【NEWS】上信電鉄など赤字3路線で「全線存続」の基本方針を決定 – 群馬県

上信電鉄の駅 協議会ニュース

【2025年2月12日】群馬県は「上信電鉄沿線地域交通リ・デザイン推進協議会」を開き、上信電鉄を全線存続とする基本方針を決めました。

協議会では、上信電鉄への財政支援が増加傾向にあるものの、年間200万人の利用者を他の交通手段で輸送するのは困難と判断。利用促進の強化や上毛電鉄との共同による業務効率化など、赤字額の縮小をめざす方針も示されました。

沿線地域交通リ・デザイン推進協議会は、上毛電鉄とわたらせ渓谷鉄道でも実施され、上毛電鉄は2025年1月27日に、わたらせ渓谷鉄道は同年2月4日に、いずれも「全線存続」の基本方針が示されています。

【解説】存続が決まった群馬の赤字3事業者をどのように維持するか?

群馬県では、赤字ローカル線に対する支援の見直しや地域公共交通の再構築を目的に、「沿線地域交通リ・デザイン推進協議会」を2023年に設置。上毛電鉄と上信電鉄、わたらせ渓谷鉄道の3事業者について、存廃を含めた協議を続けてきました。

この協議会が設置された背景には、いずれの事業者も利用者減少などで赤字が増大していたこと、また、その赤字を補てんする沿線自治体の負担が増えていたことがあります。

高崎市や前橋市といった都市部を走る上毛電鉄・上信電鉄でも、モータリゼーションの進展や少子化などの影響で利用者数は年々減少しています。1960年代には年間800万人以上いた利用者数は、コロナ禍前の2019年度には上毛電鉄が約155万人、上信電鉄が約220万人にまで減りました。

赤字も常態化しており、沿線自治体は線路などの「下」の部分の維持費相当額を自治体が負担する「みなし上下分離(群馬型上下分離方式)」で支援。年間の負担額は、上毛電鉄が約3億円、上信電鉄が約3億5,000万円です(2018~2022年の5年間の平均額)。

第三セクターのわたらせ渓谷鉄道も、1994年度の約106万人をピークに減少を続け、2019年度は約37万人に。沿線自治体は、年間で約3億1,000万円(2018~2022年の5年間の平均額)を支援して存続させてきました。

利用者が減り続ける鉄道に億単位の財政支援を続けるのは、果たして妥当なのか。それを検証するために群馬県はこの法定協議会を設置し、ファクトとデータにもとづいて議論を続けてきました。その結果、2025年1~2月にかけて3路線とも「全線存続」の基本方針を示したわけです。

存続を決めた理由として、上毛電鉄と上信電鉄では「バスなど他の交通モードでの輸送が困難なこと」「沿線住民アンケートで運賃値上げを容認する人が過半数を占めたこと」などのデータが全線存続の判断につながったようです。

一方のわたらせ渓谷鉄道は、輸送密度が375人/日(2019年度)しかなく、バス転換も可能だと思われます。ただ、トロッコ列車をはじめ「観光鉄道として地域に与える経済波及効果は年間で約2億円と試算されたこと」「沿線住民アンケートで運賃値上げを容認する人が約7割を占めたこと」などのデータが全線存続の要因になったようです。

存続と決めたからには、沿線自治体にはこれまで以上の支援が求められます。これについて協議会では、交通系ICカードなどのキャッシュレスシステムの導入や車両更新といった施策を検討。国の補助制度を活用しながら、さらなる財政支援の方法が検討されるようです。

一方で事業者には、いっそうの経営努力が求められます。これも協議会では、3社共同で収益増加につながる企画営業をしたり、工事に必要な資材などを共同発注することでコストを抑えたりと、生産性向上や人手不足改善につながるしくみづくりの検討を提言しています。これは、福井県の福井鉄道やえちぜん鉄道、ハピラインふくいが実施しているスタイルをモデルにしているようです。

