JR山田線は、岩手県の盛岡と宮古を結ぶローカル線です。かつては宮古から三陸海岸を南下して釜石まで続いていましたが、東日本大震災の津波で甚大な被害を受け長期不通に。復旧後の宮古~釜石は、三陸鉄道へ移管されました。
利用者数が非常に少なく、廃止の噂も絶えない山田線。存続をめざす沿線自治体の取り組みや、JR東日本と岩手県北バスによる「共同経営」を解説するとともに、山田線の今後について考察します。
JR山田線の線区データ
| 協議対象の区間 | JR山田線 盛岡~宮古(102.1km) |
| 輸送密度(1987年→2024年) | 盛岡~上米内:844→237 上米内~宮古:720→78 |
| 増減率 | 盛岡~上米内:-72% 上米内~宮古:-89% |
| 赤字額 | 盛岡~上米内:2億3,000万円 上米内~宮古:19億6,100万円 |
| 営業係数 | 盛岡~上米内:2,019 上米内~宮古:5,437 |
※赤字額と営業係数は、2024年のデータを使用しています。
協議会参加団体
盛岡市、宮古市、岩手県、JR東日本、岩手県北自動車ほか

山田線の利用促進に苦戦する沿線自治体
山田線の沿線自治体である宮古市では、利用者に対する運賃・通学定期代の一部助成や、臨時列車を使ったツアー企画など、さまざまな利用促進に努めています。ただ、沿線地域の人口減少や並行する高規格道路の整備、度重なる災害などの影響もあり、山田線の利用者数は減少の一途をたどり続けました。
宮古市が策定した地域公共交通計画では、山田線の「市民1人あたりの年間利用回数」に目標値を設定。「2018年度の1.6回/人から、2024年度には1.8回/人に増やす」と掲げています。しかし、コロナの影響もあってか、2022年度の段階で0.4回/人にまで減少。目標を達成できませんでした。ちなみに、三陸鉄道でも利用回数に目標値を設定していますが、こちらは増えています。
■宮古市が掲げた「市民1人あたりの年間利用回数」

出典:宮古市地域公共交通計画
こうしたなかでJR東日本は2022年7月28日に、利用者の少ない線区の経営情報を開示。該当する沿線自治体に対して「持続可能な交通体系について建設的な議論をさせていただきたい」という考えを示します。
対象線区には、山田線も含まれました。これを受けて宮古市と盛岡市、岩手県は「JR山田線沿線自治体首長会議」を設置。2023年1月30日に開かれた第1回会議では、沿線住民への利用促進やマイレール意識の醸成、観光誘客につながる具体策などを検討することが確認されます。
なお、この会議は自治体首長による話し合いの場であり、JR東日本や岩手県北バスは参加していません。
復興支援道路とコロナの影響で山田線の利用者数が半減
一方でJR東日本は、山田線の将来に課題を抱いていました。宮古~釜石を三陸鉄道に移管させたものの、赤字額は年間20億円前後。輸送密度は100人/日未満。沿線人口は減り続けており、利用者が増える見込みがありません。
ここに追い打ちをかけたのが、2021年3月に全線開通した「宮古盛岡横断道路(復興支援道路)」です。この道ができたことで、競合する岩手県北バス(106特急・急行バス)の所要時間が大幅に短縮。盛岡~宮古を最速1時間40分で結び、山田線(約2時間20分)と大きな差をつけられました。運行本数も、山田線よりはるかに多いです。
ライバルの利便性向上とコロナの影響もあり、山田線の利用者数は大きく減ったのです。
■山田線の線区別輸送密度の推移

