無人駅の管理費がなぜ100万円もするのか?駅の廃止を防ぐ活用法

無人駅の一例(抜海駅) コラム

経営の苦しい鉄道事業者にとって、「無人駅の廃止」も経費削減策の一手です。短いホームが一本しかないのに、条件によっては年間100万円前後の維持管理費がかかる無人駅もあります。その駅の利用者数が極端に少なければ、鉄道事業者は廃止を検討するのです。

ところで、無人駅を存続させるだけで、なぜこれだけ高額の費用が必要なのでしょうか。管理費が高い理由や、駅の廃止を防ぐための方法について考えてみます。

無人駅の管理にかかる実際のコスト

無人駅の例(小幌駅)

無人駅の管理費は、どれくらいが相場なのでしょうか。ここで、いくつかの実例を紹介します。

なお、鉄道事業者は無人駅の管理費を公表していません。沿線自治体へ廃止を提案した際に「自分たちで管理したい」という要望を受けたときなど、特別な理由があるときに費用を算出するのが通例です。そのため、以下の事例は沿線自治体のホームページなどに掲載された管理費になります。あらかじめご了承ください。

抜海駅:54万~90万円

北海道稚内市が管理する抜海駅は、1面1線のホームと木造駅舎を有する、JR宗谷本線の無人駅です。1日の乗車人員は1~2人と極端に少なく、JR北海道は稚内市に抜海駅の廃止を提案。ただ、地元住民と協議が必要などの理由で、2021年度より稚内市が駅の管理費を負担しています。

実際の管理費は、2021年度が約74万円、2022年度は約54万円、2023年度は約90万円だったそうです。なお、稚内市は2025年度以降は負担できないとして、抜海駅は2025年春に廃止される予定です。

筬島駅・咲来駅・天塩川温泉駅:1駅平均100万円

筬島駅・咲来駅・天塩川温泉駅は、いずれも1面1線のホームと簡易駅舎を有すJR宗谷本線の無人駅です。1日の乗車人員は1人未満。管理者である北海道音威子府村は、3駅で年間300万円ほどを負担し、各駅を維持しています。

音威子府村によると、管理費の8割近くが除雪にかかる費用とのこと。シーズン中の積雪量によって、管理費は大きく変わるそうです。

問寒別駅・糠南駅・雄信内駅・南幌延駅・下沼駅:1駅平均100万円

北海道幌延町が管理する5駅は、ホームはいずれも1面1線。雄信内駅には木造駅舎、問寒別駅・糠南駅・下沼駅には簡易駅舎があり、南幌延駅は駅舎がありません。幌延町は、5駅で年間500万円ほどの管理費を負担しています。

これとは別に、雄信内駅は駅舎の改修費に300万円程度、南幌延駅は板張りホーム桁の改修費に450万円程度がJR北海道から求められました。幌延町はこれを負担できないとして、両駅の廃止を容認。雄信内駅と南幌延駅は、2025年春に廃止される予定です。

小幌駅:150万円以上

秘境駅としても知られる小幌駅は、北海道豊浦町が管理するJR室蘭本線の無人駅です。2面2線のホームを有す小幌駅の管理費は、年間150万円(JR北海道への負担額)。幹線道路にアクセスしにくい立地条件も、管理費が高くなる一因です。

これにくわえ、繁忙期には警備員を配置するなどの理由で、豊浦町の年間負担額は300万円以上とされます(2016年度は474万円を負担)。この費用を、豊浦町はふるさと納税で充てています。

信濃追分駅・荘原駅・川戸駅・西岩国駅:1駅平均で約78万円

無人駅の管理費を、「駅舎を活用する企業・団体などの運営コスト」から求めたデータがあります。

具体的には、信濃追分駅(しなの鉄道)は雑誌編集社、荘原駅(JR西日本)は高齢者人材センター、川戸駅と西岩国駅(いずれもJR西日本)はNPO団体が管理。4駅平均の維持管理費は、年間で776,058円だそうです。なお、この費用は駅舎のみでホームなどの鉄道施設は含みません(川戸駅は2018年の三江線廃止と同時に鉄道施設も廃止)。

無人駅の目安の管理費を算出する方法

上記の事例から、無人駅を維持するだけで年間100万円前後の費用が必要であることがわかります。では、なぜこんなに高いのでしょうか。先述の通り、鉄道事業者は無人駅の管理費や内訳を公表していないため、ここからは一般論になりますが、管理費の内訳を考えると以下の項目が推測されます。

  1. 人件費
  2. 施設修繕費・更新費
  3. 水道光熱費・税金(固定資産税など)・その他

各項目の費用について考えてみます。

1.人件費

無人駅でも、管轄する有人駅(直営駅)などの係員が定期的に巡回し、点検しています。具体的な作業内容としては、以下の作業が発生するようです。

  • ホームの点検(列車の走行や利用者の乗降に支障をきたす異常がないかを確認)
  • 設備の点検(照明や放送設備の点検、トイレなど水道設備の点検、時刻表や運賃表の交換、自動券売機の運用管理…など)
  • 清掃作業(駅舎やトイレ、駅周辺などの清掃)
  • 除草・除雪(近隣住民などに委託する場合もある)

