【養老鉄道】14億円の赤字を5億円に圧縮した秘策とは?

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養老鉄道の車両 私鉄
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養老鉄道は、三重県の桑名から岐阜県の揖斐までの路線を運行する鉄道事業者です。かつては近鉄の一路線でしたが、膨大な赤字を抱えていたことから沿線自治体に支援を要請。新しい鉄道事業者(養老鉄道)を設立し、上下分離で再スタートしました。

養老鉄道に移行後、自治体からの手厚い支援もあり赤字額は圧縮されました。しかし、利用者数の減少は続いており、次の一手が求められています。

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養老鉄道の線区データ

協議対象の区間養老線 桑名~揖斐(57.5km)
輸送密度(2007年→2019年)4,032→3,048
増減率-24%
赤字額(2019年)5億1,397万円
※輸送密度および増減率は、養老鉄道が発足した2007年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額は、コロナ禍前の2019年のデータを使用しています。

協議会参加団体

桑名市、海津市、養老町、大垣市、神戸町、池田町、揖斐川町

養老鉄道と沿線自治体

養老鉄道をめぐる協議会設置までの経緯

養老鉄道の前身である近鉄養老線は、モータリゼーション化や沿線の過疎化などの影響で、利用者数は年々減少していました。2004年の年間利用者数は約711万人。1987年の1,092万人と比べて、3割以上も減少しています。また、営業収支も14億円の赤字、営業係数は251で、近鉄屈指の赤字路線だったのです。

2004年8月、近鉄は沿線自治体に対して養老線の現状を説明。自社単独での運営は難しいことを伝え、沿線自治体に協議を申し入れます。これを受けて沿線自治体は、勉強会や研究会を随時開催。養老線の存続をめざして、公的支援の投入を含めた協議が始まりました。

協議の結果、車両の保有と運行を担う新しい「近鉄の子会社」を設立することで決着。鉄道施設や用地は引き続き近鉄が保有し、民民の上下分離方式経営に移行します。近鉄の子会社とはいえ、運賃形態は新会社(養老鉄道)が独自に設定できます。このため、養老鉄道は運賃の値上げを実施し、収支改善に努めることになったのです。

また、沿線自治体は2007年5月に「養老鉄道活性化協議会」を設立。養老鉄道に対して、固定資産税分(約1億1,000万円)を支援することで決まりました。なお、自治体の支援額は2008年から、年間3億円を上限とし、赤字額の半分までと改めています。

こうして、2007年10月に養老鉄道が開業。運賃の値上げにくわえ、乗換接続や運行間隔の短縮といったダイヤの見直しもおこない利便性が向上した結果、養老鉄道の初年度の赤字額は、近鉄時代の約14億円から約9億円にまで圧縮しました。

養老鉄道の赤字を圧縮させた秘策

幸先のよいスタートを切ったかに見える養老鉄道ですが、それでも赤字額は年間10億円前後。沿線自治体にとって、負担が軽いとはいえません。

また、乗車人員の減少も歯止めがかからず、2014年には年間輸送人員が600万人を割り込みます。このままでは赤字が増え続け、鉄道を維持できないことは明白でした。

▲開業初年度(2007年度)は年間約772万人に増加したが、翌年には700万人を割り込み、以降も減少傾向が続く。
出典:養老線交通圏地域公共交通網形成計画

こうしたなか、沿線自治体は新たな勉強会を発足します。この勉強会では養老鉄道の未来について、バス転換も含めた幅広い議論をおこなうことが目的でした。ただ、養老鉄道は地域にとって必要な鉄道であると、改めて認識する形になります。

そして2016年3月、沿線自治体は養老鉄道の存続を前提に、地域公共交通活性化再生法にもとづく「養老線地域公共交通再生協議会」を設置します。この協議会は、養老鉄道の「鉄道事業再構築実施計画」の策定を目的としたものですが、それを進めるにあたり沿線自治体は、赤字額を大幅に圧縮する方法を提示します。その方法とは、「近鉄が担う管理を新法人に移行させること」です。

これまで近鉄は、保有する鉄道施設や用地を「有償」で養老鉄道に貸し付けていました。新法人は、これを近鉄から譲り受け「無償」で貸すことで、養老鉄道の負担を軽減させます。また、従来は養老鉄道が車両を保有していましたが、これも新法人が保有して「無償」で貸し付けます。

