【2025年3月28日】災害で一部線区が長期不通となっている大井川鉄道の復旧費用をめぐり、沿線自治体などで構成する検討会は、大井川鉄道の負担分を支援する方針を決めました。
この日の検討会で大井川鉄道は、復旧費用が約21億円という新たな試算結果を提示。国の補助金制度を活用しても、大井川鉄道には約7億8,000万円の負担が生じます。これについて沿線自治体は、7億8,000万円のうち4億2,000万円を補助、残り3億6,000万円は貸付というかたちで支援し、大井川鉄道の負担を軽減することになりました。
この決定を受け、大井川鉄道は復旧に向けた調査を始める予定で、2029年春に全線再開をめざすとしています。
【解説】2つの補助金制度+自治体の追加支援で全線復旧に決着
大井川鉄道は2022年9月の台風で甚大な被害を受け、現在も川根温泉笹間渡~千頭が不通になっています。その後、大井川鉄道は自社単独での復旧は難しいとして、沿線自治体に支援を要望。これに対して沿線自治体は、「大井川鉄道本線沿線における公共交通のあり方検討会」という組織を、2023年3月に立ち上げます。
沿線自治体は当初「必ずしも全線復旧を前提にしない」と、一部線区の廃止も含めて検討する姿勢でした。ただ、鉄道の長期不通により観光客が激減するなど、沿線地域への影響が顕在化。こうした状況に、2024年3月26日に開催された第3回検討会では「早期の運行再開をめざし検討する」と、全線復旧を前提とした方針を打ち出します。
全線復旧をめざすことになったものの、検討会が問題視したのが「復旧費用」です。復旧費用の詳細は、2023年11月29日に開かれた第2回検討会で公表されています。
■大井川鉄道の復旧費用の詳細
災害復旧 | 機能回復 | 防災改良 |
---|---|---|
4.8億円 | 17.3億円(16.2億円) | 5.4億円 |
参考:第2回大井川鐵道本線沿線における公共交通のあり方検討会「運行再開に要する費用等について」をもとに筆者作成
「災害復旧」は、2022年9月の台風で被災した箇所の復旧費のこと。「機能回復」は、経年劣化した鉄道施設・設備の整備費のことです。「防災改良」は、再び被災した際の被害を軽減するために必要な整備費としています。なお、機能回復については2025年3月28日の検討会で、16億2,000万円に下方修正された模様です。
単純に台風による被害箇所を復旧するだけなら、4億8,000万円で済みます。しかし安全運行を確保するには、機能回復の16億2,000万円も必要経費です。この2つをあわせた21億円が、復旧費用として示されます。
21億円もの巨額を、赤字の大井川鉄道には負担できません。そこで沿線自治体は、国の補助金制度の活用を検討。大井川鉄道の負担を最小限に抑える方法を考えます。
災害復旧の4億8,000万円については、「鉄道軌道整備法にもとづく災害復旧補助」という国の補助金制度を活用することで、事業者負担を2分の1にできます。これにより、大井川鉄道の負担額は2憶4,000万円に減額されます。
しかし、機能回復の16億2,000万円は災害復旧ではないので、上記の補助金が使えません。そこで、別の補助金制度の活用を検討します。報道では、どの補助金を活用するか伝えていませんが、おそらく「社会資本整備総合交付金(地域公共交通再構築事業)」だと推測されます。これを活用すれば、大井川鉄道の負担割合は3分の1になり、負担額は5憶4,000万円になります。
これらをあわせた7億8,000万円が、大井川鉄道の負担となったわけですが、それでも赤字の大井川鉄道にとっては巨額です。
ここからが、今回の全線復旧を決定づけるポイントになります。
大井川鉄道が負担する災害復旧の2憶4,000万円については、沿線自治体が全額補助することで決定します。また、機能回復の5憶4,000万円については、静岡県と島田市が「貸付」、川根本町は「補助」することで決定。内訳は、静岡県と島田市が3億6,000万円の貸付、川根本町が1億8,000万円の補助です。川根本町が貸付ではなく補助にしたのは、観光客の激減など大井川鉄道から受ける恩恵が大きいためでしょう。
国の補助金制度にくわえ、沿線自治体の追加支援。これらにより、大井川鉄道の負担額は「3億6,000万円の貸付」のみになりました。
■復旧費用の負担額