…など

さて人件費を算出する際に、ひとつの方法として工数による経費計算があります。一例として、一般的なサービス業の場合、1人1日あたりに必要な経費は約4万円、1時間あたりで約5,000円とされます(業界や企業・団体、地域などによって異なります)。

仮に、無人駅を巡回する係員の1時間あたりの経費が5,000円、1駅あたりの工数が1時間(移動時間を含む)とする場合、1回の巡回にかかる経費は5,000円。巡回を週1回実施すれば、年間の人件費は約26万円です。なお、人件費には移動時間も含まれるので、直営駅から遠かったり行きづらかったりする無人駅ほど高くなると考えられます。

また、除草や除雪といった作業は係員一人で対応できないこともあります。その場合、駅周辺の住民に依頼したりアルバイトスタッフを雇ったりすると、その人たちへの報酬も必要です。ほかにも、きっぷや定期の販売などを近隣住民に委託する場合も、報酬を払わなければなりません。

北海道などの雪国では、除雪にかかる人件費が管理費の多くを占めるといわれます。大雪の日には、仮に乗降客がいなくても、ホームや駅周辺、さらに幹線道路につながる道の除雪なども対応しなければなりません。積雪量によっては1日がかりの作業になることもあるでしょう。

都市部の無人駅では、駅集中管理システムで運休や遅延などを遠隔一斉放送したり、JR北海道や東日本などが設置している「話せる券売機」の運営管理をしたりする人の人件費も含むかもしれません(「線区」の管理費に含むケースもある)。

このように、無人駅であっても多くの人が管理業務に携わるため、多額の人件費がかかるのです。

2.施設修繕費・更新費

巡回で異常を発見したら、速やかに修繕しなければなりません。照明の電球を交換するといった軽作業であれば、係員が巡回した際に対応できることもあるでしょう。ただ、駅舎やホームの修繕などの作業になると、数百万円規模の修繕費がかかります。また、放送設備や信号設備などは耐用年数に応じて更新が必要です。

近年は水害や大雪、大地震などで鉄道施設が破損するケースが増えています。こうした自然災害で駅舎が破損したら、修繕せずに解体したほうが管理費を抑えられると考える事業者も、少なくないようです。

3.水道光熱費・税金(固定資産税など)・その他

このほか、照明や券売機などにかかる電気代、トイレなどの水道設備がある駅では水道代が必要です。また、駅舎やホームといった事業者所有の建物・土地には、固定資産税が課せられます。ほかにも、駅の設備によっては別途管理費が必要なケースもあります。

無人駅の経費削減のためにできること

亀嵩駅

無人駅の管理費を抑えるために、鉄道事業者は駅舎のコンパクト化や一部施設・業務を第三者へ委託するなどの経費削減を実施しています。なかでも、もっともメジャーなケースが、簡易委託駅への移行です。これは、自治体や沿線住民などに乗車券の発売や改札といった一部業務を委託し、駅を運営してもらうという方法。鉄道事業者からみれば、直営駅と同等のサービスを維持しながら人件費をカットできるため、経費削減につながります。

ただ、委託される側にできることは限られますし、きっぷを販売するだけで利用者が増えるわけではありません。そこで、駅にさまざまな施設を設置し、人を呼び込む取り組みを進めるところも増えてきました。具体例をいくつか紹介します。

駅に併設した事業者に業務委託するケース

沿線の個人事業主や企業に管理を委託している駅は、全国各地にあります。

JR木次線の亀嵩駅などでは、駅舎に蕎麦屋を併設。店員が乗車券の発券などもおこなっています。JR小浜線の加斗駅や若桜鉄道の安部駅と丹比駅では、駅舎に理髪店・美容室を併設。こちらも、店員が乗車券の発券や駅まわり清掃などをおこなう簡易委託駅です。

このほか、JR芸備線の小奴可駅と野馳駅ではタクシー会社が駅を管理。乗車券販売などの業務も、タクシー会社がおこないます。

自治体主導で無人駅を活性化するケース

簡易委託駅ではなく、駅舎を自治体や観光協会が所有し、カフェや交流スペース、観光案内所などに活用する事例も多いです。駅舎や土地を自治体などに譲渡することで、改修費や固定資産税などの経費を削減できます。

JR加古川線の小野町駅では2004年に、駅舎改修にあわせて兵庫県小野市がコミュニティ施設を建設。食堂や菓子メーカーの施設を併設するとともに、駅舎を管理しています。駅周辺の賑わい創出にも一役買っているようです。