この方法により、養老鉄道の赤字額は数億円も圧縮。さらに、近鉄にとっても鉄道施設や用地の管理がなくなるため、負担が軽くなります。なお、近鉄は養老鉄道の経営から事実上撤退することになり、その引き換えに10億円の経営安定基金を拠出しています。

2018年1月、各種管理を新法人「一般社団法人養老線管理機構」へ移行。この法人は、近鉄出向社員を再雇用するなど人件費を抑制することで、経費削減を実現しています。また、沿線自治体などは養老線管理機構に対して運営費の負担や設備投資費の補助をおこなっています。

新体制に移行するのにあわせて、養老線地域公共交通再生協議会は「鉄道事業再構築実施計画」を公表します。計画期間は、2018年~2027年の約10年。利用促進や増収策などの計画実施により、2027年の輸送人員は518万人(計画未実施の場合は490万人)を維持、収支の均衡をめざすとしています。

養老鉄道の鉄道事業再構築実施計画
出典:国土交通省「養老鉄道養老線の鉄道事業再構築実施計画の認定について」

養老鉄道のこれまでの取り組み

養老鉄道と協議会が実施してきた、利用促進の取り組み例を紹介します。

  • 駅舎や駅前駐車場・駐輪場の整備(パークアンドライドも整備)
  • 企画乗車券の販売(かいづっち養老鉄道応援パスポートなど)
  • 免許自主返納者への利用奨励施策
  • サイクルトレイン
  • 駅名のネーミングライツ
  • 記念乗車券・記念グッズの販売
  • つり革・枕木オーナー制度

…など

通学・通勤需要の多い養老鉄道では、沿線住民をターゲットとした利用促進施策に注力しています。とくに、駅舎や駅前広場の整備、無料のパークアドライドの整備といった施策が功を奏し、利用者数の減少に歯止めがかかっているようです。

また、各自治体でも独自の利用促進策を展開しています。一例として、海津市では「かいづっち養老鉄道応援パスポート」という、小中学生向けの企画乗車券を作成。養老鉄道の市内区間が、年間5,000円で乗り放題になるというものです。

「サイクルトレイン」も、特筆すべきポイントです。沿線にはサイクリングロードが多いことから、近鉄時代の1998年からサイクルトレインを運行しています。養老鉄道にも継承され、平日の指定列車と土休日の全列車で自転車の持ち込みが可能。地域の方はもちろん、観光客やサイクリストも運賃のみで利用できます。

2018年から始まった新スキームで、養老鉄道の赤字は年間5億円台にまで圧縮されました。とはいえ、利用者数の少ないローカル線に、これだけの支援がいつまで続けられるのか、自治体の動向に目が離せない状況が続きそうです。

赤字ローカル線の経費削減を検討するポイント

JRにも言えることですが、大手鉄道事業者に管理を丸投げすると、コストは大幅にアップします。もっとも、大手には安心感や信頼、そしてブランド力があり集客も期待できます。しかし、地域利用がメインの赤字ローカル線でコストに見合う輸送サービスを提供しているかといわれると、不要な部分があるかもしれません。

巨額の赤字を抱えるローカル線を守るには、その不要な部分を洗い出し、コストカットを重ねて必要最小限の輸送サービスを検討していくことも大切です。そのためには、鉄道事業者任せではなく、養老鉄道や第三セクターのように、自治体主導で運営管理ができる形態に移行するのも一手ではないでしょうか。

参考URL

鉄道統計年報
https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000053.html

どうして近鉄養老線から養老鉄道になったの?(養老町)
https://www.town.yoro.gifu.jp/docs/2016021600882/

養老線交通圏地域公共交通網形成計画
https://www.town.yoro.gifu.jp/docs/2017102400018/files/keikaku1.pdf

養老線地域公共交通再生協議会設立会議次第(大垣地域ポータルサイト 西美濃)
https://www.nisimino.com/yorosenportal/saisei_conference/pdf/saisei_shiryou.pdf

かいづっち養老鉄道応援パスポートについて(海津市)
https://www.city.kaizu.lg.jp/kosodate/0000000900.html

養老鉄道サイクルトレイン(養老鉄道)
https://www.yororailway.co.jp/cycle/cycletrain.html