兵庫県には、利用者の少ない赤字ローカル線を対象とした「JRローカル線維持・利用促進検討協議会」という組織があります。協議対象路線は、山陰本線の城崎温泉~浜坂など4路線6線区。それぞれの沿線自治体やJR西日本は、利用促進などの取り組みを進めています。
山陰本線では、具体的にどのような施策をおこなっているのでしょうか。沿線自治体が提唱する「交通連合」の内容も含め、山陰本線の廃止を防ぐ取り組みをまとめました。
JR山陰本線(城崎温泉~鳥取)の線区データ
| 協議対象の区間 | JR山陰本線 城崎温泉~鳥取(72.3km) |
| 輸送密度(1987年→2024年) | 城崎温泉~浜坂:4,966→574 浜坂~鳥取:4,878→763 |
| 増減率 | 城崎温泉~浜坂:-88% 浜坂~鳥取:-84% |
| 赤字額 | 城崎温泉~浜坂:9億5,000万円 浜坂~鳥取:7億7,000万円 |
| 営業係数 | 城崎温泉~浜坂:890 浜坂~鳥取:821 |
※赤字額と営業係数は、2022年から2024年までの平均値を使用しています。
協議会参加団体
豊岡市、養父市、朝来市、香美町、新温泉町、兵庫県、JR西日本、但馬観光協議会ほか

山陰本線の将来に危機感を抱く兵庫県の沿線自治体
2022年4月11日、JR西日本は「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」というニュースリリースを発表します。このなかで、輸送密度2,000人/日未満の利用者が少ない線区の収支を開示。対象線区には、山陰本線の城崎温泉~浜坂および浜坂~鳥取をはじめ、加古川線や播但線、姫新線も含まれていました。
またJR西日本は、対象線区の沿線自治体に対して「上下分離を含めた地域交通の確保に関する議論や検討を幅広くおこないたい」と、鉄道のあり方に踏み込んだ議論も求めています。
このニュースリリースを受けて対象線区が複数ある兵庫県は、関係自治体や事業者、有識者などで構成される「JRローカル線維持・利用促進検討協議会」を設置。2022年6月に、第1回の協議会を開催します。初会合では、JR西日本が対象線区の現状を説明。そのうえで、「鉄道としての特性が発揮できていない」「輸送需要に応じて、多様な交通サービスを総動員して考える必要がある」と、地域公共交通を再構築する必要性を訴えます。
■山陰本線(城崎温泉~浜坂)の駅別乗車人員

出典:JR西日本「山陰線(城崎温泉駅~浜坂駅)のご利用状況等について」
これに対して沿線自治体は、これまでの利用促進の取り組みや鉄道の必要性などを説明します。ただ、自治体の取り組みが十分であったかといわれると、足りない部分があったのも事実です。山陰本線代表として出席した豊岡市も「地域住民の利用につながる取り組みが少なかったと反省している」と、率直な意見を述べています。
一方、JR西日本の説明から廃止の危機感を抱いた豊岡市は「鉄道以外の選択肢も含め考えてもらいたいという意向が感じられる。山陰本線が一部でもなくなれば、地域にとって大きな痛手となる」と、JR西日本を牽制する発言もしています。
第1回協議会では、事務局である兵庫県が今後の進め方を説明。路線ごとにワーキングチームを設置し、各地域の事情を踏まえた利用促進策を検討することが確認されます。山陰本線でも「JR山陰線ワーキングチーム」を設置し、検討を始めることになりました。
「鉄道ありき」の報告に不信感を抱くJR西日本
ワーキングチームによる検討結果は、第3回協議会(2023年2月開催)で報告されます。
山陰本線の沿線地域は、観光資源が豊富なことから、ワーキングチームでは観光誘客を意識した取り組みを検討。「周遊きっぷやレールパスを活用したツアー企画」「イベントの実施」など、さまざまなアイデアが出されます。
また、沿線住民向けの施策として「通勤通学定期券の購入費補助」「駅周辺の駐車場・駐輪場の整備」といった取り組みで、利用促進を強化する考えも示しました。
さらにワーキングチームは、こうした取り組みにより「2027年度に輸送密度2,000人/日をめざす」という目標値を設定。輸送密度2,000人/日未満の線区は「鉄道としての特性が発揮できない」とJR西日本は伝えているわけですから、これを目標に努めると提言したのです。
■山陰本線の目標値(一部駅のみ抜粋)