JR姫新線の太市駅では、地元企業とも連携して駅を再生する取り組みを進めています。2021年には、旧駅舎跡地に地元の運送会社が新社屋を建設。駅に直結しており、運送会社の経営者や社員が鉄道で通勤するなど、姫新線の利用促進にも一定の効果をあげているようです。

観光誘客を目的に無人駅を活性化するケース

観光誘客を目的に、無人駅を活用する企業・団体も増えています。日本一のモグラ駅としても知られるJR上越線の土合駅には、グランピング施設の運営企業が併設。駅近くでグランピング場やカフェなどを運営しています。

また、JR山陰本線の波子駅の駅舎には、クラフトビールの工場が併設。こちらの運営者は、JR西日本と波子まちづくり活性化協議会などが企画した「ビール列車」の運行をヒントに、「駅でつくったクラフトビールをふるまいたい」と、ビール工場をつくったそうです。

いずれも簡易委託駅ではありませんが、ローカル線の活性化につながる好例といえるでしょう。

無人駅の廃止は「利用者数」で決まる

ただ、いくら鉄道事業者の経費が削減できたとしても、列車に乗る人が減り続けると無人駅は廃止されてしまいます。無人駅の廃止基準は「利用者数」で決まるのが通例です。

JR北海道では2018年に、1日3人未満の駅を廃止にするという明確な基準を打ち出しました。これを受けて、宗谷本線の沿線自治体は、該当する駅の管理を自治体に移行。全線で年間約2,000万円もの管理費を、利用者の少ない駅を維持するために投じています。

これが高いか安いかは、自治体の考えによります。ただ、駅を必要とする明確な理由や強い意志を示さないと、「なぜ利用者の少ない駅を維持するために税金を使うのか?」といった沿線住民からの反発を避けられないでしょう。なお、宗谷本線では自治体が管理費を負担できなくなり廃止されるケースも増えています。

■北海道で2014~2023年度に廃止された駅

▲北海道ではJRを中心に、わずか10年間で121駅が廃止になっている(線区廃止にともなう廃止駅も含む)。

鉄道事業者にとっても、1日に1~2人の利用者のために年間100万円前後の管理費は重い負担です。くわえて近年は、人口減少が鉄道事業者の採用にも影響を及ぼし、駅員の配置が難しくなって無人化する駅もみられます。無人駅が増えれば、直営駅の駅員の負担が増えます。地方の駅では、みどりの窓口の運営や青春18きっぷの改札業務などもこなしながら無人駅の巡回もやらなければならず、業務負担は重くなる一方です。

鉄道事業者も、駅が無人になると清潔な環境が保てなくなったり治安が悪くなったりと、地域に悪い影響を及ぼすことくらい認識しています。しかし、人的リソースや予算は限られるため、無人駅にせざるを得ないこともあるのです。

こうした鉄道事業者の事情も考慮したうえで、地域が協力して無人駅を維持することも大事でしょう。駅がまちの拠点にあるなら、ビジネスや文化交流、福祉などの場として活用するのも、賑わい創出や地域活性化につながるかもしれません。

なお、上記で紹介した無人駅の活性化事例の多くは、住民や自治体の発案・行動がきっかけとなって始まったケースが多いようです。道の駅と同じように鉄道の駅も、事業者と協力して有意義な活用法を検討していくことも、無人駅の廃止を避けるうえで必要なことではないでしょうか。

参考URL

数々の映画ロケ地となった「最北の秘境駅」廃止へ…大正時代に開業、JR宗谷線・抜海駅(読売新聞 2024年7月5日)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240705-OYT1T50029/

北海道音威子府村内無人駅に関するアンケート調査(音威子府村)
https://www.vill.otoineppu.hokkaido.jp/kakuka/chiikishinkou/oshirase/2022_eki.html

JR北海道の無人駅「雄信内駅」と「南幌延駅」の廃止受け入れについて(幌延町)
https://www.town.horonobe.lg.jp/www4/section/soumu/public/le009f000001saqp-att/le009f000001u53k.pdf

ローカル駅の活用に関する調査研究(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/development/tech/pdf_24/Tech-24-69-72.pdf

都市近郊鉄道無人駅を拠点とした地域活性化対策についての一考察(兵庫県立大学)
https://www.u-hyogo.ac.jp/mba/pdf/SBR/11-1/331.pdf

外部団体による鉄道駅の管理委託の実態と期待される効果に関する研究(日本都市計画学会 都市計画論文集)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/58/3/58_1016/_pdf

無人駅に人が戻ってきた… JR姫新線で進む「全国初」の駅再生(神戸新聞 2022年7月13日)
https://nordot.app/919759925427847168?c=648454265403114593

無人駅活用し新たな風が到来! 駅舎にクラフトビール工場!?(NHK松江 2024年4月3日)
https://www.nhk.or.jp/matsue/lreport/article/000/89/

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