今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、阿武隈急行の一部沿線自治体が公的支援を拒否する動きが出ている話や、JR烏山線で存続をめざす委員会が発足したニュースなどを中心にお伝えします。
阿武隈急行への支援を柴田町が拒否 – 顕在化する自治体間の温度差
【2024年6月10日】経営改善が求められている阿武隈急行が株主総会・取締役会を開催し、沿線自治体の宮城県柴田町が支援を拒否していることを明らかにしました。この支援は、阿武隈急行の経常損失(運営上の赤字)に対する補てんで、2023年度よりおこなっています。柴田町の支援額は年間2,358万円で、この支払いを柴田町は拒否しています。
支援を拒否する理由について、柴田町は地元メディアの取材で「そもそも負担割合の合意に至っていない」「阿武隈急行の経営努力が見えず、単なる赤字補てんでは町民に説明できない」と伝えています。なお、2024年度の支援も当初予算に計上していないそうです。
また、秋田内陸縦貫鉄道では秋田県仙北市が支援の減額を示し、2024年度は前年度より500万円少ない1億9,500万円になりました。2025年度以降の支援額については、今後関係者で協議して決めるそうです。
【解説】鉄道への支援を拒み始めた沿線自治体の事情
阿武隈急行と秋田内陸縦貫鉄道は赤字経営のため、沿線自治体の支援を受けながら運営しています。
阿武隈急行では2023年度に、宮城・福島の沿線5市町が経常損失を補てんすることで合意。このうち宮城県では、県が2分の1、残り2分の1は3市町(柴田町・角田市・丸森町)が負担します。この3市町の負担割合をめぐって柴田町が見直しを求めており、支援の拒否につながったようです。
なお、柴田町にはJR東北本線も通っており、利用者数でみるとJRのほうが多いです。一方で角田市と丸森町には、阿武隈急行しか鉄道がありません。阿武隈急行の利用者数も角田市のほうが多く、「利用者数などに応じて支援額を決めるべきでは?」といった柴田町の不満が感じられます。
一方で、秋田内陸縦貫鉄道では仙北市、北秋田市、秋田県が運営上の赤字に対する支援(年間で約2億円)を2010年からおこなっています。負担割合は北秋田市が8,745万円、仙北市が6,330万円、秋田県が4,875万円です。
このうち仙北市が、支援の減額を要望。その理由は、利用者の減少が続き公共交通機関としての役割が薄れていることなどを挙げ、「今後の支援について見直す時期が来た」と説明しています。仙北市では2022年に「秋田内陸線に関する市民意識調査(※)」を実施。支援額に関する質問では「見合った支援額に減らすべき」と回答した人が55.6%と、過半数を超えました。
また、仙北市には秋田新幹線(JR田沢湖線)の駅もあり、利用者数はJRのほうが多いです。一方の北秋田市にはJR奥羽本線がありますが、駅数が多く路線長も長い秋田内陸縦貫鉄道のほうが身近な存在といえるでしょう。
こうした自治体間の温度差が、鉄道の存廃を左右するケースは少なくありません。いずれの路線も利用者数が低迷し、存続が危ぶまれる赤字ローカル線です。沿線の人口減少も進むなかでは第三セクターも安泰といえず、公共交通の見直しに迫られています。
※参考:仙北市「秋田内陸線に関する市民意識調査 調査結果報告書」
※阿武隈急行と秋田内陸縦貫鉄道の経営状況や、沿線自治体の支援内容については、以下のページで詳しく解説しています。
その他の鉄道協議会ニュース
JR烏山線の存続をめざす委員会を設置 – 那須烏山市
【2024年6月11日】那須烏山市は、烏山線の利用促進策などを検討する「JR烏山線利用向上委員会」を設置し、11日に初会合を開きました。
委員会には、JR東日本や沿線の観光協会など18団体が参加。出席者からは「交通系ICカードが利用できるようにしてほしい」などの意見が出たようです。また、2024年は蓄電池駆動電車「アキュム」が導入されて10周年であることから、11月に記念イベントを実施することが確認されました。
委員長である那須烏山市の川俣市長は「皆さんと知恵を出し合い、存続に向けて進めたい」と話したようです。委員会は来月も会合を開き、具体策を検討するとしています。
JR木次線でタクシーを使った実証実験
【2024年6月12日】木次線利活用推進協議会は、2024年7月よりタクシーを使った実証事業の実施を決めました。
具体的には、観光列車あめつちが運行される7~11月の週末などに、木次線の出雲横田駅と伯備線の生山駅を結ぶ連絡タクシーを運行。両駅を直行する便と、奥出雲の観光地をめぐる便の2コースを設け、生山駅では特急やくもに接続します。1人あたりの料金は、直行便が3,500円、観光便が7,000円。日本旅行で販売されるそうです。
※木次線の沿線自治体がおこなってきた取り組みや、JR西日本との存廃協議の最新情報は、以下のページで詳しくお伝えします。
名鉄西尾・蒲郡線で「復刻塗装」のラッピング電車を運行
【2024年6月10日】名鉄西尾・蒲郡線活性化協議会は、懐かしの復刻ラッピング電車の運行を企画。7月から運行が始まります。このラッピング電車は、1960年代に活躍した5500系車両の塗装をラッピングしたもので、クリーム色と赤帯が特徴です。懐かしい車両を走らせることで、西尾市や蒲郡市の観光活性化を狙います。
運行開始日は7月6日の予定。当日は発車式が開かれるほか、グッズ販売や制服着用体験などのイベントも開催するそうです。
※名鉄と沿線自治体との存廃協議の流れは、以下のページで詳しく解説しています。
リニア静岡工区をめぐる国の有識者会議が開催
【2024年6月12日】リニア中央新幹線の静岡工区をめぐる、国の有識者会議が静岡県島田市で開かれました。この会議は、大井川水系の水資源や南アルプスの環境保全を守るうえで必要な対策を、JR東海が確実に実施しているかをチェックするための機関です。
出席したメンバーは、地下水のモニタリング現場や残土の置き場などを視察。また会議では、静岡県・JR東海・国土交通省が、着工に向けて必要な静岡県の条例に関する手続きについて、共有したことが報告されたようです。