今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、全国交通系ICカードのシステム更新をめぐる地方鉄道の動きや、錦川鉄道で「一部廃止区間の案」が提示された話など、さまざまなニュースをピックアップしてお伝えします。
広島電鉄の「モビリーデイズ」全国交通系ICカードの対応を検討
【2024年11月13日】広島電鉄は、スマートフォンアプリで乗車できる新システム「モビリーデイズ(MOBIRY DAYS)」について、全国交通系ICカードでも決済できるよう検討していることを明らかにしました。
2024年9月から本格運用を始めたモビリーデイズは、ICOCAなどの全国交通系ICカードと相互利用できないことから、利便性の低下が懸念されています。広島電鉄は当初、モビリーデイズ専用の車載器とICカード対応の車載器の設置を検討していましたが、「ソフトウエアの書き換えでモビリーデイズの車載器でも対応できる」として、今回の公表に至ったようです。ただ、導入時期は未定としています。
なお、これまで利用されてきた交通系ICカード「パスピー(PASPY)」は、2025年3月29日に廃止することが決まっています。
【解説】地方交通に迫られる全国交通系ICカードの「多額の更新費用」
広島電鉄は2008年に、交通系ICカード「パスピー」を導入しています。この決済システムには、日本鉄道サイバネティクス協議会が定める「サイバネ規格」という規格を採用。JR西日本のICOCAをはじめ、全国の交通系ICカードシステムと相互関係があります。そのため、パスピー1枚でJR西日本やアストラムラインなどに乗車できました。
しかし、サイバネ規格の全国交通系ICカードシステムは維持費が高く、それを嫌って独自の決済システムを開発・運用する事業者も少なくないようです。また、システムには保守契約があり、サイバネ規格だと7~8年ごとの更新が必要とされます。その更新費用が高額で、広島県内の交通事業者には40億円以上の負担が生じるそうです。
こうした事情から広島電鉄はシステム更新の時期にあわせて、サイバネ規格のパスピーに代わる独自の決済システム「モビリーデイズ」を開発。2024年7月から試験運用を始め、同年9月7日から本格運用へ移りました。モビリーデイズは、ABT(アカウントベースド)というクラウドサーバで管理する方式を採用。システム全体の低廉化を図れ、ランディングコストを抑えられるとしています。
ただ、モビリーデイズは現状、全国交通系ICカードと相互利用ができません。これについて広島電鉄は、ソフトウエアの書き換えなど「技術的な障壁やコストは低い」として、今後利用できるように進める考えを示しました。なお、全国交通系ICカード以外にも、WAON(ワオン)などの流通系電子マネーの利用も検討するとしています。
全国交通系ICカードの更新にあわせて、別の決済システムに移行する事業者も現れています。熊本電鉄をはじめ熊本市内で運行する5つのバス事業者は、2024年11月15日に全国交通系ICカードシステムを廃止。2025年3月からクレジットカードなどで決済する新システムを導入するとしています(熊本市電は2026年4月に移行予定)。
これらの事業者も、従来はサイバネ規格のシステムを使っており、2024年度末に保守契約の更新が迫っていました。更新には約900台の車載器の入れ替えなど12億1,000万円が必要です。利用者減少に苦しむ事業者が、決済システムの更新のために捻出できる費用ではありません。
そこで事業者と熊本県、熊本市は「共同経営推進室」を設置し、新たな決済システムの導入を検討。新システムへの移行を決定します。新システムの導入費用は6億7,000万円とされ、サイバネ規格のシステム更新費の半分くらいです。
熊本の共同経営推進室が新システム移行を決めた理由には、国の補助制度もあるようです。国は、交通系ICカードシステムをはじめ事業者の経営合理化などにつながる投資をする際に、補助金を助成する制度を用意しています。ただ、この補助金は「新規導入する場合」に限られ、更新時には活用できません。そこで共同経営推進室は、新たな決済システムを導入することで国の補助金を活用。これにより、事業者や自治体が負担する費用を、さらに抑えられるとしています。
このように、全国交通系ICカードシステムの更新を拒む事業者が顕在化する一方で、これまでICカードを使っていた利用者からみると、利便性が低下するおそれがあります。広島のモビリーデイズは、広島電鉄のほか数社のバス事業者で利用できますが、現状ではアストラムラインやJR西日本で使用できません。熊本にいたっては、JR九州を除き全国交通系ICカードが一切使えなくなります。
