【JR北海道】自治体と協業できなかった日高本線(鵡川~様似)の末路

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かつて襟裳岬の近くまで続いていたJR日高本線は、2021年4月に鵡川から様似まで約116kmの線区が廃止になりました。高波による路盤土砂の流出で不通となって以来、JR北海道と沿線自治体との協議が6年以上にわたり続きましたが、最終的には鉄道の廃止を選択することになります。その協議の場が、「日高線沿線自治体協議会」です。

日高本線が存続できなかった理由は、協議会の内容を振り返ることでわかります。

※日高本線の苫小牧~鵡川間は、現在も運行しています。存続区間の沿線自治体の取り組みや、協議会進捗状況は、以下のページでご覧になれます。

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JR日高本線(鵡川~様似)の線区データ

協議対象の区間JR日高本線 鵡川~様似(116.0km)
輸送密度(1987年→2019年)538→104
増減率-81%
赤字額(2014年)15億4,400万円
営業係数1,179
※輸送密度および増減率は、JRが発足した1987年と、コロナ禍前の2019年を比較しています。
※赤字額と営業係数は、日高本線が一部不通になる前の2014年のデータ(苫小牧~様似間)を使用しています。

協議会参加団体

日高町、平取町、新冠町、浦河町、様似町、えりも町、新ひだか町

日高本線(鵡川~様似)の沿線自治体

日高本線をめぐる協議会設置までの経緯

2015年1月8日、厚賀~大狩部駅間の路盤が高波により流出していることが確認され、日高本線は鵡川~様似間が不通になります。その後、一部列車の運行が再開したものの、土砂流出がさらに進み、同年3月1日より鵡川~様似間の全便が代行バスによる運行となりました。

JR北海道は、復旧するのに多額の費用がかかることから「持続的に運行を維持できる仕組みを構築できなければ、工事に着工しない」と主張。これを受けて沿線自治体は、利用促進に取り組むことで日高本線の早期復旧をめざします。利用促進案は沿線住民からアイデアを募り、2015年11月にJR北海道に提出。翌12月には「日高線沿線自治体協議会」を設置し、日高本線を持続的に維持する取り組みについて協議していくことになりました。

なお、これと前後して2015年11月、国土交通省北海道運輸局は、鉄道施設総合安全対策事業費補助を活用して「国が復旧費用の3分の1を補助する」と提案。この提案を受けてJR北海道も3分の1を出し、残り3分の1を沿線自治体に出してもらえないかと、協議会で提案することになりました。

利用促進策で復旧させたい自治体と、支援を受けたいJR

第1回の協議会は、2015年12月に開催されます。JR北海道は、改めて「復旧工事は持続可能な仕組みを構築できてから」と提言。これに対して沿線自治体は、前月に提出した利用促進策などのアイデアを説明するとともに、日高線の必要性を訴えます。なお、利用促進策については以下の内容を提示したと伝えられています。

  • 新駅の設置
  • 札幌への直通列車の運行
  • サイクルトレインやイベント列車の運行
  • 外国人客の誘致拡大
  • 行き違い設備の新設

…など

上記は報道で伝えられた内容であり利用促進策のすべてではありませんが、JR北海道の負担が大きい要求があったことから「利用促進だけでは持続可能とはならない」と反発します。

2016年2月に開催された第2回の協議会でも利用促進策について議論されますが、JR北海道は「沿線住民の利用が増えるような実効性のある方策でなければ、復旧費用を負担できない」と主張。さらに、自治体に対して「上下分離方式の採用」または「一定額の費用支援」を求めます。これに対して自治体は、「支援はできない」と強く反発。それ以前に、自分たちが提示した利用促進策の効果検証を訴えます。

JR北海道は第3回の協議会(2016年5月開催)で、自治体が提案した利用促進策による収支シミュレーションを提示します。それによると、初期投資で最大40億円、年間3億3,800万円の支出増加が見込まれ、「利用促進策の効果は極めて限定的。利用者を増やすには、沿線住民の日常的な利用を増やすことが不可欠」と説明します。