県北バスに対抗して増便や新駅設置などをしたところで、過疎が進む地域ですから利用者数は大して増えません。むしろ、赤字を増やすだけです。自助努力で山田線を残すには、利用者の少ない駅を廃止にして赤字額を減らすくらいしか方法がありませんでした。
こうした状況で、平津戸駅の休止(2023年に廃止)について周辺住民宅へ説明に回っていたJR東日本。そこで住民から、「行きはバス、帰りは列車を使うことが多かった」という声を耳にします。
1本逃すと「次の列車は4時間後」という時間帯もある山田線。これに対して岩手県北バスの106特急・急行バスは、ほぼ1時間おきに運行しています。行きも帰りもバスを使う人が多いなかで、鉄道と併用する沿線住民も少なくなかったのです。
沿線住民の意見を受け、JR東日本は岩手県北バスに相談。JRの乗車券や定期券で岩手県北バスにも乗車できる「共同経営」の話を持ち掛けます。この話に、岩手県北バスは賛同。岩手県北バスも、沿線地域の過疎化やマイカー普及などの影響で、利用者の減少に歯止めがかからない状況でした。JR東日本との共同経営により乗車機会を拡大させることで、利用者減少を抑えられるかもしれないと考えたのです。
こうしてJR東日本と岩手県北バスは、共同経営を見据えた実証実験をおこなうことに合意。実証実験は2024年4月から1年間、実施されます。
共同経営に賛同するもJR東を牽制する自治体
2024年9月25日に開かれた、JR山田線沿線自治体首長会議。この場には、JR東日本と岩手県北バスが参加していました。共同経営について意見交換をするためです。
JR東日本は、実証実験の実績を報告。利用者数は前年同時期と比べて若干増え、「収支改善の効果が見られる」と伝えます。そのうえでJR東日本は、岩手県北バスとの連携をさらに強め、次年度より共同経営を本格運用する方針を明らかにしたのです。
この提言に自治体側は「利用者が増えるし、公共交通サービスが向上する」として、おおむね賛同します。
ただし、「山田線は沿線住民の日常生活に必要不可欠な移動手段」として、鉄道の維持を求めます。自治体からみれば、共同経営は「このままバス転換されるのではないか」と、廃止への布石とも感じられる計画です。そこで、沿線自治体とJR東日本は共同経営移行に向けた「共同メッセージ」を策定。「自治体への丁寧な意見聴取」「利用実態の十分な検証」「山田線の維持」などをJR東日本に求めることで合意します。
JR東日本と岩手県北バスが山田線の「共同経営計画」を策定
公共交通機関の共同経営は、独占禁止法上の「カルテル」に該当する可能性があります。ただ、法律の縛りで地域公共交通の維持が難しくなるようでは元も子もありません。これを避けるため国は、独占禁止法に特例を制定。この特例にもとづく共同経営計画を事業者が策定し、国に認可されることで正式に運用できるようになります。
そこでJR東日本と岩手県北バスは、共同経営計画を策定。2025年1月22日に国へ申請します。共同経営の対象線区は盛岡~宮古。JR東日本のきっぷや定期券などで、並行する岩手県北バスの106特急・急行バスに乗車できるようにします。なお、国道から離れた上盛岡、山岸、上米内の3駅ではバスに乗降できません。
JR東日本と岩手県北バスによる申請は、同年2月17日に国が認可。2025年度から、共同経営がスタートします。運行期間は2029年度末までの5年間です。
共同経営計画では、利用者数の目標値が設定されています。それによると、最終年度(2029年度)の利用者数は約22万人。2024年度とほぼ同じですが、何もしなければ利用者数は減る一方ですから、現状維持も高いハードルなのです。共同経営による両社の増収効果は、年間で約1,200万~1,400万円になるとしています。
■山田線と106特急・急行バスの年間利用者数のシミュレーション
| 2024 | 2025 | 2026 | 2027 | 2028 | 2029 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 共同経営実施 | 220,000 | 221,114 | 221,130 | 220,987 | 220,713 | 220,412 |
| 共同経営実施しない | 214,347 | 213,823 | 213,303 | 212,786 | 212,272 | 211,762 |
参考:JR東日本・岩手県北バス「岩手県県央部・沿岸部間における共同経営計画」をもとに筆者作成
共同経営と同時に始まった自治体のアクションプラン
さて、JR東日本に対して「山田線の維持」を求めた沿線自治体でも、利用促進の取り組みを進めています。2026年1月には「山田線利用促進アクションプラン」を、JR山田線沿線自治体首長会議で策定。上記の目標達成に向けて協力していく姿勢です。
ここで、沿線自治体による取り組みの一部を紹介します。
- 通勤・通学定期券等購入費助成
- 中学生フリー定期券の交付
- ツアーの企画・実施
- 沿線イベントとの連携
- 二次交通の接続改善
