【JR北海道】打つ手なし?室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)は廃止を防げるか

室蘭本線の追分駅 JR

長万部から苫小牧・沼ノ端を経由して岩見沢に至るJR室蘭本線。特急列車や貨物列車が頻繁に走り北海道にとって重要な路線のひとつですが、室蘭本線にも存続・廃止が協議される線区があります。沼ノ端~岩見沢の区間です。

旅客は普通列車が8.5往復のみ。貨物列車はそれより少なく、JR北海道は「当社単独では維持するのが困難な線区」に位置付けています。ここでは、沿線自治体と協働で実施する利用促進・経費削減などの取り組みをお伝えするとともに、沼ノ端~岩見沢の将来を考えてみます。

JR室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)の線区データ

協議対象の区間JR室蘭本線 沼ノ端~岩見沢(67.0km)
輸送密度(1987年→2024年)1,629→327
増減率-80%
赤字額(2024年)10億7,100万円
営業係数1,136
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と2024年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、2024年のデータを使用しています。

協議会参加団体

岩見沢市、栗山町、由仁町、安平村、苫小牧市、JR北海道

室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)と沿線自治体

初動が鈍かった室蘭本線の沿線自治体

JR北海道が公表した「当社単独では維持することが困難な線区」で、室蘭本線の沼ノ端~岩見沢は輸送密度200~2,000人/日の「黄線区」に該当します。この線区は即廃止ではなく、「鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区」という位置付けです。

この公表を受け、沿線自治体は2017年4月に「南空知首長懇談会」を開催。翌月に2回目の懇談会を開き、対応を検討します。しかし、その後は1年以上開催されず遅々として話が進みませんでした。

■室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)の輸送密度の推移

室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)の輸送密度の推移
▲沼ノ端~岩見沢の利用者数は、1990年代に大きく減少。その後も減少の歯止めがかかっていない。
参考:JR北海道「室蘭線(苫小牧~岩見沢間)事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画」をもとに筆者作成

一方で北海道は、黄線区のあり方を全道的な観点で検討する「鉄道ネットワーク・ワーキングチーム・フォローアップ会議」という組織を設置します。この会議は「個別線区の存続や廃止に関して結論を出すものではない」としつつも、各地域の協議を促すために黄線区のあり方を示すものでした。

北海道にとっての沼ノ端~岩見沢は、以下のように位置付けています。

住民の利用状況を踏まえ、地域における負担等も含めた検討・協議を進めながら、路線の維持に努めていく。
検討にあたっては、道北や道東と本州方面を結ぶ貨物列車のバイパスルートとしての役割など、全道的な物流網の観点にも考慮することが必要である。

出典:北海道交通政策総合指針について「JR 北海道単独では維持困難な線区に対する考え方」

最初の旅客に関する一文は、非常にシンプルにまとめています。他の黄線区では「維持に向けて」「路線の維持に最大限努めて」と強い意志を示していますが、沼ノ端~岩見沢では「路線の維持に努めていく」と弱い語調です。

これは、旅客よりも貨物のほうが北海道にとって重要だからでしょう。室蘭本線は貨物列車の走行区間ですから、沿線自治体の一存で存廃を決められません。こうした事情から「貨物は北海道が考えるけど、旅客は地域で考えてね」という表現にしたかったと推測されます。

とはいえ、貨物列車もそれほど多くありません。定期貨物列車は、沼ノ端~追分で1日5往復、追分~岩見沢では1日1往復です。千歳線経由に変更すれば、室蘭本線の重要性は失われます。

室蘭本線の廃止を避ける「アクションプラン」策定

「南空知首長懇談会」の3回目の会合は、2018年8月に開催。前回の懇親会から1年3カ月も経っていました。
この前月に国土交通省は、JR北海道に対して監督命令を発出しています。監督命令では、経営改善に向けた取り組みに沿線自治体も協力するよう求めており、沿線自治体は重い腰を上げて懇談会を開いたのです。

その後、JR北海道をはじめ関係機関と連携した「室蘭線活性化連絡協議会」を同年11月に設置。利用促進や経営改善につながる具体策の検討を始めます。その具体策をまとめたものが「アクションプラン(室蘭線事業計画)」です。

アクションプランの計画期間は、2019年度から2023年度までの5年間。取り組みによる改善状況を評価しやすいように、目標値も設定しました。その目標値は「2017年度の輸送密度と収支」で、沼ノ端~岩見沢は次の通りです。

■室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)のアクションプラン目標値

輸送密度439人/日
収支12億3,300万円

これを計画最終年度にクリアできなかった場合、存廃を含めた抜本的な改善方策を検討することが国から求められています。

なお、当初の最終年度だった2023年度の結果ですが、目標未達成でした。その理由として、新型コロナウイルスの影響で37件の計画が中止や規模縮小を余儀なくされたと報告。JR北海道と沿線自治体は、アクションプランの期間延長を要望します。それが国に認められ、計画の最終年度は2026年度末に変更されています。

室蘭本線アクションプランの実施内容

沼ノ端~岩見沢の廃止を避けるために、沿線自治体とJR北海道がこれまで取り組んできたアクションプランの具体例を振り返ってみましょう。

グループ利用者や通学定期客への運賃助成

安平町では、室蘭本線を利用するグループ旅行客への運賃助成制度を設置。モデルコースのリーフレットも作成しました。利用件数は2020年度から5年間で33件、約350人が助成を受けたそうです。また通学定期券への補助もしており、こちらは年間で170人が利用しています。