| 城崎温泉 | 竹野 | 香住 | 餘部 | 浜坂 | 居組 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 目標値 | 1,350 | 400 | 830 | 90 | 750 | 60 |
| 実績 | 574 | 159 | 299 | 30 | 183 | 6 |
参考:兵庫県「JRローカル線の利用促進の取組参考資料」をもとに筆者作成
なお、コロナ禍前(2019年)の輸送密度は、城崎温泉~浜坂が693人/日、浜坂~鳥取が921人/日です。5年で2~3倍に増やす計算ですが、いずれの線区もJR発足後30余年で利用者数は8割以上減っています。
JR西日本は、目標値を設定したことに対して一定の評価をしたものの「今回提示された取り組みで、どれほど利用者が増えるとお考えであろうか」と、山陰本線をはじめ全対象線区の自治体に語りかけます。
協議対象となった線区では、沿線地域の少子化や過疎化、モータリゼーションの進展などの影響もあって利用者が激減しています。観光やイベントで利用促進を図っても、通学定期客などの減少数のほうが圧倒的に多く、利用者数は容易に増えるものではありません。
JR西日本も、30年以上にわたりさまざまな施策で利用促進に努めてきましたが、利用者を増やすための特効薬がないことは承知しています。そのうえで「地域公共交通をどうやって維持するのか」という課題解決に向けて、沿線自治体と協議したかったわけです。
ところが、各線区から上がってきた報告は利用促進の話ばかり。「鉄道ありき」の自治体の姿勢に、JR西日本は不信感を抱きます。
これに対して沿線自治体は「この協議会は利用促進の取り組みを話し合う場だ」「いかに乗ってもらえるかを考えるのが、この協議会の主旨」などと反論。協議の方向性の違いから、議論がかみ合わなくなってしまいます。
こうした事態に兵庫県は「一緒になって鉄道利用者を増やし、地域を活性化していきたいという思いで方向性は同じ」と両者をなだめ、まずは利用促進を進めることで話をまとめます。
山陰本線(城崎温泉~鳥取)の取り組み内容
ワーキングチームで検討した利用促進策は、2023年度から実行に移されることになりました。山陰本線の城崎温泉~鳥取における沿線自治体の取り組みを紹介します。
運賃・料金の一部助成
香美町では、町内の駅から利用する沿線住民に対して運賃・特急料金の半額を助成しています。利用者数は2024年度が393人、2025年度は540人でした。
また新温泉町では、特急はまかぜの利用者に片道分の乗車券を配布。2023年度は424人、2024年度は344人、2025年度は370人が利用しています。新温泉町では、城崎温泉または鳥取までの往復利用者に、片道乗車券とノベルティを配布する事業も展開。2023年度は133人が利用しましたが、その後は減少傾向にあるようです。
鳥取県と連携したキャンペーン実施
鳥取県と連携した「山陰本線で行く!ごほうび鉄道旅!」というキャンペーンを、2025年度に展開。特急はまかぜを含む山陰本線の利用者に、景品を進呈しました。約2カ月のキャンペーン期間中に、189件の申し込みがあったようです。
利用者へのクーポン配布
竹野駅(豊岡市)では、きっぷ購入者に対して観光施設や宿泊施設、飲食店などで使えるクーポン券を配布。2024年度は3万5,000枚、2025年度は2万枚を配布しました。また、新温泉町や香美町でも同様の施策で、クーポンを1万428枚配布しています(2025年度実績)。ただ、この施策が鉄道の利用者増加につながっているのかは不明です。
自動運転バスの実証実験
養父市では、八鹿駅からの2次交通として自動運転バスの運行実証実験を2025年度におこないました。約3カ月の運行期間で324人がバスに乗車したそうですが、このうちJRの利用者数は不明です。
その他の取り組み
豊岡市や新温泉町、朝来市では職員の出張などに山陰本線の利用推進や、学校行事での利用促進などもおこなっています。ほかにも、スタンプラリーやレンタサイクル利用料の補助、車両基地見学会などの施策にも取り組んでいます。
山陰本線存続のカギを握る「交通連合」構想
山陰本線の沿線自治体は、年間で30以上の利用促進事業に取り組んでいますが、効果は限定的のようです。
ただJR西日本は、兵庫県の対象線区のなかで「いちばん未来志向で考えてくださっており、沿線地域の方たちとの連携もとれていると感じる」と評価。沿線自治体に対する期待値は、高いようです。その理由として、第3回ワーキングチームの会合(2022年12月7日開催)で養父市が提示した「交通連合」構想が大きいでしょう。