利用促進策を考えるポイント

日高本線の沿線自治体に限らず、「増便(ダイヤの見直し)」「駅を増やす」「観光列車を走らせる」といった利用促進案を提言する自治体が多くみられますが、これらの案は鉄道事業者にとって支出や赤字額を増やす可能性があります。

たとえば、駅を増やす提案をする際には「自治体が事業費を全額負担する請願駅とし、駅の管理費も自治体が負担する」「利用者の増加が見込める立地を、自治体の街づくり計画にあわせて提案する」など、鉄道事業者側にもメリットがなければ、拒否されてしまうのです。

収支報告で交渉分裂

2016年8月開催の第4回では、JR北海道が日高本線(鵡川~様似)の実態を示すために収支状況を報告します。2014年度のデータでは、同区間の運賃収入が年間1.4億円に対して、費用は16.8億円。営業係数は1,000を超えます。こうした状況からJR北海道は、自治体に一部負担を求めたのです。

なお、自治体の負担額については、翌9月に開催された第5回の協議会で「年間約13億円」と説明しています。小さな町が並ぶ沿線自治体にとって、当然、受け入れられる額ではありません。

協議後、沿線自治体は北海道に支援を求めますが、道は「財政支援は考えていない」と冷たく引き離します。さらに国に対しても「整備新幹線のように日高本線の施設を鉄道建設・運輸施設整備支援機構が保有できないか」と提言していますが、国は自治体の要求を聞き入れませんでした。なお、JR北海道との協議は、この第5回を最後にいったん休止となります。

▲2015年9月には台風による波浪で路盤流出が拡大。翌2016年も台風が続けて接近したことで、被害はますます拡大していった。
出典:JR北海道「台風17号の影響に伴う日高線の波浪災害について」

鵡川~様似間の廃止提案

2016年10月、沿線自治体は「JR北海道の要求は受け入れられない」との認識で一致します。ただ、一部の自治体では多額の支援を求められることを警戒し、「廃止もやむなし」という考えに傾倒し始めていました。

このころ、不通区間が含まれる胆振振興局に対して協議会への参加を要請しています。これを受けて東胆振首長懇談会を代表し、むかわ町がオブザーバーとして参加することになりました。

2016年11月18日、JR北海道が「当社単独では維持することが困難な線区」を公表します。このなかで、日高本線の鵡川~様似間は「協議中」として、存続とも廃止とも記されていません。もっとも、JR北海道側の要求が拒否されたことから、次の手を打つ準備に入っていました。

2016年12月21日、JR北海道は「日高線(鵡川・様似間)の復旧断念、並びにバス等への転換に向けた沿線自治体との協議開始のお願いについて」という文書を公表します。鉄道としての廃止を、ホームページを通じて発表したのです。唐突な発表として、自治体側は強く反発します。その後、JR北海道は沿線自治体への説明会を開きますが、協議会に参加していた町長が欠席する自治体も複数ありました。

日高門別までの運行再開やDMV・BRT導入案も協議

2017年1月の段階で自治体側の反応をまとめると、「むかわ町、新冠町、浦河町の3町が全線復旧」「日高町は被災していない線区(鵡川~日高門別)の運行再開」を求めます。一方、様似町とえりも町は復旧を求めつつも「バス転換もやむを得ない」という考えに傾いていました。

新ひだか町は「バス転換による新たな交通体系の再構築」を模索。2017年2月の協議会で、DMV(デュアル・モード・ビークル)とBRT(バス・ラピッド・トランジット)の導入を示しています。
2017年4月には各自治体の意見をまとめ、以下4つの選択肢を公表します。

(1)鉄道の全線復旧
(2)日高門別までの運行再開
(3)DMV・BRTの導入
(4)鵡川~様似の廃止・バス転換

これらを調査検討する協議会を設立し、コンサルティング会社に費用対効果の調査を依頼します。
なお、(2)については「折り返し設備の工事等に約1億円を要する」というJR北海道の試算が報告されています。

