週刊!鉄道協議会ニュース【2025年1月26日~2月1日】

小湊鉄道の列車と駅 協議会ニュース

今週の「週刊!鉄道協議会ニュース」は、小湊鉄道に対する沿線自治体の新たな財政支援策について小湊鉄道が協議継続を辞退した話や、平成筑豊鉄道の存続・廃止をめぐる法定協議会が始まった話題など、鉄道の存廃をめぐる協議会のニュースを中心にお届けします。

小湊鉄道が財政支援の追加案を拒否 – 自治体との協議は中断に

【2025年1月28日】小湊鉄道への支援を議論する会議が開かれ、市原市などの沿線自治体は国の交付金活用による支援内容を示しました。具体的には、上総牛久~上総中野で上下分離方式を導入する案など3つのパターンを提示。今後10年間の支援額は、約8億~20億円と試算しています。

これに対して小湊鉄道は、「全線で一体的に経営を続けることが重要」として、上総牛久~上総中野に限った自治体の支援提案を拒否。協議の中断を沿線自治体に伝えました。

小湊鉄道の石川社長は、1月30日に開いた記者会見で「自治体との協議が終わったわけではない。沿線地域のまちづくりを含め前向きに話し合いたい」と述べる一方で、今後は減便やワンマン化、観光誘客などで経営改善を進めるとしています。

【解説】小湊鉄道が法定協議会への移行を辞退した理由

小湊鉄道の鉄道事業は、2018年度までは黒字経営でした。しかし、コロナの影響が出始めた2019年度に赤字へ転落。その後は回復傾向にあるものの、2022年度は7,100万円の赤字です。一方で、コロナ禍前より利用者の減少が続いていたことや、トンネル・橋梁など鉄道施設のメンテナンスコストが増大していることなど、小湊鉄道の経営は逼迫しています。

こうした状況に小湊鉄道は2023年4月に、市原市などの沿線自治体に対して財政支援を要請。今後10年間で、約61億円の支援を求めます。

これに対して沿線自治体は、「小湊鐵道線地域公共交通活性化再生協議会設置準備調整会議」を設置します。この会議は、国の支援を得るために設置される法定協議会の「前段となる組織」です。具体的には、住民アンケートやクロスセクター効果の分析などの各種調査・分析を進めるとともに、財政支援の方向性を決めることが目的の組織でした。

この会議での協議内容は報告書にまとめられ、後に自治体が設置する法定協議会で小湊鉄道への支援内容を決める予定だったのです。

第1回の会議は、2023年7月に開催。小湊鉄道は苦しい懐事情を訴えるとともに「利用者の少ない上総牛久~上総中野は、廃止も含めた検討が必要」と一部線区の廃止にも言及します。

そのうえで小湊鉄道は、「同区間の地域観光面等での意義も踏まえ、安全投資に関わる継続的な支援の検討をお願いしたい」と伝えたのです。この伝え方が、今回の財政支援が「破談」につながる一因になったとみられます。

その後、沿線自治体は住民アンケートなどの調査・分析を進め、2024年6月に開かれた第4回会議で中間報告が公表されます。このなかで、支援の考え方として「鉄道の維持」か「上総牛久~上総中野の廃止・代替交通への転換」という2つの方向性が示されます。

そして迎えた、第5回会議(2025年1月28日)。沿線自治体は、財政支援の具体案と支援額の試算結果を提示します。そこには、上総牛久~上総中野に対する今後10年間の支援額のみが示されていたのです。

ここに、沿線自治体と小湊鉄道の考えに、相違が生じていました。沿線自治体は、利用者が少なく採算性の低い「上総牛久~上総中野に対する支援」を検討しました。一方の小湊鉄道は、「全線に対する支援」を求めていたのです。この相違は、なぜ生まれたのでしょうか。

先ほど紹介した第1回会議で、小湊鉄道は「同区間(上総牛久~上総中野)の地域観光面等での意義も踏まえ」という要請内容を示しています。この文言から沿線自治体は「この線区だけを支援すればよい」と解釈したのかもしれません。

小湊鉄道としては、「上総牛久~上総中野は存廃も含めて議論してほしい」「存続させるなら、全線に対しての安全投資に関わる継続的な支援を検討してほしい」と要請したわけです。その額が、今後10年間で約61億円ですから、自治体が示した最大約20億円では、経営負担は軽くなるものの赤字を解消することはできません。

小湊鉄道は、全線に対する支援を改めて求めます。しかし、沿線自治体は「小湊鉄道の抜本的な経営改善が必要」「行政負担は数十億円規模で増える一方だ」と指摘。さらに、この会議で小湊鉄道は、人件費や物価高騰などを理由に支援額の増加(約61億円→約76億円)を報告しており、「これ以上の支援は難しい」と沿線自治体が判断する一因になったとみられます。

