【2025年8月19日】西九州新幹線の未整備区間をめぐり、佐賀県と長崎県、JR九州の三者が意見交換会を開きました。三者の意見交換会は2024年5月13日以来で、今回が2回目です。
このなかで佐賀県は、国がFGT(フリーゲージトレイン)を断念し、フル規格の整備案で進めようとしていることが「議論を難しくしている」と説明。そのうえで国に対しては、これまでの経緯を踏まえた「具体的な解決策」を示すように求めました。また、フル規格で整備する場合は、他の整備新幹線にはない特殊な事案であることを踏まえ、「佐賀県の費用負担の軽減」を求める考えを伝えています。
こうした佐賀県の主張に、長崎県とJR九州も賛同。財源問題を含めて、三者がそれぞれの立場から国に働きかけていく方針で一致したようです。
会合後に開かれた記者会見で、佐賀県の山口知事は「財政負担に関しては、国の責任で何かがあってしかるべきだ」と話しています。なお、今回の意見交換会ではルート案などの具体的な整備方針は決まっていません。
【解説】財源問題は?ルート案は?佐賀県の主張は通るのか
西九州新幹線の未整備区間について議論する協議機関は、大きく2つあります。ひとつは国(国土交通省の鉄道局)と佐賀県が議論する「幅広い協議」、もうひとつが、佐賀県・長崎県・JR九州が地元での合意形成をめざす「意見交換会(三者協議)」です。
今回開かれたのは後者の協議機関で、佐賀県の提案で始まりました。ただ、合意形成をめざすといっても「何を合意するのか」というゴールは明確に定めていません。
2025年8月19日に開催された第2回意見交換会は、「北陸新幹線を題材に議論できないか」という佐賀県の呼びかけで実現しました。北陸新幹線の未整備区間も、財源問題で揺れています。佐賀県としては、財源問題について何らかの合意形成をめざそうと考えたようです。
ただ、JR九州が「北陸新幹線とは性質が違う」と説明。そもそもルート案すら決まっていない西九州新幹線の未整備区間とは、議論する内容が異なるという点で三者の見解は一致したようです。
国に求める「具体的な解決策」とは?
意見交換会では、FGTの断念を踏まえて国が「具体的な解決策」を示すように、三者がそれぞれ働きかけていくことで意見が一致しました。
では、国に求める「具体的な解決策」とは何を指すのでしょうか。そのひとつが、財源問題です。
そもそも西九州新幹線が全線開業できないのは、「国がFGTの実用化を断念したこと」が事の発端です。この件について佐賀県は「幅広い協議」で、国の責任について何度も追及しています。国は謝罪こそしたものの、「FGTは無理だからフル規格で作りましょう」と、佐賀県の意に反した協議を進めてきました。
今となっては佐賀県も、FGTで整備できないことに理解を示したようですが、だからといってフル規格で整備することには疑問を抱いています。百歩譲ってフル規格で整備する場合、通常の財源負担割合を適用させようとする国の姿勢に、納得がいかないのです。
佐賀県としては、FGTが失敗した代償など何らかの措置を国に求めたい―その考えに、長崎県とJR九州は今回の意見交換会で賛同したかたちになります。
とはいえ、整備新幹線の財源負担の割合は、法律で決まっています。もちろん、法改正をすれば佐賀県の負担を減らせるでしょう。ただ、法改正は北陸新幹線をはじめ他の整備新幹線にも影響を与えるおそれがあります。
ちなみに、2024年7月に国が沿線自治体に対してヒアリングをした際に、政府・与党整備新幹線検討委員会の森山委員長は「他の自治体も、これまで負担してきた。現状の枠組みを望まないのであれば、法改正をしてまで『やる必要がない』と思う」と語っており、佐賀県などの求めに応じる姿勢はなさそうです。特殊な事情とはいえ、財源問題の解決は難航すると思われます。
未整備区間のルート案は合意に至らず
佐賀県の負担額がいくらになるかは、ルート案が決まらなければ算出できません。今回の意見交換会では、地元として「ルート案を決めること」も確認されました。ただ、三者のあいだでも見解が異なり、ルート案を決めるのも難航しそうです。
長崎県の大石知事は「利便性や採算性の点で、佐賀駅を通るルートが一番適している」と主張。JR九州も佐賀駅を通るルートを推しています。これは、前回の意見交換会でも伝えている話です。
一方の佐賀県は、佐賀駅を通らない案を模索。市の北部を通る「北回りルート」や佐賀空港を通る「南回りルート」などの案を議論していますが、ルート案の絞り込みには至っていません。
整備新幹線のルートは、地域にもたらす経済波及効果も検証する必要があります。それを踏まえて、B/C(費用便益比)が1を超えるなど、整備新幹線の着工5条件(投資効果など)を満たさなければ、事業化すらできないわけです。つまり、整備新幹線計画は新幹線の恩恵が受けられる「まちづくり」と一体で進める必要があり、単に「地図上でルートを決めればよい」というわけにはいきません。
佐賀県の自治体も、2023年の西九州新幹線の開業をめざして、佐賀駅周辺などの再開発計画を進めてきました。その計画を進めているあいだにFGTがダメになり、フル規格に変更されたことで、佐賀県はまちづくりを再考しなければならなくなったのです。
佐賀市によると、佐賀駅周辺で進められている再開発の全体完成は2027年の予定です。そこに、いまさらフル規格の新幹線を通そうとしているのですから、佐賀市からみれば「もっと早く言えよ」という話です。新幹線ホームを地下に作るのも一手でしょう。ただ、財源問題で揉めるのは必至です。
とはいえ、佐賀駅は交通機能が集まる結節点です。ターミナルとしての利便性がある佐賀駅を外すのは、県や佐賀市にとっても不利益のほうが大きいでしょう。
ルート案に関しては今後の意見交換会でも話し合われます。ほかにも在来線問題についても、話し合われる予定です。JR九州の古宮社長は8月21日の定例記者会見で、次の意見交換会を「早期に開催したい」と発言しています。
三者が地元としての合意案を示すのは、いったい何年先になるのでしょうか。その後には、国との協議もあります。未整備区間に新幹線が走るのは、遠い未来になりそうです。