【JR東日本】久留里線の一部廃止が決まった経緯 – 自治体容認がなかった協議

久留里線の上総亀山駅 JR

2026年2月9日、JR東日本は久留里線の久留里~上総亀山の廃止について、2025年度内に国土交通省へ届出すると公表しました。最終運行は、2027年3月末になる見通しです。

久留里~上総亀山の存廃をめぐるJR東日本と沿線自治体の協議は、2023年5月に始まりました。その協議の場で沿線自治体の君津市は、廃止を容認する発言をしていません。約3年におよぶ協議は、どのように進んだのでしょうか。JR東日本が協議を申し入れた日から廃止が決まるまでの流れを振り返ります。

JR久留里線(久留里~上総亀山)の線区データ

協議対象の区間JR久留里線 久留里~上総亀山(9.6km)
輸送密度(1987年→2024年)823→76
増減率-91%
赤字額(2024年)1億9,900万円
営業係数6,694
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と2024年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、2024年のデータを使用しています。

協議会参加団体

君津市、千葉県、JR東日本(千葉支社)、有識者(日本大学理工学部交通システム工学科特任教授)、住民代表ほか

千葉県が久留里線の存続・廃止をめぐる検討会議を設置

JR東日本は2023年3月9日に、久留里線の沿線自治体に対して「沿線地域の総合的な交通体系に関する議論」をしたいと、協議を申し入れます。対象線区は、久留里~上総亀山の9.6kmです。事実上の存廃協議をJR東日本が申し入れたのは、災害で長期不通となった路線を除くと、久留里線が初めてでした。

JR東日本の申入れを受けて、千葉県は「JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議」を設置。該当線区がある君津市とJR東日本のほか、有識者や住民代表(3地区の自治会長)も検討会議に参加します。こうした協議に住民代表が3人も参加するケースは珍しく、地域に開かれた協議をめざす点も注目されました。

第1回の検討会議は、2023年5月11日に開催されます。JR東日本は、該当線区の現状を説明。1987年に823人/日だった久留里~上総亀山の輸送密度は、2018年以降は100人/日を割り込むまで減少し、「大量輸送という鉄道のメリットを発揮できていない」と伝えます。

■久留里線(久留里~上総亀山)の輸送密度と運行本数の推移

久留里線(久留里~上総亀山)の輸送密度と運行本数の推移
▲数字は運行本数に変化があった年のみ記載。
参考:JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議「JR東日本 久留里線について」をもとに筆者作成

ここで注目すべきポイントは、運行本数と利用者数の関連性です。久留里~上総亀山の運行本数は、1993年に1往復減便しています。次に減便したのは2013年。この年の輸送密度は216人/日で、前回の減便から20年のあいだに、利用者は7割以上も減少しています。

2013年以降は、減便が利用者の減少を招く負のスパイラルに陥っているようにみえますが、長期的にみるとモータリゼーションの進展や少子化・過疎化といった外的要因による影響が、久留里線の利用者減少の主要因だったと考えられます。

JR東日本は、キャンペーンの実施やイベント列車の運行など観光誘客を中心に、久留里線の利用促進に取り組んできました。しかし、これらの効果は限定的でした。なぜなら、久留里線の利用者の大半は、通学に使う高校生をはじめとする沿線住民だからです。その住民が鉄道を使わなければ、どれだけ観光誘客を頑張ってもトータルの利用者数は増えないのです。

久留里線の潜在ニーズの調査へ

とはいえ、久留里~上総亀山は、日常的に利用しづらいダイヤであったことも事実です。2023年6月から7月にかけて沿線3地区で開催された住民説明会でも、「日中に5時間以上も運行がなく利用しづらい」という意見が相次ぎました。

そのなかで検討会議のメンバーは、ある育児世帯の意見に注目します。

子どもが利用している。1日55人という数字について、列車の本数が少なくて、久留里まで送迎をすることがある。そうすると、本来は久留里線を使っていたかもしれない正確な人数は出ないと思う。久留里亀山間の人数は、親が送迎している人数は入っていない。

