週刊!鉄道協議会ニュース【2024年10月27日~11月2日】

富士山登山鉄道 協議会ニュース

今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、富士山登山鉄道構想の課題を議論する検討会が中間報告を公表した話や、美祢線の復旧検討部会でJR西日本が上下分離方式を提案した話題など、さまざまなニュースを取り上げます。

富士山登山鉄道構想は「事業化可能」 – 検討会が中間報告を公表

【2024年10月28日】山梨県は、富士スバルライン(富士山有料道路)にLRTを整備する「富士山登山鉄道構想」の課題を話し合う検討会の中間報告を公表しました。中間報告には、急カーブ・急勾配への対応や架線レス集電方式の課題といった技術的な問題のほか、運営方式、収支分析、経済波及効果なども検証。技術面や採算性の課題は「解決できる」としています。

中間報告の公表を受けて山梨県の長崎知事は、地元自治体などの反対派との意見交換会を2024年11月13日に実施すると表明。理解を求める考えを示しています。

※公表された「富士山登山鉄道構想事業化検討に係る中間報告」(PDF)

【解説】富士山登山鉄道構想の最大の課題は「地元の理解を得ること」

中間報告を作成したのは、「富士山登山鉄道構想事業化検討会」です。この検討会は、LRT整備の課題を有識者が議論する場として、2023年10月に山梨県が設置。当初は2023年度中に中間報告を公表する予定でした。しかし「意見集約に時間が必要」などの理由で先送りに。設置から1年を経た2024年10月28日に、ようやく公表されました。

中間報告によると、技術的課題については、富士スバルラインの急勾配や急カーブにLRTが対応できるかを検証。急勾配では「増粘着材散布装置」という滑り止めを散布する装置を車体に設置することで走行可能としています。また急カーブには、脱線防止ガードの設置などで乗り上がり脱線のリスクを回避できるそうです。

LRTの路線には架線がなく、線路脇のレールから給電する「第三軌条集電方式(架線レス集電方式)」を採用します。ただ、全線に設置すると「人が横切れない」「急カーブ区間に設置しにくい」といった課題があるため、車体にバッテリーを搭載する自走方式も検討するとしています。

また、運営方式は上下分離が適切としており、「上」の運行主体は民間事業者が担う想定です。収支は、上下いずれも黒字になる試算結果も示されています(事業期間は40年間と想定)。さらに、この事業で地域全体にのべ約12万人(年間で3,007人)の雇用が生まれるなど、経済波及効果は1兆5,621億円(40年間の累計)という試算結果も示されました。

こうしたことから山梨県は、富士山登山鉄道構想が「事業として成立する」と伝えています。

しかし、検討会の中間報告はすべての課題を解決したわけではありません。富士スバルラインでは、スラッシュ雪崩や落石などがたびたび発生しています。また、富士山は活火山ですから噴火した際の避難方法の確立も必要です。これらの防災対策も、今後の検討課題でしょう。

これにくわえ最大の課題は、富士吉田市や富士急行をはじめとする「地元自治体・企業などの理解を得ること」です。

もともと、富士山にLRTを整備する構想は2015年に、富士急行などが加盟する富士五湖観光連盟が提案したものでした。その後、実現に向けて本格的に議論するため、山梨県は2019年に「富士山登山鉄道構想検討会」を設置します。ただ、この検討会には富士五湖観光連盟の企業・団体や富士吉田市などの地元自治体は、招集されませんでした。そのため「地元の声を無視した計画だ」と、反対派の主張のひとつになっています。

なお、LRTを提案していた富士五湖観光連盟は、その後「電動バス(EVバス)」による輸送に転向。「環境保全や採算性の点で優れている」とし、2024年10月から電動バスの走行実験を始めています。

こうした動きを見せる反対派の理解を得るには、山梨県が「LRTが地域に与える便益を明確に示すこと」も大切でしょう。

たとえば、中間報告には「12万人以上の雇用創出」「経済波及効果は1兆5,621億円」という数値が示されていますが、「LRTだから、これだけの効果が得られる」という理由は示していません。電動バスとの比較やLRTが地域に与えるデメリットなどもなければ、公平な比較ができないのです。