また、DMVとBRTの調査結果は11月に報告されており、初期費用だけでDMVが約47億円、BRTが約105億円という結果を受けています。この結果を受け、2018年7月の協議会で、DMVとBRTの導入を断念。新ひだか町も、鉄道廃止・バス転換へと傾き始めたのです。

※BRTを自治体が赤字ローカル線の解決策として検討する理由について、以下のページで解説しています。

協議会から個別協議へ

DMV・BRTの選択肢は消えたものの、残り3案から一つを選ぶのに遅々として進まない状況が続きます。当初は2018年度内に2案に絞り込む予定でしたが、浦河町が「休線」を含めて鉄道廃止に反対。事態は硬直していました。

この状況を打破するため2019年2月、北海道とJRは沿線自治体との協議を再開します。改めて、鉄道維持とバス転換のそれぞれのメリット・デメリットを確認するため、各町と北海道、JRとで個別協議を実施し、翌年度内にも結論を出す方向で合意します。個別協議としたのは、日高門別までの復旧を求める日高町の意見を反映したためです。

2019年9月、再び7町が一堂に会す臨時会議を実施。この場では存廃の最終決定をしませんが、各自治体の意向を聞くことになりました。その結果は、以下の通りです。

【全線復旧】浦河町
【日高門別までの鉄道復旧】日高町
【廃止・バス転換】平取町、新冠町、新ひだか町、様似町、えりも町

満場一致ではなかったことから、次回(11月)開催の臨時会議では「多数決」で最終判断することが確認されます。これには浦河町と日高町が反発しますが、「もう先延ばしにはできない」という他自治体の説得もあり、受け入れることになったのです。

廃止・バス転換を容認

そして迎えた2019年11月の臨時会議。多数決の結果は、以下の通りです。

【全線復旧】浦河町
【廃止・バス転換】平取町、新冠町、新ひだか町、様似町、えりも町、日高町

日高町は形勢不利とみて、「廃止・バス転換」を選択。これにより、日高本線の鵡川~様似間の鉄道を廃止することが、事実上確定します。

多数決後におこなわれた記者会見で、日高町村会の会長と務める坂下一幸様似町長は日高本線を復旧できなかった理由について「自分を含めて乗らなかったからだ」と率直に認めました。

その後、JR北海道と代替バスに関する個別協議でへ移行。転換後の新しい交通体系が決まった2020年10月、鵡川~様似間の鉄道廃止の覚書を締結。廃止日は、2021年4月1日に決まりました。

鵡川~様似は現在、JR北海道バスと道南バスが代替バスを運行しています。その後も各自治体は、バス事業者はもちろん、JR北海道とも連携しながら、利用促進活動を続けているようです。

日高本線の鵡川駅ホームから眺めた画像
▲鵡川駅から日高方面を望む。この先に列車が走ることは二度とない。(2017年10月/管理者撮影)

なお、日高本線の苫小牧~鵡川間は、現在も運行しています。存続区間の協議会の進捗や取り組みは、以下のページで紹介します。

※沿線自治体と協議を進めている路線は、ほかにも複数あります。各路線の協議の進捗状況は、以下のページよりご覧いただけます。

【北海道】赤字ローカル線の存続・廃止をめぐる協議会リスト
北海道地方の赤字ローカル線の存続・廃止を検討する、鉄道事業者と沿線自治体の協議会の一覧です。

参考URL

日高線静内~様似間におけるバス代行の実施について(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2015/150227-1.pdf

日高線(鵡川・様似間)の復旧断念、並びにバス等への転換に向けた沿線自治体との協議開始のお願いについて(JR北海道)
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/161221-4.pdf

広報うらかわ 2017年2月
https://www.town.urakawa.hokkaido.jp/assets/images/content/content_20230215_140559.pdf

3案維持し各町がJRと個別協議へ 日高線鵡川―様似間(北海道建設新聞)
https://e-kensin.net/news/114421.html

北海道の日高線廃線へ、沿線7町の現実解
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52081720S9A111C1L41000/

地方鉄道“JR輸送密度1000人未満区間バス転換含め協議を”(NHK)
【リンク切れ】https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220725/k10013734501000.html

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