鉄道がなくなると街が廃れる可能性を論理学的に証明する方法

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鉄道が廃止され街が廃れた事例 コラム
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「鉄道がなくなると街が廃れる」という持論から、赤字ローカル線の廃止に反対する自治体は少なくありません。この説は、有識者の論文でもさまざまな見解が示されており、「鉄道の廃止と地域の衰退は関係ない(影響は少ない)」と結論付けるものが多いようです。

論理学的には否定された説ですが、自治体はなぜ信じるのでしょうか。また、いま赤字ローカル線が通る地域で、鉄道の廃止にともなう衰退リスクを証明することは可能なのでしょうか。鉄道の廃止が地域に与える影響について、考察します。

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街が廃れる理由は鉄道廃止「以外」の要因が大きい?

自治体が「鉄道がなくなると街が廃れる」という説を信じる根拠のひとつに、国鉄末期に廃止された地域を例に挙げる主張が多くみられます。確かに、1980年代に国鉄の路線が廃止された地域では、その後、人口が流出して疲弊した街も多いため、一見するとこの説は正論のように思われます。

ただ、街が疲弊したのは鉄道の廃止「だけ」が理由ではないことも事実です。

たとえば、国鉄末期に廃止された北海道や九州の路線では、かつては炭鉱で栄えた地域もあります。これらの街は「産業構造の変化」が、街の廃れた主要因として考えられます。ほかにも、地域に学校や企業が少なく進学・就職で若者の人口が流出した街もありますし、大企業の工場撤退など基幹産業を失ったことが衰退の主要因となった地域もあるでしょう。

街が廃れる理由は、複数の要因が絡み合うのが常です。その要因のうち鉄道の廃止がどれだけ影響を及ぼしたかを証明するのは、学者のあいだでも意見がわかれるほど、非常に難しいことなのです。

廃れた街の「事例」は参考にならない

そもそも、鉄道の廃止後に廃れた街がいくつあろうが、それが「自分の街もこうなる」と証明することも不可能でしょう。なぜなら、人口も産業構造も、公共交通も、まったく同じ条件がそろった自治体はひとつもないからです。

これを証明するには、「鉄道が存続した場合」と「廃止になった場合」を、同じ地域で比較できるABテストを実施する必要があります。当然、そのようなテストを現実的にはできません。

衰退した過去の事例をみて不安を抱くくらいなら、「鉄道がなくなっても繁栄する街づくり」を検討したほうが有意義です。実際に、鉄道廃止後に街づくりを再考して人口を増やした自治体は複数あります。

たとえば、国鉄標津線が廃止された北海道の中標津町では、交流人口を増やす施策で町の人口も増加の一途をたどり続けました。ほかにも、士幌線があった北海道の音更町、大隅線があった鹿児島県の鹿屋市など、鉄道廃止後も人口が増え続けたケースは、いくつもあります。

こうした成功事例には目もくれず、失敗事例ばかり注目していること自体が、街が廃れる一因になっているのではないでしょうか。

鉄道廃止後の損失を論理的に証明する方法

とはいえ、鉄道の廃止が地域にマイナスの影響を与えることも事実です。鉄道がなくなり通学手段が限られたことで、高校の統廃合対象になることもあるでしょう。観光客が減ることも想定されますし、移住促進にも少なからず影響が出るはずです。

こうした、自治体や利用者が被る損失といった観点から、「街が廃れる可能性」を論理学的に示す方法はあります。そのひとつが、費用対便益(B/C)の分析法(費用便益分析)です。

鉄道における費用対便益の分析は、一般的には、新線や新駅の開業がもたらす経済的価値および財務的価値を定量的に算出する際に用います。これを裏返すと、「鉄道がなかったら、経済的価値や財務的価値が得られない(=鉄道が廃止になったときの損失)」という見方もでき、鉄道廃止時の社会的損失を金額ベースで求めることも可能です。

地域が被る具体的な損失の例には、次のようなものがあります。

利用者への影響・代替バスの遅延にともなう経済的損失(路線バスの平均的なダイヤ遅れの状況から算出)
環境への影響・鉄道と比べたバス・マイカーのCO2排出量の増加量
道路交通渋滞への影響・自動車の走行速度の変化・渋滞発生回数
鉄道の存在効果・鉄道を地域のシンボルとして残す場合の自治体の支援額
参考:国土交通省「鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル2012」をもとに作成

費用対便益の計算方法は、国土交通省のマニュアルでも示されています。これをもとに、「鉄道が廃止になったときの損失額」を求めることも、鉄道事業者との協議で示せる「ファクトとデータ」のひとつになるのです。

「鉄道がなくなると街が廃れる」という信ぴょう性の薄い持論を主張するより、赤字ローカル線の真の価値をみんなにわかりやすいデータで示したほうが、廃止を防げる可能性は高まるでしょう。