- 無人駅舎の活用(カフェ運営など)
- 利用拡大に向けた情報発信
- セミナーや乗り方教室の開催
- 三陸鉄道との連携(直通列車の運行)
- パークアンドライドの推進
…など
これまで通学定期代の一部助成をおこなってきた宮古市では、通勤定期にも適用。定期代の約3割を市が補助します。また、沿線の中学生に対しては「中学生フリー定期券」を新設。鉄道・バスが乗り放題となるフリー定期券を配布することで、高校進学後の利用者獲得を目指します。
観光客向けの施策として、閉伊川流域の観光資源を活用したツアーや盛岡市内を目的地としたツアーも実施。さらに「真鱈まつり」「毛ガニまつり」など、沿線地域のイベントに合わせた臨時列車の運行にも支援するとしています。
このほか、マイレール意識の醸成を目的とした「セミナーや乗り方教室の開催」「サポーター制度の導入検討」や、三陸鉄道への直通列車運行、SNSを活用した情報発信にも注力していくとしています。
災害多発が課題…山田線は廃止を防げるか?
鉄道事業者とバス事業者との共同経営の目的は、利便性を高めることで「公共交通全体の利用者数を増やす」ことにあります。「バス転換への布石だ」と自治体が不安視する気持ちもわからなくはないのですが、実際に公共交通を利用する人からみれば、どちらを使っても同一運賃ですし運行間隔が平準化されるため、利用チャンスが増えることが期待されるのです。
とはいえ、沿線地域の少子化・過疎化は今後ますます進み、利用者の減少は避けられません。共同経営計画がうまくいかなければ2029年度末に打ち切られ、山田線の存続・廃止に向けた話し合いが始まる可能性もあるでしょう。
利用者減少のほかにも、山田線には廃止リスクを高める不安材料を抱えています。それが、災害です。山田線の歴史は災害に苦しんできた歴史でもあります。
直近でも、2011年の東日本大震災では津波により宮古~釜石が長期不通に。その後、この区間は三陸鉄道へ移管することを条件に、JR東日本が復旧させています。2015年には、松草~平津戸で土砂流入が発生し、上米内~川内が不通に。完全復旧に2年の歳月を要しました。共同経営の実証実験中だった2024年8月にも、集中豪雨による被害を受け、上米内~宮古が長期不通になっています。
災害ではありませんが、2026年にはトンネル天井のモルタル片が剥がれて列車に衝突したり落石の影響で運転見合わせになったりと、鉄道施設の老朽化も廃止の一因として不安視されています。
茂市駅で接続していた岩泉線は、土砂崩れによる脱線事故に起因して2014年に廃止されました。同じことが山田線でも起きる可能性は、否定できません。
何はともあれ、共同経営により山田線は2029年度末までは「延命できた」という見方もできます。その先も鉄路を存続させるには、沿線自治体による公的支援を含めた、さらなる取り組みが求められそうです。
JR山田線の関連記事
※かつて山田線だった宮古~釜石が三陸鉄道に移管された経緯は、以下の記事で解説しています。

※鉄道とバスの共同経営の先例といえる、JR四国の牟岐線(阿南~阿波海南)のケースは、以下のページで詳しく解説しています。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

参考URL
平均通過人員2,000人/日未満の線区ごとの収支データ(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/company/corporate/balanceofpayments/pdf/2019.pdf
宮古市地域公共交通計画
https://www.city.miyako.iwate.jp/material/files/group/7/koutukeikaku.pdf
岩手県県央部・沿岸部間における共同経営計画(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/content/001864402.pdf
岩手県県央部・沿岸部間にて、バス事業者と鉄道事業者間の共同経営がスタートします(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001864346.pdf
鉄道事業者とバス事業者による岩手県県央部と沿岸部間の共同経営の認可について(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/press/2024/morioka/20250217_mr01.pdf
山田線利用促進アクションプラン(JR山田線沿線自治体首長会議)
https://www.city.miyako.iwate.jp/material/files/group/8/jr_yamada_actionplan.pdf
JR山田線利用促進事業について(宮古市)
https://www.city.miyako.iwate.jp/gyosei/soshiki/seisaku/koukyoukoutuu/3/1/604.html