週刊!鉄道協議会ニュース【2024年10月13日~10月19日】

芸備線の駅 協議会ニュース

今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、芸備線再構築協議会が開催され今年度中に実施される「調査事業」について議論した話や、JR奥羽本線の長期不通線区(新庄~院内)が来春復旧することが決まった話題など、さまざまなニュースを取り上げます。

芸備線再構築協議会で広島県「国が鉄道ネットワークの方針示せ」

【2024年10月16日】芸備線のあり方について国を交えて議論する「再構築協議会」の第2回会合が、岡山市で開催されました。

今回の協議会では、再構築方針の策定に必要なデータを集める「調査事業」の内容について議論。沿線住民に対するアンケート調査の実施、沿線地域の将来の人口予測、二次交通との連携状況など、さまざまな観点から芸備線の現状を検証していくことが確認されました。実際の調査は野村総合研究所に委託され、今年度中に実施。その予算として、1,750万円が計上されています。

岡山県の上坊副知事は「調査事業は重要。芸備線沿線地域のよりよい将来を考えていきたい」とコメント。JR西日本の林支社長は「調査によって最適な地域公共交通の検討を進めたい」と話しています。一方、広島県の玉井副知事は調査事業を容認しつつも、「鉄道ネットワークに関する国の方針を明らかにしてほしい」と、従来の主張を繰り返したようです。

【解説】鉄道ネットワークにこだわる広島県に勝算はあるのか?

再構築協議会の最終目的は、地域公共交通の「再構築方針」を策定することです。これに必要なデータを集めるために協議会では、まず現状分析や鉄道の価値・ポテンシャルを把握する「調査事業」を実施。その結果をもとに、芸備線の利用促進や沿線地域の観光振興などを図るための「実証事業」が実施されます。たとえば、住民アンケートで「運行本数が少なく利用しづらい」という意見が多く集まれば、増便やダイヤの見直しなどの実験を実証事業でおこなうことが想定されるでしょう。

なお、再構築協議会の対象線区(特定区間)は当初、備後庄原~備中神代でしたが、「広域的な観点も必要」という沿線自治体の要望を受け、広島~備中神代の全線に変更されています。

広島県は以前から「鉄道はネットワークでつながることが重要」と主張。観光誘客を検討するうえでも、芸備線全線を対象とした実証事業を展開するべきと、第1回協議会で訴えていました。また広島県と一部沿線自治体は、沿線地域だけで存廃議論を進めることに疑問を投げかけ、「国が鉄道ネットワークの方向性を示してほしい」と要望。明確なビジョンを示さない国に、不満を抱いています。

そんな広島県ですが、芸備線を活用した地域振興などの将来のビジョンについて、いまのところ一切示していません。沿線自治体も、2021年6月から始まった「庄原市・新見市エリアの利用促進等に関する検討会議」のなかで、芸備線を活用した地域の青写真を示したことはありませんでした。

広島県と沿線自治体の主張を振り返ると、鉄道を残すことばかりに固執し、負担と責任を国やJR西日本に押し付けるのが目的化しているように感じます。「自分たちの力で芸備線を守る」「自分たちも積極的に利用する」といった当事者意識が、微塵も感じられないのです。

こうした当事者意識の低さは、芸備線の利用者が激減している一因になっていると考えられます。JRが発足した1987年と2023年の輸送密度を比較すると、備後庄原~備後落合は88%減、備後落合~東城は96%減。これは、全国の赤字ローカルのなかでトップクラスです。これだけ減少しても「自分には関係ない」「自分が乗らなくても、誰かが維持してくれる」という姿勢では、利用者は減る一方ですから廃止される確率が高まります。

2018年に廃止された三江線の沿線地域では、鉄道が「あって当たり前」「赤字問題はJRが解決すべき」という当事者意識の低い住民が多かったという有識者の論文も報告されています。いまのままでは、芸備線も同じく廃止されるでしょうし、木次線や福塩線でも悲劇が繰り返されるかもしれません。鉄道だけでなく、バスやタクシーといった代替交通も存続が危ぶまれます。

芸備線という鉄道ネットワークを維持したければ、広島県と沿線自治体が将来のビジョンを明確に示し、鉄道を存続させるために「自分たちに何ができるのか?」と自分事として捉えることも大切です。いかなる事業も未来のビジョンがなければ破綻しますし、「国やJR西日本が悪い」と言い続けたところで状況が改善することはないのです。

※芸備線再構築協議会のこれまでの流れは、以下の記事で詳しく解説しています。

※赤字ローカル線を存続させるために、当事者意識(マイレール意識)を醸成する方法について、以下の記事で詳しく解説しています。

その他の鉄道協議会ニュース

奥羽本線の不通区間は来春に復旧へ – JR東日本

【2024年10月18日】JR東日本は、奥羽本線の新庄~院内について「2025年ゴールデンウィーク前の運転再開を予定」と発表しました。該当線区は2024年7月の豪雨災害で、土砂流入や盛土崩壊など26箇所が被災。現在は不通となっています。

なお、早期復旧および持続可能な路線維持をめざすために、復旧後の同区間は電気式気動車(GV-E400系)を中心に運行する、非電化線区になる予定です。電化設備は順次撤去されます。

2024年7月の豪雨災害では、陸羽東線の新庄~鳴子温泉も長期不通になっています。この線区の見通しについてJR東日本は、「決まり次第お知らせ」するとしています。

明知鉄道のSL復元に賛否両論 – 復元検討委員会が住民説明会を開催

【2024年10月15日】明知鉄道のSL復元検討委員会が、恵那市で住民説明会を開きました。説明会では、委員会が「明知鉄道を存続させるためにもSLの復活が必要」と、SLが地域活性化を図る資源になることを強調。これに対して住民からは、賛成の声と懐疑的な声の両方が聞かれたようです。

懐疑的な声のなかには、運行に必要なイニシャルコストが10億7,500万円、ランニングコストは1億4,600万円になることから「赤字の場合は恵那市が補てんするのか」という意見や、環境に対する懸念の声も聞かれたそうです。
説明会は他の沿線自治体でも実施され、11月に開催予定の検討委員会でSL復元の可否について判断する予定です。

※SL復元をはじめ、明知鉄道と沿線自治体が実施してきた利用促進の取り組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。

伊賀鉄道で「いがてつマルシェ」開催

【2024年10月19日】伊賀鉄道の上野市車庫で「いがてつマルシェ」が開催されました。5回目となる今回は、ワンマン運行が始まり30年となることから、車掌が乗務していた当時の写真展示や、車内放送・扉の開閉といった車掌体験ができるイベントなどがおこなわれました。

このほか、記念入場券セットの販売や、乗車券発行体験なども実施。また、2012年まで運行していた860系車両の行先方向板レプリカも、限定販売されました。なお、当日は伊賀鉄道が1日乗り放題になる「デジタル一日フリー乗車券」が、通常より割安で販売。大人500円(通常は740円)、小児250円(通常は370円)の特別価格で提供されました。

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