中間報告には、LRTの整備費用は1,486億円と提示されています。巨額の投資に対して、地域にもたらすメリットが抽象的で見えにくいことも、地元の理解が得られない理由のひとつではないでしょうか。

※富士山登山鉄道が必要になった理由や、反対派の主張などは、以下の記事で詳しく解説しています。

その他の鉄道協議会ニュース

JR美祢線復旧検討部会でJR西日本が「上下分離方式」を提案

【2024年10月31日】美祢線の「あり方」を議論する、第2回復旧検討部会が開かれました。この部会でJR西日本は、美祢線の持続可能な運行には「地域の皆さまにも運営に関与していただく必要がある」と主張。その一手として、上下分離方式の導入を提案しました。

続けてJR西日本は、上下分離方式に移行することで復旧費用に対する国の補助率が上げられると説明します。一方で、沿線自治体には「下」の維持費に年間3億円以上の負担が生じることも伝えました。これに対して沿線自治体は、改めてJR西日本の単独運営を求めますが、JR西日本は「事業構造を変更しないケースは考えていない」と反発しています。

また、この会合では鉄道以外の復旧方法について、中国運輸局が「BRT(バス高速輸送システム)」も選択肢のひとつとして提案したようです。会合後の記者会見で美祢市の中島部会長は、JR西日本に単独運営を求めたいとしながらも「さまざまな輸送手段での復旧方法を検討していく必要がある」と語っています。

※JR西日本と沿線自治体との復旧協議の経緯は、以下の記事で詳しく解説しています。

平成筑豊鉄道の沿線自治体が1億5,000万円を追加支援

【2024年11月1日】福岡県田川市などは、平成筑豊鉄道に対する今年度の支援として、1億5,000万円を追加する方針を決めました。経営が悪化する平成筑豊鉄道は、2024年度末時点で「約2億円の資金不足が見込まれる」と沿線自治体に報告。このうち5,000万円は、金融機関からの借り入れで確保できるとしており、残り1億5,000万円について沿線自治体に支援を求めたようです。

田川市の大森課長は「いま、鉄道をとめるわけにはいかない。移動困難者が生じないように支援を決めたので、平成筑豊鉄道には赤字が減るよう取り組んでほしい」と語っています。

なお、沿線自治体は10月31日に福岡県に対して法定協議会の設置を要請しており、設置され次第、平成筑豊鉄道のあり方の協議が始まる予定です。

※平成筑豊鉄道の経営が悪化した理由や、沿線自治体の支援や取り組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。

JR東日本・西日本が2023年度の線区別収支を公表

【2024年10月29日】JR東日本と西日本は、利用者が少ない線区の収支や営業係数などのデータを公表しました。公表されたのは2023年度の輸送密度が2,000人/日未満の線区で、JR東日本が72線区、JR西日本が30線区です。なお、JR東日本は前年(2022年度)より輸送密度2,000人/日未満の線区が増えています。一方のJR西日本は、前年より収支が改善した線区が多いようです。

当サイトでは、JR東海を除く旅客5社の営業係数をランク別に集計しています。こちらもあわせてご覧ください。

財政制度等審議会が整備新幹線の「貸付料」の見直し提案

【2024年10月28日】財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)の分科会は、整備新幹線の貸付料制度について見直しを求める提案をおこないました。

JR各社が支払う整備新幹線の貸付料は、在来線時代と比べたJRの収入増加予測などをもとに算出されます。支払期間は30年間で、一度決めた貸付料は変わりません。ただ、増加予測と実績の差が大きいケースもあり、たとえば北陸新幹線の高崎~金沢では実績のほうが2~6割上回っているそうです。

そのため、同区間の貸付料(年間420億円)より約176億円多く得られたと分科会は指摘。30年定額ではなく、柔軟に変更できるしくみに見直すよう求めているようです。この提案を受けて財務省は、具体的な内容を検討するとしています。

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