これにより、小湊鉄道は協議の継続を断念。法定協議会への移行を辞退したのです。

とはいえ、鉄道事業の黒字転換が見通せない現状では、約76億円もの安全投資を自力で集めるのは困難でしょう。鉄道の存続には、自治体の支援が不可欠です。その支援を受けるには、観光誘客による収入増、ワンマン運転や減便による経費削減など、さらなる自助努力が求められます。

今後、小湊鉄道は中長期経営計画の見直しなどをしたうえで、改めて追加支援を求める協議を申し入れるとみられます。その際に、上総牛久~上総中野の廃止も視野に入れるでしょう。いすみ鉄道へ移管するのも一手ですが、いすみ鉄道も経営が苦しい状況です。房総横断鉄道の将来が、危ぶまれています。

※小湊鉄道に対する沿線自治体の支援内容は、以下の記事で詳しく解説しています。

その他の鉄道協議会ニュース

平成筑豊鉄道の存続・廃止をめぐる法定協議会がスタート

【2025年1月31日】平成筑豊鉄道のあり方を検討する法定協議会が、初めて開かれました。この協議会は「平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会」で、福岡県が設置。県と沿線9市町村、平成筑豊鉄道のほか、学識経験者や国なども参加しています。

協議会の冒頭で、座長の県交通政策課長が「各地域が抱える課題や取り巻く状況は異なる。存廃の前提を置かず、具体的なファクトとデータにもとづいて議論し、相互理解を深めることが重要」とあいさつ。今後、利用実態調査をはじめ各種調査をおこない、それらの結果をもとに2025年度中にも意見を集約する考えが示されました。

なお、現時点で沿線自治体からは「上下分離による鉄道の存続」「BRT転換」「バス転換」などの候補があがっているようです。

※平成筑豊鉄道が経営難に陥った理由や、沿線自治体の支援内容などは、以下の記事で詳しく解説しています。

JR芸備線の実証事業 – 沿線自治体が増便・直通列車設定を要請

【2025年1月29日】芸備線再構築協議会の第4回幹事会が開かれ、2025年度に実施する実証事業の具体策について話し合いました。このなかで広島県の地域政策局長が「ダイヤ変更がないと議論が進まない」と、運行本数の少ない芸備線の現状を指摘。鉄道の可能性を最大限追求するうえで、増便や直通列車の設定など「ダイヤの見直し」をJR西日本に求めました。

これに対してJR西日本は、芸備線で列車交換のできる駅が限られることや、車両と運転士の工面などの課題を説明。さまざまな制約があるため、増便は「物理的・技術的に難しい」という考えを示しました。ただ、協議で決まったことについては「最大限協力する」という姿勢もみせています。

幹事長の国土交通省の交通政策部長は、幹事会後の記者会見で「両者が何を譲歩できるのか議論しないと、言いっぱなしでは話が進まない。その点を留意し、調整していきたい」と語りました。

※芸備線再構築協議会のこれまでの流れは、以下の記事で詳しく解説しています。

上毛電鉄のあり方協議「全線存続」を基本方針に

【2025年1月27日】上毛電鉄のあり方を検討する「沿線地域交通リ・デザイン推進協議会」が開かれ、上毛電鉄を「全線存続」とする基本方針を決めました。この協議会は、群馬県が2023年に設置。鉄道に対する支援の見直しや地域公共交通の再構築などを、ファクトとデータにもとづき議論する法定協議会です。

これまでの協議会では、「鉄道を維持するために運賃の値上げを容認する沿線住民が約6割もいること」「BRTやバスと比べて鉄道は赤字額が少ないと試算されたこと」などのデータを収集。こうしたデータも、上毛電鉄の全線存続の判断につながったようです。

なお、上毛電鉄は沿線自治体が鉄道施設の維持管理費を補助する「みなし上下分離」をすでに導入しています。今後は支援額の増加などにより上毛電鉄を支えていくとしています。

※上毛電鉄で「みなし上下分離」が導入された経緯や、沿線自治体による利用促進の取り組みなどは、以下の記事で詳しく解説しています。

道南いさりび鉄道の経営計画案 – 約14億円の財政支援を要請

【2025年1月30日】道南いさりび鉄道沿線地域協議会が開かれ、道南いさりび鉄道は2026~2030年度の第2次経営計画案を提出しました。

計画案には、2025年4月の運賃値上げや車両・運行本数の削減などにより、5年間で1億6,600万円の経営改善が見込めると提示。それでも膨大な赤字が見込まれるとして、北海道と沿線3市町に13億8,300万円の支援を求めています。なお、この支援額とは別に老朽化した鉄道施設の更新には7億1,000万円が必要と記載されています。

これに対して沿線自治体からの反論はなく、2025年3月の協議会で了承される見込みです。

※道南いさりび鉄道の経営状況や、沿線自治体の支援内容については、以下の記事で詳しく解説しています。

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