JR姫新線は、兵庫県の姫路と岡山県の新見を結ぶJR西日本のローカル線です。このうち姫路近郊は利用者が多いものの、播磨新宮より先は閑散線区。とくに中国勝山~新見の輸送密度は100人/日を下回り、廃止の危機に瀕しています。
姫新線の全線存続を願う沿線自治体は、利用促進をはじめさまざまな取り組みを進めています。ここでは、兵庫県と岡山県の沿線自治体が進める取り組みを紹介するとともに、姫新線の将来を考えてみます。
JR姫新線(播磨新宮~新見)の線区データ
| 協議対象の区間 | 姫新線 播磨新宮~新見(136.0km) |
| 輸送密度(1987年→2025年) | 播磨新宮~上月:2,389→723 上月~津山:1,527→374 津山~中国勝山:1,364→692 中国勝山~新見:702→95 |
| 増減率 | 播磨新宮~上月:-70% 上月~津山:-76% 津山~中国勝山:-49% 中国勝山~新見:-86% |
| 赤字額 | 播磨新宮~上月:6億4,000万円 上月~津山:4億3,000万円 津山~中国勝山:4億8,000万円 中国勝山~新見:4億1,000万円 |
| 営業係数 | 播磨新宮~上月:896 上月~津山:1,023 津山~中国勝山:919 中国勝山~新見:4,510 |
※赤字額と営業係数は、2022年から2024年までの平均値を使用しています。
協議会参加団体
たつの市、佐用町、美作市、勝央町、津山市、真庭市、新見市、兵庫県、岡山県、JR西日本ほか

兵庫・岡山の両県で姫新線の協議会を設置
姫新線で存廃議論が生じたのは、2022年4月11日にJR西日本が公表した「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」というニュースリリースがきっかけでした。このなかで、播磨新宮~新見を含む輸送密度2,000人/日未満の線区収支を公表。「上下分離を含めた地域交通の確保に関する議論や検討を幅広くおこないたい」という、JR西日本の考えが示されていました。
このニュースリリースを受けて、兵庫・岡山の両県が動き始めます。
兵庫県では同年6月に「JRローカル線維持・利用促進検討協議会」を設置。姫新線をはじめ対象線区(4路線6線区)の沿線自治体を集め、協議が始まります。一方の岡山県でも7月に「岡山県JR在来線利用促進検討協議会」を設立。こちらも他の対象線区(3路線5線区)と一緒に、JR西日本との話し合いを始めます。
なお兵庫県の沿線自治体では、これまでも姫新線の存続に向けてさまざまな施策を実施してきました。2006~2009年度には、新型車両の導入や軌道改良にかかる費用を沿線自治体が支援。2010年には「姫新線利用促進・活性化同盟会」という組織を設立し、増便実験や駅前駐車場の整備、イベント実施などの取り組みを進めています。こうした施策が功を奏し、姫路~上月の利用者数は10年で約1.4倍にまで増えたのです。
■姫路~上月の年間利用者数(単位:万人)

参考:兵庫県「これまでの利用促進の取組」をもとに筆者作成
一方、岡山県でも一部自治体で利用促進などに取り組んでいます。ただ、効果は限定的で利用者の減少に歯止めがかからない状況が続いています。
【兵庫】利用促進に固執する沿線自治体にJR西日本が不満
兵庫県の協議会は、2022年6月24日に初会合を開催。JR西日本からは経営状況などの説明が、また沿線自治体からは鉄道の必要性やこれまでの取り組みなどの説明がありました。
姫新線代表で参加したたつの市は「姫新線の利用促進は、市・県・JRが協議しながら努力し、300万人の乗車を達成した」と、これまでの実績を強調。沿線自治体としては「できることはやっている」との考えから、国や県のさらなる支援を要望します。
兵庫県の協議会には姫新線のほかにも、加古川線や播但線、山陰本線の沿線自治体も参加しています。そこで、路線ごとにワーキングチームを設置し、各地域で利用促進策を検討することを確認。必要な施策は次年度以降に実行へ移されることになりました。
ワーキングチームによる検討結果は、2023年2月1日に開催された第3回協議会で報告されます。姫新線のワーキングチームは、これまでも実施してきた通学定期代の助成対象者の拡大、コミュニティバスやデマンドタクシーといった二次交通の拡充、姫新線ファンクラブ結成などを提言。さらに、観光誘客にも注力する考えを示しました。
他のワーキングチームも、各路線の利用促進策を説明。そのなかで、JR西日本は「沿線自治体と認識を共有できたのは大きな収穫」としながらも、協議の方向性に異議を唱えます。
鉄道を維持することだけを目的とした利用促進策に、違和感と既視感を覚えている。ありがとう運動などのキャンペーンは繰り返し実施してきたが、利用は激減してきた。