費用対便益の分析で廃止を防いだ赤字ローカル線の事例

実際に、費用対便益の分析により、鉄道の存続につながった事例は複数あります。その一部を紹介しましょう。

【ケース1】北陸鉄道石川線

石川中央都市圏地域公共交通協議会は、北陸鉄道石川線の存廃をめぐり、鉄道が社会にもたらす効果を測るため費用対便益による分析をおこないました。端的にいえば、石川線を廃止・バス転換したときの社会的損失額を示したわけです。

その結果、所要時間が増えるなどを理由に「バス転換すると利用者数が半減する」という予測結果に。通勤通学の所要時間増加による負担や家族の送迎負担など、利用者が被る「負の便益」は、約5億5,100万円になると試算されています。

この結果を含め、協議会では石川線の存続に向けた支援や取り組みについて、2023年9月現在も話し合いを続けています。

需要予測総便益の差
鉄道を存続した場合3,037人
バス転換した場合1,581人▲5億5,100万円
参考:石川中央都市圏地域公共交通協議会「北陸鉄道石川線・浅野川線のあり方検討」をもとに筆者作成

※北陸鉄道をめぐる協議会の流れは、以下の記事で解説しています。

【ケース2】岳南電車

富士市では、岳南電車の社会的便益を「5つの指標」から評価。それらの便益をもとに、岳南電車への公的支援額を算出しています。5つの指標とは、次の通りです。

  • 所要時間短縮便益:バスと比べた通勤通学時間の短縮効果
  • 費用低減便益:バスと比べた利用者の支払う運賃削減効果
  • 道路交通事故削減便益:マイカー通勤が増え交通事故件数の増加にともなう経済的損失額
  • 環境等改善便益:CO2・NOx排出量の削減効果
  • 観光利用便益:鉄道を利用する観光客がもたらすトラベルコスト

これらを試算した結果、岳南電車の社会的便益は年間2億円以上と見積もっています。ちなみに、2023~2027年度の5年間に富士市が補助予定の支援額は、約3億8,000万円(年平均で約7,600万円)です。

※岳南電車をめぐる協議会の流れは、以下の記事で解説しています。

【ケース3】いすみ鉄道

いすみ鉄道再生会議(千葉県)では、2007年に「いすみ鉄道が存続する場合」と「バス転換する場合」の社会的便益を試算しています。

ただ、便益は鉄道・バスいずれも約80億円(30年間のトータル)で互角。それどころか、鉄道は維持費が高いため「バス転換したほうが損失を抑えられる」という結果が提示されました。

その後、2年間の検証期間を設け、鉄道で収支均衡が見込めるか実証事業を実施。最終的には、上下分離の導入や自治体・地域住民による活性化の取り組みを継続することを条件に、いすみ鉄道の存続が決まったのです。

※いすみ鉄道をめぐる協議会の流れは、以下の記事で解説しています。

鉄道をなくさないためには「主張」より「行動」が重要

費用対便益の分析をするには、赤字ローカル線の実情を明確に把握する必要があります。具体的には、住民アンケートの回答や路線ごとの収支内訳など、さまざまなデータが必要です。観光利用が多い路線であれば、鉄道で来訪した観光客へのアンケート調査も必要でしょう。こうしたファクトとデータをもとに分析し、「鉄道がなくなると街が廃れる可能性」を証明できれば、鉄道を存続させる理由づけになります。

ただし、存続させることで自治体には便益がもたらされるわけですから、鉄道事業者に対する公的支援も検討する必要があるでしょう。

「鉄道は所与のもの」という考えが根強い地域ほど公的支援を拒む傾向がありますが、国鉄や公営ならともかく、JRや私鉄は民間企業です。JR北海道・四国といった特殊法人でも、国鉄時代にはなかった固定資産税を沿線自治体に毎年納めています。それなのに「所与のものだから」という理由で支援を拒み、便益だけ受け続けるのは、道義的にどうなのかという話です。

「鉄道がなくなると街が廃れる」と言うのは勝手ですが、街が廃れる可能性があるとわかっているなら、鉄道を残すために「自分たちに何ができるか」を考え、行動することも必要でしょう。他力本願の主張ばかりで自ら行動しない自治体は、鉄道があってもなくても、街の衰退を食い止められないのです。

参考URL

鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル2012(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/000192167.pdf

北陸鉄道石川線・浅野川線のあり方検討(石川中央都市圏地域公共交通協議会)
https://www4.city.kanazawa.lg.jp/material/files/group/8/r5dai1kai_tiikikoukyoukoutsuukyougikai_siryou1v2.pdf

岳南電車への令和5年度以降の公的支援の内容について(富士市)
https://www.city.fuji.shizuoka.jp/machi/c1306/fmervo000000a5mm-att/rn2ola0000044m23.pdf

いすみ鉄道再生会議中間報告(千葉県)
https://www.pref.chiba.lg.jp/koukei/shingikai/isumi/documents/isumichukan2.pdf