出典:JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議「住民説明会結果」

久留里線の沿線には最寄り駅まで送迎する家族が多く、久留里~上総亀山に列車がない時間帯には、久留里駅まで迎えに行かなければならない人もいます。そうした人も、本来は久留里~上総亀山の利用者ですから「その人たちも数値に含めるべきではないか?」という意見です。

この意見から、第2回検討会議(2023年9月6日)では、「鉄道を利用したくても利用できない人が、どれくらいいるのか把握する必要がある」という意見が出され、久留里~上総亀山の潜在ニーズの調査が決定します。調査方法は「住民アンケート」。調査対象は、久留里~上総亀山の沿線住民2,243世帯です。沿線住民の日常的な移動実態を把握することも、調査目的のひとつでした。

車社会を浮き彫りにした住民アンケートの結果

沿線住民に対するアンケートの結果は、第3回検討会議(2023年12月27日に開催)で示されます。回答者は1,110世帯。設問は全部で37問です。ここでは「日常利用」「通学利用」「免許返納時に久留里線の利用を希望する人」の3項目の結果について紹介します。

※以下の調査結果は、第3回検討会議で報告された「久留里・松丘・亀山地区住民の移動実態に関するアンケートの結果について」をもとに作成しています。

日常利用

通勤や買物、通院の移動手段について聞いた質問です。選択肢は、「自家用車」「家族の送迎」「公共交通」「その他」の4つ。なお、以下円グラフでは公共交通を「鉄道」「バスなど(鉄道以外の公共交通)」で作成しています。

家族の送迎も自家用車とすれば、9割以上の人がマイカーで通勤・買物・通院をしていることになります。

通学利用

沿線の中高生を対象に、通学手段を聞いた内容です。登校と下校にわけていますが、このうち下校は「部活や習い事がない日」の移動手段を聞いています。

登下校いずれも「スクールバス」が過半数を占める結果です。筆者が久留里線の現地調査した際にも、木更津駅近くのスクールバス乗り場に多くの学生が並んでいる姿を確認しています。

そもそも、このアンケートは「列車の本数が少なく、久留里駅まで親が送迎している生徒の数も利用者数に含めてほしい」という住民の声から始まりました。しかし、「家族の送迎」を鉄道利用者にカウントしても、22~23人にしかならないという厳しい結果が示されたことになります。

免許返納時に久留里線の利用を希望する人

将来、車を運転できなくなったときに「久留里線をどれだけ使うか?」というアンケートも実施しています。回答の選択は「1週間で何日利用するか?」です。

「利用しない」「週1日未満」という人が多く、改めて車社会の地域であることが鮮明になりました。

こうしたアンケート調査の結果を踏まえて検討会議では、鉄道以外の公共交通を含め「地域の大半の人が利用していない」という現実を確認。ただ、現状の公共交通が利用しづらいという課題もあるため、次回の検討会議ではバスやデマンド交通を含めた地域全体の交通体系における課題について議論することで一致します。

また、このアンケート結果をもとに地元の自治会長と意見交換をすることも確認されます。

鉄道以外の交通モードも検討へ

アンケート結果は、2024年2月に開かれた沿線3地区の自治会長報告会でも説明されます。報告会では「観光利用を増やせないか」「JRに対して公共交通の責任を果たすよう求めてほしい」といった意見が出た一方で、「利便性が高まるのであれば、鉄道以外の代替交通の検討も必要だ」という意見もあったそうです。

こうした自治会長の意見は、第4回検討会議(2024年7月16日)で報告。ノスタルジックな心情はあるものの、バスやデマンド交通など代替交通の検討に理解を得られたことが確認されます。また、事業者への意見に対してJR東日本は「鉄道が地域のお役に立てていない」と、改めて説明。「観光振興も重要だと理解している。引き続き地域と一体となって取り組み、よりよい交通体系の構築に協力していきたい」と述べ、公共交通機関としての責任を将来にわたり果たしていく考えを示します。

なお、第4回検討会議の最後に君津市が「鉄道の存廃判断を含め、最終的には法定協議会の『地域公共交通会議』で具体策を議論したい」と提言。次回の検討会議では、これまで議論した内容を報告書にまとめることも確認されました。