交通連合とは、地域公共交通をひとまとめにした組織(地域交通会社)を自治体が設立し、利便性の高い公共交通網を構築しようという構想です。ヨーロッパでは、鉄道やバスなどあらゆる公共交通を管理する交通連合が存在する地域もあり、自治体が中心となって各事業者のダイヤを調整し乗り換えの利便性を図ったり、共通運賃を導入したり、運賃収入をプールして事業者に配分したりと、利用者にも事業者にも多様なメリットを生んでいるようです。
自治体の役割としては、運営に関与しながら赤字事業者を支援することで、公共交通の維持や活性化を図ることにあります。
この構想にJR西日本や全但バスも興味を示したことから、2023年10月に「但馬地域交通連合設立準備会」を設立。地域交通会社の創設に向けた議論が始まりました。準備会では、以下3項目の「バリア解消」について議論しているようです。
- 料金のバリア解消(鉄道・バスの運賃一元化や併用きっぷの導入、増便実証実験など)
- 時間のバリア解消(路線・ダイヤの調整など)
- 施設のバリア解消(鉄道とバスのダイヤ相互表示、駅舎有効活用など)
増便実証実験などの事業者に負担がかかる事業には、自治体が必要な財源を確保することも検討するそうです。なお兵庫県も、関係機関との調整や課題整理に協力し、交通連合構想の原案作成を進めるとしています。
課題は鳥取県との連携
JRローカル線維持・利用促進検討協議会は、兵庫県の沿線自治体で構成される組織です。ただ、山陰本線の対象区間は城崎温泉~鳥取で、一部線区は鳥取県に含まれます。鳥取県と連携した利用促進キャンペーンなども実施していますが、効果を高めるうえではさらなる連携が必要でしょう。
これについて沿線自治体の豊岡市は、JR西日本にも鳥取県での取り組みなどの情報共有を求めています。
JR西日本は同じ会社だが、自治体は県境で分かれてしまうため、ぜひローカル線の維持という面でも、少し鳥取県との情報共有、連携ということも、今後の課題として認識してもらえればと思っていたため、意見だけ言わせていただく。
出典:令和8年度JRローカル線維持・利用促進協議会議事録
他路線でもいえることですが、県境をまたぐ線区は利用者数が非常に少ない一方で、自らの県や市町村の施策だけではどうにもならない点もあります。こうした課題に、JR西日本や国がどれだけ「橋渡しの役割」を担えるかも、ローカル線の存廃を決める重要なポイントといえそうです。
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※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。



参考URL
ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf
令和4年度JRローカル線維持・利用促進検討協議会
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/jrlocal.html
JR山陰線維持・利用促進ワーキングチーム会議について(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/tjk04/saninwt.html
JRローカル線維持・利用促進協議会(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/jrlokalr5.html
山陰本線ワーキングチーム検討報告書(案)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/tjk04/documents/05siryou2wtkenouhoukoku.pdf
但馬地域公共交通計画の施策実施状況表(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/ks05/documents/shiryou1_besshi_20240207.pdf
令和6年度経営計画書まち整備部(養父市)
https://www.city.yabu.hyogo.jp/material/files/group/6/R6_machi.pdf