これらの具体案について群馬県は、地域公共交通計画で2025年度に詳細を詰めるとしています。

なお群馬県では、JR吾妻線(長野原草津口~大前)でも存廃をめぐる協議が2024年5月から始まっています。この協議会でも、高校生を中心に住民アンケートを実施するなど、ファクトとデータをもとづき鉄道の価値を探っている段階です。沿線自治体は、吾妻線でも全線存続の方針を示せるのか。そして、JR東日本に対する何らかの支援に沿線住民の理解を得られるかが、今後の焦点といえるでしょう。

その他の鉄道協議会ニュース

JR中央線などホームドア設置を加速へ – JR東日本ほか

【2025年2月10日】東京都と鉄道事業者などで構成される「ホームドア整備を加速する官民一体の協議会」が開かれ、JR東日本は整備ペースを上げる考えを示しました。JR東日本では、これまで年平均11列のホームドアを設置してきたと報告。今後は年30列に引き上げ、2028年度末までに、中央線をはじめ約120列を設置する予定です。

また、他の私鉄事業者も整備促進の考えで一致。東京都が掲げる「2030年度までにJR・私鉄の設置率を6割にする」という目標を、2028年度末に前倒しすることで合意しました。なお東京都では、ホームドア整備などに必要な補助金として、2025年度予算案に約14億円を計上しています。

※JRと私鉄のホームドア設置率や、設置が進まない理由について、以下の記事で詳しく解説しています。

JR指宿枕崎線の「経済的な価値」を評価するための調査実施へ

【2025年2月10日】指宿枕崎線(指宿~枕崎)のあり方を議論する検討会議が、鹿児島市で開かれました。この会議は、鉄道を活用したまちづくりの検討を目的に、沿線自治体とJR九州、鹿児島県、有識者などが話し合うもので、今回が2回目の開催です。

会議では、2024年10月に実施した商工関係者や高校生に対するワークショップの結果を鹿児島県が報告。食や自然など沿線地域ならではの魅力をアピールすることで、鉄道の利用につなげようとする意見が出たと伝えています。また、該当線区の運行本数が少ないことから「駅の空間づくりも必要」といった意見も、ワークショップで出されたようです。

今後の議論として協議会では、鉄道がもたらす「経済的な価値」をさまざまな視点で調査・分析することが確認されました。鹿児島県の担当者は「関係者が力を合わせて、自分事として取り組んでいけるように、環境づくりや取り組みを行っていきたい」と語っています。

※指宿枕崎線の沿線自治体とJR九州との協議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。

新潟県が特急「しらゆき」で適用される独自の運賃割引を検討

【2025年2月7日】新潟県は、JR信越本線・えちごトキめき鉄道(妙高はねうまライン)で運行している特急「しらゆき」について、独自の割引制度を検討する考えを示しました。

特急しらゆきは、新潟と上越エリア(上越妙高・新井)を結ぶ列車で、県は将来的にミニ新幹線化などの鉄道高速化構想を掲げています。ただ、利用者数は伸び悩んでおり、2022年には一部列車の減便が実施されました。

こうした状況に県は、「えきねっと」で販売する割引きっぷの購入者を対象に、さらに運賃が割り引かれる独自制度を検討。関連費用として、2025年度一般会計当初予算案に計上するとしています。割引率や開始時期はJR東日本などと調整中で、今後決まり次第公表されるそうです。

北陸新幹線の建設費「地方負担の軽減を前提に」 – 与党プロジェクトチーム

【2025年2月14日】北陸新幹線(敦賀~新大阪)の整備をめぐる与党プロジェクトチーム委員会が開かれ、地方負担の軽減につながる検討を始めることが確認されました。

整備新幹線の建設費は、国が3分の2、地方が3分の1を負担するしくみです。ただ、資材費や人件費などの高騰で建設費の増加が見込まれ、北陸新幹線の沿線自治体からも賛同が得られない状況が続いています。こうしたなかで委員会では、地方負担の軽減を前提に建設費の財源確保に向けた議論を本格化させることが確認されました。今後は、JR各社への貸付料を含めて議論を深度化していくようです。

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