【JR西日本】木次線は廃止を避けられるか?JR西日本が協議の申し入れへ

木次線の観光列車 JR

木次線は、島根県の宍道と広島県の備後落合をつなぐJR西日本のローカル線です。沿線には、ヤマタノオロチの神話伝説にまつわる場所や、自然散策・温泉といった観光地も多く、観光路線という一面もあります。ただ、利用者数は非常に少なく、沿線自治体は廃止への危機感を強めています。

2024年5月、JR西日本は広島県や島根県の沿線自治体に対して、木次線の「あり方」について協議を申し入れる意向を示しました。木次線は廃止を避けられるのでしょうか。「木次線利活用推進協議会」の取り組みを交えながら、今後の動向を推測します。

JR木次線の線区データ

協議対象の区間木次線 宍道~備後落合(81.9km)
輸送密度(1987年→2023年)宍道~出雲横田:879→255
出雲横田~備後落合:279→72
増減率宍道~出雲横田:-71%
出雲横田~備後落合:-74%
赤字額(2023年)宍道~出雲横田:6億4,000万円
出雲横田~備後落合:2億2,000万円
営業係数宍道~出雲横田:1,342
出雲横田~備後落合:3,424
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と2023年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、2021年から2023年までの平均値を使用しています。

協議会参加団体

松江市、雲南市、奥出雲町、庄原市など

木次線と沿線自治体

木次線をめぐる協議会設置までの経緯

国鉄時代の木次線は「陰陽連絡線」として、急行「ちどり」などの優等列車も運行されていました。しかし、モータリゼーションの影響などにより利用者は激減。国鉄末期には、第2次特定地方交通線に指定されます。このときは、沿線の道路事情がよくないことを理由に、廃止対象から外れました。

民営化後も利用者の減少に歯止めがかからず、広島県は2006年、利用促進策として木次線などの高速化と直通列車の運行をJR西日本に求めます。しかし、広島県からの公的支援が示されなかったことや、島根県が「利用者の減少が続く現状で支援は困難」としたことから、この話は立ち消えになります。

一方で、木次線と平行する国道が整備されたことで、2010年代になると冬季に列車が運休した際にはタクシーによる代行輸送をおこなうことが増えてきました。つまり、沿線の道路事情がよくなり、木次線の存在意義がますます低下したということです。

こうした社会環境の変化に、沿線自治体が鉄道廃止の危機感を抱くきっかけになった出来事があります。2018年の三江線の廃止です。「三江線の次は木次線」という意識もあり、沿線自治体は同年に「木次線利活用推進協議会」を設置。沿線住民なども巻き込んで、木次線の利用促進に本腰を入れることになったのです。

3つの柱で木次線の利用促進を実行

木次線利活用推進協議会では、「交通対策」「地域振興」「観光振興」の3つの側面から鉄道の利用促進をおこなっています。

交通対策では、二次交通の整備や運賃助成などで利用促進を図るというもの。地域振興は、イベントを通じたマイレール意識の醸成を含め、沿線地域の活力を創出するというもの。そして観光振興は、企画列車の運行やSNSなどを活用した情報発信で、交流人口の拡大を図るというものです。

これらの施策を、沿線住民や各種団体などと連携しながら、木次線の利用を促すとしています。

木次線利活用推進協議会が計画した利用促進の図
出典:木次線利活用推進協議会「事業テーマ」

木次線の主な取り組み

協議会が実行した具体的な施策について、一例を紹介しましょう。

  • 木次線を利用した学校遠足などの助成(バスなどの二次交通の助成も含む)
  • イベント列車やラッピング列車の運行(木次線地酒トレイン、観劇列車など)
  • ノーマイカーデー普及などの啓発事業
  • スタンプラリー、ウォーキングイベントなどの実行(実行団体への支援)
  • 散策マップやガイドブックの作成(地元高校生などと連携して製作)
  • 駅舎を活用したイベントへの助成
  • ホームページやSNSによる情報発信
  • 地域PR動画作成

…など

利用促進の一環として、運賃助成に注力しています。2021年には、高校生以下の遠足や部活動など学校行事で利用する場合、運賃の全額助成を始めました。また、社会人の団体旅行や研修利用、個人旅行においても、最大半額の助成制度を設けています。

木次線といえば、トロッコ列車「奥出雲おろち号」が有名ですが、ラッピング列車も人気があります。2023年には、4種類のラッピング列車が登場。新たな観光推進策として、協議会が企画したものです。

この企画の背景には、奥出雲おろち号が2023年度で運行終了になるという事情があります。沿線自治体は、奥出雲おろち号に代わる新たなトロッコ列車をJR西日本に求めますが、「経営的、技術的観点から、財政支援の有無に関わらず行わない」とJR西日本が回答。その代わりに、2024年度からは観光列車「あめつち」の運行を確約します。これに先立ち、新たな利用促進策としてラッピング列車を企画したようです。

なお、ラッピング列車の事業費(約2,500万円)は、観光庁の補助金と沿線自治体が負担しています。

木次線は再構築協議会に移行する可能性も

さまざまな取り組みを実行してきた沿線自治体ですが、その効果は限定的のようです。木次線全線の輸送密度は、協議会設置前の2017年が204人/日に対し、設置後の2018年は200人/日、2019年は190人/日と減り続けています。とりわけ出雲横田~備後落合は、30人台と非常に少ない線区です。なお、新たな観光列車「あめつち」は、性能上の問題で出雲横田~備後落合には乗り入れしない予定です。

線区201620172018201920202021
宍道~出雲横田204204200277198220
出雲横田~備後落合371835
▲木次線の輸送密度の推移。2016~2018年は、全線の輸送密度(出典:JR西日本)

こうした状況にJR西日本は2024年5月23日、山陰支社の記者会見で「存続・廃止の前提を置かず、持続可能な地域交通体系について相談したい」と、木次線のあり方について協議を申し入れる考えを示しました。対象線区は、出雲横田~備後落合の29.6kmです。

なお、記者会見では協議の進め方として「どのような場で議論すべきか」を、各自治体と相談する意向を示しています。これは、芸備線や美祢線などで「利用促進」を目的とした協議会に申し入れ、あり方の協議ができず議論が進まないという失敗を繰り返してきた反省からでしょう。木次線でも同じ流れにならないよう、まずは協議したい内容を沿線自治体に丁寧に説明し、「あり方の協議ができる場」を準備してもらうところから進めたいようです。

ただ、あり方の協議は沿線自治体とのこれまでの関係性が大きく影響します。JR西日本と木次線の沿線自治体は良好な関係性が構築できているとはいえず、JR西日本の意見が受け入れられるのか懸念されます。

また、対象線区は国の「再構築協議会」の条件を満たします。両者の意見が食い違えば、芸備線のように国の「再構築協議会」に移行する可能性もあるでしょう。今後、注目しなければならない路線のひとつです。

※再構築協議会の基本方針や対象線区の予想は、以下のページで解説します。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【中国】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
中国地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西日本)
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/220411_02_local.pdf

木次線利活用推進協議会
https://kisuki-line.jp/

木次線観光列車運行検討会の報告について(出雲市)
https://www.city.izumo.shimane.jp/www/contents/1644889592056/files/houkoku4.pdf

タイトルとURLをコピーしました