(中略)
各委員は、今回提示された取組により、どれほど利用が増えるとお考えであろうか。
出典:兵庫県「第3回JRローカル線 維持・利用促進検討協議会 主な発言」
協議対象線区では、沿線地域の少子化や過疎化、モータリゼーションの進展などの影響で利用者が減り続けています。播磨新宮~上月の利用者数は、JRが発足した1987年と比べて3分の1になりました。利用促進も大切ですが、沿線地域の人口減少が続くなかで、今までと同じことをやっても利用者数は容易に増えないことをJR西日本は知っています。
こうした現実を踏まえてJR西日本は、「地域公共交通をどうやって維持するのか」という課題を解決するために、沿線自治体と協議をしたかったわけです。ところが、各線区からの報告は利用促進の話ばかり。「鉄道ありき」の自治体の姿勢に、JR西日本は不信感を抱きます。
これに対して、沿線自治体は「この協議会は、利用促進の取り組みを話し合う場だ」「いかに乗ってもらえるかを考えるのが、この協議会の主旨」と反論。協議の方向性の違いから、議論がかみ合わなくなってしまいます。この事態に兵庫県は「一緒になって鉄道利用者を増やし、地域を活性化していきたいという思いで方向性は同じ」と両者をなだめ、まずは利用促進の取り組みを進めることで場をおさめます。
【岡山】自治体の協力姿勢に感謝するJR西日本
一方で岡山県の協議会は、2022年8月31日に初会合を開催。こちらも姫新線のほか、因美線や赤穂線など他線区の沿線自治体も参加する協議会です。
初会合では、姫新線の沿線自治体である真庭市が「姫新線は市民生活を支える重要なインフラであり、地域活性化につながる市民共有の財産である」と主張。そのうえで「姫新線をどのように活用することができるのか検討していきたい」と、前向きな発言をしています。
また勝央町は、勝間田駅の新駅舎建築や駐車場・駐輪場の再整備、沿線住民による美化活動など、これまでの実績を説明。「このような取り組みを大切にしながら、利用促進を図っていきたい」と、鉄道が地域に密着していることをアピールします。
なお、岡山県の協議会でも路線ごとにワーキングチームが設置されますが、議論する内容は「ローカル線の調査研究と利用促進策」とされました。このうち調査研究では、各路線の課題を洗いだして効果的な利用促進策を検討していくとしています。
ワーキングチームの検討結果は、2023年8月25日に開催された第3回協議会で発表。初会合から1年近くかけて、じっくり検討したようです。姫新線のワーキングチームは、通学定期の補助や利用促進イベントの実施、デマンドタクシーの運行、駅前駐車場・駐輪場の整備など、沿線住民向けの利用促進策を提言。さらに、観光列車「SAKU美SAKU楽」の運行など、観光誘客を目的とした取り組みも提案します。
一見すると、兵庫県と同じ流れで協議が進んでいますが、沿線自治体の提案に対してJR西日本は強く反論していません。むしろ、一緒に利用促進を取り組んでくれることに感謝の意を示しています。JR西日本の担当者が兵庫県の協議会と違うからか、それとも兵庫県で自治体と対立したことを反省したのか。真意はわかりませんが、いずれにせよ岡山県でも利用促進の取り組みを進めることが確認され、実行へと移されます。
姫新線の主な取り組み
姫新線の沿線自治体が取り組んできた施策を見ていきましょう。
パークアンドライドの設置
兵庫県たつの市では、駅の駐車場・駐輪場を利用する人に、使用料を助成する事業を展開。申請者数は、2024年度が187人、2025年度は175人でした。たつの市では、駐輪場や駐車場の整備も実施しており、2023年度は3,420万円の事業費を計上しています。
また岡山県真庭市でも、久世駅や月田駅、富原駅の駐輪場改修や、美作落合駅の駐車場整備などを実施しています。
定期代・乗車券の補助
岡山県新見市では協議会の設置前から、高校生の通学定期代の2分の1を助成する事業を展開しています。
また兵庫県佐用町でも、通学定期券を助成していましたが、対象年齢を25歳まで拡大。2025年度は68人が申請しています。佐用町では、定期外のきっぷに対する補助も実施。町内の駅から往復利用する場合に片道分を支給し、2025年度は701人が利用したそうです。
兵庫県たつの市では、遠足などで姫新線を利用する園児に対して1人200円程度のお菓子を支給。マイレール意識の醸成につなげたい考えです。
ツアーの企画・実施
津山線で運行している観光列車「SAKU美SAKU楽」を、姫新線で走らせるツアーを実施。この事業に岡山県は、約1,000万円を負担しています。また「勝山のお雛まつり」の時期にあわせて、津山まなびの鉄道館の見学を付けたツアーも実施。2025年度は3回の実施で約60人が参加したようです(1回の定員は20名程度)。