災害復旧(計4.8億円) | 機能回復(計16.2億円) | |
---|---|---|
国 | 1.2億円 | 5.4億円 |
自治体 | 3.6億円 | 7.2億円 |
大井川鉄道 | 0円 | 3.6億円(貸付) |
検討会後の記者会見で、大井川鉄道の鳥塚社長は「国や県、市町には非常に尽力いただき、大変ありがたい。大井川鉄道は第三セクター鉄道ではなく私鉄。そうしたなかで(支援の)システムをつくっていただき感謝している」と述べています。
第三セクター鉄道であれば、事業者負担分を自治体が肩代わりすることもありますが、私鉄に対しては異例の対応です。それだけ大井川鉄道が、地域に愛され、必要な鉄道だったといえるのではないでしょうか。
※大井川鉄道の全線復旧をめぐる自治体との協議の流れは、以下の記事で詳しく解説しています。
その他の鉄道協議会ニュース
長良川鉄道の一部線区で存廃協議へ
【2025年3月26日】長良川鉄道の沿線自治体による首長会議が開かれ、一部の線区の廃止を含めた協議を始めることが確認されました。この日は、岐阜県関市や郡上市など沿線5市町の首長が集まり、非公開の会議を開催。会議後の記者会見で、長良川鉄道の社長を務める関市の山下市長は「どの自治体も危機感を持っている。廃線を先送りにできないという考えを共有できた」と述べています。
協議対象の線区は「美濃白鳥または郡上八幡~北濃」と伝えられており、利用実績などのデータをもとに議会や沿線住民に説明していくとしています。対象線区や時期などは今後、担当者レベルで話し合い公表する予定です。
※長良川鉄道に対する沿線自治体の支援内容は、以下の記事で詳しく解説しています。
JR芸備線の実証事業案を確認 – 経済効果は3億8,000万円と試算
【2025年3月26日】芸備線再構築協議会が開かれ、2025年度に実施する実証事業の案が確認されました。具体的な案として、「帰宅時間帯や休日の列車増便」「タクシーなどの二次交通の拡充」「デジタルスタンプラリーの開催」など、6つの施策が示されたようです。
また、住民アンケートの結果も踏まえ、これらの施策を実施したときの経済波及効果の試算結果も公表。その額は約3億8,000万円となり、現状の効果(JR西日本の営業収入を含む)より約1億円増えるとしています。実際に取り組む施策は次回の協議会で決定し、2025年7月から実証事業が始まる予定です。
※芸備線再構築協議会の流れは、以下の記事で詳しく解説しています。
JR米坂線「三セクは5億~19億円」「バス転換は1.5億~2億円」と試算
【2025年3月26日】JR米坂線復旧検討会議が開かれ、JR東日本は「第三セクターへの移管」と「バス転換」した場合の費用試算を提示しました。それによると、第三セクターに移管した場合は年間で5億~19億円、バス転換した場合は1億5,000万~2億円と試算しています。
この結果についてJR東日本は、運営条件などを沿線自治体と相談して求めたものであり「事業者次第で変わる」と伝えています。ちなみに、JR東日本が運行主体の「上下分離方式へ移行した場合」の自治体負担額は年間で12億8,000万~17億円と、前回の検討会議で示されています。
この結果を受けて、山形県の担当者は「鉄道での復旧が第一。沿線自治体と具体的に検討を進めたい」と、米坂線の復旧を強調。一方で新潟県の担当者は「より具体的に検討を進める必要がある。スピード感を持って議論したい」と話しています。
※米坂線の復旧をめぐるJR東日本と沿線自治体との協議の流れは、以下の記事で詳しく解説しています。
宇都宮ライトレールの「東武宇都宮線への乗り入れ」検討協議が初開催
【2025年3月25日】宇都宮ライトレールの東武宇都宮線への乗り入れ構想について、栃木県、宇都宮市、東武鉄道の三者による協議が初めて開かれました。宇都宮ライトレールは、JR宇都宮駅の西側への延伸計画が進んでいますが、栃木県と宇都宮市は「東武鉄道との結節強化が欠かせない」と、東武宇都宮線へのLRT乗り入れ構想を掲げています。これに東武鉄道も「検討したい」と、今回の協議が実現しました。
協議では、三者で検討していくことは確認されますが、具体的な実現時期やルートなどは示されていません。結節点となる東武宇都宮駅での接続方法や、電圧の違いなど課題も多く、今後の協議でどのように進むか注目されます。