キャッシュレス決済システムを導入する鉄道事業者は、今後もローカル線を中心に増え続けると考えられます。その際にコストだけでなく、どの決済方法が利用者ニーズに適しているかも検討する必要があるでしょう。あわせて、国の支援制度の見直しも検討してほしいところです。
その他の鉄道協議会ニュース
錦川鉄道の北河内~錦町の廃止・バス転換案が浮上
【2024年11月14日】錦川鉄道のあり方について有識者の「意見を聴く会」が開かれ、一部線区の廃止案や住民アンケートの結果などについて話し合われました。
錦川鉄道では「上下分離方式による鉄路存続」や「一部線区または全線の廃止」など、存廃をめぐる話し合いが進んでいます。このうち、一部線区の廃止に関しては「北河内から錦町までの廃止・バス転換」という案が示されたそうです。
また、2024年5月に実施した住民アンケートの結果も示され、「存続が望ましい」と回答した人は50.8%と、見直しを求める人(49.2%)とほぼ同数だったことも明らかになりました。こうした声を含め、「意見を聴く会」では2025年1月までに検討報告書の素案をまとめる予定です。
※錦川鉄道に対する自治体の支援内容や存廃協議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。
富士山登山鉄道構想の反対派との「意見を伺う会」開催
【2024年11月13日】山梨県は、富士山登山鉄道構想に反対する3つの市民団体と意見交換する「意見を伺う会」を開催しました。団体側は、LRTの新設には車両基地や変電所なども必要で、富士山周辺で大規模な開発が進むことを懸念。また、県が試算した収益試算について「富士山の厳しい自然環境を反映しているのか」といった意見も出されたようです。
これに対して山梨県の長崎知事は、「自然に手をつけるなという話は、どこまでなら許されるのか。その線引きをしなければ議論は進まない」などの意見を述べたようです。反対派との意見交換は今後も続け、年内にも具体的な方針を示す予定です。
※富士山登山鉄道が必要になった理由や、反対派の主張などは、以下のページで詳しく解説しています。
米坂線の期成同盟会が復旧を求める要望書を国に提出
【2024年11月11日】米坂線整備促進期成同盟会は、米坂線の早期復旧や国の支援拡充などを求める要望書を北陸信越運輸局に提出しました。この同盟会は沿線自治体や商工団体、観光協会などで構成される組織で、主に米坂線の利用促進に取り組んでいます。
要望書では、JRの路線として早期復旧を求めるとともに、約2,000筆の署名を提出。復旧費用に対する国の財政支援を求めています。同盟会の仁科会長は「JR東日本だけに復旧を求めるのは無理がある。沿線自治体も財政状況がよくないので、国の力を借りたい」と語っています。
一方で要望書を受け取った北陸信越運輸局は、「地元の熱意を非常に強く感じた。まずは現行法のなかで支援を検討し、さらなる支援拡充については必要に応じて検討していく」とコメントしています。
※米坂線の復旧をめぐるJR東日本と沿線自治体との協議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。
JR四国と4県が利用実態などの調査へ
【2024年11月15日】JR四国は、鉄道の利用実態や潜在ニーズの確認などを目的に、全路線を対象とした調査事業を実施すると発表しました。この調査には、徳島・香川・愛媛・高知の4県や沿線自治体も協力します。
調査は、ウェブアンケートと調査票の配布で実施。このうち調査票の配布は、利用者の少ない3線区(牟岐線の阿南以南・予讃線の海回り区間・予土線)を中心におこなう予定です。調査は2024年度末まで続けられ、今後の利用促進計画などに活用するとしています。
青い森鉄道の維持をめざし青森県が新たな支援計画を作成へ
【2024年11月11日】青森県は、青い森鉄道の施設整備などに対する国の支援補助率を上げるため、鉄道事業再構築実施計画の作成を決めました。
青い森鉄道では、JRから継承された鉄道施設の老朽化が課題となっています。その更新には莫大な費用が必要なため、青森県は国の支援制度(鉄道事業再構築事業)の活用を検討。鉄道事業再構築実施計画を作成することが、県などでつくる協議会で承認されました。この計画が認定されると、2025年度からの10年間は国の補助率が現在の3分の1から2分の1にかさ上げされ、沿線自治体の負担を抑えられます。
今後、鉄道事業再構築実施計画を作成・申請し、認定後は老朽化対策などに着手する予定です。