ウォーキングイベントの実施

岩見沢駅、追分駅、沼ノ端駅などの沿線駅を起点とするウォーキングイベントを開催。2019年度からの5年間で15回開催し、5,652人が参加しました。この人たちは全員、鉄道を使ってイベントに参加しています。

また、由仁駅と栗山駅でもウォーキングコースを設定。こちらは5年間で1,678人が参加しています。

JR利用者限定のクーポン・グッズの配布

安平町で開催される夏祭りイベントにあわせて、鉄道で来場した人にクーポンを配布。5日間で657枚を配布しました。

由仁町のイベントでも同様に、鉄道で来場した方にお祭りのグッズやイベント参加券などを配布しています。

出前授業・体験乗車の実施

JR北海道の社員が沿線の小学校で出前授業を実施。鉄道の乗り方を学んだり、最寄り駅から体験乗車をしたりと、マイレール意識の醸成を図りました。参加した児童数は、5年間で延べ525人だったそうです。

SNSを活用した情報発信

Facebookで沿線のイベント情報を発信するほか、Instagramでは「#室蘭線で出かけました」を付けて利用者に投稿を呼びかける施策を実施しています。フォロワー数は、Facebookが約650人、Instagramが860名ほど(2026年2月確認時点)です。

その他の取り組み

  • 道の駅で鉄道グッズの展示
  • 鉄道カードラリー(観光施設などにカードを設置したラリー)
  • フォトコンテストの実施
  • 駅前の花壇整備

…など

観光開拓が難しい室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)

沼ノ端~岩見沢の沿線には有名な観光スポットがなく、利用者の大半が沿線住民です。そのため、普段から鉄道を使う人を意識した施策が目立ちますが、沿線地域の過疎化・少子化の影響もあり、アクションプランを始めてからも利用者は減り続けています。

一方で、赤字額は減少傾向に。石勝線夕張支線の廃止で回送列車が減ったことや列車編成の減車などによる、車両の維持修繕費の削減が理由とJR北海道は伝えています。とはいえ、毎年10億円以上の赤字が発生しており厳しい状況が続いています。

■室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)の目標値との比較

室蘭本線(沼ノ端~岩見沢)の目標値との比較
▲目標値は2017年度の輸送密度(439人/日)と収支(12億3,300万円)。赤字額の目標は達成しそうだ。
参考:JR北海道の各年度の線区別利用状況をもとに筆者作成

沼ノ端~岩見沢を存続させるには、沿線住民の利用を増やすのが第一です。では、今後増える見込みはあるのでしょうか。それを占うアンケート調査を、JR北海道と沿線自治体が実施しています。

このアンケート調査は、高校生を除く沿線住民800人に実施。現在の利用状況や今後の利用動向などを尋ねています。

現状の利用頻度をみると、日常的に利用している社会人は2%。3人に2人は「まったく使わない」と回答しています。

今後の利用動向では「今後は利用するようになる」と答えた人が34%。この割合は、黄線区のなかでは釧網本線に次ぐ高さです。仮に「今後は利用するようになる」と答えた人が本当に利用するようになれば、沼ノ端~岩見沢の輸送密度は倍増する可能性があります。

ただ、「鉄道を利用しない理由」を尋ねた質問では、「車のほうが自由に動ける」と回答した人が79%もいました。便利な車を手放して鉄道にシフトする人が果たしてどれだけいるのか、疑問も残るアンケート結果です。

「免許を返納したら列車に乗るかもしれない」と考える人も、いらっしゃるでしょう。では、現在沿線地域に住む高齢者のうち免許を返納した人はどれくらいいるのか、そして、実際に返納した人は鉄道やバスといった公共交通を使っているのでしょうか。

現実を見ると「マイカーを手放せない」「返納後は家族に送迎してもらっている」「病院や介護施設の送迎車で移動している」といった人が大多数で、鉄道やバスを利用している人は少数派でしょう。現に、免許返納者は増えても輸送密度は減少を続けていることからも、「いつか乗るだろう」と考えている人が乗らないことが容易に想像できます。

もっとも、わずか8.5往復の列車のダイヤに生活を合わせるのは困難でしょうし、無理して乗っても続かなければ意味がありません。

本気で残すのであれば、上下分離方式の導入など沿線自治体の支援を増やすのも一手です。ちなみに、沿線自治体がアクションプランの実施に要した費用は、年間で約900万円(2024年度)でした。沿線自治体の財政状況から考えると頑張って捻出したと思いますが、上下分離方式を導入する場合、現状の100倍前後の支援が必要です。

アクションプランの計画期限が迫るなか、沿線自治体にとっては厳しい判断が求められそうです。

室蘭本線の関連記事

※JR北海道のアクションプランについて、以下のページで解説しています。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【北海道】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
北海道地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

地域の皆様との連携(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/alignment.html

当社単独では維持することが困難な線区について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161118-3.pdf

鉄道WT報告を踏まえた関係機関の取組(北海道)
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/1/1/0/5/4/0/9/4/_/290731shiryou2.pdf

当社単独では維持することが困難な線区について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161118-3.pdf

JR北海道の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247327.pdf

室蘭線で出かけよう!(Facebook)
https://www.facebook.com/p/室蘭線で出かけよう-100081900316854/

【公式】JR室蘭線活性化連絡協議会(Instagram)
https://www.instagram.com/muroransen/

JR北海道の経営改善について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001247327.pdf

室蘭線(苫小牧~岩見沢間)事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/executionplan_07.pdf

事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画 検証報告書(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/8senku/v_report_2024_07.pdf

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