検討会議の報告書で示されたこと

第5回検討会議は、2024年10月21日に開催。1年半にわたり議論してきた内容を「検討結果報告書」にまとめる会議です。

まず、事務局から報告書の説明があります。このなかで、現状の地域公共交通には「鉄道」「バス」「デマンド交通(タクシー)」のほか、新たな選択肢として「ライドシェア」も検討されています。ただ、ライドシェアは参加意向を示すタクシー事業者がいなかったため「導入は難しい」と報告。その他の交通モードについては、以下の報告がされています。

鉄道(久留里線の存続)

鉄道に関しては、「1列車あたりの最大利用者数は10~25人程度」しかいない点を報告書では指摘。そのうえで、人口減少が進む地域のため通勤通学客の増加が見込めないことや、観光利用も1日最大50人程度しかなく新たな需要を創出しても「鉄道は輸送力が過剰」と伝えています。

なお、上下分離方式などの公的支援についても検討されましたが、利用者が少ないため「納税者の理解を得るのは極めて厳しい」と否定的な考えも示しています。

バス(スクールバスやカピーナ号の活用など)

バスは多様なニーズに応えやすいとしながらも、利用者が少ないため「事業として成り立たせるのは大変困難」と報告。つまり、民間バス事業者では経営が成り立たないことを指摘しています。このため、バス転換を検討する際は事業主体や運行形態、ルートなどを関係者で協議するように求めています。

なお、高速バス「カピーナ号」を代替交通とする場合、速達性の低下やシステム改修などバス事業者の課題をクリアしながら「実現可能性を検討していく必要がある」と、報告書は伝えています。

デマンド交通(タクシー)

君津市では、デマンドタクシー「きみぴょん号」を運行しています。1日の利用者数は30人前後で個人単位の移動需要に応えているものの、「予約がとれない」という住民の声も多いようです。その一方で、収支は年間3,600万円の赤字であることから、報告書案では「効率的に運行するために、デジタル技術などの活用を積極的に検討すべき」と伝えています。

久留里線の存続・廃止議論は君津市の法定協議会へ

以上の内容から、通勤通学などまとまった需要には「バス」、買物や通院など散発的な需要には「デマンド交通」が適切であると、報告書ではまとめています。

この報告に対して千葉県は、「鉄道の廃止を結論づけるものではない」としながらも、「現状以上の交通体系を実現することで、沿線住民が安心して住み続けられるように検討してほしい」と発言。また君津市は、車社会の将来に不安を抱く沿線住民が多いことから、「JRには総合的に検討いただき、地域交通や地域活性化に積極的に関わってほしい」と懇願しています。

一方で沿線住民の代表は、「より利便性の高い公共交通を将来にわたって維持することが大事。本報告書の結果は、妥当なものと受け止めている」と、冷静な意見を述べています。

なお、報告書案ではJR東日本に対して、新たな交通体系案を提示するように要望しています。その案がまとまったところで、今後は君津市が設置する法定協議会(地域公共交通会議)で議論することが確認され、検討会議は幕を閉じます。久留里~上総亀山の将来は、新たな議場へと移ります。

代替バスのルート案&ダイヤ案を提示

2024年11月27日、JR東日本は「JR久留里線(久留里・上総亀山間)の新たな交通体系について」というプレスリリースを公表します。これを受けて君津市は、JR東日本と代替交通に関する協議を開始。その「たたき台」となるルート案とダイヤ案が、2025年6月23日の君津市地域公共交通会議で報告されました。

代替バスのルート案は、久留里駅または君津青葉高校を起点に、亀山湖の観光案内所「亀山やすらぎ館(上総亀山駅から徒歩10分)」までを結ぶ4系統を想定。代替バス専用の停留所を増設します。なお、ルートが重なる既存のコミュニティバスは再編します。

ダイヤ案は1日13往復で、鉄道の8.5往復より増加。次の列車まで5時間待ちといった不便さも解消します。久留里駅~亀山やすらぎ館の所要時間は約20分で、鉄道とほぼ同じです。また、運行主体は君津市で、委託費用はJR東日本が負担することも伝えられます。

このルート案やダイヤ案に関して、検討会議で座長を務めた藤井委員は「検討会議で挙がったさまざまな課題や意見を反映している」と、地域のニーズにあわせた点を評価。他の委員からも、反対意見はありませんでした。

