注力しました。具体的には、通勤・通学定期券の購入費補助、団体利用者に対する運賃助成、利用促進ポスターやグッズの制作、プロモーション動画の制作などです。

万博の取り組みは惨敗でも利用者数は増加

大阪・関西万博の開催期間中に、沿線自治体は30項目の利用促進策を実行しました。しかし、結果は不甲斐ないものでした。臨時列車の乗車人数は1日平均42人、特急列車から加古川線に乗り換える客数も1日数人。イベントでは多くの人が乗車したものの、効果は限定的。いずれの施策も「効果がなかった」と評価されました。
ところが、西脇市~谷川の全体の利用者数は、わずかながら増えたのです。

■加古川線(西脇市~谷川)の輸送密度の推移

加古川線の西脇市~谷川の輸送密度の推移
▲2025年は、4月から10月までの速報値。利用促進を始める前の2023年度(275人/日)と比べて、75人/日も増えた。
出典:JR西日本「加古川線(西脇市~谷川駅間)におけるご利用状況について」をもとに筆者作成

西脇市~谷川の輸送密度は、なぜ増えたのでしょうか。その答えは、定期客数の推移にありました。

■新西脇~久下村駅間の各駅乗車人員

加古川線(西脇市~谷川駅)の各駅乗車人員
出典:JR西日本「加古川線(西脇市~谷川駅間)におけるご利用状況について」をもとに筆者作成

2025年度(4月~10月)の定期客数は121人です。この数値はコロナ前の2019年度(91人)より増加。駅別にみると、黒田庄駅が43人で前年度(23人)と比べて、ほぼ倍増です。本黒田駅なども、年々増加傾向にあります。

定期客が増えた理由のひとつに、自治体が定期券購入費を助成していることが挙げられます。2025年度に助成を受けた人数は、通勤客が20人、通学客が86人の計106人でした。通勤客への助成は2025年度から開始。通学客は、2024年度が61人でしたから25人増加しています。なかには、自動車・自転車から加古川線にシフトした人もいたようです。

ほかにも、団体利用客や社会学習で加古川線を利用する学校などにも運賃を助成しており、2025年度は約1,300人が利用しています(2024年度は約900人が利用)。万博の効果は極めて限定的でしたが、自治体の利用促進の取り組みは成功していたのです。

西脇市~谷川は今後どうなる?廃止を防げるか?

この結果を受けて、沿線自治体とJR西日本は2026年2月5日に、今後について協議。結果として利用者数は増えたことから、JR西日本は法定協議会の申し入れを撤回します。

とはいえ、輸送密度はわずか350人/日。路線バスでも運べる人数です。また、西脇市~谷川の赤字額は2憶5,000万円、営業係数は1,758(2024年度)。JR西日本としては、見て見ぬふりができない状況に変わりありません。

そこでJR西日本は、利用促進効果の持続性などを分析する場として「勉強会」の設置を沿線自治体に提案します。この提案に兵庫県は対応を協議。勉強会で議論する内容などを決めたうえで、2026年度から始める模様です。

JR西日本はもともと「鉄道のあり方」に関する話を求めていたわけですから、勉強会では鉄道を維持するための方法(上下分離方式など)や他の交通モードとの比較なども議論するとみられます。あるいは、有識者を交えて「沿線のまちづくり」を含めた加古川線の活用法も検討されるかもしれません。

西脇市~谷川の鉄路をめぐる議論は、今後さらに活発化しそうです。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【近畿】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
近畿地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf

令和4年度JRローカル線維持・利用促進検討協議会
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/jrlocal.html

JRローカル線維持・利用促進検討協議会
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/jrlokalr5.html

ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf

これまでの利用促進の取組(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/documents/09_r4_dai1kai_jr_siryou5.pdf

(案)JRローカル線の利用促進の取組(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/documents/04shiryou1.pdf

JRローカル線の利用促進の取組 参考資料(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/documents/05shiryou2.pdf

令和7年度の取組結果一覧(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/documents/jrsannkousiryou1.pdf

加古川線(西脇市~谷川駅間)におけるご利用状況について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/251224_00_press_Kakogawaline_goriyoujokyo.pdf

加古川線ご利用状況説明資料(JR西日本)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/nhk02/kakogawasen_wt/documents/siryouiti.pdf

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