このほか兵庫県でも、里山ハイキングやいちご狩り&城下町散策などのツアーを企画。里山ハイキングは100人以上が参加しますが、いちご狩り&城下町散策ツアーは39人(2024年度)と振るわなかったようです。
二次交通の拡充
岡山県津山市では、AIを活用したデマンド交通「のるイコつやま」を導入。従来の路線バスの代わりとして運行しています。利用者数は増加傾向にあり、2024年度は5,509人が利用。路線バスと比べて約1.5倍に増えました。ただ、姫新線の増加につながっているかは不明です。
その他の取り組み
このほか、イベントの実施やそれにあわせた臨時列車の運行、映像コンテストやフォトコンテストの開催、地元高校生によるPRポスターやオリジナル車内路線図の制作、乗車体験会や乗り方教室の開催、姫新線ファンクラブの結成など、両県の協議会を中心にさまざまな取り組みを進めています。
姫新線は全線存続できるか?
沿線自治体が利用促進に注力しているものの、姫新線の利用者数は減少傾向にあります。とくに中国勝山~新見では減少に歯止めがかからず、2024年度の輸送密度はコロナ禍よりも悪化しています。
■播磨新宮~新見の輸送密度の推移
| 1987 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 播磨新宮~上月 | 2,389 | 932 | 750 | 774 | 822 | 813 | 780 |
| 上月~津山 | 1,527 | 413 | 346 | 358 | 386 | 401 | 387 |
| 津山~中国勝山 | 1,364 | 820 | 663 | 649 | 640 | 661 | 725 |
| 中国勝山~新見 | 702 | 306 | 132 | 136 | 132 | 111 | 99 |
各市町の取り組みを見ていると、パークアンドライドの整備など多額の予算を投じる自治体もあれば、毎年同じソフト面の施策しかやらないところもあり、自治体間で温度差があるように感じます。予算や人数などが自治体ごとに異なるため施策に差が出るのは当然ですが、それにしても効果検証をせずに同じ施策を繰り返している自治体をみると、姫新線に対する重要度が低いとも感じられます。
なお、兵庫県の協議会に参加している播但線や山陰本線の沿線自治体は「輸送密度2,000人/日を目指す」という目標値を設定して、利用促進に取り組んでいます。一方で姫新線の沿線自治体は、兵庫県も岡山県も何らかの目標値を設定していません。これについてJR西日本は「利用促進の期限と目標を定める必要がある」と兵庫県の協議会(2026年4月16日開催)で伝えています。
もっとも、JR西日本が利用促進だけで納得しているとは思えませんし、利用者数が極端に少ない線区では上下分離方式などの支援を求めてくることも考えられるでしょう。自治体間に温度差があると、支援の話がまとまらず廃止へ傾倒していく協議会も、他地域では散見されます。県が中心となり各自治体の意向をまとめられるか、また兵庫・岡山の両県がもっと連携できるかも、姫新線の存続のカギを握るポイントといえそうです。
※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。




参考URL
ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf
姫新線利用促進・活性化同盟会
http://kisinsen.jp/
受賞者≪姫新線利用促進・活性化同盟会≫(国土交通省)
https://wwwtb.mlit.go.jp/kinki/content/000007018.pdf
(案)JRローカル線の利用促進の取組(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/documents/04shiryou1.pdf
令和4年度JRローカル線維持・利用促進検討協議会(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/jrlocal.html
JRローカル線維持・利用促進協議会(兵庫県)
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk05/jrlokalr5.html
岡山県JR在来線利用促進検討協議会について
https://www.pref.okayama.jp/page/792753.html
姫新線ワーキングチームの活動状況(岡山県)
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/400609.pdf