久留里線(久留里~上総亀山)の廃止届出へ

代替交通の検討内容は、2025年7~8月に開かれた住民説明会でも説明。また同年10月には、久留里~上総亀山の鉄道利用者に対して、代替交通に関するアンケート調査を実施します。

住民説明会には、3地区で約150名が参加。参加者の多くは代替バスのダイヤや運賃に関する意見を述べる一方で、廃止に反対する意見も出たようです。また「代替交通も廃止になったら…」という不安から「JRの費用負担がいつまで続くのか」といった声も聞かれました。

これらの意見は、2025年12月22日に開催された第3回君津市地域公共交通会議で集約。代替バスのダイヤ調整案や、運賃は鉄道と同等に設定する案などが確認されます。

この会議でJR東日本は、鉄道の廃止届を速やかに提出する方針を提示。代替交通の運行にかかる費用について「運行開始から18年間分を拠出する」と約束し、鉄道の廃止後も地域輸送を守っていく考えを強調します。

代替交通の運行開始時期については、君津市などが年度初めの「4月から」を要望。この意見にJR東日本も同意します。仮に2027年4月から移行する場合、国土交通省への廃止届を2026年3月末までに提出しなければなりません。これに先立ちJR東日本は、2026年2月9日に「JR久留里線(久留里・上総亀山間)の鉄道事業の廃止について」をプレスリリース。2025年度内に届出することを公表します。

スケジュール通りに進めば、久留里線の久留里~上総亀山は2027年3月末に廃止される予定です。

君津市は久留里~上総亀山の廃止をいつ容認したのか?

久留里~上総亀山の廃止が決まる流れを各会議の議事録をもとに紹介しましたが、ここでひとつ疑問が残ります。それは「君津市はいつ、久留里~上総亀山の廃止を容認したのか?」という点です。議事録を見返しても、君津市が廃止を容認する発言は一切ありません。

この疑問について、君津市の石井市長は2025年8月25日の定例会見で「2024年11月にJR東日本が代替交通への転換を表明したのが、事実上の廃止の受け入れになった」と説明。市として廃止を容認した事実を公表せずに、代替交通の協議を始めたことを明らかにしています。

沿線自治体としては、鉄道の廃止を認めるのは苦渋の決断でしょう。廃止反対派の圧力におそれ、公表を避けたのかもしれません。とはいえ、君津市が態度を明確にしなければ、JR東日本も利用者も混乱します。

久留里~上総亀山が廃止されるニュースを、JR東日本のプレスリリース(2026年2月9日)で知った人も多いでしょう。本来であれば、君津市とJR東日本の両者で公表するのが理想です。しかし、これまでの協議を振り返っても君津市には主体性が感じられず、「JR東日本が勝手に廃止を決めた」「代替交通もJRが勝手に運行してくれる」と、まるで他人事のようにみえます。これでは、代替交通の行く末も心配です。

いずれにせよ、久留里~上総亀山の廃止は確定しました。代替交通のダイヤなども近々公表されるでしょうが、沿線住民から信頼される持続可能な公共交通を「君津市が主体」となり、JR東日本と一緒に築いてほしいところです。

久留里線の関連記事

※久留里線の利用実態を調査した乗車レポートは、こちらをご覧ください。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【関東】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
関東地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議(千葉県)
https://www.pref.chiba.lg.jp/koukei/tetsudou/kururi/kentoukaigi.html

JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議 検討結果報告書(案)(千葉県)
https://www.pref.chiba.lg.jp/koukei/tetsudou/kururi/documents/1021houkokusyo.pdf

JR久留里線(久留里・上総亀山間)の新たな交通体系について(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/press/2024/chiba/20241127_c01.pdf

君津市地域公共交通会議
https://www.city.kimitsu.lg.jp/life/5/48/274/

君津市、JRによる代替バスへの転換表明で久留里線廃線を「容認」(朝日新聞 2025年8月26日)
https://www.asahi.com/articles/AST8T4JXLT8TUDCB00MM.html

JR久留里線(久留里・上総亀山間)の鉄道事業の廃止について(JR東日本)
https://www.jreast.co.jp/press/2025/chiba/20260209_c01.pdf

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